閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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27話 クロスベル州Ⅰ

 

 

「ふう……何とか間に合ったな」

 

 早朝、クロスベルの駅から一人の青年が出て来て息を吐く。

 

「半年ぶりの帝国……と言うのはちょっと違うか」

 

 クロスベルは既に帝国領なのだが、市民の反帝国意識は強い。

 現に今のクロスベルは警備隊や警察は帝国に吸収合併されたが、それに異を唱える者、先の独立戦争で敗走した者達が集まり地下のジオフロントを始め都市の各地に潜伏して決起の瞬間を待ち望んでいる。

 かつては帝国と共和国の暗闘が繰り返される《魔都》と呼ばれたクロスベルは装いを新たにしながらも《魔都》と呼ばれるに相応しい都市であり続けている。

 

「…………ここからだ」

 

 青年はクロスベルの象徴とも呼ばれているオルキスタワーを見上げて強く自分に言い聞かせる。

 

「ふふ……この半年でまた随分と成長したみたいね」

 

 そんな青年を誇る様に声が掛けられた。

 

「その声は……サラ教官?」

 

「はあいマキアス。もっとももう教官じゃないけどね」

 

 駅の前で待ち構えていたサラはかつての教え子を出迎える。

 

「うんうん、ほうほう……」

 

「な、何ですか?」

 

「う~ん、まだ渋さが足りないかしら」

 

「サラ教官……相変わらずみたいですね」

 

 マキアスは苦笑して変わらないサラの様子に安堵する。

 しかし弛緩した空気はそこまでだった。

 

「改めて自己紹介させてもらいます」

 

 サラはかつての教え子に敬語を使い、見様見真似の敬礼をする。

 

「遊撃士協会から派遣されましたサラ・バレスタインです。これより遊撃士としての立場は一時的に返上……

 以後、マキアス・レーグニッツ警部が設立する西ゼムリア大陸統合特務警察の一員として働かせていただきます」

 

 現在のクロスベルは外から遊撃士が入って来る事を厳しく取り締まられている。

 だが資格を返上したサラは名目上は遊撃士ではない。

 そして元遊撃士のサラの就職先も既に決まっていた。

 

「っ……ええ、よろしくお願いします」

 

 その部下として振る舞うサラにマキアスも生真面目な敬礼を返して――笑う。

 

「ふふ、なかなか様になってるじゃない」

 

「ええ、まあ……一応共和国の警察学校も卒業しましたから」

 

「帝国の司法試験を受けて、次は共和国の司法試験に警察学校だったかしら?

 ルーファス総督も随分と無茶な条件を出すわね」

 

「後ろ盾になってくれたことを考えれば破格な条件ですよ……

 僕はみんなと違って帝国の中枢に関わる事はできるような力なんて持っていませんでしたから」

 

 最初は帝国の司法試験を受けて司法監察官になろうと考えたが、マキアスはふと気づいた。

 親のコネを使わずに一監察官として、オズボーンの不正を暴き、彼を失脚させることができるようになるまで果たして何年掛かるのか。

 マキアスが調べた限りではオズボーンに黒い噂が付き纏ってはいるが、明確な証拠は何処にもない。

 限りなく黒に近い灰色だったとしても、今の帝国に偉大なる指導者を失脚させたいと思う人間は存在しない。

 そして自分がそうしようとしている事を知られれば、オズボーンではない周りの誰かがそれこそ失脚させるだろう。

 それこそ帝国解放戦線の《G》の様に。

 

「その答えがカルバード共和国を始めとした他国を巻き込んだ統合警察というわけ?」

 

「カルバード共和国についても悪い話ではなかったようです……

 近年の導力技術の発展から国家の境界線を越えた犯罪が増加している……

 それに《身喰らう蛇》の暗躍もカルバードにとっては明日は我が身、他国の情報機関を通さない生の情報は彼らも欲しがっていましたから」

 

 帝国政府も近年の犯罪傾向の変化には注目しており、マキアスの提案は無下にされるものではなかった。

 

「それを理由に遊撃士のノウハウを吸収するために、警察官として私たちを出向させたというわけね」

 

 サラはマキアスが本来帝国では規制されている遊撃士を呼び込んだ方法に感心する。

 民間人保護ではなく、あくまで《結社》や国際犯罪に対応する動員。

 

