閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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24話 交流会

 

 

 

 巨大な大剣を持っているとは思えない速度で豪快に踏み込み、地を割らんばかりの一撃が演習場に刻まれる。

 それとは対照的に流れる様な足捌きで大剣を紙一重で避け、合間に大太刀が振るわれる。

 大剣は人間離れした反応速度と膂力で強引に引き戻されながらも確実に大太刀の斬撃を受け止め――防ぐ動きをそのままに大剣は薙ぎ払われた。

 

「おおっと!」

 

 剣戟の威力を後ろに後転しながら受け流したシズナは頬を吊り上げて獰猛な笑みを浮かべる。

 わずかな滞空から着地。

 同時にシズナの姿がブレるとオーレリアを四人のシズナが囲む。

 

「分け身の戦技か……」

 

 一見するだけでは本物を見極めることができない幻影が同時に四方からオーレリアに襲い掛かる。

 

「甘いっ!」

 

 オーレリアは大剣を横に一回転させるように一度の斬撃で四体の分け身を薙ぎ払い、直後に頭上から落ちて来た本物のシズナの一撃を受け止める。

 

「へぇ……やるじゃん」

 

 通ると思った一撃が防がれてシズナはより笑みを深くする。

 

「其方もなっ!」

 

 大剣を振り抜いてシズナを弾き飛ばす。

 

「喰らうが良い我が一撃っ!」

 

 オーレリアは大剣を握る右腕を後ろに引き絞り、左手は切先の刀身に添える。

 極端な突きの構え。

 黄金の闘気を全身に纏い、オーレリアは着地するシズナに追い縋る。

 

「グランドクロスッ!」

 

 最高の速度の踏み込みを、全身から生み出される最大の力に合わせた突き出された刺突の一撃が放たれ――シズナは吹き飛ばされた。

 シズナは一直線に飛び、機甲兵の流れ弾を防ぐための壁に叩きつけられる。

 

「うおっ!?」

 

 遅れて、観戦していた生徒達が響き渡る衝撃の音に首を竦ませる。

 

「大丈夫かよ?」

 

「死んだんじゃねえか?」

 

 口々に生徒達はシズナの安否を気遣うが、弟弟子のリィンは動じていなかった。

 

「あらリィンさん。お姉さんの心配をしなくてよろしいんですか?」

 

 そんなリィンにミュゼが言葉を掛ける。

 それに対するリィンの答えは決まっている。

 

「あの程度でシズナ姉さんにとって大したことじゃないよ」

 

「分校長っ! やり過ぎですっ!」

 

 そんなリィンの答えを他所に、観客たちを代表してミハイルが大剣を構えたままのオーレリアに抗議のために駆け寄る。

 

「多少腕が立つと言っても貴方ほどの武人が本気になったら――」

 

「下がっているが良い、ミハイル主任」

 

 小言を口にしながら近付いて来るミハイルをオーレリアは静かな言葉で遮る。

 

「っ――いくら同意の上だからと言って、ここで死人を出されたら――」

 

 それ以上ミハイルが叫ぶことはできなかった。

 

「ふっ――」

 

 飛来する巨大な剣閃。

 オーレリアは一撃、二撃、三撃と斬り払った所で大地を蹴る。

 一足で壁の上に着地して駆け出し、同じく壁の上から剣閃を放っていたシズナもまた駆け出す。

 瞬く間に距離を詰めた二人は雷洸を宿す大剣と氷風を纏う大太刀を振るう。

 

「雷洸剣っ!」

 

「嵐雪っ!」

 

 二人の剣がぶつかり合い、その衝撃に壁が崩れる。

 対機甲兵用隔壁はその役割を全うする事なく、人の手によって崩壊する。

 

「あはっ! 良いよ。帝国にはまだこんなに面白い達人がいたんだねっ!」

 

「ははっ! それはこちらの台詞だ。世界は広いなシズナ・レム・ミスルギッ!」

 

 崩れ落ちる瓦礫を足場に跳び回り、二人は落下しながら剣を笑いながら交わらせる。

 二人は着地し、そのまま何事もなかったように戦い続ける。

 

「…………エリートって何なんだろう?」

 

 その光景に本校の生徒がぽつりと呟いた。

 高倍率の入学試験を合格して、入学してからも濃密で厳しいカリキュラムを修めて来たからこそ目の前の戦いが自分達には到底至ることのできない高みだと思い知らされる。

 

