閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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遅まきながら明けましておめでとうございます。
閃の軌跡のアニメも既に一話が放送された2023年、今年もよろしくお願いします。

また熟考した結果、タイトルを「夢であるように」から「偽りの仮面」に変更させていただきます。




4話 学院生活

 

 

「ふっ――ふっ――はっ……」

 

 早朝のリーヴスの街、トールズ第Ⅱ分校の宿舎に近い公園で一人の生徒が規則正しく太刀を素振りする。

 一つ一つの型を確かめるように丁寧にリィンは同じ動作を繰り返す。

 

「一の型《螺旋撃》」

 

 一つの技を虚空に繰り出し、続く型を繰り出して行く。

 そして気付けば、近くのベンチに座ってリィンの素振りを眺めている少女がいた。

 

「アルティナ……」

 

「お気になさらずに」

 

 鍛錬を中断しようとしたリィンにアルティナは素っ気ない言葉を返す。

 こんなやり取りがもう何度も行われている。

 毎朝の鍛錬をしていると、そこが公園であろうと寄宿舎の練武場であってもいつの間にかアルティナがいる。

 懐かれる理由が分からないリィンは今日も、アルティナの視線を感じながら太刀を振り続けるのだった。

 

「…………どうして寄宿舎の練武場を使わないのですか?」

 

 日課が終わったリィンに、今日は珍しくアルティナが声を掛ける。

 

「練武場はクルトが――」

 

「別に彼が一人いたところで手狭になるような広さではないはずです」

 

「う……」

 

 言い切る前に言われた言葉にリィンは唸る。

 ただの素振りならば公園ではなく寄宿舎の一階にある練武場を使えば良いという意見はもっともである。

 

「別にかけっこでクルトさんに負けたからと言って気にする必要はないと思いますが?」

 

「べ、別にそういうつもりじゃない」

 

 アルティナから目を逸らしつつリィンは不貞腐れる。

 どちらがそうしたというわけではない。

 たまたま素振りの準備運動の走り込みでクルトと鉢合わせになり、競い合うように寄宿舎まで抜いて抜かれて、勝った方が練武場を使うようになっただけ。

 どちらが強制したわけでもなく、ただ敗者が気まずいという事で互いに遠慮しているに過ぎない。

 

「俺の事は良い……それよりもアルティナの方はどうしたんだ?」

 

「私ですか?」

 

「いつもいつも俺の素振りを見に来ているけど、楽しいものじゃないだろ?」

 

「…………いえ、そんな事は……」

 

「もしかしてユウナとうまく良ってないのか? だから部屋に居辛いとか?」

 

 オリエンテーリングの時にユウナとアルティナは険悪な言い争いをした事は記憶に新しい。

 入学式から今日まで特に問題が起きたわけではないのだが、それでもこの二人を同室にしている事に不安が生じる。

 

「………………問題はありません」

 

「何だか随分と間があったような?」

 

「問題はありません……

 せいぜい人の名前を省略して呼ぼうとしたり……

 寝込みを襲われそうになったことはありますが、《クラウ=ソラス》が撃退しているので問題ありません」

 

「寝込みを襲う!?」

 

 穏やかではない出来事にリィンは驚くがアルティナは大した事はないと言わんばかりの態度に何と言って良いか迷う。

 

「そう言う貴方は一人部屋のようですね?」

 

「ああ、本来ならクロウ先輩と同室になるはずだったんだけどな」

 

 《第Ⅱ》の生徒の寮は基本的に二人組一室が割り当てられている。

 しかしクロウは生徒への悪影響も考慮され、教官陣達のフロアに一室を与えられていて、奇数となったリィンは一人部屋を宛がわれることになった。

 

「ベッドは一つ余っているから、ユウナと一緒にいたくなかったら俺の部屋に来るか?」

 

 ふと口に出た提案にアルティナの目が細くなる。

 

「えっと……」

 

「それは不埒な事を企んでいるのですか?」

 

「不埒……別にそう言うつもりで言ったんじゃないんだけどな」

 

 しかし小さくても女子にそう言う事を提案するのは確かに軽率だったとリィンは反省する。

 

「今のは忘れてくれ。それより寮に戻ろう。そろそろ戻らないと予鈴に遅れるからな」

 

「……ん」

 

 リィンの言葉に頷き、いつものように歩き出した彼の隣をアルティナは歩く。

 

 ――どうしてこの子はこんなに俺について来るんだろう?

