閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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30話 クロスベル州Ⅳ

 

 

 

 RFクロスベル支社から外へ出ると、タイミング良くリィンの《ARCUS》が鳴った。

 

「何だ?」

 

「ちょっと待ってくれ……」

 

 《ARCUS》を取り出して確認すれば導力メールの通知。

 

「差出人はルーファス提督だ……緊急の要請だな」

 

 操作してメールを開けば、朝に貰った書面と同じ文面。

 

「どうやら東の街道に“幻獣”が確認されたらしい……軍の警備はクロスベル内のパレードで手を放せないから急ぎで討伐して来て欲しいと言う事だ」

 

「東って事は……」

 

 “要請”を読み上げたリィンの言葉に反応してユウナが真っ先に反応する。

 

「ユウナ……?」

 

「リィン、東クロスベル街道はアルモリカ村があって、ユウナ達はそこで……」

 

 ユウナの奇行の理由をキーアが耳打ちをして教えてくれる。

 ユウナが戦争に巻き込まれて弟妹が重症を負った場所。

 動揺するなという方が無理があるだろう。

 

「ユウナ、無理をしなくても良いんだぞ。先にアッシュとミュゼと一緒に演習地に戻ってくれても良いんだ」

 

 外交の問題に発展しかねないため、《神機》を受け取ったら速やかに帰還するようにミハイルに釘を刺されている。

 とは言え、ルーファス総督からの緊急要請を無下にすることもできない。

 

「大丈夫よ……」

 

「でも……」

 

「大丈夫って言ってるでしょ!」

 

 意地を張る様に叫ぶユウナにリィンは肩を竦める。

 

「そこまで言うなら良いけど……」

 

 一応、アッシュとミュゼの意見を聞こうかと視線を巡らせるが、返って来た答えはある意味予想だった。

 

「ハッ! ちょうど体を動かしたいと思っていた所だ」

 

「フフ、リィンさんは私に一人で帰れなんて言いませんよね?」

 

「分かった。手早く済ませよう」

 

 リィンは肩を竦めて港湾区から東クロスベル街道に出るために、まず中央通りに向かって歩き出す。

 

「凄い、人だな……あっ……」

 

 オープンカーと呼ぶのか、天井のない導力車がリィン達の目の前をゆっくりとした速度で通り過ぎて行く。

 

「あっ……さっきの帝国の皇女様……」

 

「ひゅう……黒髪の令嬢の方も映像越しに見るよりイケてるじゃねえか。機会があればお近づきになりたいものだな」

 

 クロスベルの市民に笑顔で手を振りながら通り過ぎて行く皇女に対して《Ⅶ組》の反応は沈黙の方が多かった。

 

「馬鹿アッシュが」

 

「ご愁傷様です」

 

「あん……?」

 

 手を合わせるクロウとアルティナにアッシュは首を傾げる。

 

「へえ、興味深いな」

 

 ぽんっとリィンの手がアッシュの肩に乗る。

 

「――!?」

 

「誰とお近づきになりたいって?」

 

「う、動かねぇ……って何にキレてやがるんだよ!?」

 

 片方の肩を押さえられているだけで全身が動かなくなる異常にアッシュは驚きながら叫ぶ。

 

「お前が迂闊な事を言うからだ」

 

「アルフィン皇女の隣にいた黒髪の令嬢はリィンさんの姉です」

 

「姉っ!?」

 

「そう言えば、エリゼさんの家はシュバルツァー家だったか……」

 

「何を落ち着いているのクルト君! シズナさんとアネラスさんに飽き足らずまだお姉さんがいるなんて!」

 

「ちっ……ただのシスコンかよ。この弟ブルジョワジーが」

 

「しかも義理です」

 

「「「義理っ!?」」」

 

 アルティナの補足にユウナとクルトとアッシュが仲良く声を揃えて驚く。

 

「……はあ……三人共いい加減に――」

 

 リィンがため息を吐いて話を戻そうとしたところで、その声は聞こえて来た。

 

「その声はもしかしてユウナさんですか?」

 

「え……?」

 

