閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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43話 クロスベル解放作戦Ⅶ

 

 

 

「これはひどい」

 

 戦場を見回したリィンは絶句する。

 ガレリア要塞に空いた二つの大穴。

 広大な演習場が穴ぼこだらけに荒れきった光景。

 散乱する機甲兵だったものや装甲車、戦車の残骸。

 そこには数日前に列車で訪れた時の面影は残っていなかった。

 

「リィン、後ろからきます」

 

 膝の上に乗るアルティナの言葉にリィンは即応する。

 一度納めた太刀を抜き放ち、背後からの襲い掛かる《零》の拳を振り向きざまに激突させる。

 剣と拳が火花を散らして弾き合い、《零》は斬り飛ばされた右腕を再生させ間髪入れずに振り下ろす。

 

「ふっ……」

 

 《白》は危なげなくステップを踏んで横に躱し――射線を開く。

 

「オーロラキャノンッ!」

 

 遠く離れたケストレルから放たれた狙撃が《零》に命中する。

 だが、全導力をフル稼働して撃たれた一射は《零》を怯ませる事すらできなかった。

 

「でも想定の範囲です。クロウ先輩」

 

 ミュゼはクロウを呼び、《零》の頭上を取った《蒼》は増設された砲門と魔導銃を眼下の《零》に向ける。

 

「出血大サービスだ。せいぜい味わえっ!」

 

 肩に装備した二門の導力砲から《クラウ・ソラリオン》を放ち、両手の魔導銃で《ソウルブラー》を連射し、両腰に固定された短砲から《シルバーソーン》の剣弾を掃射する。

 三種の弾丸の雨は《零》とその足元の大地を削り、沈めていく。

 

「どうだ!? やったか?」

 

 二組四つの砲身がオーバーヒート寸前まで撃ち続けた《蒼》は砲を格納して両手の魔導銃を油断なく構える。

 

「なっ!?」

 

 次の瞬間、《蒼》は何の前触れもなく現れた無数の黒い球体に囲まれる。

 

「おいおいおい!」

 

 小さな黒球の一つ一つに消滅の力が宿っているとして、《騎神》の強度が《機甲兵》より優れていると言っても数えきれない消滅を数打ちされてしまえば致命傷になりかねない。

 

「――っ」

 

 黒球が中心の《蒼》に向かって一斉に動き出す。

 

「しゃらくせい!」

 

 《蒼》は二丁の銃を前に撃ち、迫りくる黒球を撃ち抜いて誘発させる。

 こじ開けた空間に体を飛び込ませながら、銃を乱射して包囲網を突破する。

 

「どうだ――うおっ!?」

 

 体の末端を削られながら包囲網を抜けた《蒼》だが、撃ち漏らした黒球は《蒼》を追い駆けるように殺到する。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 後ろに全力で飛びながら、《蒼》は銃を乱射して迫り来る黒球をひたすらに撃ち抜いていく。

 黒球を操作するように腕を翳していた《零》はもう一方の腕を空に向け、新たな黒球が生み出され――

 

「くらえよっ!」

 

「斬り捨て御免っ!」

 

 《蒼》の砲撃によって巻き起こった土煙の中から二機の《機甲兵》が《零》に肉薄する。

 正面からクルトの《シュピーゲル》による十字斬りが、背後からアッシュの《ヘクトル》によるスタンハルバードの一閃が繰り出され、無防備な《零》を挟撃する。

 

「やったか!?」

 

「いや――ちっ! 何だこれは!?」

 

 無防備な《零》に触れる寸前に止まる剣と斧にクルトとアッシュは困惑する。

 

「っ――アッシュ退けっ!」

 

 《蒼》を見上げていた《零》は顔を降ろして目の前の《シュピーゲル》を見る。

 機械の目にクルトは悪寒を感じ、指示を飛ばしながら己も後方に全力でローラーを走らせる。

 だが、全力で後退していた《シュピーゲル》は不自然にその動きを止めた。

 

「何だっ!?」

 

 足のローラーが空転して進まない。

 クルトが困惑して見たのは《零》が左手に黒ではない“金”の球体を作り出していた姿。

 

「導力魔法――識別はダークマター!? まずい!」

 

 導力器が計測して識別した《零》が使った導力魔法にクルトが危機感を覚えた瞬間、機体が《零》に向かって引き寄せられる。

 不自然な姿勢で引き寄せられた《シュピーゲル》に《零》は右腕の拳を握り込み――突き出す。

 