「くっ……あれくらいアリ……ううん、ロイドさんだって喰らいつけるはず」

 

「ユー坊……それは……」

 

 見栄を張ろうとするユウナにランディがバツが悪そうに顔をしかめる。

 

「あれがリィンさんの姉弟子ですか」

 

「ああ、分校長もシズナ姉さんも本気の半分くらいだな」

 

「あら、そうなんですか? それにしては……ふふ、あんなに楽しそうにしているオーレリア分校長を見るのは久しぶりですね」

 

 アルティナの呟きにリィンが誇らしげに語り、ミュゼも笑う。

 

「ううううっ! 姉弟子……お姉ちゃん……弟君……」

 

「し、しっかりしてアネラス」

 

 頭を抱えて悶えるアネラスにキーアが必死に呼び掛ける。

 

「分かったかアッシュ。君がどれだけ危ない事をしていたか。入学した直後にオーレリア分校長を所詮は敗残の将だと言った事の意味を」

 

「お……おう」

 

 クルトはこれを気に生意気なアッシュの教育に勤しむ。

 

「流石リィンさんの姉弟子だ」

 

 それらの光景を一番後ろで見ていたセドリックは満足そうに頷く。

 本校のエリート意識も分校にあった卑屈さ。

 二人の、ゼムリア大陸全土で判断しても上澄みに位置する最強格同士の戦いに何かを感じてもらえればとも思う。

 

「とは言え、これ以上はまずいか……」

 

 二人の戦いの余波で機甲兵用の演習場は徐々にだが確実に破壊されている。

 二人はまだ半分くらい。

 演武という事もあって、本気を出す事はないが、ここで勝敗を決めずに有耶無耶にしてしまうのは勿体ないとセドリックは思い、故に行動を起こす。

 

「ティータ。準備は良いかい?」

 

「はい、いつでもどうぞ」

 

 セドリックはティータの言葉に頷くと外付けの導力器とコードで繋がった戦術オーブメントを構えた。

 

「《ARCUS》駆動――《千の武具》展開」

 

 戦場の二人はその気配に鍔迫り合いを中断してその場を跳び退く。

 しかしそれは杞憂に過ぎず、上空で展開した導力魔法は総数百の大剣と大太刀を生み出して彼女たちの周囲に突き立つ。

 

『オーレリア分校長、それに共和国からのお客人……

 二人とも見事の戦いぶりを見せてくれたことに感謝します』

 

 二人と観客の生徒達の視線を集めながらセドリックは導力マイクを使って話す。

 

『ですがこれ以上は危険と判断して、僕の方で勝敗の付け方を決めさせて頂きます……

 今、戦場には御二人の得物を模した導力剣をそれぞれ五十用意しました。それらの中で最後まで剣が残った方の勝ちと――』

 

 セドリックが言い切る前に、当の二人はそれぞれの大剣と大太刀を片手に導力魔法の剣を取り、斬りかかった。

 

「ええ~」

 

 即席の二刀流で戦いを継続する二人にセドリックはドン引きする。

 多少壊れ易い造りにしているが重さはそのまま。

 それを本物と偽物。単純に二倍になった重量を軽々と振り回すのはセドリックの想定外だった。

 

「と言うか……ますます激しくなっていますね」

 

 ティータが激化する戦場にぽつりと呟く。

 命のやり取りをしない手加減の枷は互いの武器破壊を目標に定めたところで外れ、攻撃はいっそう苛烈になる。

 最初は二刀。

 それぞれの得物の調子を確かめる作業が終われば、本物は地面に突き立てられて本格的な武器破壊の戦いが始まる。

 大剣が大太刀を砕き、大太刀が大剣を斬る。

 オーレリアが膝蹴りで大太刀を砕けば、シズナが白羽取りから大剣をへし折る。

 

「うん……流石リィンさんの姉弟子たちだ」

 

 瞬く間に百の刀剣は砕け散って霊子になって散っていく。

 そんな激闘の末に勝利したのは――

 

 

 

 

「それではここに第二回トールズ士官学院交流バーベキュー大会の開催を宣言するっ!」

 

 セドリックの宣言に生徒達は歓声を上げる。

 合同演習の全てのカリキュラムが終了した頃にはもう日は暮れて、年頃の少年少女たちの空腹が限界となる時分。

 

「おっしゃあ肉だっ!」

 

 我先にと飛び出した英雄様を皮切りに本校生と分校生も動き出す。

 多少の蟠りなど、空腹の前では無力だとそれぞれが食事を始める。

 

