閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

22 / 113
22話 客人

 

 

「明日、セドリック皇子が来る……ですか?」

 

 五月十三日。

 放課後ののホームルーム。

 みっしぃ教官からの報告にリィンは聞き返す。

 

「うん、オーレリア分校長との会合のために急遽決まったみたいだから、もし会っても失礼のないように気をつけてネ☆」

 

「それはもちろん」

 

 相手はエレボニア帝国の頂点に立つ皇族。

 男爵家の養子でしかない自分と比べればまさに天と地との差もある雲の上の存在。

 リィンの粗相はシュバルツァー家の取り潰しになる可能性を思えば、みっしぃの注意も決して聞き流して良い事ではない。

 

「うんうん、リィン君については安心なんだけどね~」

 

 不安そうにするみっしぃに何故そんなに不安になっているのかと視線を辿って納得した。

 

「そうですね。いっそうユウナとアッシュには皇子がいる間は校舎の外に出しておくか、寮に監禁しておくべきかもしれないですね」

 

「ちょっと! それどういう意味よ!」

 

「おいおい俺をこの猪女と一緒にするんじゃねえよ」

 

 リィンの提案に当のユウナとアッシュは心外だと抗議の声を上げる。

 

「いや……だって……」

 

 ユウナは根っこからの帝国嫌い。

 普段の自分達にも敵意を振りまいている彼女にとってエレボニア帝国の象徴である皇族と対面させたらどんな不敬をするか分からない。

 アッシュは取り繕う事ができるかもしれないが、彼もまたⅦ組やクロウに絡む前科があるだけに信用はできない。

 ならばそもそも会わせない方が良いのではないかとリィンは考える。

 更に言えば、リィン自身もどんな不敬をしてしまうか分からないので会いたいとは思わない。

 

「う~ん、それなんだけどネ。どうやら先方は学院の案内役にリィン君を指名して来ているんだヨ」

 

「え……? 何で俺が?」

 

 全く予想もしていなかった指名にリィンは困惑する。

 

「…………ええ、まあ、そうなりますね」

 

 そんな彼の隣の席のアルティナはセドリック皇子の指名に納得して一人頷いていた。

 

「それは辞退することはできないんですか? いや本当はクロウを指名しているんじゃないですか?」

 

「ううん、リィン君で間違ってないよ。それにクロウ君はまだ先週の“要請”から帰って来てないからネ」

 

「くっ……」

 

 逃げ道がないことにリィンは歯噛みする。

 

「大丈夫ですよリィンさん。セドリック皇子は気さくな御方ですから、多少の無礼なんて気になさいません……

 まあユウナさん達くらいの無礼は周りの人が許さないと思いますが」

 

「ちょっと何でいちいちあたしを引き合いに出すのよ」

 

 ミュゼのフォローにユウナは口を尖らせる。

 

「そう言えば坊ちゃんはその皇族の護衛役だったな」

 

 分が悪いと見たアッシュはクルトに話を振る。

 

「ああ……内戦で何もできなくて、ヴァンダール家は護衛役から解任されてしまったけどね」

 

 そう答えながらもクルトは険しい顔でリィンを睨んでいた。

 何故、案内役にリィンが指名されるのか納得がいかないと言う顔。

 ユウナに続き、クルトから敵意を向けられることになったリィンはため息を吐きたくなる。

 

「ふふ、もしも作法に不満でしたら私が教えて上げても良いですよ」

 

「必要ありません。セドリック皇子は素のリィンさんとの対面を望むはずですから」

 

 特別な授業を提案するミュゼと何故か勝手に拒否をするアルティナ。

 ミュゼとアッシュが“ハーメル”について知り、Ⅶ組に転科させられてからというものの賑やかになったとみっしぃは感慨深くなる。

 

「それにしても……」

 

「みっしぃ教官?」

 

「パークの案内は本当ならボクの役目なのに、むむむ……」

 

 テーマパークのマスコット故の葛藤からリィンに複雑な感情を覚えるみっしぃであった。

 

 

 

 

 翌日。

 生徒達が自由行動日にそれぞれの部活動に勤しんでいる頃、リィンはリーヴスの駅にいた。

 鉄路は校内まで繋がっているものの、皇子の我儘なのか通常の列車で来るという話らしい。

 