「――させないっ!」

 

 ユウナの《ドラッケン》が割り込んで前に構えたトンファーとそこに展開した導力障壁で《零》の拳を受け止めて――受け止め切れずに《シュピーゲル》と一緒に《ドラッケン》は吹き飛ばされた。

 

「きゃあああああっ!」

 

 ユウナの悲鳴と共に《ドラッケン》と《シュピーゲル》は絡み合って地面を転がり、そこに追い打ちを掛けるように《零》は掌を向けて――

 

「二の型《疾風》」

 

 《白》の一閃が《零》の腕を弾き、撃たれた黒砲は空を削る。

 

「一の型――」

 

 《疾風》では威力が足りないと《白》は返す刃に力を込める。

 対する《零》はたたらを踏んで態勢を整えると、黒を凝縮した刃を右手に作り出す。

 

「――螺旋撃っ!」

 

 その一撃に《零》は力任せに黒刃を振り切り――二つの刃は弾き合った。

 

「っ――」

 

 大きく仰け反る二機。

 強引に態勢を一瞬早く戻した《零》が黒刃を突き出す。

 《白》は太刀でそれを滑らせるように受け流し弾き、返す刃を繰り出せば黒刃が受け止め火花を散らす。

 刃をぶつけ合って同時に《白》と《零》は後ろに跳び、《零》は左手を差し出して《白》を呑み込む大きさの黒球を放つ。

 

「ふっ――三の型、業炎撃っ!」

 

 《白》は臆することなく前に進み、太刀を一閃して黒球を斬り払い、大きく跳躍して全身を乗せた一撃を振り下ろす。

 焔を纏う一撃を《零》は黒刃で受け止めて押し返すように弾き飛ばす。

 

「くそっ!」

 

 悪態を吐きながら、《白》は《零》の追撃を太刀で受けて、流して、弾き、鍔迫り合う。

 

「くっ……」

 

 《白》は押し込まれるように力負けして、膝を着く。

 飛来する《ケストレル》の狙撃の弾丸が《白》の目の前で、《零》の装甲に触れると慣性を失って停止し地面に落ちる。

 

「どうやら《ケストレル》の狙撃は意味がないようです」

 

 リィンの膝の上で観測をするアルティナはそう結論を下し、《零》の首に鎖が巻き付いた。

 

「おらっ! これならどうだ!」

 

「シュピーゲル、出力全開!」

 

「リィンとアルティナから離れなさい!」

 

 《ヘクトル》と《シュピーゲル》、《ドラッケン》の三体が一本の鎖を力一杯引き――《零》の一瞥によって鎖は消滅して三機はそれぞれの悲鳴と共に仰け反って後ろに倒れ込む。

 

「今――!」

 

 わずかに緩んだ力を見逃さず、《白》は上から押し潰そうとする黒刃を横に逸らし――太刀を薙ぎ払う。

 横から斬撃に黒刃は半ばから折れ飛んで、消失する。

 そのまま《白》は後方に跳んで距離を取り、リィンは息を整えながら膝の上のアルティナに尋ねる。

 

「“核”の位置は!? まだ分からないのか?」

 

「いや、“核”は胸部装甲の奥にあります」

 

 リィンの問いにアルティナは即答する。

 

「そうか……」

 

 息を整えながらリィンはここからどうやって戦うか必死に頭を回転させる。

 ただ《零》を撃破するだけがリィン達にとっての勝利条件ではない。

 “核”に取り込まれたクロスベル市民数百人を救出してこそ、完全勝利と言えるが対峙してそれが難しい相手だとリィンは思い知らされる。

 

「レン、こいつの防御結界を封じる術式は――」

 

「きゃあああああああああっ!」

 

 つんざくレンの珍しい悲鳴がリィンの鼓膜を叩いた。

 

「何が――って、ええ!?」

 

 合計で八機の《ドラッケン》が凄まじい土煙を上げ、スペックを凌駕する速度で突っ込んで来る。

 《零》は無造作に黒球を《ドラッケン》に放つ。

 触れれば消滅する黒球に《ドラッケン》は怯むことも、身構える事もせずに突っ込み、黒球が着弾することなく大半の《ドラッケン》が消えた。

 

「機甲兵で分け身!?」

 

 黒球の弾幕をすり抜けた《ドラッケン》が《零》に肉薄し、その両手を掴む。

 

「今だよレンちゃん!」

 

「っ! 覚えてなさい!」

 

