閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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32話 クロスベルⅥ

 

 

 

 リベール王国によって帝国と共和国の間に締結された《不戦条約》。

 それはクロスベルが独立宣言をした事を切っ掛けに破られることとなった。

 そして帝国のクロスベル占領から今日まで、大小様々な戦闘行為を行っている帝国と共和国の初となる親睦会は周囲が驚くほど穏やかに始まった。

 事実上、帝国のトップと言っても過言ではない《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン。

 カルバード共和国代表、サミュエル・ロックスミス。

 共和国はこれまで一貫して帝国がクロスベルを占領したことについて非難しており、その姿勢は今も変わっていない。

 しかしそんな諍いの事などなかったかのように二人の代表は、各国の代表の前で固い握手を交わして晩餐会は始まった。

 

 

 

 その光景は第Ⅱ分校の生徒達は彼らの階下のホールで導力モニター越しに見ていた。

 

「わあ、何コレ美味しい~!」

 

「ううむ、晩餐会と同じメニューを学生に振る舞ってもらえるとは」

 

「ハハ、なかなかの太っ腹だねぇ」

 

 晩餐会と同じ食事――ただし酒類は除く――が振る舞われた生徒達はもはや予備役とはいえ警備の役目と言う事を半分頭の中から抜けている者達が続出する。

 士官学生など半分は子供。

 最高級の料理を前に職業意識を保つにはまだまだ経験も覚悟も足りな過ぎた。

 

「いったい何を考えているんだルーファス総督は?」

 

 食事を用意してくれたことは妥協しても良いが、それが肝心の晩餐会中では警備の意味はない。

 警備の食事など、晩餐会が終わった後で振る舞えばいいのに、わざわざ同じ時間に集中力を削ぐような事などする必要もない

 現に生徒達はすっかり緩み切っていた。

 

「はあ~、これで姫様とお近づきになれたら最高だったんだけどなあ」

 

「はー、可愛かった。お付きの黒髪の子も好みやけど」

 

「やめとけパブロ。あっちはシュバルツァーの姉だぞ」

 

 皇女と付き人に見惚れるシドニーとパブロにアッシュが釘を刺す。

 

「「リィンのお姉さんっ!」」

 

「しかも義理のだ」

 

「「義理っ!」」

 

 昼間の自分達と同じ反応をする二人、更には周りの生徒達もアッシュの話に興味を示す。

 

「ああ、それにしてもリィンが羨ましいな」

 

「くそ……いったい何を話してやがるんだ?」

 

 会場の全体を映し出すために複数の導力モニターが並んでいる内の一つ。

 貴族然とした礼服を着させられたリィンとドレスで着飾ったキーアがアルフィン皇女に話しかけれていた。

 にこやかに話しかけるアルフィンとたじたじの様子のリィン。

 音声まで繋がっていないこともあり、生徒達はいっそう彼らの会話が気になってしまう。

 

「ふふふ……やっぱりあいつの行動が気になっているようだな」

 

 そんな画面を食い入って見守る男子生徒達の背後にその声は掛けられた。

 

「あ、あんたは!?」

 

「クロウ先輩、一体何を?」

 

「ふっ……実はなリィンにはもしもの時を考えて、《ARCUS》との通信をオンにして俺の端末と繋がったままにしてある」

 

「クロウ先輩……それって盗聴……」

 

「おいおい滅多な事を言うなよ。俺達は予備役とは言え警備に駆り出されているんだぜ。会場でどんなやり取りをされているか把握するのも仕事だと思わないか?」

 

「それは……」

 

「現にリィンは受け入れたし、あのお堅いミハイル教官も納得した……

 まあ、お前さん達が興味ないって言うなら俺一人で――」

 

「流石クロウ先輩っ!」

 

「やはり俺達より年上なだけあるな」

 

「ふっ……よせやい」

 

 おだてられ、囃し立てられクロウは気分よく《ARCUS》を開く。

 

「ククク、それじゃあ、いったいどんな会話をしてやがるか拝聴させてもらうか」

 

 そう言って生徒達の注目を一身に浴びたクロウは《ARCUS》の音声をミュートから上げる。

 

