閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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38話 クロスベル解放作戦Ⅱ

 

 

「――今こそ共に立ち上がろう、クロスベル独立国の民たちよ!」

 

 市街の中央広場には装甲車が街道を塞ぎ、用意された導力カメラの前で元クロスベル国防軍の者達が演説を行っていた。

 

「我らがクロスベルの誇りを取り戻す時が来たのだ!」

 

 近年、普及し始めた導力モニターに映し出されたその姿はクロスベル市民に届けられる。

 市民に、同胞に、元国防軍の者達は熱を伝えるように熱く語り掛ける。

 

「諸君も知っているだろう。傲慢なエレボニア帝国は我等の独立を認めず、侵攻し支配したことをっ!」

 

「だが諸君らも分かっているはずだ、我らは裏切り者によって戦う“力”を奪われたことを!」

 

「騙されるなクロスベルの民たちよ! 帝国の支配による安寧など偽りの楽土でしかない!」

 

 一方的な演説の熱はクロスベルの市民の心に響く。

 思い出すのは二年前。

 ディーター大統領を支持し、帝国と共和国を撃退していた報道に湧いていた熱狂を思い出す。

 

「そうだ……俺達はこんな不遇を押し付けられる謂れはなかったんだ」

 

「特務支援課がディーター大統領を逮捕しなければ……」

 

 暗い感情が芽生える。

 支配されたとは言え、不自由がない生活に忘れていた不満が思い出される。

 

「今回の通商会議だって……世界中の国がクロスベルを糾弾するためのものだって言うし……」

 

 見上げたオルキスタワーには西ゼムリアの各国の首脳が集まっている。

 その会議にはマグダエル元市長も出席しているが、終わったはずの独立騒動の責任追及をされていると思えば決して良い扱いを受けているとは思えない。

 それを考えると胸の奥からふつふつと怒りが湧き上がって来る。

 

「我々はまだ負けてない! 何故ならクロスベルには彼がいるっ!」

 

 そう叫んで軍人たちは左右に分かれて、彼に場所を譲る。

 そこから進み出たのはクロスベルの者なら誰でも知っている男が現れる。

 

「クロスベル市民の皆さん、お久しぶりです。アリオス・マクレインです」

 

 

 

 

 

 その放送は当然、オルキスタワーの通商会議を行っている会議室にも流されていた。

 しかしそこにいる彼らは導力モニターに映るアリオスが本物でない事は既に知っている。

 

「しかし見れば見る程、偽物とは思えませんな」

 

 ロックスミスはルーファスから情報を開示してもらっていなければ、導力モニターの中で演説しているアリオスを本物だと疑わなかっただろう。

 

「これも《結社》の技術なのでしょうか?」

 

 その姿にクローディアは以前に見た、本物にしか見えなかった人形の事を思い出す。

 

「幸いな事に本物のアリオス君は彼らに拘置場で暗殺されかけたところを脱走し、ルーファス総督に保護を求めたわけだ……

 彼らの目的が分からなかったから遊撃士協会からの出頭命令を拒否していた事を総督に代わって謝罪させて頂こう」

 

 オリヴァルトはこの場でルーファスから開示された本物のアリオスの情報を首脳陣に伝える。

 オリヴァルトも知ったばかりの情報だが、ルーファスが隠匿していた理由も納得できる。

 首脳陣もそれに関して不備を指摘する事はなかった。

 

「しかし、やはりクロスベルの市民の程度が知れますね」

 

 オズボーンは画面の中で演説するとアリオスとそれに同調し始めた市民の姿を見て感想を呟く。

 

「ご覧いただけたでしょう皆さん、クロスベルの惨状を……

 彼らは二年前の独立戦争から何も学ばず、今まさに愚行を繰り返そうとしている」

 

「宰相、それは……」

 

「誇りが大事だと言うならば、二年前に何故彼らは銃を取って戦わなかったのでしょう?