 呼び掛けられたユウナが振り返るとそこには有名人がいた。

 

「リーシャさん!?」

 

「なっ!? リーシャ・マオ!?」

 

「まじかよ!?」

 

 ユウナの声に反応したのはクロウとアッシュの二人だった。

 

「お久しぶりでリーシャさん」

 

「あ、クルト君も一緒でしたか、それにキーアちゃんも」

 

「うん、久しぶりリーシャ」

 

「なっ!?」

 

「クルト、テメエ……リーシャ・マオと知り合いなのか?」

 

「ああ、まあ……」

 

 キーアも返事をしているのだが、クロウとアッシュはクルトに詰め寄る

 

「有名な人なのか?」

 

「クロスベルの劇団、アルカンシェルの看板スターの一人です。帝都の劇場が修繕した時にも出張出演したこともあり帝国でも人気の高いアーティストですね」

 

 リィンの質問に淡々とアルティナが説明する。

 

「アーティストか……俺はてっきり……」

 

 立ち姿で武術に精通していると感じたリィンはその説明に眉を顰めて、リーシャと目が合った。

 

「え……?」

 

「あの……」

 

 すっと前にいたユウナ達の間をすり抜けてリーシャはリィンの前に歩み寄り、その手を取って顔を下から覗き込む。

 

「えっと……何か?」

 

「名前……聞いても良いですか?」

 

「リーシャさん、どうしたんですか?」

 

 リーシャの突然の行動にユウナが驚きながら質問する。

 

「ユウナさん……実は、この子が私の生き別れた弟と似ている気がして……」

 

 リーシャは目じりに涙を浮かべて、そんな事を言い出した。

 

「なっ!?」

 

「リーシャ・マオの弟っ!」

 

「またか!? またなのか!? リィン・シュバルツァー!」

 

「リィンはシュバルツァー家に拾われた浮浪児……それに名前もリーシャとリィン、どことなく似ているような……まさか……」

 

 リーシャの言葉にユウナが驚き、クロウとアッシュが歯ぎしりをして、クルトが真面目に考察する。

 

「リーシャ! あのね、このリィンはあのリィンじゃなくて、でもあのリィンもリーシャの弟じゃ……ないよね?」

 

 必死のフォローをキーアがしようとするが、そう言えばリーシャは《銀》として帝国の内戦に介入して来てしかも《彼》の事を覚えていた数少ない一人だった事を思い出して自信をもって否定できなくなる。

 

「え……リィンがリーシャさんの弟? ならリィンはクロスベルの何? リィンがリーシャさんの弟ならそれはクロスベル人という事で、それはつまり私にとっても弟なのでは?」

 

「気を確かにユウナさん! それ以上はいけません」

 

 錯乱するユウナにミュゼが必死に呼び掛ける。

 

「え……え……え……?」

 

 そして当の本人はひたすらに混乱を極めていた。さらに――

 

「クロスベルタイムズです。今の話詳しく教えてもらえるかしら?」

 

 導力マイクを片手に遠慮なしにリィン達の輪の中に黄色の服の女性が割って入って来る。

 そして振り返れば大型導力カメラのレンズがリィンを中心に捉えていた。

 

「驚愕! 通商会議のパレードの片隅で運命の再会!? リーシャ・マオの弟とは!?」

 

 女は導力カメラに向かって熱を上げて語り出す。

 

「さあ! リーシャ・マオの弟さん(仮)! コメントをどうぞ!」

 

 突き付けられた導力マイクにリィンはたじろぐ。

 

「さあ! さあっ! さあっ!!」

 

 後ろに後退った分だけ距離を詰めて来る女から助けてくれと言わんばかりにリィンがリーシャの方を向く。

 

「えっと……」

 

 まさかこんな騒ぎになると思っていなかったリーシャは困った顔をするだけで助けてくれる気配はない。

 そしていつしか周囲にはリィン達を円にした人だかりができて、その答えを期待する眼差しがリィンに集中する。

 

「えっと……」

 