『――リィン君、お願いがあります。今後エリゼに倣ってわたくしのことはアルフィンお姉ちゃんと呼んでくれませんか?』

 

「…………」

 

「…………」

 

『え゛』

 

『ひ、姫様!?』

 

『この半年、事あるごとにエリゼからリィン君のお話を聞かされているうちに他人とは思えなくなってしまって……

 うちのセドリックはすっかり生意気になってしまいましたし、そもそもあの子はわたくしのことをお姉ちゃんと呼んでくれませんから、ですから是非!』

 

『いやっ……! 流石に畏れ多いというか!』

 

『いいかげんにしてください姫様』

 

『エリゼのケチ。ちょっとくらい良いじゃない』

 

 クロウはそこまで聞いて徐に音声を切って息を吐いて顔を上げる。

 

「リーシャ・マオに飽き足らず、今度は皇女様までっ!」

 

「女神よっ! どうして世界はこれほどまでに不公平なのですか!?」

 

「これはもうリィンと呼び捨てにはできないな」

 

 そこには男の嫉妬が渦巻き、阿鼻叫喚の世界が広がっていた。

 

「傍から見ている分にはおもしれえんだよな」

 

 もはや他人事と割り切ってクロウは同級生たちの反応を楽しむ。

 

「…………」

 

「うおっ!?」

 

 ふと振り返ればそこにはアルティナが立っていてクロウは跳び退いて驚く。

 

「な、何だお前か、脅かすなよ」

 

「別に脅かしたつもりはありませんが……」

 

「ふ、皆まで言うな。これが気になるんだろ?」

 

「…………」

 

 クロウが掲げる《ARCUS》にアルティナは沈黙するが、その目が肯定を雄弁に示していた。

 故にクロウは音声をもう一度上げる。

 

『――――ええ それでお願いなのですが、リィン君にダンスのパートナーを務めていただきたいんです』

 

 聞こえて来たのはアルフィン皇女の声。

 その言葉に今度は女子たちが色めき立つ。

 

「きゃあああっ! アルフィン様から直々にダンスのお誘いっ!」

 

「お、皇女殿下の将来の相手になるかもしれないっていう噂だよね!?」

 

「さ、流石にマスコミの憶測だけど……」

 

「でもセドリック皇太子はリィン君推しだったし、まさか!」

 

「皆さん、静かにして下さい」

 

 アルティナの一言で姦しい声はピタリと止まる。

 静かになったところで一同は改めて《ARCUS》が発する音声に集中する。

 

『御機嫌よう、アルフィン皇女、それにエリゼさん。お久しぶりです』

 

 音に新しい女性の声が聞こえて来る。

 導力モニターで確認すれば、そこには紫の礼服を着こなしたリベールの王太女、クローディアが菫色の髪の少女を付き人にして話しかけていた。

 

『あらクローディア殿下、それにレンさん。御二人ともお久しぶりです』

 

「ぐぬぬ……帝国の至宝と王国の至宝に同時に話しかけられるなんて羨まし過ぎるだろ」

 

 誰かが妬ましいと呟く。

 

「零の至宝も……いえ、何でもありません」

 

「あ、あははは……それは至宝違いのような……」

 

 アルティナの呟きにティータは苦笑いを浮かべる。

 

『歓談中申し訳ありませんが、“彼”と少し二人きりでお話させて頂いてもよろしいでしょうか?』

 

 リィンを指してそう言ったのは菫色の少女。

 

『レンさん、ええ構いませんけど……』

 

『ありがとうございます。さあ、お話ししましょうか?』

 

『え……ちょっと――――』

 

 リィンの困惑の声を掻き消すように《ARCUS》のスピーカーからはザーというノイズが流れ出す。

 そして導力モニターには複数の画面をレンに手を引かれたリィンが突っ切り、どの導力カメラからも見えない死角に移動される。

 

「おいおい、どうなってんだ?」

 

「会場の導力カメラは来賓を不快にさせないように隠されていたはず」

 

「《ARCUS》の方はクロウの整備不良か?」

 