 キーア君を矢面に立たせて、彼女が倒れ掌を返し無抵抗にクロスベルを明け渡しておきながら、未だに独立の夢を追い求める……

 これを醜悪と言わずに何と言うのでしょうね?」

 

「それは……」

 

 窘めようとしたクローディアは口ごもる。

 オズボーンの指摘を全て否定する事はできない。

 代わりにマグダエルが声を上げた。

 

「それを貴方が言うのですか!? 元はと言えば帝国と共和国がクロスベルで行っていた貴方達が民をここまで追い詰めた事が原因だと言うのに!」

 

「言い掛かりは止して頂こうマグダエル市長……

 “暗闘”を仕掛けていたのはクロスベルだろう?」

 

 オズボーンはマグダエルの言葉に怯むことなく言い返す。

 

「ガイ・バニングスのような警官殺し、《赤い星座》による襲撃もクロスベルが帝国の仕業と捏造したものばかり……

 果たして過去の事件で、どれだけの帝国人がクロスベルの“暗闘”の犠牲になっていたのか調べても良いのですよ」

 

「共和国にマグダエル市長の暗殺の罪を被せようとしていたのは貴方の秘書でしたし、前回の通商会議においてもテロリストを招き入れていたのはクロスベルでしたな……

 それに通商会議を取り仕切っていた弁護士も、ディーター氏の仲間だったようではないですか……

 マグダエル市長はどうやら人を見る目はないようですなあ」

 

 オズボーンの言葉に便乗してロックスミスがマグダエルにそれを突き付ける。

 

「ぐぅ……」

 

 マグダエルにできたのは唸る事だけだった。

 

「そこまでにしておきたまえ二人とも」

 

 見兼ねてオリヴァルトは仲裁に入る。

 

「今回の通商会議は確かに二年前のクロスベルの責任について話し合う場でもあるが、マグダエル市長を糾弾するためのものではないはずだ」

 

 オリヴァルトの言葉にオズボーンとロックスミスはそれ以上の追及を止める。

 オリヴァルトは肩を竦め、改めて導力モニターに目を向ける。

 

『我々クロスベルにとってディーター・クロイスのとった選択こそが唯一正しき道であったと証明するのだ!』

 

『ここに私は宣言しよう。悪しき帝国から英雄であるディーター大統領を救い出し、クロスベルをゼムリア大陸の覇者にする事を!』

 

『クロスベル万歳っ!』

 

『ディーター大統領、万歳っ!』

 

『アリオス国防長官、万歳っ!!』 

 

「…………もの凄い熱狂ぶりだ……」

 

 これと同じ光景があったとオリヴァルトは話には聞いていた。

 クロスベルの現状については同情するところは多い。

 

「これが帝国の行いの結果なのか……」

 

 誰に言うでもなくオリヴァルトは溜息を吐く。

 

「やはり人は過ちから何も学ばないものなんですかね?」

 

「そんな事はない……と言いたいがこれを見てしまうと……」

 

「クロスベルの人間は帝国の人間と同じだ……

 帝国が“闘争”の呪いに抱えているのなら、クロスベルは“妄信”の呪いに囚われている……

 クロスベルの民は今もなお自分達で立ち上がらず、守ってくれる誰かを、恵んでくれる“神”を望み続けている……

 誰かが与えてくれる“平和”と“独立”だけを求める……それは《黒》が作り出そうとしている“ディストピア”と何が違う?」

 

「それは……」

 

 その問いにオリヴァルトは答えを窮した。

 そんなオリヴァルトに構わず“彼”の独白は続く。

 

「クロスベルは……人は本当に守る価値があるんですか?」

 

「それはっ!」

 

「オリヴァルト皇子、どうかしましたか?」

 

「――え……?」

 

 クローディアからの呼び掛けにオリヴァルトは顔を上げた。

 周囲を見渡せばクローディアを始めとした首脳陣たちの視線が集中していた。

 振り返ってみてもそこには誰もいない。

 

「私は……今誰と……」

 

「どうなされましたオリヴァルト皇子? まさかこの状況で居眠りなどをしていたわけではありますまい」

 

「い、いやだなー。そんな事あるわけないじゃないか」

 

 オリヴァルトは笑って誤魔化す。

 そうしている間に白昼夢の残滓はオリヴァルトの頭から霧のように消えて行った。

 

『そこまでだ!』

 

 画面の向こうで動きがあった。

 

 

 

 

「西ゼムリア大陸統一警察所属、マキアス・レーグニッツだ」

 

 熱狂が渦巻く中央広場にマキアスは乗り込み、演説台の前に進み出る。

 

「――っ」

 

