閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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37話 クロスベル解放作戦Ⅰ

 

 

 

 騒然とする市街の一方で、エルベ湖は静けさを保っていた。

 帝国に占領されミシュラムが閉鎖されてからは遊覧船はエルベ湖を周遊する観光船としてに利用されていたが、今日はその運行はない。

 代わりにミシュラム側から発進したガンシップが定期的に湖上を哨戒する。

 

 ガンシップが飛び去る風が湖面を揺らし、黒い何かが水面から顔を出した。

 それは飛び去ったガンシップを警戒するようにジッと見つめてから、水の中に戻る。

 

 そして――

 

 ミシュラムの湖水浴場《ホワイトヘブン》に黒い戦術殻、《クラウ=ソラス》が水の中から現れる。

 片手にアルティナを抱えた《クラウ=ソラス》は周辺を警戒しながら砂浜にアルティナを降ろすと、振り返って胴体に結び付けたロープを引き始める。

 ロープの先は《クラウ=ソラス》が出て来た水面に繋がっており、それに掴まった者が一人、また一人と現れて最後に大きなトランクケースが現れる。

 それを二人掛かりで担ぐと、ロイドが先導して一同は素早く建物に入って行った。

 

「何とか潜入できたな」

 

 人目を忍べる建物の中に入った事で、緊張を幾分か和らげたリィンは言葉をもらす。

 

「まさか本当にこんな方法でミシュラムに潜入できてしまうなんてな」

 

 その言葉に頷き、ロイドが案内したのはレイクビーチに併設された更衣室だった。

 

「ここで一度、準備を整えよう」

 

「ちっ……着替えるなら俺達の制服も入れさせろよ」

 

 そう促すロイドにアッシュが舌打ちをする。

 持ち込んだ荷物にはレンの端末を始め、それぞれの武器と生徒以外の服が入っている。

 アルカディスギアで戦える生徒達はともかく、それ以外は水着のまま戦うわけにはいかないわけが故の選別なのだがアッシュは悪態を吐かずにはいられなかった。

 

「えっと……」

 

「すいません、ロイドさん。アッシュはとりあえずで人に絡む人間なので気にしないでください」

 

 バツが悪そうにするロイドにクルトがどちらにとも言えないフォローを入れる。

 

「出発前にも言ったはずだろ? 俺達の制服まで入れるとかさばるって、他に優先するものがあるんだから我慢しろって」

 

「分かってるよ」

 

 続くリィンの言葉にアッシュは不貞腐れた言葉を吐く。

 

「それよりもいくら建物の中だからって通路で話し込んでいるものじゃない……早く中に――」

 

 ドアのノブに手を掛けたところでリィンが不自然に止まる。

 

「どうした?」

 

「人の気配がします」

 

 その一言に女子更衣室に入ろうとしていた女性陣達も含めて緊張が走る。

 ミシュラムの端のレイクビーチの更衣室にわざわざ人員が配置されている理由は分からない。

 だがリィンの言葉を受けて探ってみれば、確かにドアの向こう側には人の気配があり、ちりんと鈴の音が扉の向こうで鳴る。

 

「…………」

 

 リィンはドアノブに手を掛けて無言で一同を振り返る。

 仲間たちは一様に頷いてそれぞれの武器を手に取り頷く。

 それを確認して、リィンは扉を一気に開く――

 

「動くなっ!」

 

「ひっ!?」

 

 鋭いリィンの声に短い悲鳴が上がる。

 

「ああ、女神よ……」

 

 すっかり怯えた様子で子供を抱えて蹲る女性がそこにいた。

 

「……落ち着いてください。俺は警察の者です」

 

 ロイドは一度部屋の中を見渡して、彼女たちしかいない事を確認して話しかける。

 

「警察の方……?」

 

 ロイドの呼び掛けに女性は顔を上げ――

 

「貴方はソフィアさん?」

 

「マ――」

 

「レンお姉ちゃんっ!」

 

 女性に抱きかかえられていた男の子がレンの言葉を遮って歓声を上げた。

 