「なあトワ……教官。教官には酒が振る舞われているんだろ? 少しで良いから分けてくれよ」

 

「ダメだよクロウ君。確かにクロウ君はもう成人しているかもしれないけど、まだ学生なんだから」

 

 小言を受けているクロウとお説教を始めるトワ。

 他の生徒達も今日の演習の健闘を称え合い、いい雰囲気の宴となる。

 

「リィンさん、どうぞ」

 

「あ、ああ……ありがとうアルティナ。でも自分の分は自分でやるから」

 

「問題ありません」

 

「アルティナ?」

 

「問題ありません」

 

 頑なに鉄板とトングを独占するアルティナにリィンは困った苦笑いを浮かべる。

 

「やあリィンさん。楽しんでいますか?」

 

 そこにセドリックが現れる。

 

「セドリック殿下――」

 

「良いよ。今日は無礼講だから楽にしてください」

 

 佇まいを直そうとするリィンの機先を制するようにセドリックは柔和な笑みを浮かべる。

 

「分かりました……それでセドリック殿下は……」

 

 そこでリィンはセドリックの背後に肩を竦めて気まずそうにしている少女に気付く。

 

「殿下、その子は――」

 

「何をしに来たのですか?」

 

 リィンが尋ねるよりも先にアルティナが二人の間に入って冷めた視線を少女にぶつける。

 

「アルティナ、落ち着いてくれ」

 

 アルティナの非難の眼差しと言葉に少女――キーアはますます委縮してしまう。

 

「ですがリィンさん」

 

「俺は大丈夫だから」

 

 リィンは無表情のまま荒ぶっているアルティナを頭を撫でながら前に出る。

 

「初めましてキーア。俺はリィン・シュバルツァーだ」

 

 リィンの名乗りにキーアは顔を上げる。

 そして一度何かを言いたそうに口を開いて噤み、名乗る。

 

「初めましてキーア・バニングスです。二人ともさっきはごめんなさい」

 

「それを謝りに来てくれたのか? 確かに少し危なかったけど、この通り俺達は大丈夫だ。だからあまり気にしなくて良いよ」

 

 聞けば周囲の《機甲兵》を操ってしまったのは彼女の能力に由来する突発的な事故。

 今のキーアの恐縮した様子を見ればリィンも責任を追及する気にはならない。

 

「御用件はそれだけでしょうかセドリック殿下?」

 

 どこか突き放すようなリィンの態度に違和感を覚えながらセドリックは本題を告げる。

 

「単刀直入に言わせてもらいましょう……

 リィンさん、次の特別演習が終わったら本校に編入しませんか?」

 

「え……?」

 

「何を言っているんですか?」

 

「もちろんリィンさんが本校に編入してくれるなら君の移る事も認めるよ」

 

「それでしたら……まあ……良いでしょう」

 

「アルティナ?」

 

 セドリックの提案に先に反応したはずのアルティナが続く言葉にあっさりと矛を収めてしまうことにリィンは困惑する。

 しかし当のセドリックは予定調和だと言わんばかりに話を続ける。

 

「貴方が分校を選んだ経緯はおおよそ知っています……

 シュバルツァー家が拾った出生も分からない浮浪児。それが貴方ですよね?」

 

「ええ、俺を拾って家族として迎え入れてくれて……それで養父は……」

 

 シュバルツァー家は先の内戦の際、元の領地を失ったもののセドリック皇子に多大な支援を行いその功績は称えられた。

 新たな領地を与えられ、飛び地であるノーザンブリアの相談役に抜擢され、更には今はクロスベル総督に上り詰めたルーファスにも復興支援されている。

 更には与えられた領地に存在している七耀石の大樹。

 内戦から全体的に落ち目の貴族社会において、もっとも安定しているのがシュバルツァー家であり、その唯一の令嬢であるエリゼに婚約の申し込みが殺到するのは自明の理だった。

 

「テオ養父さんは俺を養子に迎え入れたせいで、貴族社会から白眼視されるようになって……

 エリゼ姉さんも成人まじかだというのに、俺のせいで……」

 

「……つかぬ事を聞くけど、エリゼさんがもし恋人を連れて来たら君はどうするつもりだい?」

 

「その時はもちろんエリゼ姉さんに相応しい相手なのかしっかりと見極めさせてもらいます」

 

 皇族を相手に物怖じしない言葉を返すリィンにセドリックは満足そうに頷く。

 

「だったらなおのこと本校に来ませんか?