「そろそろか……」

 

 時刻は正午になろうとしている時分。

 リィンは周囲に自分を監視する目が増えている事に気付いているが、あえて気にしないようにしていた。

 

「皇族の護衛……先回りしての安全確保か……お疲れ様です」

 

 皇子が我儘を言わなければ校内での警護だけで済んだのだろうとリィンは姿が見えない彼らに同情する。

 

『まもなく1番ホームにオルディス行の列車が到着いたします。ご乗車に――』

 

 ホームに列車が到着するアナウンスが流れ、リィンは襟を正す。

 アナウンスから数分、ホームに入ってきた列車はリィンの前を通過して減速していく。

 

「え……?」

 

 先頭車両が通り過ぎた瞬間、そこにいるはずのない人間を見たと感じて振り返る。

 列車が完全に停止する。

 最後尾の車両を中心に憲兵隊が慌ただしく動きを見せる中、リィンは最前列の車両に注目していた。

 列車が停止して数秒、一斉に列車の扉が開く。

 

「やあ、リィンさん――」

 

「やっほぅ! リィン!」

 

 背後から聞こえて来る少年の声を遮る形で、先頭車両から降りて来た白銀の髪を靡かせた美しい女性が声を上げた。

 

「シズナ姉さん!?」

 

「シズナ――姉さん!?」

 

「姉さんっ!?」

 

 リィンの驚きの言葉に反応する二つの女性の声。

 しかしその女――シズナは周囲の反応などお構いなしにリィンに近付いて行く。

 

「うんうん、驚かせようと思って敢えて連絡はしなかったけど、出迎えに来るなんて流石私の弟弟子だ」

 

「ちょ――やめてくださいシズナ姉さん」

 

 大きなトランクケースを足元に置いてシズナは人懐っこい笑みを浮かべてリィンの頭をよしよしと撫でる。

 

「なっ!?」

 

 背後で再び驚愕の気配が上がっているが、リィンはそれどころではなく、何とか頭を撫でるシズナの手を振り解こうと抵抗を試みる。

 

「むふふ……うりうり」

 

「だからシズナ姉さん……こんなところで……」

 

 リィンの抵抗にシズナは気を良くしてそのまま撫で回す。

 

「あ、あのリィン君……」

 

「おや?」

 

 恐る恐ると言った様子で背後から掛けられた声にシズナの手が止まる。

 その隙に脱出したリィンはシズナから距離を取って振り返った。

 

「ク、クレアさん」

 

「っ……」

 

 恥じらいに涙ぐんだリィンの顔にクレアは思わず胸を押さえる。

 そう、その顔は今まで思い出せなくなっていたリベールで“彼”と出会った時に“弟”を感じたものだった。

 

「…………出迎え御苦労です、ですがそちらの方は――」

 

 精一杯の自制をして顔を氷に取り繕いクレアは予定にない珍客の紹介を望む。

 

「おや、手練れが帝都から乗っているのは気付いていたけどまさか“妹弟子”だったか」

 

「シ、シズナ姉さん?」

 

 突然の挑発的な言葉を吐く姉弟子にリィンは戸惑う。

 

「ふふふ、それはこっちの台詞だよ。共和国にいるはずの“妹弟子”がどうして帝国にいるのかな?」

 

 突然の好戦的な言葉を吐く女剣士に碧の髪の少女は戸惑う。

 

「もしかしてシズナ姉さんのお知り合いですか?」

 

 視線で火花を散らせる二人にリィンはそう尋ねていた。

 

「あ……」

 

 リィンがそう尋ねるとシズナと睨み合っていた女剣士は声を震わせた。

 

「うん、老師の孫のアネラスだよ。リィンにとっても“姉弟子”に当たる“八葉一刀流”の剣士なんだけど」

 

 紹介をしたところでシズナは首を傾げ尋ねる。

 

「アネラスはリベール王国を中心に活動している遊撃士だったよね? どうして帝国にいるの?」

 

「むっ……こほん」

 

 無遠慮なシズナの質問に女剣士――アネラスは佇まいを直し、自分で名乗り直す。

 

「“八葉一刀流”開祖ユン・カーファイの孫のアネラス・エルフィードです……よろしくねリィン君」

 

「あ、はい……初めましてアネラスさん」

 