「おいおい、いくら俺だって自分の命を預ける道具を粗末に扱ったりしないぜ」

 

 同級生たちの言葉を背に、無言でジト目を向けて来るアルティナにクロウは俺のせいじゃないと言う。

 

「たぶんレンちゃんが導力通信の電波を妨害しているんだと思います」

 

 ティータはアルティナの手からノイズを垂れ流す《ARCUS》を取ると、持ち込んだ携帯ノート型導力端末にコードを繋げる。

 

「うーん……レンちゃんの事だから、周波数は……これくらいかな」

 

 目まぐるしくティータの指が端末のキーボードの上で踊ること数分……

 

「良し、解析完了。はい、アルティナちゃん」

 

「ん……」

 

 妨害導力波対策を施した《ARCUS》をティータはアルティナに手渡す。

 そして一度落とした音量を上げると――

 

『――だったらレンはリィンの“マテル”かしら?』

 

『…………どちらかと言えばおば――』

 

 リィンの言葉が途切れる。

 見ればアルティナの手の中でクロウの《ARCUS》に亀裂が走り、煙が上がる。

 

「俺の《ARCUS》がぁっ!」

 

 クロウの叫びを無視して、アルティナはむすっとした顔で呟いた。

 

「やはりリィンさんは不埒な人のようです」

 

 

 

 

 

「えっと……何の用ですか?」

 

 手を引かれて会場の隅に移動したリィンは懐に忍ばせている《ARCUS》の事を気にしながらレンに要件を尋ねる。

 

「通信の事なら気にしなくて良いわ。今妨害したから、と言っても向こうにはティータもいるしさっさと本題に入りましょう」

 

 抜け目なく懸念材料を潰してくるレンにリィンは戦慄して思わず後退る。しかしすぐ後ろは壁。

 

「それにしても……」

 

 レンはリィンの頭の先から爪先へと視線を落として唸る。

 

「よくシュミット博士に解剖されなかったわね。まあ、あの人の専攻とは違うから気付かなくても仕方ないけど……それとも観察の最中かしら?」

 

「えっと、何の事だか俺にはさっぱり――」

 

「あら、私の目が誤魔化せると思っているのかしらリン、ノイ?」

 

「っ――」

 

 確信を突く二つの名前にリィンは思わず息を呑む。

 レンは驚くリィンを他所に彼の体の観察を続ける。

 

「学会でも理論上は不可能ではないと言われた技術……しかも特定個人をここまで再現するだなんて、これを特許として論文をまとめるとしたら……」

 

「れ、レン……」

 

「あら、もう良いのかしら?」

 

 リィンの動揺が落ち着くのを待つ余裕を見せるレン。

 その底知れなさにリィンは逃げ出したくなるが、背中は壁。リィンに逃げ道はない。

 

「どうして……」

 

「七割、この割合の意味が貴女達に分かるかしら?」

 

 レンの質問にリィンは首を横に振る。

 

「貴女の体を造った時のレンとリィンの仕事の割合よ。もちろんレンが七割」

 

「えっと……」

 

「人形としての素体、組み込む結晶回路、オーブメントとしての固有波長、浮遊や戦闘を行うためのための術式……

 リィンもおじいさんに教わりながら頑張っていたけど、流石にリィンが全部を造るのは不可能よ」

 

「むぅ……」

 

「そういう意味じゃレンはリィンより貴女の事を熟知しているの……

 まあ、流石にちょっと予想外のところはあったけど、この会話に納得している様子だと間違いないみたいね」

 

「あ……」

 

 鎌を掛けられていたと気付いた時にはもう遅い、レンは小悪魔の様に笑みを浮かべる。

 

「導力魔法は“燃焼”や“凍結”、物質の一時的な“具現化”を出力できる……

 人体は複雑なバランスで成り立つ七耀の力の塊なんていう理論が学会にはあるけど、まさか本物が見られるなんてね」

 