 聞こえて来るメカみっしぃの声にレンは叫び返して導力魔法を駆動する。

 光の輪が《零》の両腕に枷となって嵌る。

 しかし次の瞬間、《零》は力任せに組みついた《ドラッケン》を投げるように振り解いた。

 

「レンッ!?」

 

 機械の巨人が軽々と宙を舞い、《零》は《ドラッケン》に掌を翳し――何も起こらなかった。

 

「――――」

 

 《零》は苛立つように翳した掌を拳にして《ドラッケン》に突き出され――その《ドラッケン》の肩に乗っていたメカみっしぃが庇う様に拳の前にその身を投げ出した。

 等身大の拳をその身に受けたメカみっしぃはその身を潰し――爆発した。

 

「レンッ!」

 

「レンなら大丈夫……でもメカみっしぃが……」

 

 爆発に巻き込まれただろう《ドラッケン》からはレンのしっかりとした返事があったことにリィンは安堵する。

 しかし彼女を助けるために犠牲になったメカみっしぃを悼む。

 

「くそっ……」

 

「ですが、《零》の防御結界ならびに消滅の力を封じる事には成功したようです」

 

 メカみっしぃの犠牲に対してアルティナが気休めの戦果を報告し――アルティナは次の変化に目を剥いた。

 

「異常な霊力の上昇を感知しました!」

 

 戦場に熱風が吹き荒れる。

 

「ローゼリアの名を借りて、ここに終局を唄う」

 

 声が響く。

 

「これは……《零》の声なのか?」

 

「燃える、焼けろ、照らし、灼き尽くせ――」

 

 聞こえて来る声にリィンは意志疎通ができるのかと訝しむ。

 だが、そんな事を考える余裕など与えないように《零》の背後に巨大な魔法陣が広がる。

 

「終焉を唄う、終末を歌う、終局を詠う――」

 

 魔法陣が次々と描かれ、広大な戦場を取り囲む壁となって連なる。

 

「灼熱の羽搏き、猛る焔――」

 

 観測される霊力の上昇は留まる事を知らず、《零》を中心に吹く熱風は何人たりとも近付くことを許さないと言わんばかりに荒れ狂う。

 

「リィン! こっちに来てっ!」

 

 キーアの悲鳴のような叫びに《白》は振り返り、躊躇った。

 

「レンの事は良いからキーアの下に行きなさいっ!」

 

 熱風の中心に近い場所に倒れている《ドラッケン》からレンの指示が飛ぶ。

 

「――くそっ!」

 

 リィンは苦虫を嚙み潰したように悪態を吐いて《零》に背中を向けて駆け出した。

 

「宵闇に潜む紅き――千の月影は世界を照らす」

 

 連なる魔法陣が戦場を円を描いて閉じ、更に蓋をするように空に魔法陣と真紅の月が浮かぶ――その数は魔法陣と同じ千。

 

「――間に合って」

 

 《灰》は《紅》に支えられて手を伸ばし、《白》はその手を全力疾走して――掴む。

 

「終極魔法――ミル=ミラージュ」

 

 そして、閉じた結界の中に焔の光が堕ちる。

 紅き千の月光は大地を焼き、大気を焼き尽くしてガレリア要塞を焼失させた。

 

 

 

 

 その地響きは遠く離れたクロスベルのオルキスタワーの会議室にも伝わっていた。

 

「………………」

 

 オリヴァルトはブラックアウトした導力モニターから無言で窓の外に視線を送れば、遠く離れた西の空には大きな黒煙が立ち昇っていた。

 

「こ、これが“至宝”にまつわるものの戦いですか」

 

 レミフェリア代表アルバート大公は冷や汗を拭って感想をもらす。

 

「四年前のリベールはこれ程の猛威に晒されて、あの程度の被害で済ませたとは……流石ですな」

 

 クロスベルの“至宝”と曲がりなりにも渡り合っていた帝国軍の強さを理解したロックスミスは内心の動揺を隠しながら朗らかに笑う。

 

「あ……いえ……その……恐縮です」

 

 話を振られたクローディアはバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。

 

「み、皆さん。やはり避難した方がよろしいのでは?」

 

 落ち着いた様子の国賓たちに対して主催地であり、ルーファスから会議の全権を預かっているマグダエルは気が気でない心境だった。

 黒い砲撃についても、クロスベルの建築技術に賞賛を浴びたがマグダエルにとっては魔導区画と同様に預かり知らぬもの。

 先程から生きた心地がしないマグダエルはその心労からか、こんな状況だというのにモップ掃除をしているメカみっしぃを見てしまう程に疲れ切っていた。

 