 思わずリーシャが漏らした言葉をリィンが口にすると、民衆がざわめく。

 その民衆の中にクラスメイト達も混ざり、リィンの答えを待っている。

 無数の目がリィンの一挙一動に注目する。

 

「お、俺は……」

 

「《クラウ=ソラス》」

 

 リィンの言葉を遮って、導力カメラと女とリィンを引き離すように黒の戦術殻が現れるとリィンを小脇に抱えた。

 

「アルティナ!?」

 

「戦略的にここは撤退がベストだと進言します。《クラウ=ソラス》」

 

 そう言うと《クラウ=ソラス》は上空に浮き上がると同時にその姿を消した。

 

「飛んだ!?」

 

「それに消えたぞっ!」

 

「今のは何だ!?」

 

 リィンを奪われた民衆が騒ぎ出すが、空を飛べず《クラウ=ソラス》の光学迷彩を見抜けない民衆にリィンを追い駆ける術などなく、更には騒動を引き起こしたリーシャ・マオもいつの間にか忽然と姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああ……」

 

 東クロスベル街道に重く深く、長いため息が流れる。

 今から幻獣討伐だというのにリィンの気持ちは何処までも暗かった。

 

「おい、いい加減切り替えろよ」

 

「他人事だと思って」

 

 へらへらと先程の事を思い出して笑っているクロウにリィンは悪態を返す。

 街道で合流したリィン達はそのままの足で導力メールで指定された“幻獣”が目的された場所を目指していた。

 

「しかしエリゼの嬢ちゃんにシズナって言うカルバードの女剣士、それに遊撃士のアネラスちゃんにここに来てリーシャ・マオまで姉を名乗り出すとはな……

 で、このまま何人増やすつもりなんだ?」

 

「増えてたまるか」

 

 リィンは呻くように言い返すがクロウはいつもの突っ込みの様なキレがない事に気付く。

 

「確か後……《氷の乙女》がいたな……ミリアムの奴はどう動くか……ともかくこれは一気にリィンは姉派が動いたな。この賭けはもう勝ったも同然だな」

 

 邪な笑みを浮かべるクロウに気付かずリィンはとぼとぼと無気力に足を動かす。

 

「あれ……生放送だったんだよな?」

 

「らしいな。ククク、たぶん演習地に残っていた奴も見ていただろうな」

 

「くっ……」

 

 今から演習地に帰る事が億劫になるリィンであった。

 

「はあ……そんなに姉って言うのは拘るものなのか?」

 

 リィンは嘆く様にぼやく。

 シュバルツァー家の養子となりエリゼを紹介された時は彼女を姉と呼ぶことは当たり前だと思った。

 同時に居合わせたシズナが姉弟子であることを主張したり、先日会ったアネラスも自分に姉と呼ばせることに随分と執着していた。

 

「どうでしょう……ミリアムさんも私にお姉ちゃんと呼ばれたがっているので、特別な意味があるのでしょうか?」

 

 リィンに同調するようにアルティナは首を傾げる。

 

「分かってないわねリィンもアルティナも」

 

「ユウナ……」

 

「ユウナさん」

 

 前を歩いていたはずのユウナがいつの間にか回り込んで会話に入って来たことにリィンとアルティナは警戒して身構える。

 

「そっかそっか……アルティナも妹だったんだ……」

 

 普段よりも落ち着いた様子のユウナに二人は不信感を覚える。

 

「二人とも、試しに一回、私の事お姉ちゃんって呼んでみて」

 

 ユウナの提案にリィンとアルティナは彼女から距離を取った。

 

「おいおいユウナ。いきなりキャラが崩壊し過ぎだ」

 

「だっ……て私はもう一年以上お姉ちゃんって呼ばれてないのよ! 私は姉ちゃん、お姉ちゃんって呼ばれたいの!」

 

 それはユウナ・クロフォードの魂から出て来た言葉だった。

 

「まるで薬物中毒者のような言い分ですね」

 

「ユウナが学院で日常的にイライラしていた原因とでも言うつもりか?」

 

 冷静なアルティナの分析にリィンは突っ込みを入れる。

 