「ちょっと私の事、無視しないでよ」

 

 絡んで来るシズナにアネラスはため息を吐いて口を開く。

 

「私は今、帝国、共和国、王国の三国と遊撃士協会の依頼でこの子の監視役として帝国に特別に滞在を許可されているんだよ」

 

「ど、どうも……キーア・バニングスです」

 

 アネラスに抱えられるように前に押し出された碧の髪をリボンで二つに纏めた女の子が緊張した面持ちで頭を下げる。

 

「君は……ふむふむ……なかなか面白い相をしているね」

 

 シズナはキーアに何かを感じたのか興味深そうに相槌を打つ。

 

「こんな子を監視とは穏やかではないですね。いや、聞かない方が良いんですね」

 

 帝国で活動を制限されている遊撃士をわざわざ他国から呼び出して監視に置いている。

 それだけでも“ハーメルの悲劇”並に訳ありなのだとリィンは察して口を噤む。そして――

 

「あ……」

 

 そこでようやく彼女たちの背後に佇む二人の金髪の少年たちを見てリィンは蒼褪めた。

 

 ――いや、落ち着けリィン・シュバルツァー。まだ挽回できる……

 

 シズナの登場によって忘れていた自分の仕事。

 次期皇帝であるセドリック皇子の出迎え。

 皇族と男爵家の地位の差はまさに天と地ほどある。

 そんな圧倒的に低い地位のしかも養子が皇族を待たせるなど、それこそ不敬として罰せられてしまう。

 

「――失礼しました。セドリック皇子」

 

 内心の動揺を取り繕い、リィンは二人の少年の前に進み出る。

 トールズ士官学院の制服は《第Ⅱ》の“蒼”とは対照的な“深紅”。

 よく似た容姿の二人だが、前に立つ護衛役をよりも半歩引いて後ろに立っている眼鏡をした少年に向けてリィンは頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります。ノルティア州ユミルが領主、テオ・シュバルツァーの養子、リィン・シュバルツァーと申します……

 以後、お見知りおきを……セドリック皇子」

 

「あ……」

 

 リィンの名乗りと挨拶に返って来た答えは、戸惑い。

 予想外の反応にリィンは頭を下げたまま、今度は何を間違えてしまったのか冷や汗を掻く。

 

「…………申し訳ない。リィンさん……僕はセドリック殿下の護衛役、クリス・レンハイムと言います」

 

 気まずい返答がリィンの頭の上から降りて来る。

 

 ――やらかした……

 

 迎えるべき皇族を無視した事もそうだがよりにもよって皇族を勘違いしてしまった失態にリィンは固まる。

 もっとも間違われた当の二人はその間違いを不快と感じている事がない事に、当の本人は気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「こちらで学院長がお待ちです」

 

 あれから先の事をリィンは覚えていなかった。

 とにかく役目に徹して、動揺を押し殺し、機械的に駅前に待機してもらっていた鉄道憲兵隊の導力車に乗って、学院に着くまで皇族の喋り相手となる。

 何故かシズナの同乗を認められてリィンは自分が、身内がこれ以上粗相をしないかと緊張に張り詰めていた。

 

「うむ、御苦労だったシュバルツァー」

 

 セドリック皇子と護衛役のクリス。そしてキーアを会議室に何とか無事に送り届けたリィンはオーレリアに労われて退出、扉を閉じて――

 

「あああっ!」

 

 これまで皇子の前だと耐えていたリィンは自分の失態の数々に頭を抱えた。

 

「あはは! 別にそんなに気にしなくて良いんじゃない? 皇子様も随分気安かったし」

 

 そんなリィンをシズナは笑って慰める。

 

「笑い事じゃないんですよ。シズナ姉さん。俺の失態は義父さんの評価に繋がるのに……」

 

 ため息を吐いてリィンはシズナに向き直る。

 

「そもそもどうしてシズナ姉さんが帝国にいるんですか? 老師と一緒に共和国に帰ったはずでは?」

 

「何言ってるの、先日手紙を送って来たのはリィンの方じゃないか」

 

「別に会いたいとか、書いたつもりはありませんよ」

 

 素気ない弟弟子の応対にシズナは特に気を悪くした様子もなく、続ける。

 