「帝国政府にとっては僕のやろうとしている事はこれからの試金石として失敗しても成功しても構わないと言う様子でしたよ……

 とりあえず一年は互いの国にとって様子見の一年間、僕にとっては――」

 

「帝国の激動の時代に対応するために鉄血宰相の息が掛かっていない戦力の確保というわけね」

 

「私情に他人を巻き込むのは心苦しいですが、それなりのメリットは提示したつもりです」

 

「あんまり気にしなくて良いわよ……

 あんたのおかげで協会は名誉挽回のチャンスが得られたわけだし。もちろん共和国にだって打算があって提案を受け入れたんでしょう」

 

「そう言ってもらえると心が軽くなります」

 

 サラの、遊撃士協会が出向を認めた理由は現在クロスベルに潜伏している元A級遊撃士アリオス・マクレインの確保のため。

 彼は先のクロスベル独立騒動のおりに、依頼を偽造して各国にクロスベルが独立するための根回しを行い、クロスベル独立国の国防長官に就任した。

 もちろんそれは遊撃士協会の規約違反であったが、協会が対処に乗り出す前にディーター大統領の不正が発覚するとともにアリオスは帝国軍に逮捕された。

 しかし恥の上塗りで、アリオスはディーター派のクロスベル市民の助けを借りて脱獄してしまった。

 以後、帝国政府と遊撃士協会の呼び掛けを無視しアリオスはクロスベルに潜伏してディーター派を率いたクロスベル解放戦線として活動している。

 

「僕達の活動の第一の任務がアリオス・マクレインの確保になりますから、同じA級のサラきょ――サラさんが出向して来てくれたのは心強いです」

 

「階級は同じだけでアリオスさんは実質S級なんだけどね……と、いつまでもこんなところで喋ってないで事務所に案内するわ……

 もう他の人員は到着しているからあなたが最後よ」

 

「そうですか、それは急がないと」

 

 サラに促されてマキアスはクロスベルの街を歩き出す。

 

「ところでサラさん……僕はカルバードにいたから話を聞くことしかできなかったんですが……リィンが戻って来たというのは本当ですか?」

 

「ええ……偶然だけど今日からトールズ第Ⅱ分校が通商会議中の街道警備の人員として現地入りするから会える機会があるかもしれないわね」

 

「…………そうですか」

 

「それから悪い報告が一つ、先月先にリィンと接触したはずのラウラとフィー、エリオットの三人と連絡が取れなくなっているわ」

 

「っ……それは……」

 

「何かが始まったと言う事でしょうね。あの子達の事だから死んだりはしてないでしょうが、私達も気を引き締めておいた方が良いわね」

 

「…………はい」

 

 そんな会話を歩きながらして到着したのはクロスベル駅から程近い雑居ビルだった。

 

「ここって確か……」

 

「ええ、そうよ」

 

 マキアスの呟きにサラは頷き、その扉を開く。

 

「みんなボスが来たわよ」

 

「サラ教官!?」

 

 物騒な渾名にマキアスは驚く。

 そしてサラの声に応じるように応接間の奥にあるリビング兼ブリーフィングルームに集まっていた一同が振り返った。

 

「来たか……久しぶりだなレーグニッツ」

 

「キンケイド先輩、お久しぶりです。この度は僕の提案に協力して頂きありがとうございます」

 

 最初に声を掛けてきた青年にマキアスは頭を下げる。

 

「礼には及ばない。お前が提唱した犯罪の広域化はカルバードでも問題視されていた事だ……

 既に挨拶は済んでいるが、改めて名乗らせてもらおう。カルバード共和国中央情報省より出向してきたルネ・キンケイドだ……

 共和国の人間ではあるが、よろしく頼む」

 

 そう名乗ったのは見た目がマキアスとよく似た眼鏡の青年だった。

 そして彼に続いて名乗りを上げたのはブロンドの髪の女剣士だった。

 

「サラさんと共に遊撃士協会から出向してきたB級遊撃士エレイン・オークレールです……

 アリオス・マクレイン確保の機会を与えてくださり、レーグニッツさんには遊撃士を代表して感謝を述べさせてください」

 