 

 改めてアルティナに懐かれた理由をリィンは考えてみるが、結局答えは出ぬままに寄宿舎の扉を開き――

 

「もう一度言ってみなさい!」

 

 ユウナの怒号が二人を出迎えた。

 

「今のは……」

 

「またクルトさんがユウナさんに不埒な事でもしたのでしょうか?」

 

「いや、クルトの名誉のために言っておくけどあんな事はオリエンテーリング以降していないからな」

 

 迷うことなくクルトを不埒呼ばわりするアルティナにリィンは肩を竦めながら宿舎の玄関を覗き込む。

 そこには背後からユウナを羽交い締めにしているクルトの姿があった。

 

「やはり」

 

「いや、あれは違うからな」

 

 目を剥き怒りを露わにしているユウナをクルトが羽交い絞めにして止めている。

 もしそうしていなかったらユウナは目の前の不良の様に制服を着崩した男に掴みかかっていただろう。

 

「ハッ! 本当のことだろ! 悪魔を崇拝して世界を脅迫して独立をしようとしたクロスベル人さんよ」

 

 その男の言葉にユウナは眦を上げる。

 

「このっ!」

 

「ユウナダメだ! 落ち着くんだっ!」

 

 必死に羽交い絞めにしているクルトがいなければユウナは不良少年に殴りかかっていただろう。

 

「…………どうやらついに誰かが爆発したようですね」

 

「ああ、あれは確か戦術科のアッシュ・カーバイドだったな」

 

 アルティナの呟きにリィンはどこか他人事のように頷く。

 他クラスの生徒達にとって、何かと「これだから帝国人は」と蔑んでいたユウナの心象はとても良いものと言えるものではなかった。

 

「……止めなくて良いんですか?」

 

「…………」

 

 アルティナの問いにリィンは顔をしかめる。

 この二週間でリィンなりに彼女がどういう人間なのかできる範囲で調べた。

 今は帝国領となっているクロスベル自治州出身であり、その占領を快く思っていないユウナは帝国に敵意を向けている。

 彼女の境遇には同情するが、だからと言って帝国人と括られて侮蔑されるのは気持ち良くはない。

 何より――

 

「クロスベルのせいで………………なのに……」

 

 ユウナが蔑む度にリィンは彼女に昏い感情を抱かずにはいられなかった。

 

「…………リィン?」

 

 黙り込むリィンにアルティナは違和感を覚えて――

 

「おいおい朝っぱらから何ぎゃーぎゃー騒いでんだよ?」

 

 二階からあくびをしながらクロウが降りて来る。

 

「ハッ……別に、現実を知らねえ馬鹿女に少しばかり本当の事を教えてやっただけだ」

 

「馬鹿女ですって!?」

 

 アッシュの小馬鹿にした態度にユウナはますます憤る。

 

「馬鹿女を馬鹿女って呼んで何が悪い?」

 

「何ですって!?」

 

「やめろユウナ! 君も!」

 

「この馬鹿女がここまで増長しているのは、お前達が好き放題言わせているからだぞ」

 

 クルトの叫びをアッシュは嘲笑う様に聞き流す。

 

「そんなに帝国が嫌いでクロスベルが大好きならとっとと帰れば良いんだよ」

 

「私だって好きでこんな所にいるわけじゃないわよ! 元はと言えば帝国がクロスベルを占領なんてするから」

 

「ハッ! 二言目にはそれかよ」

 

「おい……」

 

 クロウがアッシュを諫めようと声を掛ける。

 しかしそれを無視してアッシュは言葉を続ける。

 

「帝国がクロスベルを不当に侵略した?

 笑わせるな。逆だろ属州国だったクロスベルが世界に宣戦布告して独立して負けたから、クロスベルは占領されたんだよ」

 

「っ――で、でも帝国はクロスベルで共和国と戦争して……」

 

 アッシュの指摘にユウナは怯む。

 

「だから馬鹿なんだよ……

 帝国の占領なんかとは関係なく共和国が攻めて来るのは当然だろうが」

 

「だから何でそうなるのよっ!」

 

 分かっていないユウナにアッシュは面倒くさいと言わんばかりにため息を吐き、続ける。

 

「はぁ……クロスベルは人様から預かった資金を差し押さて独立を認めさせる脅迫材料にしたんだ……

 宗主国としてこんなバカなことをしでかした属州国を諫めなくちゃ他の国に示しがつかねえんだよ」

 

「属州国だからってそうやって帝国人は私達のことを見下してっ!」

 

「もしかして占領されるなら共和国の方が良かったのか?