「こ、コリンッ!」

 

 母の腕の中から飛び出して男の子、コリンはレンの胸に飛び込み泣きじゃくる。

 

「……とりあえず、みんな中に入りましょう」

 

 リィンはひとまず更衣室に隠れていた者が元国防軍ではないことに警戒心を解いて促した。

 

 

 

 

 

「昨日のアルセイユの到着を見学していたところにアリオスさんに声を掛けられて、ミシュラムに連れてこられたんです……

 鏡の城には私達と同じように連れて来れた人達が多くいました」

 

 落ち着かせたソフィアがゆっくりと語る。

 

「あのね、あのねレンお姉ちゃん。白くて怖いお兄ちゃんが助けてくれたの!」

 

 ソフィアの説明に、コリンが興奮した様子でレンに話しかける。

 

「白くて怖いお兄ちゃん?」

 

「ええ、白い髪に象牙色のマントを着た……私達と同じように連れて来られた人たちの中にいた一人でした」

 

 コリンの言葉をソフィアが補足する。

 

「それにしたってよく国防軍の目を掻い潜って、ここに隠れる事ができましたね」

 

 ロイドが尋ねると、ソフィアは思い出して身震いする。

 

「それが不思議な事に、その子がこの鈴を鳴らすと私達の事を周りの人達は無視するようになって」

 

 困惑した様子でソフィアが差し出した鈴は特に何かある怪しいものではなく何処にでもある普通の鈴だった。

 そしてその時の事を思い出したソフィアは体を震わせる。

 

「正直、私はその子が不気味で恐ろしかったんです」

 

「白いお兄ちゃん……象牙色のマント……鈴……認識……」

 

 ソフィアとコリンの口から出て来た印象に思い至るものがあるレンは眉を顰める。

 

「その子にここで隠れているように言われたんです」

 

「そうですか。その人は何処に?」

 

「分かりません。することがあると言って出て行きましたから……ただコリンが何かを渡されていたみたいですけど」

 

「コリンに……何を渡されたの?」

 

 レンがコリンに尋ねる。

 

「えっとね……これっ!」

 

 そう言ってコリンがポケットから取り出したのは赤い手帳だった。

 

「白くて怖いお兄ちゃんはここに来るぼくが信頼できる人に渡してほしいって言って……」

 

 コリンは一同を見回し、ロイドとレンを見比べて、レンに赤い手帳を差し出した。

 

「何かしらね?」

 

 手帳を受け取ったレンは訝しむ。

 表紙は擦り切れてボロボロになっていて一見しただけでは何の手帳だったのか分からない。

 

「どうやら学生手帳みたいね……」

 

 一同に注目されながら手帳を開くとレンは顔をしかめた。

 

「何が書いてあるんだ?」

 

「……」

 

 リィンの呼び掛けにレンは応えず、レンは無言でページを捲っていき、口を開く。

 

「…………どうやら国防軍がミシュラムで何をしようとしているか、調べてくれていたみたいね」

 

「おいおい、信用できるのか?」

 

 都合の良すぎる情報をクロウが訝しむ。

 

「まあまあ、何が書かれているか聞くだけはタダでしょう」

 

 そんなクロウを宥めてとりあえず手帳に書かれている情報を教えてくれとサラが促す。

 

「元国防軍がクロスベルの市民を拉致して行っている実験は四つの目的の下で行動しているみたいね……

 一つは予想された通り、《零の至宝》の再錬成。もう一つは《神機》を稼働するための想念量の測定」

 

「《神機》を稼働させる?」

 

「《神機》は《零の至宝》がいることを前提に設計されているわ……

 だからどれだけの人数の想念を集めれば《零の至宝》の代わりになるか、それを検証するために市民は集められたみたいね」

 

「検証……それってつまり国防軍の裏には《結社》がいると考えて良いのかしら?」

 

 サラは顔をしかめて質問を重ねる。

 

「ええ、主導となっているのは《教授》の代わりに第三柱に就任したマリアベル・クロイス」

 