「同じく遊撃士協会から出向させてもらっているミシェルよ……私は情報処理を始めとした事務担当だけどよろしくね」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 エレインに続いて、大柄の男が女言葉で話す。

 遊撃士協会の人員についてはサラやルーファスに任せたが、随分と濃い人材が選ばれたのだなと感想を抱く。

 そして――

 

「クロスベル軍警察から出向させていただいたロイド・バニングスです」

 

「ヨナ・セイクリッド……

 主に導力ネット方面からあんた達のフォローするように帝国政府から派遣されたけど、まあ……よろしく」

 

 何か思うところを感じながら静かに青年と金髪にそばかすの少年が名乗る。

 そしてその場にいる最後の一人が名乗る。

 

「同じくクロスベル軍警察からの出向のセルゲイ・ロウだ……俺は名目上のまとめ役って奴だが、ここのボスはあんただ」

 

「いえ、僕は発案者であってもこの業界については何も知らない若輩者です……

 皆さんの働きぶりをしっかり学ばせて頂きますので、下っ端としてコキ使ってください」

 

 茶化すようなセルゲイの物言いにマキアスは一同を見回してから頭を下げる。

 

「マキアス・レーグニッツです……

 今日から試用期間の一年、よろしくお願いします」

 

『挨拶は済んだみたいだな』

 

 そこにタイミング良く壁に掛けられた大型モニターが起動して、赤毛の青年が映し出される。

 

『通信越しで悪いが、帝国情報部所属レクター・アランドールだ……

 一応帝国内でのお前さん達の上役ってことになってるが、俺はお前達の活動に口出すつもりはねえ』

 

 挨拶もそこそこにレクターは要件に入る。

 

『いろんな思惑がそれぞれにあるとは思うが、まあせいぜい頑張ってあのオッサンの鼻でも明かしてくれ』

 

「それを貴方が言うんですか?」

 

『ああ、言うさ……

 お前さん達に与えている強制捜査権は証拠さえ確保できればうちの鉄血宰相だって逮捕できる……

 帝国、共和国、王国、法国、そして遊撃士協会、全ての承認を得て与えらたもんだが悪用したり、強制捜査の結果証拠を見つけられなかったら、どうなるかは言うまでもないだろ?』

 

 脅すようにレクターは笑いながら釘を刺す。

 

『ゼムリア大陸統合特務警察――公安七課。お前達の働きに期待しているぜ』

 

 そう言った後、レクターは付け加えるようにおどける。

 

『差し当って俺から一つお前さん達に一つ“要請”を与えようと思う』

 

「“要請”ですか?」

 

『ああ、って言ってもそんな難しい事じゃねえ。とある重要――ザザ――をお前さん達のところで預かってくれ』

 

「待ってください。今、何て?」

 

 不自然に走ったノイズによって聞き取れなかった言葉をマキアスは聞き返す。

 

『おっともうこんな時間か、俺は通商会議に同行するからもしかしたらそこで会うかな。それじゃあ通信終了――』

 

 一方的に言うと導力モニターは暗転し、それを見計らったように玄関の呼び鈴が鳴った。

 一同は顔を見合わせて警戒し、ロイドが席を立って慣れた様子で扉の前に立つ気配に話しかける。

 

「鍵は開いています。どうぞ――」

 

「は……はい……し、失礼します」

 

 緊張し切った様子で入って来たのはピンクの猫。

 

「…………え……?」

 

「は……?」

 

「あらあらあらあら」

 

 よたよたと慣れない様子で入って来たピンクの“彼女”は勢いよく頭を下げて転がった。

 

「きゃあっ!」

 

「危ないっ!」

 

 悲鳴を上げる“彼女”を咄嗟に抱きとめて、支えるように“彼女”を立たせる。

 

「あ……ありがとうございます。ロイドさん」

 

「え……? どうして俺の名前を……?」

 

 普通に呼び掛けられてロイドは困惑を返すと“彼女”はしまったと言わんばかりに両手で口を覆う。

 

「えっと……」

 

「ル、ルーファスさんから言われてここで雑用として働かせてもらうことになりましたシズ――じゃなくてみーしぇです。よ、よろしくお願いします」

 

