閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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2話 新Ⅶ組

 

 

 

 トールズ第Ⅱ分校の敷地をみっしぃを先頭にしてその一団は歩く。

 右へ左へと揺れる太い尻尾を見ながらリィンは感心したように呟く。

 

「これが都会か……凄いな」

 

「んなわけないでしょ!」

 

 納得するリィンに横を歩いていたピンク髪の少女が突っ込みを入れる。

 

「いやでも……」

 

「こんなことが普通なわけないでしょ!

 ああもう! あの人がいるだけでも驚いたのにみっしぃもいるし、クラスメイトは年上だし教官には私より小さい子もいるし、どうなってるのよ帝国はっ!?」

 

「落ち着くんだユウナ。これを基準に帝国を測るのはやめてくれ」

 

 取り乱すピンク髪の少女を蒼灰色の髪の少年が宥める。

 だいぶ気安い距離感にリィンは首を傾げる。

 

「もしかして君達は友達か何かなのか?」

 

「ああ、実は――」

 

「そんなんじゃないわよ!」

 

 頷こうとした少年を遮って少女が否定する。

 

「おいおい、あんまり騒ぐなよ。怖い教官が注意しようと睨んでるぜ」

 

 前を歩く年上のクラスメイト、クロウが振り返って注意をする。

 見ればその彼の向こうでミハイルと名乗った教官がこちらを伺い見ている。

 彼もこの状況に思う所があるのか、生徒達の雑談を多めに見ているが、これ以上五月蠅くなるなら容赦なく叱責するぞという目にリィン達は口を噤む。

 

「ふんっ!」

 

「はぁ……」

 

 そっぽを向く少女と困った顔をする少年に複雑な事情があるのだろうとリィンは察する。 

 そうして黙ってみっしぃの先導について行くと巨大な箱のような建築物が見えて来た。

 

「わああっ!」

 

 主計科として名前を上げられたのに、何故か一緒について来た金髪の娘が見上げる程巨大な建築物に歓声を上げる。

 

「送られた図面で見ましたけどこんなに大きいなんて!」

 

「フン、この程度ではしゃぐな」

 

 そんな娘を、技術顧問のシュミット博士が窘める。

 そんな彼らを尻目に先頭を歩いていたみっしぃは振り返り告げる。

 

「みんなよく来てくれたね! ここがボクの新しい仕事場“帝国ワンダーランド”だヨッ☆!」

 

「アインヘル小要塞だっ! 勝手な名前を付けるな!」

 

 みっしぃの紹介にミハイルがすかさず訂正を入れる。

 

「みしし……間違えちゃった」

 

 頭を掻くみっしぃをミハイルが睨み、さっさと説明しろと促す。

 その視線に応じるようにみっしぃは五人の生徒達の前に進み出る。

 

「今、戦術科と主計科のみんなは入学オリエンテーションをしてるけど、Ⅶ組・特務科には入学時の実力テストとしてこのワ――小要塞を攻略してもらうヨ」

 

 みっしぃの言葉にリィンは周りの同級生たちを見回す。

 名前だけはクラス分けの時に聞いた。

 先程のピンク髪の少女はユウナ。蒼灰色の髪の少年はクルト。銀髪の年上の青年はクロウ。そしてこの中でも幼い容姿の銀髪の少女、アルティナ。

 それに合わせてリィンの計五人。

 

「こ、攻略って……」

 

「そもそもこの建物は一体……?」

 

 突然の事にユウナは戸惑い、クルトが質問をする。

 

「帝――アインヘル小要塞は第Ⅱと合わせて建造された実験用の特殊訓練施設だヨ……

 内部は導力機構による可変式のアトラクションみたいになっていて、魔獣とかもいるんだヨ」

 

「ま、魔獣――冗談でしょ!?」

 

 その説明に驚くユウナを他所にクロウは納得したように腕を組む。

 

「なるほどな……本校の旧校舎みたいなもんか。それに《Ⅶ組・特務科》か……」

 