「マリアベルさんが!? いや……確かにあの時《結社》に入るような事を匂わせていたけど……」

 

 思わぬところで出て来た名前にロイドが驚き戸惑う。

 それを聞き流してレンは続ける。

 

「稼働の方法は……

 グノーシスの溶液を満たしたカプセルに被験者たちを浸し一つのグノーシスに想念を溶け込ませ、《ARCUS》の戦術リンクで想念を接続させて疑似的に集団の想念を双子に集約させる……

 双子を相克させることで安定をさせて――」

 

「待ってっ!」

 

 聞き捨てならない言葉が出て来てユウナは叫ぶように声を上げた。

 

「双子ってどういうこと!?」

 

「……どうやら《青》と《紫》の《神機》には演算装置として双子を乗せているみたいね」

 

 ユウナの動揺に対してレンは淡々と答える。

 

「レンの時とは違って相互認識させて補完させることで負担を軽減しているようね……

 双子の名前に関しては……何も書いていないわ」

 

「っ……」

 

「ユウナ!」

 

 部屋から飛び出そうとするユウナをクルトが止める。

 

「何で! どうして同じクロスベルの人間なのにこんなことするのよ!?」

 

 それで足を止めながらもユウナは理不尽に叫ばずにはいられなかった。

 

「あたしたちはただ平和で……ケンとナナが……元気でいてくれたら良かったのに……」

 

 これが帝国がした事ならばその憤りを正しく怒りとして爆発させることができた。

 しかしユウナの家族を利用しているのは同胞のはずのクロスベルの人間。

 ユウナは自分が信じていたクロスベルの幻想が足元から崩れていくような感覚に襲われた。

 

「ユウナ……」

 

 何と声を掛けてやれば良いのかロイドは迷う。

 

「泣き言は後にしなさい」

 

 だがそんなユウナに掛けられた言葉は優しくないものだった。

 レンは手帳を閉じて続ける。

 

「双子は《神機》の演算装置にされているけど、他の行方不明者は《神機》を動かすための導力源にされているのよ……

 ましてや計画の最終段階に至れば、その人達も命が無事である保障はないわ」

 

「実験は四つって言っていたわね。残りの二つは?」

 

 レンの言葉にサラが聞き返す。

 

「一つは《零の至宝》と《クロスベルの市民》を繋ぐ“守護神”を作り出す事」

 

「“守護神”?」

 

「キーアの時の失敗は現代の《クロスベルの市民》を《零の眷族》と認知できなかった事らしいわね……

 そこで今回は《クロスベルの市民》が願う“守護神”を生み出して、人の願いの“想念”を受け入れる器を作り出すつもりみたいだけど、これはどうでも良いわ」

 

「どうでも良いって……」

 

「オカルト過ぎて頭が痛くなって来るぜ」

 

 常識を超えた情報にクルトとアッシュは苦悶する。

 

「ならレン。俺達が問題にすべきことは何なんだ?」

 

「《零の騎神》ゾア・ギルスティンの復活」

 

 その言葉に一同は息を呑む。

 

「クロスベル市民の命を捧げて《零の騎神》を目覚めさせる……

 それを持って、今度は帝都ヘイムダルに攻め込む……それが元国防軍の作戦の終着点よ」

 

「《零の騎神》って……ガレリア要塞にあった……」

 

 その名にリィンはクロスベル入りする前にガレリア要塞で行った実験を思い出す。

 

「あれを動かすなんて無茶だ!」

 

 帝国の基地のど真ん中にある事もそうだが、テストで乗ったリィンは昏倒する程の消耗を思い出す。

 

「そうね。各国の技術者でその時のデータを協議したけど、リィンとキーアの二人以外では《零の騎神》を動かすには千人単位の霊力が必要でしょうね……

 でも逆に言えば千人程度の贄があれば《零の騎神》は動かせるのよ」

 

 レンの言葉に一同は押し黙る。

 

「……だけどいくら《零の騎神》でも帝都を落とすなんてできるものなのか?」

 