 今のクロスベルがどうなってるか知らねえけど、経済恐慌を起こした共和国がクロスベルをどんな風に扱うか想像もできないのか?」

 

 アッシュの指摘にユウナは怯む。

 

「それは……でも……独立はディーター元市長の独断で……私達はあんな事になるなんて知らなかった……だから――」

 

 怒りを萎ませて、視線を揺らして言い訳を口にするユウナをアッシュは更に嘲笑する。

 

「なら俺も言わせてもらうがな……クロスベルの事なんて俺の知ったこっちゃねえんだよ」

 

「っ――」

 

 息を飲むユウナにアッシュは顔を寄せて睨みつける。

 

「文句があるんだったら皇帝でも鉄血宰相にでも直談判しに行けば良いんだ……

 それをしないでこんな所でグダグダと愚痴を垂れ流されても、負け犬の遠吠えにもなってねえんだよ」

 

「あ……う……」

 

「テメエみたいな私が世界で一番不幸なんだって顔している奴が、俺は大嫌いなんだよ」

 

 そう言い捨ててアッシュは踵を返す。

 そのまま登校するつもりなのか、アッシュは玄関で立ち尽くしていたリィン達に向き直る。

 

「アンタも大変だな」

 

「え……?」

 

「役立たずのヴァンダールに悪魔崇拝の馬鹿女、明らかに歳がおかしいガキもいるし、それに加えて“裏切りの蒼の騎士”様もいる……

 選抜エリートって言うよりも、“捨石”の中の更に“掃きだめ”の様なクラスってわけだ。正直同情するぜ」

 

 軽薄な笑みを浮かべてアッシュはリィンの肩を叩き、好き放題言って宿舎を出て行った。

 後に重い空気だけが残される。

 先程までの激情が嘘のように鎮まり、陰鬱と項垂れるユウナはクルトに羽交い絞めにされていなければ、その場にへたり込みそうな程に憔悴していた。

 

「…………行きましょう。学院に遅刻してしまいます」

 

 そんなユウナを無視してアルティナはリィンを促した。

 

「アルティナ……」

 

「リィンさんが彼女に関わる必要はありません」

 

「いや……でも……」

 

 消沈したユウナに何か言葉を掛けようとリィンは考えるが、言葉は出て来ない。

 救いを求めるようにリィンはクロウを振り返ると、彼はため息を吐いて頭を掻いた。

 

「あんまり気にすんな。帝国が――」

 

「おっすアームブラスト、新一年生の学院生活は満喫してるか?」

 

 慰めの言葉は突然開いた玄関から入って来た赤毛の男に掻き消される。

 

「アランドール!?」

 

 クロウはレクター・アランドールのいきなりの登場に驚く。

 

「いきなりで悪いがアームブラスト、これからする俺の“要請”に“はい”か“イエス”で答えてくれ」

 

「はぁっ!? いきなり出て来て何言ってやがるんだテメエッ!?」

 

「お前が学年を下げて《第Ⅱ》に再入学なんてしてくれたせいで仕事が詰まってるんだぞ?

 それに情報局は《蒼の騎士》を一学生として遊ばせておくつもりはないんだよ……と言うわけで連れて行け」

 

 レクターが指を鳴らすと玄関から黒服にサングラスをした男たちが入って来てクロウの両脇を固める。

 

「ちょっと待て! 俺はこれから学院が!」

 

「安心しろってちゃんと上には話は通してあるって、まだ始まったこのタイミングなら単位の心配をする必要はないだろ」

 

「その台詞のどこに安心があんだよ!」

 

「お前達がアームブラストのクラスメイトか?」

 

 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら屈強な男たちに連行されていくクロウを尻目にレクターはリィン達を振り返る。

 

「と言うわけであいつは借りて行くから、お前さん達もああなりたくなかったらちゃんと勉学に励むようにな」

 

 ひらひらと手を振りながら一方的にレクターは告げるとクロウと一緒に寄宿舎を出て行った。

 再び玄関に静寂が訪れる。

 

「………………都会って凄いんだな」

 

 そして感心するようなリィンの呟きが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「これが“獅子戦役”だヨ☆」

 

 教科書とチョークを片手にみっしぃが解説を始める。

 

「帝国史における最大のターニングポイントだね……この後が“近代”とも言われているヨ」

 

 理路整然とした解説や板書は的確で分かり易い。

 生徒達は思い思いに板書をノートに写し、みっしぃの言葉に耳を傾ける。

 

「この内戦がどんな背景で起きて激化したのか詳しく話していくヨ☆」

 

 みっしぃはその場でくるりと回って解説を続ける。

 

(……みっしぃのくせに結構分かりやすい)

 

(どうやって教科書とかチョークを持ってるんだ?)