 本校に来て僕の傍付きの騎士となれば君を浮浪児と陰口を囁く者はいなくなるでしょう……

 なんでしたらうちの姉を引き取ってくれても良いですよ?」

 

「御冗談を」

 

 さり気なくセドリックの姉、つまり皇女の縁談を勧めて来る事をリィンは恐れ多いと答えを濁す。

 

「いやいや、先の内戦のせいで皇族も目立ってないけど落ち目でね……

 四大名門のどこかに肩入れしてしまえば勢力バランスを崩してしまう懸念や、アルフィンを人質に再び反乱を起こされても困る……

 格が見合う結婚相手を探すとなるといろいろな意味で難しく、今ではすっかり事故物件扱いなんだよ……

 ならばいっそう貴族の力バランスに影響力の少ない下位の貴族に嫁いでもらうのもありだと思わないかい?」

 

「だとしても出自の分からない浮浪児の血を高貴な存在に混ぜるわけにはいかないのでは?」

 

「高貴な血筋か……」

 

 リィンの言葉にセドリックは曖昧な笑みを浮かべる。

 

「事故物件の事は今は良いとして、話を戻しますが本校編入については考えてみてもらえないかな?」

 

「殿下……それは……」

 

「今回の交流演習を通じて、貴方ほどの逸材を分校なんかに埋もれさせるのは帝国の大きな損失になるでしょう……

 例え貴方が人には言えない何かを抱えていたとしても、本校の生徒達は帝国の未来の事を本気で考える者達ばかりです……

 それこそ特別演習で《結社》に襲撃されても文句を言う様な者達ではありません」

 

「っ……それは……」

 

 セドリックの指摘にリィンは図星を突かれたように目を逸らす。

 一度は退学届けを提出した事を考えればセドリックの提案は決して的外れではない。

 

「――返事は後日、改めて聞かせてもらいましょう」

 

 それ以上の追及をセドリックはせず、何故かキーアを前に出す。

 

「殿下?」

 

「この後分校長から発表されるますが、今日から特別演習が終わるまでキーアをトールズ第Ⅱ分校に短期留学と言う形で通う事になりました」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 セドリックの言葉を肯定するようにキーアは緊張し切った様子で頭を下げる。

 

「それってどういうことでしょうか?」

 

「ちなみにキーアは遊撃士と僕の監視が義務付けられていますが……

 この期間中のみリィンさんがその代行を請け負う事がオリヴァルト皇子、オズボーン宰相、リベール王太女、遊撃士協会の連名で認められています」

 

「え……え……?」

 

 帝国のみならず、他国も巻き込んだ信頼にリィンは戸惑う。

 

「監視の任務上、リィンさんはキーアと同じ部屋で過ごしてもらうのでよろしくお願いします」

 

「え……?」

 

 三度リィンは間の抜けた声を帝国皇太子に返す。

 

「待って下さい。説明を求めます」

 

 情報の暴力でフリーズしたリィンに代わってアルティナが抗議の声を上げる。

 

「おっと僕は他にも挨拶回りをしないといけないからこれで失礼するよ。アディオス・アミーゴ」

 

 アルティナの制止など聞かずセドリックは颯爽とその場から逃げて行く。

 

「待ちなさい」

 

 その後をアルティナが追い駆け、その場にはリィンとキーアが取り残される。

 そしてただ気まずい沈黙が二人の間に流れるのだった。

 

 

 

 

 






試される絆

ルーファス
「私の手に掛かれば、特務支援課の絆など簡単に引き裂けるのだよ」

ロイド
「くっ……あんたが何をしようと俺達は屈したりしない」

エリィ
「そうよ。クロスベルを侵略した帝国なんかに私達は負けないわ」

ティオ
「御託は良いのでキーアを返してください」

ランディ
「あまり俺達を舐めるなよ」

ルーファス
「ふむ……ではキーア君の戸籍を作ろうと思うのだが、ファミリネームはバニングスで良いのかな?」

ロイド
「それは……もちろ――」

ルーファス
「それともキーア・マグダエルかキーア・プラトー。それともキーア・オルランド」

エリィ
「…………」

ティオ
「…………」

ランディ
「…………」

ルーファス
「決められないのなら帝国のとある貴族に後見人として家名を借りられるが、せいぜい良く話し合って決めてくれたまえ」


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