 みっしぃの妹であるみーしぇはその大きな頭をふらつかせながらもう一度頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 早朝、まだ日が昇る前にガレリア基地を出発したデアフリンガー号はクロスベル市を通り、南の線路に抜ける。

 ウルスラ医科大学病院とリゾート地を結ぶ沿線に停泊した《第Ⅱ》はサザーランド州での演習と同じように外にテントを張り、機甲兵を用いた周辺の哨戒を行い場を整えて行く。

 その一方で《Ⅶ組》は車内のブリーフィングルームでミハイルから今後の活動方針を聞いていた。

 

「今回の第Ⅱ分校の任務は明日から始まる《西ゼムリア大陸通商会議》の間、南街道を中心にした哨戒作業が中心となる」

 

「街道警備……しかも各国首脳陣が集まっているこのタイミングでそんな大役が俺達に務まるものなんですか?」

 

 リィンの不安が籠った質問に安心しろと前置きをしてミハイルは続ける。

 

「何もお前達にアリオス・マクレインを捕まえ、テロを未然に防げと命じられているわけではない……

 街道を巡回する者の目を増やし防犯や抑止力となる事は重要な役割だ。本来の警備は……」

 

 そこでミハイルは苦虫を嚙み潰したように顔をしかめた。

 

「ミハイル教官?」

 

「何でもない本来の警備についてはお前達が気にする事ではない……

 クロスベル解放戦線も通商会議を襲えばクロスベルそのものの立場を悪化させることは分かっているはずだ……

 今回の演習はそこまで気を張る必要はないだろう」

 

「はっ……だけど俺達がそのアリオスって奴を見つけて捕まえたって構わねえんだろ?」

 

 ミハイルの言葉に見回りだけなんて退屈だと言わんばかりにアッシュが口を挟む。

 

「大した自信だなカーバイド。ではアリオス・マクレインを発見、捕縛できなければ前回同様の懲罰を《Ⅶ組》に受けて――」

 

「はははっ! 何を言っているんですかミハイル教官。アッシュは何も言ってませんよ」

 

「おい、待て冗談――うおっ! やめ――むぐっ!?」

 

 リィンがミハイルの言葉を遮っている間に、クルトがアッシュの首根っこを掴み席から引きずり降ろし壁際へと移動。

 アルティナが脛を蹴り、ユウナが導力魔法を展開し光の縄でアッシュを簀巻きにし、最後はミュゼによってアッシュの口にテープが張られる。

 

「は……馬鹿め。沈黙は金だぜ後輩」

 

 無様な後輩をクロウが嘲笑って止めを刺す。

 

「…………えっと……」

 

 臨時の《Ⅶ組》のキーアはどうしていいかとおろおろするばかりだった。

 

「話を続けましょう」

 

「ああ」

 

 リィンの言葉にミハイルは頷く。

 

「分校全体の動きは分かりました。《Ⅶ組》の特務活動は通商会議までキーアの護衛とオルキスタワーに送り届けると言うことでしたが、それについてはどうしますか?」

 

「基本的な行動はサザーランド州と同じだ……

 広域哨戒に加え、現地からの要請に対応してもらいたい。《第Ⅱ》の演習開始について行政責任者に報告するのも含めてな」

 

「行政責任者……それはもしかして……」

 

 リィンは昨日、ガレリア基地で会った貴族の兄の方を思い出す。

 

「ああ、クロスベル集を統括する初代総督ルーファス・アルバレア閣下がオルキスタワーでお待ちだ」

 

 

 

 

 

「へえ……なかなかの光景じゃねえか」

 

 街道に出ると目の前に広がったのは巨大な湖にアッシュは口笛を吹く。

 

「カジノがある大都会だって聞いたんだけどな」

 

「帝国と同じで街から離れれば同じようなものだ」

 

 景色を褒めつつ落胆するアッシュにクルトが苦笑しながらフォローをする。

 

「フフ、でも海と見間違えそうですが湖なんですよね?」

 

「ああ、目の前の湖はエルム湖。遊覧船も運航している」

 

 ミュゼの質問にクルトが解説をする。

 

「右手の対岸に見えるのがミシュラム……みっしぃ教官の前の職場……のリゾート地だ」

 