 一斉に集まる視線の重圧にマキアスは息を呑む。

 クロスベル市民たちの目は一様に憎悪に染まりマキアスに集中する。

 まるで導火線に火が点いた爆弾を前にしているかのように緊迫感に晒されて足が竦む。

 

「帝国の狗が何の用だ?」

 

 一触即発の空気の中、アリオスの落ち着いた声がマキアスを迎える。

 市民の激情はその一言で少しだけ和らぐ。

 

「――っ……アリオス・マクレイン。貴方には脱獄の罪を始め帝国政府から逮捕状が出ている……

 今すぐこの騒ぎを治め、武装を解除して投降しろ」

 

 マキアスの言葉に広場に静寂が訪れ――次の瞬間怒号が響き渡った。

 

「ふざけるな!」

 

「アリオスさんはクロスベルの守護神だぞ!」

 

「帝国人風情が何様のつもりだ!」

 

 罵倒に次ぐ罵倒。

 クロスベルでアリオスを罵る事は、例えるならバリアハートでアルバレアの悪口を言う様なもの。

 

「それにしたってこれは酷いな」

 

「これがクロスベルが溜め込んだ負の感情……だとしても……」

 

 マキアスに付き従っていたキンケイドとエレインも罵倒の中心に晒されて顔をしかめる。

 自分達は国、遊撃士協会の承認の下に逮捕権を主張している。

 義は自分達にある。

 だが二人が我を通すにはまだ若く、クロスベルの市民が生み出す熱狂に毅然とした態度を保つ事はできなかった。

 

「残念だけど……」

 

 そんな空気に怯まず、三人を追い越して“彼”はアリオスの前に立つ。

 

「今のアリオス・マクレインは君たちが何を言っても犯罪者ダヨ☆」

 

「み――みっしぃっ!?」

 

「そんなみっしぃがどうしてアリオスさんの……帝国人の味方をしているんだ!?」

 

「アリオスさんとみっしぃ……私達はどっちを信じれば良いんだ!?」

 

 大混乱である。

 

「予想はしていたけど……」

 

「未だかつてこれ程混沌を極めた大トリ物があっただろうか……」

 

 マキアスとキンケイドは幾分か和らいだクロスベルからのプレッシャーに息を吐いて落ち着き、改めて壇上のアリオスと向き直る。

 

「アリオス・マクレイン……僕達は貴方の正体を知っている。こんな茶番をしても意味はない」

 

 ここで目の前のアリオスが偽物だと公言するリスクからあえてぼかす様にマキアスは突き付ける。

 アリオスはみっしぃを一瞥して目を伏せた。

 

「そうだ……これは茶番だ」

 

 その言葉を合図にするようにマキアスの背後にある“鐘”が鳴り始めた。

 

「なっ!?」

 

「何!?」

 

 鐘の音が響く。

 その音に反応するように鐘の周りの花壇から花が咲き狂い、それは瞬く間にマキアスの足下を覆い隠していく。

 

「これは資料にあったプレロマ草!?」

 

 花は中央広場では留まらず、その先の通りや建物、そしてクロスベルの人達の胸にまで咲く。

 

「…………これで俺と《クロスベル》は繋がった」

 

 先程までの熱狂が嘘のように静まり返り、クロスベルの市民も国防軍もまるで人形のように立ち尽くす。

 

「これはいったい……」

 

「クロスベルの人達だけじゃない……まるで街の空気そのものが異質に変化している」

 

 上位三属性が働く異界化にキンケイドとエレインは困惑する。

 

「彼らはクロスベルの独立を“願い”俺はそれを受け取った。それだけだ」

 

「それだけって……」

 

 投げやりなアリオスの言葉にマキアスは眉を顰める。

 

「クロスベルは“独立”を願った……夢を見させた者としての“責任”を俺は取らなければならない。そうだろう“みっしぃ”」

 

「…………」

 

 投げかけられた言葉にみっしぃは沈黙を返す。

 

「お前がその着ぐるみに隠れている心情はおよそ理解できる……

 だが、そのような責任放棄を俺は認めない。ガイを殺した責任を、クロスベルに夢を見せた責任を取るためにも帝国と共和国を滅ぼさなければならない」

 

「そんなものはただの責任転嫁だ」

 

 みっしぃは演技する事を忘れて素の言葉を返す。

 

「いいや。それこそがガイや俺が利用して来た者達に対してできる唯一の償いだ」

 

「それは俺の責任を帝国と共和国に押し付けているだけだ」

 

「ならばお前は何だと言うのだ?