「ねえ、良いでしょ。一回だけ一回だけで良いから」

 

 しかしリィンの突っ込みを肯定するようにユウナは一回だけと駄々を捏ねる。

 そこに帝国嫌いと公言する狂犬さは存在しない。

 振り戻った反動があるかもしれないが、これが本来の彼女の顔なのかもしれないが、弟妹分を摂取しようとロックオンされた二人にはいい迷惑でしかなかった。

 

「おいリィン、それにアルティナも、一回だけなら言ってやれよ」

 

「クロウ……他人事だと思って」

 

「断固拒否します」

 

 茶化す気満々のクロウをリィンは睨む。

 

「考えてみろよ。このマキアスに匹敵する狂犬が学院で大人しくなるかもしれない千載一遇のチャンスなんだぞ。これに乗らねえ手はねえだろ」

 

「ならクロウがやれば良いだろ」

 

「俺には兄貴も姉貴もいないから無理だ」

 

「ちっ……」

 

 リィンはクロウを役立たずと内心で罵り、仲間達に視線を向ける。

 

「私は一人っ子でしたが……実は言い慣れているんですよ……こほん、ユウナお姉様」

 

「…………お嬢様みたいで新鮮だけどなんか違う」

 

 ミュゼの呼び掛けにユウナは容赦ない酷評をする。

 

「……一応僕はヴァンダールの末っ子になるが……」

 

「クルト君はお呼びじゃない」

 

 おずおずと手を上げたクルトは参加資格すら認められずに却下する。

 

「この女、我儘過ぎんだろ」

 

 あまりの暴君ぶりにアッシュはドン引きする。

 

「えっと……それじゃあユウナお姉ちゃん」

 

「っ……キーアちゃん!」

 

 感極まってユウナはキーアに抱き着く。

 

「キーアちゃん! キーアちゃん!」

 

「ユ、ユウナ……くるしい……」

 

 キーアをまるでぬいぐるみのように抱き締めて頬擦りしてそれまで不足していた何かを摂取する姿にリィンは思わず《ARCUS》に手を伸ばす。

 

「こういう時は軍警察に通報すれば良いんだったか? いやクロスベルには特務支援課っていう特殊な事件を扱う部署があったからそっちの方が良いのか?」

 

「特務支援課は一年前に解体されています……落ち着くまでユウナさんはキーアに任せましょう」

 

 アルティナは冷静にキーアを抱き締めるユウナの首根っこを《クラウ=ソラス》に掴ませる。

 

「だいぶ時間を無駄にしました。任務を再開しましょう」

 

 そう言ってアルティナは《クラウ=ソラス》にユウナを引き摺らせて歩き出した。

 

 

 

 

 

 東クロスベル街道の分岐をアルモリカ村の方へと進む。

 クロスベルを出発して一時間は歩いただろうか、時たま街道に迷い込む魔獣を撃退しながらも《Ⅶ組》の足取りに澱みはない。

 まだ二ヶ月だが、授業で行われている行軍訓練などの成果を特にミュゼやキーアは実感する。

 

「このまま進むとアルモリカ村っていう農村があるんだったな?」

 

「ああ、新鮮な野菜や特産の蜂蜜で有名な村だ」

 

 リィンの言葉にクルトが答える。

 

「地図によれば“幻獣”が現れたのは村の手前の……休憩所がある辺りみたいだな」

 

「それは近いのか?」

 

「ああ、ちょうどこの街道の中間あたりだな」

 

「そうか……」

 

 クルトの答えにリィンは頷いて振り返る。

 

「ユウナ、そろそろキーアを解放しろ」

 

「うーん、あと五分……」

 

「きゅう……」

 

「本当に軍警察に通報するぞ」

 

 リィンはジト目でユウナを睨み、程なくしてユウナはキーアを解放して自分の足で立ち直した。

 

「よしっ! 妹分補給完了! みんな行くわよっ!」

 

 人が変わったように明るい声を上げるユウナにリィン達を気押されてたじろぐ。

 

「ああ、ユウナだ」

 