「へえ……あれが噂のミシュラムか。今は閉鎖されているんだったか?」

 

「うん……ミシュラムはキーアが《零の至宝》になるための装置だからその全容が解明できるまで無期限の休業になっているの」

 

 クロウの質問にキーアが頷き、クルトが続ける。

 

「そして左手に見えるのが国際貿易都市、クロスベルだ」

 

 そう言うクルトの視線を追って一同は木々に見える巨大な建築物を見上げる。

 

「クロスベルまでは僕が先頭を歩くが、何か質問はあるか?」

 

 土地勘があるクルトが率先して案内を買って出る。

 

「……質問はないけど……」

 

 リィンは言葉を濁して背後を伺う。

 そこにはこれから向かおうとするクロスベルへの道の逆の街道を向いて立ち尽くしているユウナの背中があった。

 本来ならばクルトではなくクロスベル出身のユウナが解説しそうな事なのに、演習場を出発してからユウナは心ここに在らずと言った様子でずっと同じ方向を見続けていた。

 

「向こうには何があるんだ?」

 

「聖ウルスラ医科大学……大陸有数の総合病院にして医療研究機関があるけど……まさか……」

 

 何か思い至る事があるのかクルトは考え込み、ユウナに声を掛ける。

 

「ユウナ、もしかして――」

 

「えっ!? なにクルト君!?」

 

 声を掛けると元気な声でユウナが応える。

 

「どうしたのみんな? 早くクロスベルに行きましょう!」

 

 いきなりハイテンションになったユウナは待ちきれないと言わんばかりに前に出て歩き出す。

 そんな不自然な空元気に一同は不信に思いながらもユウナの後に大人しくついて行くのだった。

 

 

 

 

 帝国総督府オルキスタワー。

 職員に出迎えられ、案内されたのは20階にある総督執務室。

 

「やあ、リィン君は昨日ぶりだね」

 

 出迎えた金髪の青年は人の良さそうな笑みを浮かべて一同を歓迎する。

 

「クロスベル州総督、ルーファス・アルバレアという。見知りおき願おうか、トールズ第Ⅱ、新Ⅶ組の諸君」

 

 お決まりの言葉を口にしてルーファスは苦笑する。

 

「とは言っても顔見知りの方が多いかな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、キーア君。病気からの回復。遅まきながらおめでとうと言わせてもらおう」

 

「ありがとうルーファス」

 

「そなたもまた雰囲気が変わったものだ」

 

「総督閣下はお変わりなく、まあ身長はそれほど伸びてはいませんが」

 

「フフ、事務的なところも変わっていなさそうだが……いやこれ以上言うのは野暮というものか」

 

 アルティナの反応にルーファスは愉し気に笑う。

 

「ユウナ君、ウルスラ医科大学病院には顔を出したのかね?」

 

 そしてルーファスはユウナに話しかける。

 

「…………いえ……まだ面会時間には早過ぎますし、そんな暇は――」

 

「そうだったね。ならばこちらから提示する今日の“要請”にウルスラ医科大学病院のものも付け加えておくとしよう」

 

「え!? そんなことしなくても――」

 

「なに、これくらい大したことはないさ」

 

 恐縮するユウナに対して、ルーファスはいくつか用意してあった封書を差し替える。

 ユウナとルーファスが知り合いであることに軽い驚きを感じながらリィンはルーファスに第Ⅱ分校が特別演習を開始したことを報告する。

 

「了解した。演習の成功を女神に祈ろう……

 キーア君は明日の《通商会議》まで《Ⅶ組》と共に行動してくれたまえ」

 

「うん」

 

 報告を受けたルーファスは改めてクロスベルからの“要請”については話を始める。

 

「知っていると思うが明日から《第二回西ゼムリア大陸通商会議》が行われる……

 各国の首脳陣は本日来日され、最高レベルの警備体制が敷かれているが、そんな中でも気がかりはあってね」

 

 困ったと肩を竦め、ルーファスは四つの指を立てる。

 

「アリオス・マクレイン率いるクロスベル解放戦線、結社《身喰らう蛇》の動向と“幻獣”の出現」

 

「“幻獣”ですか?」

 