「手紙に銃火器に苦戦したって書いていたでしょ?」

 

「それは……」

 

「だからこうして“姉弟子”の私が、とっておきの秘密兵器を持ってきて上げたんだよ」

 

 えへんと胸を張ってシズナは大きなトランクをリィンに突き出す。

 

「これは?」

 

「それは実演して教えて上げるよ。剣を振れる場所に案内して」

 

 一方的に告げるシズナにリィンはやれやれと肩を竦める。

 もうセドリック皇子達を案内する仕事は終わったわけだから、一刻も早くこの場から距離を取りたいと言う事もあってリィンは頷く。

 

「分かりました。それじゃあグラウンド……いや、機甲兵用の演習場に案内――」

 

「ちょっと待ったああああっ!」

 

 そこでアネラスが声を上げて二人の間に割って入った。

 

「ど、どうしたんですかアネラスさん?」

 

「ねえリィン君?」

 

 アネラスは綺麗な笑顔を向けて尋ねる。

 

「どうしてシズナ“姉さん”なの?」

 

 笑顔の凄みにリィンはとてつもないプレッシャーを感じてたじろぐ。

 

「えっと……成り行き……ですかね?」

 

 あれはリィンがシュバルツァー家に迎えられてしばらくの話。

 リィンを養子にする、つまり弟が出来たと伝えられたエリゼがユミルに帰って来た時に、エリゼ姉さんと呼ぶことにシズナが便乗して姉と呼ぶように強請られたから。

 最初は抵抗したものの、しつこいおねだりに根負けしてそう呼ぶようになり、今ではすっかり慣れてしまった。

 

「ぐっ……そんな方法で……」

 

 何故か初対面のアネラスは本気で悔しそうにする。

 

「ふふ、私は今から弟弟子とデートだけど“妹弟子”がどうしてもって言うなら一緒に来ても良いよ」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 ここぞとばかりにマウントを取るシズナにアネラスは本気で悔しがる。

 猟兵であり自由奔放なシズナと三つの国の信任を得ている品行方正な遊撃士なアネラスでは相性が悪いのも当然かとリィンは納得する。

 

「そっちのお姉さんはどうする? 皇子様達の会議が終わるまで暇だよね?」

 

 一方でシズナはクレアにも声を掛ける。

 

「…………カルバード共和国の猟兵“斑鳩”の剣士……そうですね。折角なのでそのお手並みを拝見させてもらいましょう」

 

 シズナの所属を言い当てたクレアは厳しい目でシズナを睨む。

 クレアもアネラスと同じ秩序を守る側の人間だからこそ、“猟兵”に最大限の警戒をしているのかとリィンは納得する。

 

「えっと……それじゃあとりあえず演習場に移動しましょう」

 

 猟兵と遊撃士、そして憲兵の一触即発の剣呑な空気にリィンは肩身を狭くしながら、提案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 機甲兵用の特別グラウンドにリィンは肩身の狭い空気を感じずにはいられなかった。

 共和国の猟兵であるシズナ。

 王国の遊撃士であるアネラス。

 帝国の憲兵であるクレア。

 そこに武器商人と呼ばれるラインフォルトの女社長のアリサが加わっていた。

 

「つかぬ事をお聞きしますが、アリサさんは何故ここに?」

 

「明日の機甲兵教練のための新しい機甲兵の納品に来たのよ。ま、特別演習で壊された機甲兵の穴埋めね……

 それからちょっと貴方に訊きたいことがあったんだけど、それは後で良いわ」

 

 恐る恐るの質問にアリサはシズナを睨むように見ながら答える。

 

「あわわわわ……」

 

 そんな女傑四人の中に突如として放り込まれる事になったティータ――アリサの仕事を見学して巻き込まれた――は彼女たちが作り出す空気にすっかり飲まれていた。

 

「ティータ、君だけはそのままでいてくれ」

 

「ふえ! リィンさん?」

 

 そんなティータに今日一番の癒しを感じ一声を掛けて、リィンは当初の目的をシズナに向き直る。

 

「それでシズナ姉さん、秘密兵器って何ですか?」

 

「それは……これだよ」

 

 シズナはトランクケースを地面に置くと、勿体つけるように開けて中身を見せた。

 

「これは……鎧ですか?」

 

 まず目についたのは一際大きな胸甲。

 それに肩や篭手、具足と言った装備が整理されて詰まっていた。

 

「そっちはオマケでこれは強化スーツの一種だよ」

 

 装甲を押し退けてシズナがトランクから取り出したの鎧下のようなスーツだった。

 作業着のツナギ。もしくは導力バイクで見掛けるようになったライダースーツのような服。

 

「魔導杖は知っているでしょ?