 唯一、入学から彼女に違和感を覚えていたクルトは元気なユウナの姿を懐かしむ。

 

「キーア、大丈夫か?」

 

「……うん……何とか……」

 

 ぐったりとした様子で手を取って立ち上がるキーアをリィンはどう労うか悩む。

 

「疲れたなら負ぶろうか?」

 

「う…………ううん、大丈夫。“幻獣”を見つけるならキーアが役に立つから」

 

 誘惑を振り払いキーアは気丈に自分の役割を果たそうと奮起する。

 その立派な姿はランディやティオが草葉の陰から見守っていたのなら、彼女の成長に感涙していただろう。

 もっとも空気を読まずにハイになったユウナにはその必要はなかったが。

 

「キーアちゃんは休んでなさい。“幻獣”なんてお姉ちゃんがささっと見つけてやっつけてやるんだから」

 

「…………あれ?」

 

 キーアは周囲に感じる違和感に首を傾げた。

 

「何って言ったってクロスベルは私の庭みたいなものだからね……

 ここら辺だって子供の頃は良く来たし、魔獣とかが居そうな場所はなんとなく分かる――」

 

 ――カチ――

 

 両手にガンブレイカーを携えて、意気揚々に集団の前を進み出て先導するようにユウナの足下で何かが鳴った。

 

「っ――ユウナ、足を上げるなっ!」

 

「え……?」

 

 何かを踏んだユウナはクロウの叫びに上げそうになった足をその場に固める。

 

「《ARCUS》駆動」

 

 次の瞬間、導力魔法で身体能力――特に速力を向上させたクルトが駆け出す。

 

「っ――」

 

 ユウナをかっさらうように横抱きにして駆け抜け――遅れてユウナが踏んだ“ソレ”はバネ仕掛けで人間の目線まで飛び上がり爆発した。

 

「導力地雷――来るぞっ!」

 

 クロウの叫びに応じるように街道の周囲から軍人然とした制服の襲撃者達が現れる。

 

「こいつらは――」

 

「元クロスベル国防軍の制服と装備です。“幻獣”目撃の情報は誤情報か、それともメール自体が偽装されたか」

 

「答え合わせは後だ! テメエら目的は何だ!?」

 

 ライフルの銃口に囲まれながら、冷静にクロウは襲撃者に目的を問う。

 

「傲慢な侵略者よ……キーア様をこちらに渡せ。そうすれば命だけは助けてやる」

 

「はっ……分かり易い奴等だな」

 

 キーアという釣り針に見事に引っかかってくれた元国防軍にクロウは嘲笑を向ける。

 

「学生風情が俺達の崇高な使命を…………おい、こいつ本当に学生なんだよな?」

 

 元国防軍の一人がクロウをじっと観察すると、隣の男に尋ねる。

 

「…………確かに一人だけおかしいが気にするな。同じ制服なんだ学生に決まってるだろ」

 

 一人の疑問をそう切り捨てようとしたところでアッシュが待ったを掛ける。

 

「おいおい、こいつがただの学生とは聞き捨てならねえな」

 

「ええ、この方こそ、先の帝国の内戦で貴族連合の騎士として活躍した《蒼の騎士》」

 

 アッシュの言葉にミュゼがクロウの正体を暴露する。

 

「そして今年トールズ本校を卒業したはずなのに何故か! トールズ第Ⅱ分校に入学し直した男!」

 

「クロウ・アームブラストです!」

 

 アッシュとミュゼがクロウを中央に挟んで高らかに名乗りを上げる。

 その名に元国防軍達は戦慄した。

 

「帝国の《裏切りの蒼の騎士》だと!?」

 

「あの噂は本当だったのか!? いや学生服を着ているのが何よりの証拠か!?」

 

 騒然となる元国防軍陣営にクロウは両手に銃を構えたまま立ち尽くす。

 

「狼狽えるな! 仮に本当に学年が下がったとしても、それはこの男の学力に問題があったからに過ぎん!