「ああ、通常よりも大きく強力な魔獣だ。北部の山道に現れが、同じような“幻獣”を発見次第討伐して欲しい」

 

「分かりました。それで四つ目の気がかりというのは」

 

 聞き返したリィンの言葉にルーファスはそれまで以上の真剣さを持って口を開く。

 

「これは我が帝国に身内の恥を晒す重大な問題だ」

 

 厳かな言葉に一同はごくりと唾を飲む。

 

「それはルーレから送られたある貨物が発端だった……」

 

「貨物……ですか?」

 

「ああ、送り主はどうやら独立騒動が起きるクロスベルのある人物にひどく感銘を受けたようでね……

 彼は自分が持つ技術を結集し、それを完成させるとクロスベルに贈り付けて来た」

 

「それが問題の貨物……」

 

「ここで一つ例え話をしよう……

 そうだね……あるテーマパークにミッ○ーというマスコットがいたとしよう」

 

 その単語の類似にリィン達は己の担当教官の顔を思い浮かべる。

 

「そのミッ○ーに心を奪われた者が粗悪な類似品を造り、テーマパークに寄贈するという形で贈り付けて来た」

 

「それは……原作に勝手な二次創作を送りつけて公式にしろと強要したと言う事ですか?」

 

「最低ね。そんなもの送り返せば良いじゃないですか」

 

「ああ、私もそうするつもりだったのだが……その機械人形はあろうことか勝手に動き出してしまった」

 

「え……?」

 

「それが動き出したのは七ヶ月前のこと……

 そして先日もカルバード共和国から密輸された違法薬物の取引現場を襲撃して密輸犯を深夜の軍警察署に届けて去って行ったそうだ」

 

「おいおい、何だそりゃ?」

 

 ルーファスも理解できないと頭を振り、用意してあった写真をリィン達に差し出した。

 

「君達にはクロスベル州で勝手に動き回るこの“メカみっしぃ”なる者を捕獲、もしくは破壊してもらいたい」

 

 そこに写っていたのは《Ⅶ組》の担当教官と同じ体躯のぬいぐるみの形をしたロボットだった。

 

 

 

 





メカみっしぃって作中では突っ込まれませんでしたが、確かルーレの技術者が勝手に送りつけたモノでしたよね?
リアルで考えると作中で述べた通り、原作に二次創作送りつけて公式にしろと言う暴挙なのではないかと思いました。



公安七課
マキアスが発案し、ユーシスに頭を下げてルーファスに取り次いでもらって後ろ盾になってもらって設立した新しい警察の在り方。
導力技術の発展により国家間の行き来が楽になったことで広がった犯罪に対処すべく国家の垣根を取り払った組織形態を模索した統合警察。

原作では司法監察官でも宰相や総督の不正を監視し見極める役目をから誰かがやらなければならないとマキアスが言っていましたが、裏事情が深すぎて全く監視、対処ができていなかったと自分は思いました。
実際できたとしてもオズボーンと対立すればマキアスは簡単に潰されてしまうので、10年20年先を見据えたプランならば文句はありませんでした。

ここでは各国に働きかけ、《結社》のような国際犯罪者に対抗するために各国が人材を出し合った一つの組織をマキアスが提案して設立させました。

帝国の司法監察官ではオズボーンの影響がありますが、各国の司法機関との繋がりもあるのでオズボーンの不正を見つけ出す事ができれば取り締まる事ができるのではないかと思います。

組織としては黒に近い強権を与えているため、問題があればすぐに取り潰せる人材ということでセルゲイやロイド達が招集されています。

カルバード共和国は帝国の内偵と結社に関する情報収集が目的であり、帝国政府も前者に関してはある程度黙認している。

遊撃士協会のメリットはアリオスの件で失墜した遊撃士の信用回復の一環。

ヨナはロイド達がオルキスタワーに潜入する際に協力した事で、潜伏先を特定され逮捕。
ハッカーとしての余罪も重なりそれなりの刑罰を受ける事になる。一時はハッキング能力を現状では規制できないため、ホワイトハッカーとして帝国に首輪を付けられルーファスに出向を命じられた。


長々と解説をさせていただきましたが、原作の司法監察官と新米マキアスではオズボーンに挑むには力不足過ぎると思い、他国勢力を巻き込みました。


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