 レンは今のリィンの事をこう定義する。

 導力魔法《リィン》。

 体の器を“地”で、生の熱を“焔”で、命の代謝を“水”で、気の循環を“風”で。

 それらの四大を上位三属性で纏めているようだが、《叡智》の目は誰も辿り着いた事の無い領域に対する答えを持ち合わせていない。

 同じ目を持つキーアには判断できない、様々な論文の考察――証明できない仮定を知るレンだからこそ辿り着けた結論。

 

「流石“至宝”の力と言うべきかしら、今はどちらの意識なのかしら?」

 

「いや、俺は俺だよレン」

 

 観念してリィンは認める。

 

「その言い方……」

 

「二人はここにいるが、俺はリィン・シュバルツァーの人格を忠実に再現された存在だ」

 

 リィンは心臓に手を当てながら、どこかホッとした様子で説明する。

 

「俺がリィンとしての知識と人格はあるけど、同時にノイとリンでもある……うまく言えないけど、そんな感じの認識に落ち着いている」

 

「そう…………」

 

 リィンの言葉にレンは目を伏せる。

 

「貴女達がリィンを構築したという事は……そういうことなのね」

 

「…………ああ、リィン・シュバルツァーは……もういない……」

 

 二人の間に重い沈黙が流れる。

 

「だから俺は“リィン”に代わって《イシュメルガ》を止めなくちゃいけないんだ」

 

「……貴女たち……」

 

「俺が“リィン”の大切なものを守る。それが救い上げてもらった俺が出来る唯一の恩返しだから、それにこれはリンとノイが俺にくれた延長戦だから」

 

「…………そう……」

 

 決意を改めて言葉にするリィンに対して、一縷の望みが潰えたレンはこの事をどうクローディア達に説明しようかと悩む。

 

「それはそうと貴方が二人から生み出された存在なのよね? だったらレンは“リィン”の“マテル”かしら?」

 

 おどけ、揶揄う調子でレンは笑いながらそんな事を言う。

 

「…………いや、強いて呼ぶならおばあちゃんに――」

 

 ガンっと生真面目に答えたリィンの顔のすぐ横に食事用のナイフが突き立った。

 もちろん壁にナイフを突き立てたのは目の前のレンである。

 全く反応できなかった事実にリィンの足が震える。

 

「何か言ったかしら?」

 

「いえ、何でもありません!」

 

 顔を寄せてにっこり笑うレンにリィンは命の危機を感じた。

 

「っ――」

 

 そしてそれとは別に強烈なプレッシャーを感じてリィンは胸を押さえた。

 

「どうしたのリィン?」

 

 胸を押さえて天井を見上げるリィンに倣って、レンも同じく天井を見上げて目を凝らし――顔をしかめた。

 

 

 

「あら……?」

 

 エリゼは二人が腕を組んで、ホールから出て行こうとしている所を見逃さなかった。

 クローディアが来たことを皮切りに、アルフィンに声を掛けてくる者達の輪が作られ会話は盛り上がっている。

 付き人としてはアルフィンの傍にいなければならないのだが、こちらに一声もなく会場を晩餐会を抜け出そうとしている弟にエリゼは不機嫌になる。

 

「ふふふ……」

 

「あらあら……」

 

「えっと……」

 

 場慣れしたクローディアとアルフィンは慌てふためくキーアをフォローする形で歓談する。

 最初はキーアを“クロスベルの魔女”だと警戒していた来賓も時間が経つに連れて彼女への警戒心を薄れさせていく。

 そんな三人を中心にした歓談は当分、続くだろうと考え、エリゼは気配を忍ばせてホールを出る。

 

「失礼、お嬢さん」

 

 さてリィン達は何処へ行ったのか、探そうと意気込んだところでエリゼは青い髪の青年に呼び止められた。

 ホールスタッフだろうか。そう考えたエリゼに青年は手元を周囲に隠すようにして手のひらサイズの小さな導力銃をエリゼに突きつけた。

 

「静かに、そして僕と一緒に来てもらおう」

 

 ふふっと得意気に笑う青年にエリゼは素早く対処に思考を巡らせる。

 

「おおっと、余計な事はやめたまえ。これが何か分かるだろ?」

 

 これ見よがしに青年は銃を持つ手とは逆の手であからさまな何かのスイッチを見せびらかす。

 