 学年をやり直すような男に、国防軍として選ばれたエリートの私達の敵ではない!」

 

「くっ……痛いところ突きやがるじゃねえか」

 

「流石クロスベル元国防軍の方々、クロウ先輩の弱いところをこんなに早く見極めるなんて」

 

 元国防軍の一喝にアッシュとミュゼは何も言い返せないと負けを認める。

 

「テメエら! 後で覚えておけよっ!」

 

「来るぞっ! 迎撃用意!」

 

「うんっ!」

 

「《クラウ=ソラス》」

 

 

 

 

「受けてみろ終焉の十字――うおおおおおおっ! デッドリークロスッ!!」

 

 クロウが放った十字の剣閃が元国防軍たちを纏めて薙ぎ払う。

 

「馬鹿な……」

 

「学年が下がった男に負けるなんて」

 

「がくり……」

 

 リィンは最後の一人が倒れたことを確認して太刀を鞘に納める。

 

「結局、クロウさんがほぼ一人で倒してしまいましたね」

 

 働けなかった不完全燃焼を感じながらアルティナは伏兵がいないか油断なく周囲を警戒する。

 

「さてと、それじゃあ早速答えてもらおうか」

 

 クロウは双刃剣を倒れた一人に突きつけて尋問を始める。

 

「アリオス・マクレインは何処だ?」

 

「くっ……殺せ」

 

 クロウの質問にその男は屈辱に顔を染めながら拒絶をする。

 

「貴様ら侵略者に誇り高きクロスベルの民は屈したりしない。ましてやクロスベルを裏切り帝国に売った“魔女”に語る言葉などないっ!」

 

「っ――」

 

 クロウの存在を無視して元国防軍の男はキーアを睨む。

 

「貴様さえいなければ、貴様がディーター大統領を狂わせなければクロスベルは今でも自由で誰もが夢を持てる街でいられたんだ!」

 

「っ……」

 

「魔女がっ! 全てお前のせいだっ!」

 

 キーアが何も言い返さない事を良い事にその男は怨嗟の声を上げ続ける。

 

「黙れよ」

 

 その言葉をクロウは刃を突き付けて口を噤ませる。

 

「あんたの言いたい事は分かるよ……だけどな……」

 

 故郷を好き勝手にされる憤りはクロウも良く分かる。

 だが、罪悪感に俯き罵倒から耳を塞がないキーアの事をクロウは“悪”だとは言えなかった。

 

「うるさいっ! 貴様に何が分かるっ!」

 

「おいっ!」

 

 素手で男は刃を叩き、立ち上がると同時に胸元から手榴弾を取り出す。

 

「なっ! 待て――」

 

「クロスベル万歳っ!」

 

 男は躊躇うことなく手榴弾からピンを抜き、レバーを解放し――

 

「その必要はない」

 

 一陣の風が吹く。

 

「え――っ!?」

 

 次の瞬間、手榴弾は空高くに舞い上がり《Ⅶ組》は風にそれぞれ一撃されて吹き飛ばされていた。

 

「あ……」

 

「くっ――」

 

 唯一残ったのは呆然と立ち尽くすキーアと、その前で半端に鞘から抜いた太刀で太刀を受け止めたリィンだけだった。

 

「ほう……受け止めたか」

 

 黒く長い髪。頬に傷を持ち、赤いコートを靡かせた男は己の一撃を受け止めた少年に感心する。

 

「ア……アリオス……マクレイン」

 

 軽い構えでありながら尋常ではない力強さで押し込んで来る太刀を受け止めながらリィンは資料で見た顔の男の名を叫ぶ。

 

「その太刀……貴様も“八葉”か……」

 

 アリオスはリィンの太刀に何かを察するように頷く。

 

「貴様が何者かなど今はどうでもいい。キーアを渡してもらう」

 

「――っ、この――」

 

 更なる力を込められた太刀を滑らせるように流してリィンは太刀を抜き、薙ぎ払う。

 

「なっ!?」

 

 しかし目の前にいたはずの男は既にリィンの前から消え去り、声は背後から聞こえて来る。

 

「遅い――」

 