「クロウ君が見て来た《Ⅶ組》とはちょっと違うけどね」

 

「そうなのか?」

 

「クロウ君が率いて目的を達成する特務小隊……という話もあるんだけど……」

 

 みっしぃはシュミット博士を振り返る。

 

「貴様の《騎神》に搭載された合体システム、存分に解明させてもらうぞ」

 

「は……って事はこいつらが……」

 

 シュミットの言葉にクロウは複雑な顔をしてリィン達を見回す。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 短い説明で分かったように頷くクロウにユウナが声を上げる。

 

「黙って付いてきたら勝手なことをペラペラと……そんな事を……

 ううん、こんなクラスに所属するなんて一言も聞いていませんよ!?」

 

「それはルーファス総督にユウナちゃんには直前まで教えないように言われていたから~」

 

「へ……? 何で……?」

 

「そっちの方がおも――じゃなくて、そっちの方がユウナちゃんのためになるって言っていたんだよ。もちろんクルト君もね」

 

「え……僕も……?」

 

 みっしぃに名前を出されてクルトは複雑な表情になってため息を吐く。

 

「……納得はしていませんが状況は理解しました」

 

 クルトは肩を竦めて続きを促す。

 

「それで、自分達はどうすれば?」

 

「えっとね、アームブラスト君をリーダーに《Ⅶ組》の五人で小要塞に入ってもらえるかな?

 アトラクションの準備ができたら声をかけるからそれまで自己紹介して良い子にして待っていてね」

 

「お、おう……」

 

 リーダーとして指示を出されたクロウは戸惑いながら頷く。

 

「それじゃあティータちゃん、行こうか☆」

 

「はいっ! よろしくお願いしますみっしぃ教官!」

 

 声を掛けられたティータと呼ばれた少女は愉し気にスキップして小要塞に入って行くみっしぃに続き――不意に足を止めて振り返った。

 

「え……?」

 

 じっと見つめてくる目にリィンは首を傾げて振り返る。

 誰かいるのかと思ったが、背後には誰もいない。

 ティータは自分を見ていたのだとリィンは察するが声を掛けるよりも先にティータは前に振り返った。

 

「待ってくださいみっしぃ教官!」

 

「何だ、あの子と知り合いなのか?」

 

「……いえ初対面のはずです」

 

 馴れ馴れしく肩に手を置いて来たクロウの手を払い、リィンは首を横に振る。

 

「それにしては随分と熱い眼差しだったぞ」

 

「人違いか何かでしょう。それよりアームブラスト先輩、早く中に入った方が良いんじゃないでしょうか?」

 

「…………ああ、そうだな」

 

 クロウは意味深な沈黙を間に挟み、リィンの提案に頷いた。

 

 

 

 

 

「さて、自己紹介しておけって言われていたからまずは俺から名乗らせてもらうかな」

 

 広間の中央でクロウは四人のクラスメイトを前にそう切り出した。

 

「俺は――」

 

「フン……名乗る必要なんてないでしょう?」

 

 しかしクロウの言葉を棘のある言葉でユウナが遮った。

 

「《蒼の騎士》クロウ・アームブラスト……

 西ゼムリア大陸の重鎮が集まった通商会議を襲ったテロリスト……

 《鉄血宰相》を狙撃して帝国の内戦の戦端を口火を切った貴族連合の筆頭騎士……

 その貴族連合を裏切って今は帝国政府の先兵となった《裏切りの蒼の騎士》……

 クロスベルでもルーファス総督と一緒に共和国を撃退した有名人じゃない」

 

「…………はは、こりゃ自己紹介の手間が省けたな」

 

 ユウナの言葉にクロウは肯定も否定もしない曖昧な顔で笑う。

 

「補足すると、内戦が始まるまで本校の二年生として在学……

 次の年は留年扱いで、本校に籍を置いたまま帝国各地の事件や変事を解決し……そして学年が下がって《第Ⅱ》にやって来たんですよね?」

 

「くっ……学年が下がったとか言うな」

 