「……っ……目的は姫様ではなく私ですか?」

 

「ああ、そうだとも。騒ぎを起こしたくなければ静かに従ってくれたまえ」

 

 アルフィンでもなければクローディアでも、オリヴァルトやオズボーンでもない。

 他の国賓でもなくただの付き人を連れ去ろうとしている青年を意図が分からずエリゼは困惑する。

 

「何故、私なんですか?」

 

「それはもちろん君が“超帝国人”を覚醒させる一番の鍵だからさ」

 

 青年の答えにエリゼは意味が分からず首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 クロスベル軍警察学校。

 ノックス森林の中に建つ警察官養成学校。

 夜も半ばに差し掛かったその場所に、剣戟の音が鳴り響く。

 

「くっ……」

 

「良くここを嗅ぎつけたなロイド」

 

 太刀を受け止めたロイドを押し潰すような重圧を掛けながらアリオスは涼し気な言葉で語り掛ける。

 

「ア――リオスさん……あ、貴方は何故こんなところに……くっ――」

 

「はあっ!」

 

 紫電の一閃がアリオスを背後から薙ぎ払う。

 しかし彼は一瞬でロイドの目の前から消えて、サラの一撃を避ける。

 

「やあっ!」

 

 宙を跳んだアリオスにエレインが迫る。

 鋭い神速の連続突き。

 アリオスは空中で全て受け止めて、返す刃でエレインを薙ぎ払う。

 

「くっ――」

 

 剣を盾にしたエレインは吹き飛ばされ、左右に分かれたマキアスとルネが導力銃による十字射撃でアリオスを狙い撃つ。

 

「ふっ――」

 

 しかしアリオスは当たり前の様に空中を蹴るとその火線を危なげなく避ける。

 

「くっ……」

 

「話には聞いていたが、《剣聖》とはこれ程のものなのか」

 

 まるで当たる気配がない事にマキアスが歯噛みし、初めて《剣聖》を体感するルネは戦慄する。

 

「あーあ、全くなんでここにいるのかしらね?」

 

 サラはやさぐれた言葉で愚痴をもらす。

 帝国政府はアリオス率いるクロスベル解放戦線が通商会議を襲う事を警戒して、警備体制を変えた。

 公安七課にもその話は回ってきたが、具体的に何をしろという指示をされたわけではない。

 サラは警備の穴を埋めるために、アリオス達が使ったジオフロントの探索を進言したのだが、最終的にマキアスがロイドと共に軍警察に併設されている留置場に向かう事を決めて――正解を引いた。

 

「……お前達に答えるつもりはない」

 

 サラの質問にアリオスは淡々とした言葉を返す。

 幾百の言葉を重ねて説得しても決して口を割らないだろう意志をそこにサラは感じた。

 

「アリオスさんっ!」

 

 それでもロイドは声を上げてアリオスに向かって叫ぶ。

 それを横目にサラは耳に付けた通信機でマキアスとやり取りする。

 

「マキアス、あれの準備はどれくらい必要?」

 

『三分……いえ二分あれば』

 

「りょーかい、あまり持たないから早くしてね」

 

 マキアスの答えにそう返したサラは剣と導力銃、そして《ARCUS》と通信機もその場に捨てた。

 

「ロイド、もうその人には何を言っても無駄よ」

 

「サラさん……だけど……」

 

「言いたいことがあるなら、まずは逮捕してからにしなさい……ま、今はちょっと下がっていてもらえるかしら」

 

「サラさん?」

 

「何のつもりだ?」

 

 丸腰で前に出て来るサラをアリオスは警戒しながら訝しむ。

 

「これは正直疲れるのよ。手加減もできないし……ま、アリオスさんなら死なないでしょ」

 

「……大した自信だな」

 

 アリオスは無手であっても油断なくサラの動きを警戒し、サラはそれを見据えて胸に手を当てて呟く。

 

「モンストルム」

 

 小さな雷光が弾けた瞬間、アリオスの目の前には一瞬で装いを変えたサラがいた。

 

「せいっ!」

 

「っ――」

 