「そうだね……」

 

 マグダエルの何度目かの提案にオリヴァルトは頷く。

 キーアが戦っている間は、その献身を世界に教えることもあり避難を先送りにしていたが、その映像が途切れてしまったのなら避難を優先した方が良いのではないかとオリヴァルトは迷う。

 

「いえ、まだそれには早いでしょう」

 

 しかし先んじてオズボーンがオリヴァルトの指示を封殺し――

 

「映像回復します」

 

 スタッフの言葉に各国の重鎮たちは一斉にブラックアウトした導力モニターに視線を戻した。

 そこには焼失したガレリア要塞だった、焔の海が広がっていた。

 そしてその中央に浮かんでいる《零の魔神》の姿があった。

 その姿はまさしく悪魔と形容する姿だった。

 

 

 

 

 真っ赤に焼けた溶岩の中央に浮かぶ《零》――と無数の氷の柱。

 その氷柱の一つが割れると中から《白》と《灰》、そして《紅》が現れる。

 

「何だこれは……」

 

 一面の溶岩が大地に広がる光景にリィンは絶句する。

 

「間に合ったわね……」

 

 息を切らせるキーアではない声をリィンは通信越しで聞いた。

 

「貴女は――」

 

「その声はヴィータか?」

 

 唯一、空を飛び結界の外にいた《蒼》が降りたってクロウが通信に割り込んだ。

 

「久しぶりねクロウ」

 

「ヴィータ……」

 

 長く会っていなかった《蒼》の導き手にクロウは言葉を詰まらせる。

 

「積もる話は後にしましょう」

 

「…………ああ、そうだな」

 

 ヴィータからそう言われてクロウは《零》を睨む。

 

「うおおおおっ! 死ぬかと思った!?」

 

「アッシュ落ち着け……ってここは煉獄か!?」

 

「何なのこれ!? 何なのこれっ!?」

 

「こ、これが伝説の古代魔法、《ミル・ミラージュ》ですか……」

 

 遅れて氷柱を割って《Ⅶ組》の面々の声が通信機から聞こえて来る。

 

「四人共落ち着け……どこの誰かは知りませんが、貴女のおかげですよね? ありがとうございます」

 

「フフ……御礼なんて良いのよ……

 キーアちゃんの繋がりと貴方の力を借りたのは私の方なんだから」

 

 それよりも、とヴィータは区切る。

 

「あれをどうにかしないと私の働きなんて意味ないわ」

 

「そう言うがヴィータ。あの怪物は何なんだ? 帝都に出て来たより明らかにやべえだろ」

 

「そんなの私が知りたいくらいよ」

 

 愚痴るクロウに嘆くヴィータ。

 

「先程の攻撃で観測できる内在霊力は著しく低下しています」

 

 そんな彼らのやり取りを他所にアルティナが淡々と報告を上げる。

 

「予測稼働時間は縮まったと考えて良いですが、それは取り込まれた市民のタイムリミットは……」

 

 口ごもるアルティナの言いたい事は最後まで聞く必要はなかった。

 

「時間はない……だけど……」

 

 決定打もないこの状況にリィンは顔をしかめて、《零》を睨み――声が響く。

 

「アルグレスの名を借りて、ここに終局を呼ぶ」

 

 未だに煮えたぎっている大地に《零》を中心に魔法陣が広がる。

 

「食らえ、喰らい、貪り、平らげろ――」

 

 次の瞬間、《白》と《蒼》が飛び出した。

 

「終焉を呼ぶ、終末を誘う、終局を求める――」

 

 安全域に逃げた彼我の距離は遠く、《蒼》が前進しながら撃つ銃撃は《零》の邪魔にならない。

 

「黄金の呼び声、靭き大地――」

 

 あまりにも遠く、長い詠唱にも関わらず二人は足りない時間に焦る。

 

「大地に潜む金色の――世界を平らげる長きモノ――」

 

 《白》と《蒼》が手をこまねいている間にもその古代魔法は完成する。

 

「くそっ!」

 

 次の瞬間、《蒼》は《白》の首根っこを掴み、空へ急上昇する。

 

「終極魔法――ヨルムンガンド」

 

 大地が隆起する。

 波打つ土塊はまるで生き物のように蠢き、竜となって《白》と《蒼》がいた空間を押し潰し、その先にいた《灰》と《紅》を呑み込んだ。

 