 

(ふむ……そういう観点もあるのか……みっしぃ、どうやら評価を改める必要があるか)

 

 分かり易い授業ではあるものの、生徒達は未だにみっしぃの授業に戸惑うものは多い。

 だが流石に二週間もあれば、みっしぃが教官と言う状況に生徒達も徐々に慣れ始めていた。

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「――今日はここまで。みんなお疲れ様☆」

 

 その日の授業が全て終わり、クラス別のホームルームとして分かれた《Ⅶ組》をみっしぃは労う。

 

「結局、クロウ先輩は戻って来なかったですね」

 

「う~ん……クロウ君については帝国政府が緊急の要請で今日みたいな欠席が度々あるかもしれないって聞いてはいたんだけどね~」

 

 リィンの呟きにみっしぃは困ったように唸る。

 

「クロウ君がいないことは仕方がないけど、ユウナちゃんはどうしたのかな?

 今日一日、ずっとハッピーじゃない顔をしているけど?」

 

「…………」

 

 みっしぃに話しかけられたユウナはそれに応えず俯いている。

 

「クルト君?」

 

 みっしぃは首を傾げてクルトに説明を求める。

 しかし、クルトは目を伏せて首を横に振るだけで何も語ろうとはしない。

 

「よし☆! それじゃあハッピーになれるお話をしてしようか」

 

「それはいったい?」

 

 みっしぃの言葉にクルトは聞き返す。

 ここまで何度かユウナへの慰めの言葉を掛けてはみたものの、ほとんど効果はなかった。

 それだけにみっしぃの言葉に期待と不安を半々にクルトは身構える。

 

「えっとね~」

 

 ごそごそと教卓の中を探り、みっしぃが取り出したのは四つの封筒だった。

 

「これからみんなのお給料を渡すよ☆」

 

「給料って……」

 

 みっしぃの言葉にクルトは肩を落とす。

 士官学院は普通の学生とは違い、特別職国家公務員という立場となり給料が発生することはクルトも知っている。

 

「確かにミラの事は人の幸せに繋がるかもしれませんが――」

 

「お給料……」

 

 クルトの言葉を遮ってユウナはみっしぃの言葉に反応して顔を上げる。

 その反応にみっしぃは満足そうに頷く。

 

「うん、四月からの半月分のお給料が今日、みんなに配られるんだよ……

 来月からはみんなが入学した時に作ってもらった銀行口座に振り込まれるんだけど~今日は分校長の計らいで手渡しすることになったんだよ~」

 

「みっしぃ教官! 早くっ!」

 

 これまでの消沈がどこに行ったのか、ユウナは目を輝かせて元気よくみっしぃを急かす。

 

「ユウナ……」

 

「えっと……」

 

「これがクロスベル人ですか」

 

 現金なユウナの態度にクルト達は呆れる。

 そんなこと関係ないと言わんばかりにユウナはみっしぃから給料が入った封筒を受け取ると、その場で覗き込み確認する。

 

「…………よし、とりあえずこれだけあれば……」

 

「ユウナ、君はそんなキャラだったか?」

 

「ふん……何とでも言いなさい」

 

 クルトの指摘にユウナはそっぽを向きながら、封筒を大切そうに鞄の中にしまう。

 

「給料と言えばみっしぃ教官もそのために《第Ⅱ》に来ているんですよね?」

 

 とりあえず元気になったユウナに苦笑しながらリィンは話を逸らすようにみっしぃに振る。

 

「うん、ボクもそうだけど妹のみーしぇに少しでも楽をさせてあげたいんだ~……

 そういう意味ではボクもユウナちゃんも同じ――」

 

「みっしぃ教官、余計な事は言わないでください」

 

 ユウナの指摘にみっしぃは両手で口を抑える。

 そして機を紛らわせるように咳払いをしてみっしぃは次の話を進める。

 

「それじゃあもう一つハッピーなお話をしよう。明日の『自由行動日』についてだよ~」

 

「自由行動日……?」

 

「それって、入学案内にも書かれていた言葉よね?」

 

「いわゆる“休日”のようですが違いがあるのですか?」

 

 生徒達の戸惑いにみっしぃは説明する。

 

「『自由行動日』というのはトールズ士官学院における“授業がない自由日”のことだよ~

 自習するも良し、訓練するも良し、自分の趣味に当ててもいい……

 申請すれば外出許可も出るから帝都あたりに遊びに出ても良いよ~……あ、でもアルバイトは禁止だからね。ユウナちゃん」

 