 仮面を被り、アリオス・マクレインである事を、クロスベルの“英雄”である事を放棄したお前は何を成すと言うのだ?」

 

「それは……」

 

「そんなにもクロイス家と結託して得た《A級遊撃士》の地位が重荷だったか?」

 

「アリオスさん、それはどういうことですか?」

 

 エレインは思わず口を挟む。

 

「簡単な理屈だ……

 アリオス・マクレインの異常な依頼達成率の裏にはクロイス家の支援があったから……

 全ては来るべき日のために、クロスベル市民の二大国への不満を募らせる必要があり、そんな彼らを誘導する火付け役の“偶像”が必要だった」

 

「…………」

 

 アリオスの言葉にみっしぃは黙り込み、否定も肯定もしない。

 

「クロスベルの守護神などと呼ばれていたが、真実は“暗闘”を用いて二大国と同じ事をしていたクズ……それがアリオスと言う男の正体だ」

 

「そんな……」

 

 アリオスの告白に同じ遊撃士のエレインは絶句する。

 

「だからこそ、アリオス・マクレインは二度と表舞台に出てはいけないのだ」

 

 自嘲自虐するアリオスの言葉にみっしぃは竹刀を構える。

 

「だからこそ、アリオス・マクレインは“英雄”であり続けなければならないのだ」

 

 アリオスもまた太刀を抜いて構える。

 言葉少なに意志をぶつけ合うアリオスとみっしぃに空気にまだ年若いマキアス達は呑まれてしまう。

 

「…………」

 

「…………」

 

 アリオスとみっしぃは無言で睨み合い、それ以上の問答は不要だと言わんばかりに同時に斬りかかり太刀と竹刀をぶつけるのだった。

 

「MISISI……始まったカ」

 

 その光景をビルの屋上からメカみっしぃが腕を組んで見下ろしていた。

 中央広場においてプレロマ草を生やした人たちの輪の中で斬り結ぶアリオスとみっしぃ。そして遅れてマキアス達が戦闘に参加する。

 その光景を他所にクロスベルには鐘の音が響き渡る。

 一つ響けば、プレロマ草が波紋を広げるように咲き乱れる。

 それは中央広場に留まらず、建物や人を覆い、東通り、西通りへと広がってクロスベルを、人を呑み込んでいく。

 

「……錬成の規模はキーアの時以上か……」

 

 メカみっしぃは湖の向こうに見えるミシュラムに視線を向ける。

 

「リィン・シュバルツァー。君はこの光景を見て何を思う?」

 

 その呟きは誰に聞かれる事もなく虚しく響き、消えて行った。

 

 

 

 

「これは……」

 

 《鏡の城》に入り、目の前に広がる光景にリィンは絶句した。

 右を見れば、蒼い溶液に満たされた巨大な水槽に人が整列して横たわっている。

 左を見れば、紅い溶液に満たされた巨大な水槽に人が整列して横たわっている。

 

「レン、これは……?」

 

「これが今回の実験の肝とでも言うべきものね」

 

 レンは動じることなく周囲を見回してため息を吐く。

 

「彼らは戦術オーブメントのクォーツと同じ扱いよ……

 人をクォーツに見立てて、ラインを溶液の《グノーシス》で繋げる……

 そうして集積させた導力魔法として《零の至宝》の錬成の場を再現しているのよ」

 

「クロイス家……《D∴G教団》の始祖らしい最低な女みたいね」

 

「これには流石の俺もドン引きだ」

 

 サラとクロウは想像の上を行く光景に顔をしかめる。

 

「レン、この人達はここで起こした方が良いんじゃないか?」

 

 気を取り直してリィンはそう提案する。

 底の浅い水槽であり、半身が漬かっているだけなので溺れる心配はないが、このままシステムとして放置しない方が良いのではないかと考える。

 

「そうね…………」

 

 レンは水槽と部屋に一度視線を流して天井に向けて語り掛けた。

 

「見ているんでしょう、《博士》?」

 

『おやおや、気づいたのかね?』

 

 壁に掛かった導力スピーカーからレンの呼び掛けに応える声が広間に響く。

 

「こんな悪趣味なことに手を貸すのは博士かカンパネルラくらいだから」

 