 クルトの指摘にクロウは顔を手で覆い隠して唸る。

 

「それから貴方が年長者だからリーダーになっているのかもしれませんが、僕は貴方の様な人を認めるつもりはありません」

 

「随分と嫌われているじゃねえか」

 

 クロウは敵意が籠った二人の目に肩を竦める。

 

「何よその態度は!?」

 

「ユウナ……」

 

 そんなクロウの振る舞いにユウナが目くじらを立てて、クルトが窘める。

 

「クロスベル出身のユウナが貴方を嫌うのは当然でしょう……

 何と言っても貴方達はクロスベルごとオズボーン宰相を殺そうとしたのですから」

 

「っ……」

 

「そして僕もあの時、オルキスタワーにいて《帝国解放戦線》と戦っていました。それだけ言えば分かるんじゃないですか?」

 

「…………ああ、そうだな」

 

 クルトの言葉にクロウは俯き消沈する。

 場の空気がいたたまれなくなるほどに重く痛くなり、リィンが見兼ねて口を挟む。

 

「何だか複雑な事情があるみたいだけど、とりあえず自己紹介だけはしないか?」

 

 リィンの提案に三人は空気を読めと言わんばかりに睨んで来るが、険悪を通り越して殴り合いが始まらないように名乗る。

 

「さっき入学式の時にも名乗ったけど、改めて俺はリィン・シュバルツァー……

 帝国の北、ノルティア州ユミルの出身だ。同じクラスになったからにはみんなと仲良くしたい。よろしく頼む」

 

 押し切って名乗ったリィンに嘆息してクルトが続く。

 

「――では自分も……クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダルの出身だ」

 

「ヴァンダール? もしかしてマテウスさんの関係者なのか?」

 

「マテウスは僕の父だが、むしろ君が父とどんな関係が?」

 

 家名に驚くリィンにクルトは思わず聞き返す。

 

「いや言う程大した関係じゃないんだけどな……

 マテウスさんはユミルに湯治に来ていて知り合って、都会の学院に通うならなってヴィクターさんと一緒に推薦状を書いてくれたんだ」

 

「ヴィクター卿と父上が推薦状……」

 

 リィンの答えにクルトは顔をしかめる。

 

「えっと……何か気に障ったなら謝るけど」

 

「いや、その必要はない」

 

 と言うクルトだが、リィンは彼との間の何かが切れたような気がした。

 

「……それで君は?」

 

 居心地の悪い空気に耐えかねてリィンはピンク髪の少女に話を振る。

 

「ユウナ・クロフォード。クロスベル警察学校の出身よ」

 

 不本意だと言う態度でユウナはリィン達に身構えて続ける。

 

「正直、よろしくしたくないけど……そうも行かないのでよろしく!」 

 

「最後は私ですね」

 

 勢いに任せて捲し立てたユウナの言葉に対して、銀髪の少女が口を開く。

 

「アルティナ・オライオン。帝国軍情報局の所属でした」

 

 年の瀬の反して軍属だったと告げるアルティナにリィン達は驚く。それを察してかアルティナは補足を入れる。

 

「一応、ここに入学した時点で所属を外れたことになっています。どうかお気になさらず」

 

 クロウとは違ったふてぶてしさで自己紹介を締めくくられるが、クルトは思わず口を挟む。

 

「聞き捨てならないことを聞いた気が済んだが」

 

「情報局って、さっき言っていた……」

 

 ユウナはクロウを振り返ろうとして気付く。

 

「って、それより“事になっている”って何よ!?」

 

「失礼、噛みました」

 

 ユウナの突っ込みにアルティナは動揺すらせずに短い言葉を返す。

 

「なっ!?」

 

 素気ない態度にユウナは目を剥く。

 

「…………何だかとんでもないクラスになってしまったみたいだな」

 

 リィンは改めて一同を見回した。

 学年が下がったクロウ・アームブラスト。

 マテウスの息子であるクルト。

 クロスベル出身であり、帝国に敵意を隠さないユウナ。

 そして幼い身でありながら軍属だったと憚らないアルティナ。

 