 アリオスをして反応できない速度で接敵したサラの拳が振り抜かれる――だが反射で防御を間に合わせたアリオスは太刀で受け止めて吹き飛ばれた。

 

「まだまだっ!」

 

 文字通り雷光と化したサラは瞬く速度で飛んだアリオスの背後に回り込むと蹴り上げる。

 

「ちっ――」

 

 また寸前でガードされたことにサラは舌打ちをしながらアリオスを追い駆けて宙に跳ぶ。

 

「大した速度だが予兆があるな、それに纏う紫電が強過ぎて導力銃と相性が悪いか?」

 

「初見で見切んじゃないわよ!」

 

 拳と蹴りの乱打をサラは放ち、アリオスはそれを一本の太刀で全て受け止める。

 

「くっ……」

 

 “風”と呼ばれるだけあって、単純に早いだけではなく捉え切れない。

 サラの奥の手の“変身”でも戦力を拮抗しただけでアリオスの方には余裕がある。

 

「でも――これならどうかしら?」

 

「むっ――」

 

 指を銃の形にしてサラはアリオスに突きつける。

 

「ライトニング」

 

 それは世代に置いて数代前の導力魔法。

 戦術オーブメントも駆動の溜めもなしに打ち込まれた雷撃はアリオスの太刀を掻い潜り、彼の体を直撃して吹き飛ばした。

 

「よしっ! マキアスッ!」

 

 叫ぶサラにマキアスは飛んで来るアリオスが地面に着地した瞬間、それを起動する。

 

「むっ――」

 

 法陣が広がり設定された結界の中に高重力が発生する。

 

「まだまだ……」

 

 続けて設置した拘束型導力地雷をマキアスは次々に起動していき、動けなくなったアリオスに導力魔法の鎖を重ね掛ける。

 

「よしっ!」

 

 作戦がハマったことにガッツポーズを取ったサラは次の瞬間、纏っていた雷光は消え、騎士のような服も普段着に戻る。

 

「サラさん、今のが例の奥の手ですか?」

 

「ええ、ちょっと故郷で修行してね……私にとっての《鬼の力》みたいなものよ。それより――」

 

「ふむ……」

 

 数多の導力魔法の鎖に囚われながら高重力に膝を着いたアリオスだったが、そこに焦りの表情はない。

 

「アリオスさん……」

 

「バニングス、まだ油断はできない。警戒を怠るな。あとは確実にガスで――」

 

 そんなアリオスの姿にロイドは顔をしかめ、ルネはダメ押しをしようとして――

 

「やれやれ、相変わらず俺がいないとダメだなアリオス」

 

 その声が響き渡るとロイドとルネは大柄の男に殴り飛ばされた。

 

「ぐっ……」

 

「…………え……?」

 

 元国防軍の仲間がいることは警戒をしていたが、その男の乱入にルネとロイドは反応できなかった。

 

「おらよっ!」

 

 その男は両手に装備したトンファーを投擲する。

 

「させないっ――っ!」

 

 回転するトンファーを弾き飛ばそうとエレインが割って入るが、弾かれたのは彼女の剣。

 二つのトンファーは地面と導力の鎖を纏めて砕き、吹き飛ばす。

 

「あ……」

 

 自由になった右腕をアリオスが一閃すれば、重ね掛けた鎖も高重力の結界もまとめて断ち切られた。

 

「抜かせ、この程度の拘束。お前の手など借りずとも抜け出せた」

 

「はっ……相変わらず無愛想な奴だぜ」

 

 礼すら言わないアリオスの態度に男は苦笑して、トンファーを拾う。

 

「な……んで……」

 

 その姿にロイドは呆然と立ち尽くした。

 アリオスと並び立つその男の顔をロイドが間違えるはずがない。

 何故なら――

 

「兄貴……」

 

「ハハ、“兄貴”だなんてカッコ付けてんじゃねえっての……前みたいに“兄ちゃん”って呼べば良いだろ――ロイド」

 

 男――ガイ・バニングスはロイドの記憶の通りの顔と声で笑った。

 

 

 







ガイとサラのあれで気付いた人もいると思いますが、9のあれを錬金術師が頑張りました。

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