『ハハ、それは信用のある事だ』

 

 悪びれた様子もない声で博士は続ける。

 

『しかし、申し訳ない。出迎えに君の家族をわざわざ用意したのだが逃げられてしまってね……

 特に君の弟には是非とも受けてもらいたい実験があってね。《レン》を生み出された理論を――』

 

「次にあの家族に少しでも手を出してみなさい」

 

 朗らかな世間話のような言葉をレンは殺意を滲ませた言葉で遮る。

 

「レンは地の果てまであなた達を追いかけて、肉塊の一欠片も残らないくらいに殲滅してあげる」

 

『ハハッ、それは怖い話だ。君の弟には《レン》と同じになってもらおうと思っていたのだが――』

 

「博士。二度はないと言ったはずよ……

 それよりも今の実験の質問をして良いかしら?」

 

 埒が明かないとレンは呆れながら今感じている疑問を尋ねる。

 

『おおっ! 君から質問とは珍しい。うむ、何が知りたいのかね?』

 

「今の彼らの状態はどうなっているのかしら? 実験を妨害するために機材の方を壊しても構わないかしら?」

 

『うむ。それはやめておいた方が良いだろうね』

 

「それは何故?」

 

『そこに並んでいる実験素材の意識はそれぞれの《グノーシス》に溶け込み一つとなっている……

 順序を無視してシステムを止めようものなら、溶液に溶けた“想念”は元に戻ることなく彼らは廃人となるだろう』

 

 すらすらと答える博士の言葉にレンは舌打ちをする。

 

「こんな事をしてあんた達はそれでも人間か!」

 

 堪らずリィンは激昂して二人の会話に割って入る。

 

『おやおや、君は《超帝国人》リィン・シュバルツァー君ではないか。君の噂は結社で良く聞いているよ』

 

「ちょ――俺の事は良い! それよりもこんな実験はすぐにやめて、この人達を元に戻せ!」

 

『どうかね? 私のところに来る気はないかな?

 君のような《超帝国人》を一度、体の隅々まで調べたいと思っていてね』

 

「っ――」

 

 会話が通じない事にリィンは苛立つ。

 

「ちょっと博士、リィンを玩具にして良いのはレンだけよ」

 

「レン!?」

 

『それは残念』

 

 リィンの驚きを他所にしつこかった博士の勧誘はレンの一言であっさりと手が引かれる。

 

『おや? こちらのそろそろ実験が本格的に動き出すようだ』

 

 博士の言葉が示すように《鏡の城》の中に鐘の音が響き渡る。

 

『ではこの辺りで失礼しよう。君たちの健闘を祈っているよ』

 

 言うだけ言って導力スピーカーは沈黙する。

 

「…………今のはノバルティス博士か」

 

 ロイドは静かになった広間で先程の声の正体、博士と呼ばれた男の事を思い出す。

 

「ちっ……相変わらずみたいだな」

 

 クロウは舌打ちして吐き捨てる。

 

「何? あんた達の知り合いなの?」

 

 サラの質問に二人は頷く。

 

「ええ、ディーター元大統領の協力者でしたから、顔を知っている程度ですけど」

 

「俺の方は……あれだヴィータの同僚だとかで《オルディーネ》を見せろと詰め掛けて来た事があっただけだ」

 

 なるほどとサラは納得してレンに向き直る。

 

「随分なマッドサイエンティストみたいだけど、どうする?」

 

「ええ、博士は確かにマッドサイエンティストだけど、実験についての質問に嘘を返す事はしないわ……

 ここに並べられている人達を安全に解放する方法はないわ」

 

「そうなるとシステムの中心に向かうべきか……」

 

 リィンは天井を見上げてやるべき事を確認する。

 

「《鐘》も鳴っている。急ぎましょう」

 

 リィンは一同を促し、彼らは動き出す。

 リィンが、レンが、クロウが、サラが広間から次の区画へと進んでいく最後尾でロイドは徐に足を止めて振り返った。

 

「…………セシル姉はいないか……」

 

 安堵とも焦燥とも言える呟きを漏らしロイドは私情を振り払うように頭を振って、リィン達の後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







創での原作のロイド達には言いたい事が多過ぎるけど、とりあえず序盤の衛士隊にはこれだけは言いたい。

クロスベルじゃなく帝都でやれ!

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