「クロウ!」

 

「うるせい! 来るぞっ!」

 

 抗議の言葉を黙らせてクロウは大地からの土の隆起を警戒する。

 

「っ――業炎撃っ!」

 

 襲い掛かってくる土くれの竜を《白》は焔を纏う刃で斬り払い、《蒼》はダブルセイバーを抜いて他方から来る土くれの竜を薙ぎ払う。

 《白》と《蒼》は空を縦横無尽に飛び回り、大地から首を伸ばす竜から逃げ惑う。

 

「リィン! 合わせろ!」

 

「ああっ!」

 

 《蒼》がダブルセイバーを投げる。回転して飛ぶ刃は竜の首を纏めて薙ぎ払い、一瞬の猶予を二人に与える。

 

「全砲門展開――」

 

 《蒼》は肩の長砲と両手の銃と腰の短砲を突き出すように構え――

 

「六の型――」

 

 《白》は太刀に焔を宿して陽に構え――

 

「フルバーストッ!!」

 

「緋空斬っ!!」

 

 六つの砲撃と焔の一閃が繰り出される。

 大口を開けて迫る大地の竜は二機の渾身の一撃に正面から挑み、頭を二つに両断されて砕け散る。

 そして――さらに巨大な竜の顎が《白》と《蒼》を呑み込んだ。

 全てを平らげた竜は大地に戻り、無数の竜と絡み合い蠢き合い、平らげたものを深く地に沈め、土くれは岩となりて靭き石へと変じる。

 

 そして――ガレリア山脈が蘇った。

 

 

 

 

 

「――――うおおおおおおおっ!」

 

 神気が爆発させ周囲を固めていた大地を吹き飛ばし《白》は自由を得る。

 

「はあ……はあ……はあ……大丈夫かアルティナ?」

 

「はい……私は大丈夫です……ですが……」

 

 アルティナはリィンの言葉に返事を返しながら、端末を操作して顔をしかめる。

 

「どうした……って……」

 

 リィンは外に意識を向けて、眼下に広がる絶景に言葉を失った。

 まるで故郷のユミルから下界を見下ろすかのような光景。

 平地で戦っていたはずなのに、気付けば《白》は全く知らない山の中腹に立っていた。

 

「《零の騎神》がこれをやったのか……他のみんなは!?」

 

「分かりません……あ……」

 

「どうしたアルティナ?」

 

「《零の魔神》がベルガード門を超えて西クロスベル街道に侵入しました」

 

「っ――」

 

 その報告にリィンは迷う。

 自分と同じように山に埋もれた仲間達を救助するか、それとも進行を続ける《零》を追うか。

 

「…………どうしますか?」

 

「…………《零》を追う」

 

 逡巡の末、リィンはそう結論を出して《白》を飛ばした。

 

 

 

 

「やれやれ……随分と派手にやってくれたものだ」

 

 西クロスベル街道をわざわざ歩いて進む《零の魔神》を空から見下ろすのは《金の騎神》を駆るルーファス・アルバレア。

 更に《零》の進行方向の街道では大型トレーラーから《琥珀の機神》がリフトアップしていた。

 

「みっしぃさん……いえ、アリオスさん。ティルフィングを任せます」

 

 みっしぃの着ぐるみを脱いで《琥珀》に乗ったアリオスはマキアスの言葉にそう返しながらハッチを閉じる。

 本来ならティルフィングは《Ⅶ組》に由来する者達にしか扱えないのだが、マキアスのパーソナルデータを刻んだMクォーツを介する事で一時的にシステムの承認を誤魔化している。

 もっともマキアスが乗るよりも操作の感受性は悪く、《琥珀》は出力を重視した重量機体。

 アリオスの戦い方に適している機体ではないのだが、それを差し引いても自分が乗るよりも戦力になるとマキアスは判断した。

 

「ああ、機体を無事に返せるかは分からないが最善を尽くさせてもらう」

 

 もっともトールズ第Ⅱ分校で機甲兵に乗り慣れたアリオスにとっては武装の差はいくらでも修正できる。

 導力トレーラーから《琥珀》が立ち上がり、備え付けの剣を取り進み出る。

 《零》は足を止めて、空の《金》を見上げ、正面の《琥珀》に視線を降ろし、追い付いて来た《白》を一瞥する。

 

「お前をクロスベルには行かせない」

 

 《白》は《零》の背中に太刀を突き付けて改めて宣言した。

 

 

 

 

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