「可能でしょうね……《零の騎神》にはそれだけの力はあるはずよ」

 

 ロイドの問いにレンはあっさり肯定を返す。

 

「はっ……クロスベル人が考えそうな事だぜ」

 

「何ですって!?」

 

 アッシュの憎まれ口にユウナが眦を上げる。

 

「お前が学院でいつも言っているのはこう言う事だろ? 帝国なんて滅んじまえってな! お前と国防軍の奴等の何が違うってんだ?」

 

「違うっ! あたしは――」

 

「今は言い争っている場合じゃないだろ」

 

 掴みかかろうとしたユウナとそれに応じようとしたアッシュの間にリィンは割って入って仲裁する。

 

「とにかく、今はやるべきことに集中しよう」

 

 奇しくもミシュラム内での情報収集の手間が省けた。

 強引にユウナとアッシュの言い合いを治めて、リィンはここにはいないキーアに《戦術リンク》を利用して語り掛ける。

 

「今の話は聞いていたなキーア?」

 

『うん』

 

「ならルーファス総督に《零の騎神》について報告をしてくれ」

 

 指示を出して《戦術リンク》を切ってリィンは一同に向き直る。

 

「俺達がすべきことは変わらない……

 《鏡の城》に突入して《零の至宝》の錬成ならびに《神》の出現を止める事……

 街道に展開した国防軍の防衛戦を背後から奇襲してルーファス総督の部隊の進軍の切っ掛けを作る事……

 国防軍の飛行艇を行動不能にしておくこと」

 

 改めてするべき事を整理するリィンの言葉に一同は異論を挟むことはなかった。

 

「この手帳をどこまで信じて良いか分からないけど、行方不明者達はみんな《鏡の城》に収容されているとすれば彼らの捜索の手間を省いてクルト達をすぐに街道に向かわせる事ができるけど……」

 

 リィンはコリンとソフィアを一瞥してからレンを見る。

 

「レン、君は――」

 

「レンも行くわ」

 

 リィンの提案を先回りするようにレンは答えた。

 

「でも……」

 

「元々そういう契約よ……二人が無事だった事は良かったけど、任された役目は果たすわ」

 

「レン……」

 

「レンお姉ちゃん……」

 

「ごめんなさいねコリン。レンはこれから悪者を退治しに行かなくちゃいけないの。あなたはママと一緒にここで帝国の軍人さんが迎えに来てくれるを待っていて」

 

 あやすように頭を撫でながらレンは不安そうにしているコリンに話しかける。

 その一方で取り残される不安を感じたソフィアにサラがフォローをする。

 

「ここはミシュラムでも湖岸側に位置しているので戦闘に巻き込まれる事はないと思います……

 帝国軍には情報提供者が隠れていると伝えておくので彼らの保護されるのが一番安全だと思います」

 

「私達はそれで構いません……でも……」

 

「大丈夫。レンは強いんだから」

 

 ソフィアの不安にレンは笑みを返す。

 

「レンがそう言ってくれるならありがたいけど……」

 

 レンの最大の懸念が晴れ、戦いに赴く理由の大半がなくなった。

 それは喜び、レンは二人に付いているべきだとも考えるが、レン程の戦力がここで抜けることは大きな痛手だともリィンは考えてしまう。

 

「気にしなくて良いわよリィン。確かにレンはこれで安心して戦えるけど、気になる事もできたから」

 

「なら良いけど……」

 

 この話はそこでおしまいだという雰囲気にリィンは迷いを呑み込む。

 

「それでは、ロイドさんはどうしますか?」

 

「俺……?」

 

「ええ、行方不明者の居場所が分かっているならミシュラムを捜索する必要はないでしょう……

 かと言って予定通り、アッシュやクルト達に同行したとしても機甲兵の戦闘には生身の人間では介入は難しいでしょう」

 

「となると、ここでこの二人を保護して待機しているか、それとも俺達と一緒に《鏡の城》に突入するかってところか?」

 

 リィンの提案をクロウが補足する。

 

「だけど俺は……」

 