「何だ他人事みたいに言ってんじゃねえよ。お前だって厄ネタ持ちだろ?」

 

「俺の事情はみんなと違って大したことはないですよ」

 

 話しかけて来るクロウにリィンは苦笑する。

 リィンが抱える事情は政治的な駆け引きも、家族間の問題でも、出身地に関わる民族の問題でもない。

 あくまでも個人的な理由にしか過ぎないため、ここで語る必要はないとリィンは沈黙を選ぶ。

 そんなリィンを探るような目でクロウとアルティナが見ている事にリィンは気付かない。

 

『みんな、お待たせ☆!』

 

 自己紹介が済んだ空気を読んでなのか、みっしぃの声が広間に鳴り響く。

 

『アインヘル訓練要塞のセッティングが完了したよ! みんな準備は良いかい?』

 

「ああ、いつでも始めてくれ」

 

 一同を代表してクロウが声に応える。

 

『は、博士……? その赤いレバーって……』

 

 しかし、クロウの声に応えたのは別の声。

 何やら放送の向こうではただならぬ事が起こったように少女が声を上げる。

 

『ダ、ダメですよ~! そんなのいきなり使ったら!』

 

『ええい、ラッセルの孫のくせに常識人ぶるんじゃない!』

 

『みしし、今回の訓練は地上に戻って来れたら終わりだから、みんな頑張ってね~』

 

 少女と博士の声を背後にみっしぃは緩んだ口調で告げる。

 

「おいおい、このパターンは……全員、足元に気をつけろ!」

 

 かつての記憶を思い出してクロウは注意を飛ばす。

 が一瞬遅く、リィン達の足下の床が勢いよく傾いた。

 

「え……?」

 

 体が滞空する。

 

「クラウ=ソラス」

 

 アルティナがその状況に真っ先に対応してその名を呟く。

 すると彼女の背後に黒い傀儡が現れて、浮遊するそれはアルティナを抱えるようにして受け止め、もう一方の腕でリィンを捕まえた。

 

「あ、ありが――」

 

「ユウナッ!」

 

 礼を言おうとしたリィンだったが、足をクルトに掴まれて傀儡の腕からずり落ちそうになる。

 更にはクルトはユウナの手を掴んで、計四人分の重量が傀儡に掛かる。

 

「……重い……」

 

 それだけの重量を支える力がないのかアルティナはそれだけ呟くと、方法を変える。

 

「アルティウムバリア」

 

 黒い傀儡を中心に四人をまとめて覆う球体のバリアを張る。

 落ちそうになっていた三人はその身をバリアに受け止められて安堵して、球体のバリアが急な傾斜となった床に接地した。

 

「あ……」

 

 球体バリアごと彼らの体は傾く。

 

「っ―――――!?」

 

「きゃあああああああああ!?」

 

「うわあああああああああ!?」

 

「ぐぅっ!?」

 

 四人の悲鳴を残して球体バリアは傾いた床を転がり落ちて行くのだった。

 

「おいおい、大丈夫かあれ……?」

 

 クロウは傾斜に身を寄せるように耐えて難を逃れ、転がり落ちて行った一同を見送った。

 

「……ま、俺はあんな面倒な訓練は二度とごめんだ」

 

 そう誰にともなく独白したクロウは傾いた床から脱出するために跳躍する。

 

「わりぃな後輩ども、俺は一足先に――」

 

 空中に跳んだクロウはそれを見る。

 

「お前は――」

 

 それは直前まで放送で言葉を交わしていたみっしぃ。

 彼はみっしぃのストラップが付いた竹製の剣を構え、疾走する。

 

「んがっ!?」

 

 まだ穴の上にいるクロウに向かってみっしぃは大きく踏み切って――

 

「ダメだよクロウ君。君も一緒にみんなとエンジョイみっしぃして来るんだヨ」

 

 振り下ろした一閃が額を打ち、クロウは地下への穴を転がり落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

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