 咄嗟に後ろを振り返ると同時に勘に任せて構えた太刀に凄まじい衝撃を受けてリィンは吹き飛ばされる。

 

「がっ――くっ……」

 

 リィンが空中にいる間に、アリオスは吹き飛ぶリィンに追い縋り、更に斬撃を浴びせる。

 地面を跳ねるリィンの頭上に先回りし、アリオスは踵でリィンを地面に叩き落とす。

 

「がはっ!」

 

 一瞬でズタボロになるリィンにアリオスは太刀を構え――

 

「二の型――」

 

「このっ――」

 

 気合いで立ち上がると同時にリィンは握り続けていた太刀を納刀する。

 

「疾風――」

 

「伍の型――残月」

 

 斬りかかる瞬撃に対して待ち構える瞬撃が交差し――リィンの太刀が宙を舞った。

 

「……太刀だけは一流のようだが、所詮は“初伝”か……」

 

 右腕の痺れはまるで全身に広がったようにリィンは硬直して立ち尽くす。

 その無防備な背中にアリオスは返す刃を振るう。

 峰が返されることなく振り抜かれた凶刃がリィンの首に吸い込まれるように――

 

「させるかっ!」

 

 二つに並べたトンファーがアリオスの凶刃を受け止めた。

 

「なっ――!?」

 

「ロイドッ!?」

 

 リィンが誰と思ったその名をキーアが叫ぶ。

 アリオスは突然の乱入者の顔にわずかに顔をしかめ――後ろに跳び退いた。

 同時にロイドの左右から紫電と風を纏った刃が空振る。

 

「ロイド……それにサラとエレインか」

 

 危なげなく二人の遊撃士の奇襲を避けたアリオスは目の前に立ちはだかる三人に目を細める。

 

「アリオスさん……今、本気で彼を殺そうとしましたね」

 

「ああ、そうだ」

 

 ロイドの言葉を臆面もなく頷いた。

 

「アリオスさん、どうして!?」

 

 エレインが信じられないと叫ぶ。

 

「全てはクロスベルのためだ」

 

 迷いなくはっきりと告げられた言葉にロイド達は絶句する。

 

「どうやら堕ちる所まで堕ちたようね」

 

 言葉を失うロイドとエレインを他所に、サラは油断なく導力銃をアリオスに突きつける。

 

「――潮時か」

 

「死ねよっ!」

 

 小さく呟くアリオスの背後から《神機》ヘクトルが現れると同時にハルバードをアリオスの直上から振り下ろされる。

 街道の石畳を砕き、陥没させる程の威力が込められた巨人の一撃。

 だが、叩きつけた矛の先にアリオスの姿はなかった。

 

「退くぞ」

 

 アリオスは態勢を立て直した元国防軍の前に立ち、撤退を命じる。

 

「しかしアリオス長官。キーアが……《零の至宝》を確保しなければ」

 

「《零の至宝》の確保は絶対条件ではない。《DZ》に必要な人材は確保できている。ここでの奪還が不可能ならば拘る必要はない」

 

 食い下がろうとする元国防軍にアリオスは淡々と答える。

 

「殿は俺が務める。お前達は先に撤退しろ」

 

「っ……分かりました」

 

 無造作に佇むアリオスはロイド達に睨みを利かせて、元国防軍が撤退するまでその睨みだけでロイド達を牽制する。

 

「アリオスさん……どうして……?」

 

「帝国に膝を折ったお前に語る言葉はない」

 

 ロイドの問い掛けにアリオスは無感情な言葉を返す。

 

「俺は……だけど、それじゃあシズクちゃんはどうするつもりなんですか!?」

 

「シズクは関係ない」

 

 アリオスははっきりと言い切った。

 

「俺はあの日……ガイを死なせた時、クロスベルのために“修羅”となると誓ったのだから」

 

「アリオスさん……」

 

「立ち塞がるならお前も斬る……覚えておけロイド・バニングス」

 

 元国防軍の襲撃者が十分に離れたのか、アリオスの姿はロイド達の前で霞み――風が吹くように消え去った。

 

 

 

 

 

 

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