 リィンの提案はロイドにとっても魅力的だった。

 割り当てられた職務を放棄するつもりはないが、本音を言えば行方不明者の中にいる義姉のセシルの事も気掛かりであれば、こんな事を仕出かした元国防軍やマリアベルには言いたい事はいくらでもある。

 だが、それを口にして良い立場ではないとロイドは弁えるべきだと口を噤む。

 

「現場の臨機応変な対応と捉えてもらって良いですよ。貴方が政府に元国防軍の中核の人物との接触は控えるように釘を刺されていたとしても」

 

 そんなロイドの内心を察するようにリィンが許しを与え、他の一同も異を唱える事はなかった。

 一同を見回したロイドはユウナと目が合い、力強く頷かれた。

 

「行ってくださいロイドさん! そしてこんな事をしでかした人たちを逮捕してください」

 

「ユウナ……」

 

 出来る事ならその役目は自分がしたいという意志を目に宿しながらユウナはロイドの背中を押す。

 

「…………そうだな。これは俺達クロスベルの人間が向き合わなければいけない事だ」

 

 そう納得させてロイドは改めて突入班に再編成された。

 

「では、まずはわたしとミュゼさんが先行して、一緒に敵勢力の索敵とガンシップの補足ですね……

 手帳には流石に人員と警備体制までは記載されていないようなので」

 

 リィンの言葉を引き継ぐようにアルティナが進み出る。

 

「はい、よろしくお願いしますね、アルティナちゃん」

 

 索敵と言う役目もあり、アルティナは我先にと更衣室からミュゼを伴って出て行こうとする。

 

「アルティナ……」

 

「……何でしょうか?」

 

 リィンに呼び止められたアルティナは振り返り不思議そうに首を傾げる。

 

「…………いや……その……気を付けて、決して無理はするんじゃないぞ」

 

 その気遣うリィンの言葉にアルティナはかすかに眉を顰めて言い返す。

 

「御言葉ですがリィンさん。潜入と隠密行動はわたしの得意分野です。そのような心配をされる謂れはありません……

 それともリィンさんはわたしの能力に疑問があると言うんですか?」

 

「あ……ああ、もちろんアルティナの事は信頼しているけど……」

 

「あらあらリィンさんってばわたくしの心配はしてくれないんですか?」

 

「え……もちろんミュゼも……空から索敵をするんだろ? アルティナ、ミュゼのサポートをちゃんとするんだぞ」

 

「それはもちろんですが……」

 

 非難するようなジト目でアルティナはリィンに無言の圧力を掛ける。

 

「ア、アルティナさん?」

 

「何でもありません。行きましょうミュゼさん」

 

 リィンからの呼び掛けにアルティナはそっぽを向いて、ミュゼの手を引き出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

「貴様ら、いったい何処から現れたっ!?」

 

 《鏡の城》に続く橋。

 そこに警備として残っていた元クロスベル国防軍は見慣れぬ四人の侵入者に驚きの声を上げる。

 

「さて、あんた達……今ならまだなかった事にできるわよ」

 

 最後通達を行う様にサラは殺気立つ元国防軍に話しかける。

 

「お前は……遊撃士のサラ・バレスタイン。それに貴様はロイド・バニングス!」

 

「あら?」

 

 見ただけで名前を言い当てられた事にサラは軽く驚く。

 

「遊撃士が何故クロスベルの邪魔をする!?」

 

「…………は……?」

 

 元国防軍の男の口から出て来た抗議の言葉にサラは目を丸くする。

 

「そうだ! 遊撃士は中立! 帝国にも共和国にも組しないクロスベルの味方のはずだ!」

 

「アリオス様を見習えっ!」

 

 矢継ぎ早にぶつけられる罵倒にサラは立ち尽くす。

 

「あ、あの……サラさん……」

 

「大丈夫よ。別にこんな罵倒でへこむほど、あたしは繊細じゃないわよ」

 

 リィンに応じながらサラはため息を吐く。

 

「これもアリオスさんが残した負債なのかしらね?」

 