 あれは常時待機状態にしておいた魔法弾を術者の任意のタイミングで撃ち出す機能だけど、これはそれを応用したものなんだって」

 

 シズナ曰く、強化スーツは近接戦闘を行うための武芸者に向けて開発されたもの。

 攻撃性の魔法の代わりに“アースガード”の様な防御魔法を咄嗟の判断で駆動でき、またスーツには補助魔法が常駐して掛けられるらしい。

 

「これを使えば例え銃弾の雨の中だろうと突っ切る事ができるよ」

 

 まるで既に経験済みだと言わんばかりにシズナはずいっとそれをリィンに差し出して告げる。

 

「と、言うわけだからリィン。脱いで」

 

「え……?」

 

 突然のシズナの提案にリィンは固まる。

 

「え? じゃないよ。強化スーツなんだから着てくれなくちゃ性能は試せないでしょ?」

 

「そうよリィン君。早く着替えてきなさい」

 

「リィンさん、ワクワク」

 

 シズナに同調してアリサと味方だと思っていたティータはあっさりと寝返る。

 既に彼女たちは強化スーツの性能にのみ興味を見出している。

 

「…………」

 

 助けを求めるようにリィンはアネラスとクレアを振り返るが、二人は無言で首を横に振るのだった。

 

 

 

 

 リィン・シュバルツァーは強化スーツを装備した。

 

「リィンさん、行きます」

 

 ティータはオーバルギアHA型を装備した。

 ティータはカノンインパルスを掃射した。

 リィンは右へと逃げ出した。

 

「やああああああっ!」

 

 ティータはダブルカノンインパルスを掃射した。

 リィンは左へと逃げ出した。

 

「やああああああああああああああっ!!」

 

 ティータは二つのダブルカノンインパルスを掃射した。

 リィンは逃げ出した。

 

「こらこらリィン! 逃げてばかりじゃテストにならないよ」

 

 シズナの激励。リィンは正面からティータに突撃した。

 リィンの攻撃。オーバルギアHA型に100のダメージ。

 

「流石ですリィンさん! それなら受けてみてください!」

 

 ティータは二つのダブルカノンインパルスを掃射した。

 ティータは両脚部コンテナからマイクロミサイル52発を発射した。

 ティータは両肩部コンテナからホーミングミサイル36発を発射した。

 ティータは背面コンテナからAAキャンセラー12発を発射した。

 

「これが私の全力全壊っ! フルバーストッ!!」

 

 リィンは逃げられない。

 リィンは“神気合一”を使った。リィンはもう一度逃げ出した。

 が、つまずいてしまった。

 リィンは爆風を背中に受けて吹き飛んだ。

 リィンはクレアに不埒をした。

 

「ふう……良いデータが取れました」

 

 オーバルギアHA型から降りたティータは良い笑顔で額の汗を拭った。

 

 

 

 

「すいませんでしたっ!」

 

「い、いえ。リィン君は悪くないですよ。爆風に吹き飛ばされた先に偶々私がいて、私も呆然と立ち尽くしてしまっていましたから」

 

 土下座をするリィンにクレアは慌てふためきながらフォローする。

 それを遠目にアリサは思う。

 

「やっぱり、リィンよね?」

 

 あの不埒さを意図して真似できる者がいるのだろうか。

 変装の名人と言われる《怪盗B》であっても不可能ではないかとアリサは考えている。

 それはそれとして――

 

「シズナさんだったかしら? 強化スーツの性能、確かに見せてもらいました……

 ですが第Ⅱ分校の技術提供者として言わせてもらいますが、あの強化スーツをそのままリィン君に使わせるわけにはいきませんね」

 

「うん? それはどうして?」

 

「まず見た目。特別演習は学業の一環として活動するため、あの様な一目で鎧と分かる装備の着用は認められないでしょう」

 