「っ……わざわざ言われなくても分かってます」

 

 みっしぃの指摘にユウナは顔をしかめながら言葉を返す。

 それを尻目にリィンは考えに耽る。

 

「帝都か……」

 

 ユミルから上京してヘイムダルを経由してリーヴスに来たものの、リィンは帝都の街をちゃんと歩いたわけではない。

 初めて受け取った給料という自由に使って良いミラを含めて、明日は何をするべきなのかリィンは悩む。

 

「でも~基本的に自由にしていいんけど~明日だけは一つだけ条件があるんだよ~」

 

「条件ですか?」

 

「うん、『部活動』をみんなには決めてほしいんだよ~」

 

「設立したばかりですし部活はないと思っていましたが」

 

 みっしぃの言葉にクルトは聞き返す。

 《第Ⅱ》は今年から設立した士官学院のため、人数的にも部活動をする余裕があるとは想定していなかった。

 

「分校長からのお達しなんだよ~

 《トールズ》を名乗る以上、部活に所属するのは必須なんだって~

 ボクも君たちにハッピーでエンジョイな学院生活を送って欲しいからちゃんと決めて欲しいな☆」

 

 くるりと回ってポーズを決めるみっしぃを合図にその日のホームルームは終わる。

 

 

 

 

 

 

 翌日、リィンは分校長室にいた。

 

「…………なるほど」

 

 受け取った部活申請にオーレリアは一つ頷いて答えを告げる。

 

「《剣術部》の設立か……うむ、却下だ」

 

「どうしてですか? やはり先に人員を決めてからでないと申請はできないんですか?」

 

「それもある……だがリィン・シュバルツァー。其方はこの《剣術部》で何を成すつもりだ?」

 

 オーレリアの確認にリィンは《剣術部》でしたいことを説明する。

 

「俺は《八葉一刀流》の初伝しか賜ることができなかった若輩者です……

 ですから、ユミルでは学び切れなかった《アルゼイド流》と《ヴァンダール流》の剣を貴方から教わりたいと考えています。部活動はその一環です」

 

「ほう……其方は《アルゼイド》と《ヴァンダール》も学んでいたのか?」

 

「ええ、ユミルに逗留していた御二人から基礎の部分は教わりました」

 

「では其方はまさしく私の弟弟子というわけか」

 

「そう……何でしょうか?」

 

 オーレリアの言葉にリィンは首を傾げる。

 確かに基礎は教わったが、芯の部分は《八葉一刀流》だとリィンは自覚している。

 

「フフ……終ぞ後に続いてくれる者は現れなかったと思っていたが、まさか其方が……いや、いっそう私もユン・カーファイ殿に会いに行って《八葉》を学んでみるか?」

 

「分校長?」

 

「ああ、すまん」

 

 初めての正式な弟弟子の登場に高揚したオーレリアは話を戻す。

 

「弟弟子の頼みだ。私が直々に稽古をつけるのは吝かではない」

 

「え……あの……弟弟子? 本当にそれで通すつもりなんですか?」

 

 リィンの戸惑いを無視して姉弟子は続ける。

 

「しかしだからこそ、其方は戦い以外を学ぶべきだと私は考える。それこそが其方を人間として成長させることになるだろう」

 

「人間として成長…………そんなものより俺は強くならないといけないんです」

 

 どこか強迫観念に駆られているリィンにオーレリアは苦笑する。

 

「いたずらに剣を振り回せば強くなれるわけではない。力の抜き方を覚えなくては剣は振れても斬ることはできん」

 

「でも……」

 

「私が『部活動』を推奨する理由はこの“捨石”である《第Ⅱ》で“闘争”以外のものを学んで欲しいからに他ならない……

 だからこそ其方は一度“剣”を手放してみると良いだろう」

 

「…………でも俺は……剣以外の事は知らなくて」

 

 ユミルで目覚める以前の記憶がなく、そこにいたユン老師達に教わった“剣”だけがリィンの趣味であり特技である。

 人間としては空っぽの自分が“剣”以外に何をして良いのかリィンには分からなかった。

 

「其方の事情は聞いている。剣の修行ならば個別でいくらでも受けよう……

 何をして良いのか分からないのならば、一先ず今日の学院を巡って他の生徒達が何をしているのか見学して来ると良い」

 

「…………分かりました」

 

 結局《剣術部》は認められず、リィンは分校長室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 








閃Ⅰでは奨学金などの学費がありましたが、《第Ⅱ》は軍事色が強くなっていたのでリアルの防衛大のように特殊公務員という立場にさせて給料が発生するように設定を変更しました。


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