 本来遊撃士には内政不干渉の規則がある。

 なので彼らの主張は全くの的外れ。

 遊撃士の中立は帝国と共和国のどちらにも組しないこと、つまりはクロスベルの味方になるのとはイコールではない。

 ないのだが、かつての独立戦争の時に遊撃士を辞めて国防軍長官に就任したアリオスの名声が彼らを盲目にさせていた。

 むしろかつてのクロスベルでは意図的にアリオスの名声がそうなるように誘導されていた節さえある。

 だが、そんな思い込みを訂正することなくサラは彼らに銃口を向ける。

 

「今のあたしは遊撃士じゃなくて国際警察よ……

 あんた達には誘拐や建築物への不法な占拠、そして違法実験の実行の嫌疑が掛けられているわ」

 

「うるさい何が警察だ!」

 

「そもそもお前達、特務支援課がディーター大統領を逮捕しなければ、独立国は今も続いていたんだ!」

 

「…………っ……」

 

「何を言うかと思えば白々しい」

 

 息を詰まらせるロイドに反してサラが言い返す。

 

「二年前のクロスベルの独立はどの国も認めていないものよ……

 各国の預けた資産を人質に脅迫して、自国を猟兵団に襲わせた帝国への反感を操作した……

 あんた達がずっと苦しめられてきたと言っていた《暗闘》を大統領が行った。だから罪は暴かれて逮捕された、それだけよ」

 

「部外者が知ったような口を言うな! ずっと帝国と共和国の罪を見過ごしてきたのは警察のくせに!」

 

 溜め込んだ感情を爆発させる国防軍達は怒涛の勢いでサラを批難する言葉を叫ぶ。

 矛先はサラに集中しているものの、隣に立つロイドは我が身を罵倒されるようにうちひしかれる。

 だが、気押されてなるものかと奮い立たせてロイドは言い返す。

 

「だからって市民を犠牲にしてクロスベルを独立させようなんて間違っている!」

 

「うるさいっ! クロスベルの怒りを思い知れ帝国の狗共っ!」

 

 激昂と共に向けられた銃が躊躇うことなく発砲される。

 咄嗟にその場から五人は跳び退いて銃撃を躱し、クロウは肩を竦めた。

 

「やっぱりこうなったか……」

 

 聞く耳を持たない元国防軍達にクロウは自分の仲間達の姿を重ねる。

 大義のためと称し、クロスベルの被害など考えず、むしろ正当化して列車砲を撃とうとした帝国解放戦線に今の彼らを責める資格などない。

 

「くそっ……どうしてこうなるんだっ!?」

 

「割り切れよ。クロスベルだからっている奴全てが善人なわけねえんだから」

 

 ショックを受けているロイドをクロウは適当に慰めて自嘲をする。

 

「さあて、いきますか」

 

 これ以上の問答は不要だと切り替えてクロウは二丁拳銃を左右に構えて引き金を連続して引く。

 断続的に響く銃声。

 装填された弾丸を撃ち尽くす勢いの連射は向けられた標的のいない虚空に向かって飛んでいく。

 だが弾丸は弧を描いて国防軍に向かって軌道を変える。

 

「クロスレイヴン!」

 

 クロウの号令を合図に数十発の弾丸が国防軍の頭上に降り注いだ。

 

「今だっ!」

 

 銃弾の雨に狼狽えた国防軍のど真ん中に《紫電》が落ちる。

 落雷の衝撃波が国防軍を薙ぎ払い、続く電撃の弾丸が撒き散らされる。

 

「くそっ! 隊列を組み直せ! ここを死守するんだ! もう少しで俺達の《守護神》が――」

 

「クスクス……のんびり屋さんたちね」

 

 瞬く間に倒されていく同胞の姿を目の当りしても戦意を喪失させない国防軍を嘲笑するような笑みが響く。

 

「行くわよリィン」

 

「ああっ!」

 

 レンは蝙蝠の影を身に纏い大鎌を構える。

 リィンは体を前傾にして太刀を構える。

 