 アリサは観察した問題点を指折り数えて行く。

 

「咄嗟の防御力や常態補助魔法の効果は認めますが、稼働時間もだいぶ短い上に出力にもだいぶムラがありますね」

 

「そうだね……私もちょっとそこら辺は物足りないと思ってたかな」

 

「後は拡大された身体能力を扱うのに慣れが必要みたいですが、それはリィン君の問題なので、ここで言及しません」

 

「うんうん、あれは弟弟子が未熟なだけだからね」

 

「それから――」

 

「オーブメントについては私は門外漢だから、言いたいことははっきり言ってくれて良いよ」

 

「っ――」

 

 駆け引きを無視して、こちらの内心を見透かすような目にアリサは思わず息を呑む。

 その目に目の前にいるリィンではない“彼”を感じてしまう。

 

「でしたら単刀直入に言わせてもらいます……

 あの強化スーツ、うちで仕立て直させてくれませんか?」

 

「……へえ」

 

「もちろん改良したデータはそちらに全て提供します。そちらのスポンサーを紹介して頂ければ私が直接交渉に出向いても構いません」

 

 品定めするようなシズナの眼差しにアリサは怯むことなく向き合う。

 

「そうだね……私は全然構わないんだけど、一つお願いを聞いてくれたらスポンサーへの説明は私の方からしておいてあげる」

 

「お願いですか?」

 

「そう身構えなくても良いよ。それ程無茶なお願いじゃないから、学院に関わっている君ならきっと簡単に通せると思うよ」

 

「そうだとしても安請け合いはできません。まずどんな要求なのか仰ってください」

 

「えっとね。明日、機甲兵の教練をやるって言ってたでしょ? それに参加させて欲しいなって……俗に言うリィンの授業参観ってやつだよ」

 

「ええ、それくらいでしたら私の意見でも何とか通せる範囲だと思います」

 

 アリサは顔色一つ変えずに即答した。

 相手はリィンの姉弟子を名乗る女性。

 アリサでは“彼”と同様にその実力のほどを見極めることなどできない。

 しかし、一流の武芸者なのは間違いない。

 ならば自分が口を挟まなくても、リィンが分校長に紹介すれば二つ返事で了承されるだろう提案。

 つまりアリサは特にリターンを払うことなく、強化スーツのノウハウを得る事が出来ると言う事。

 それらを一瞬で考えて、表情におくびも見せずに営業スマイルでシズナに手を差し出す。

 

「交渉成立ですね」

 

「うん、よろしく」

 

 アリサはシズナと握手を交わす。

 せいぜい注意をするとすれば――

 

「何だ今の音と衝撃は!? ラッセル! 貴様そこで何をしている!?」

 

 オーバルギアの最大火力の激震に皇子の護衛である憲兵隊を引き連れてミハイルが走って機甲兵演習場に駆け込んで来た。

 

「ふん……やはりラッセルか……何やら面白い装備のテストをしているな。詳しく話すが良い」

 

 対して落ち着いた様子でシュミット博士が現れ、ティータとリィンを見比べて目ざとく興味対象を見つける。

 目下の自分の役目はこの二人の説得になるだろうとアリサは確信するのだった。

 

 

 

 

 






試される元護衛役

クルト
「で、殿下……?」

ユウナ
「こ、この子が帝国の皇子様……」

セドリック
「やあクルト、久しぶりだね……会えて嬉しいよ……
 でもまさか、クロスベルから帰って来た君が第Ⅱ分校なんかに入ってしまうなんてね」

クルト
「……っ……殿下、本当に殿下なんですよね? それに――」

セドリック
「ちょうど良かった。君に紹介しておこう……君の後任となる守護役が決まってね。君達Ⅶ組の先輩でもあるんだ」

クリス
「お久しぶりですクルトお坊ちゃま、それにユウナさん。クリス・レンハイムです」

ユウナ
「クリス君!? 何で本校の制服を着ているの!?」

クリス
「一年前の内戦の際に重傷を負い休学していましたが、今年から復学させて頂きました」

クルト
「なっ!?」

セドリック
「おや、どうしたんだいクルト。そんなに驚いて……ふふふ」

クリス
「セドリック様。クルトお坊ちゃまは突然自分の後任を紹介されて驚いているんですよ……フフフ」



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。