「レ・ラナンデス」

 

「二の型《裏疾風》」

 

 二つの颶風が戦場に嵐を作り、国防軍たちは蹴散らされるのだった。

 

 

 

 

「な……何もできなかった……」

 

 橋の上の国防軍を気絶させるか湖に落として無力化した戦場後で取り残されたように立ち尽くしたロイドはぽつりと呟いた。

 別に相手がクロスベルの人間だから躊躇ったわけではない。

 ただクロウもサラも、レンもリィンも多人数を相手にするのに長けており、ロイドが学んだ警察の制圧術と戦場の相性が悪かったに過ぎない。

 

「俺もガンブレイカーに装備を更新するべきなのか?」

 

 ロイドは手元のトンファーを眺めて、頭を振ってため息を吐く。

 

「これが帝国人か……」

 

 レンは違うが改めてロイドは彼らの――帝国とクロスベルの力の差を実感する。

 

「ちっ……城門を閉じられたわね」

 

 サラは戦闘の前までは解放されていた《鏡の城》の城門を叩いて舌打ちする。

 

「どうする? ここで《オルディーネ》を呼ぶか?」

 

「やめておいた方が良いんじゃないかしら? 手帳の情報を信じるならこの扉のすぐ向こうには行方不明者が並べられているはずよ」

 

 クロウの提案をレンが却下して周囲を見回す。

 

「レンに任せなさい。こんな扉すぐに――」

 

「ちょっと良いかな」

 

 持ち込んだ導力端末を繋げる端子を探していたレンにリィンが挙手をする。

 

「一つ試してみたい事があるんだ」

 

「リィン?」

 

「うん……この装備を使えば……たぶん……」

 

 訝しむ一同を横目にリィンは導力スーツの具合を確かめるように拳を握って開く。

 

「何をするつもりか知らないけど、良いわ。ハッキングは進めているから好きにして良いわよ」

 

 レンの許可を得たリィンは扉の前に進み出て、右手で城門の中央に触れる。

 

「《ARCUS》駆動――」

 

 スーツの結晶回路が光り、身体能力を強化させる導力魔法が幾重も展開する。

 

「コオオオオオオオ――」

 

 静かな呼気が大きく聞こえる。

 

「お、おい……何を――」

 

「しっ――黙って見てなさい」

 

 気を練り集中力を高めていくリィンを訝しむクロウをサラが止める。

 

「――ッ――」

 

 呼気が――次の瞬間、ズンという地響きと共に鉄の扉に亀裂が走った。

 

「なっ!?」

 

「おいおい、嘘だろ!?」

 

 目を剥くロイドとクロウを他所に、亀裂は扉全体に広がってガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

 

 亀裂は扉全体に広がってガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

 

「…………よしっ!」

 

「よし、じゃねえよ!」

 

 残心を解いたリィンにクロウが突っ込む。

 

「お前は何なんだよ!? 素手で城門をぶっ壊せるって本当に人間か!?」

 

「泰斗流の奥義……寸勁ね」

 

「はぁ!? これがゼリカのゼロインパクトだと!?」

 

 サラの呟きにクロウは新たな驚きを覚え、思わず昔彼女に打たれた脇腹を押さえる。

 

「えっと……大道芸みたいなものだから、流石に二枚目を続けて壊すのは無理だと思いますし」

 

「あらあら」

 

 謙遜するリィンにレンは懐かしいものを見たと言わんばかりの笑う。

 そんな彼らの背後でロイドは改めて呟いた。

 

「これが帝国人の実力なのか……」

 

 こうしてリィン達が元クロスベル国防軍を蹴散らして《鏡の城》へと突入した頃、クロスベル市街では――

 

「クロスベル市民の皆さん、お久しぶりです。アリオス・マクレインです」

 

 元クロスベル国防軍の長官の服を纏ったアリオスがクロスベル中央広場に用意された演説台に立った。

 

 

 







遅くなって申し訳ありません。
クロスベルは考察するとどんどんモチベーションが落ちて行きます。


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