《白》は――リィン・シュバルツァーは戦場に立ち尽くしていた。
金の雨が降る。
雨に見える十条の光の帯は導力レーザー。
一度大きく広がったレーザーは弧を描いて《零》に殺到する。
《零》は大きく後方に跳んで上から降り注ぐレーザーを回避するが、それは大地に着弾することなく歪曲して《零》を追う。
着弾したレーザーは小爆発を起こして《零》を削る。
「もう一発だ」
《金》は地上に降り立つと横並びにレーザーを撃ち、《琥珀》がそれに並走して《零》に迫る。
「――――っ」
《零》が腕を振ると《幻》の剣群が虚空に生み出される。
剣を弾丸に見立てて射出され、剣群は《琥珀》と金のレーザーに過剰な数の攻撃を浴びせる。
「二の型――柳」
降り注ぐ剣群を《琥珀》は自分に当たるものだけを見極めて剣で逸らして道を切り開いて進む。
突撃の速度を緩めずに駆け抜けた《琥珀》はそのまま《零》の横を斬り抜けて――
「二の型――裏・疾――むっ!」
正面からの一撃と斬り抜けて背中を取った二撃の裏・疾風はそれは知っていると言わんばかりに《零》はその鋼の腕で防ぎ切る。
すかさず反撃の拳を繰り出してくる《零》から《琥珀》は素早く距離を取り、空を切って大地を穿った《零》の拳は爆ぜるように街道にクレーターを作る。
「これ程とは……」
ガレリア要塞の機甲師団と《灰》と《紅》から始まり、《Ⅶ組》と戦いレンに《空》の力を封じられた。
なのに素の防御力だけで《琥珀》の斬撃を防ぎ、膂力だけで道に大穴を開ける《零》の力に舌を巻く。
「どうやら消耗していても油断してはならない相手のようだ」
「ルーファス総督、みっ――アリオスさん、やはり俺も――」
「いいやリィン君。君は森に紛れて機会を伺って欲しい」
リィンの加勢の意思をルーファスが断る。
「総督の言う通りだ」
ルーファスの言葉にアリオスが同意する。
「でも……」
「安心しろ。既にこいつの動きは見切った」
「ああ、これも全てユーシス達のおかげだ」
不安を抱くリィンに対してアリオスとルーファスは自信に満ちた言葉を返す。
「リィン、ここは二人に従った方が良いかと思います」
納得がいかないと言うリィンに対してアルティナが進言する。
「この機体も度重なる戦闘で各所に異常が発生しています……
あとどれだけ戦闘を続行できるか分かりません。そして御二人が言うように“核”を救出するために備える役割は必要でしょう」
「アルティナ……」
懇切丁寧に説明してくれるがリィンも理屈は理解している。
機体の限界が近い《白》は人質を救出する好機に備えて温存する。
理屈は分かる。
だがこれまで《零》の猛攻を見続けてきた身としては、たった二人で《零》と戦おうとしている姿は無謀と映る。
「さて、このままではいつまで経ってもリィン君に心配されてしまうわけなのだが、風の剣聖殿。そろそろ良いかなね?」
「ああ、問題ない。ドラッケンとの差、機体の反応、全て把握した」
「……え?」
まるで今まで本気ではない、肩慣らしだったというアリオスの言葉にリィンは首を傾げ――
「参るっ!」
次の瞬間、重量型の《琥珀》のティルフィングは駆け出し――四体に増えた。
「ティルフィングも分身した!?」
先にレンが乗った《ドラッケン》による八人分身には数が劣るが、それでも《機甲兵》で当たり前の様に分身攻撃を行う姿にリィンは驚く。
「――――っ!」
迫る四機の《琥珀》に《零》は身構え――《琥珀》はそのすぐ横を何もせず素通りした。
思わず《琥珀》の姿を追って振り返った《零》――の背後に《琥珀》が巻き起こした土煙を破り《金》が剣を突き出す。
「ソウルスライサーッ!」
鋭い刺突が無防備な《零》の背中を穿ち、その衝撃に《零》は膝を着く。
「ふむ、ようやく効果的な攻撃が通用したか」
「――――」
《零》は《金》に振り返り――
「私を見ていて良いのかな?」
次の瞬間、《琥珀》の導力砲の砲撃が《零》を吹き飛ばした。
木々を薙ぎ倒す《零》を《琥珀》と《金》は並走して追撃する。
息の合った動きで二機は蛇行して《零》に迫り――
「「双覇十文字斬り」」
交差するように走り抜け、同時に斬撃を浴びせる。
胸に十字の傷が刻まれた《零》は腕を振り回すが、その時にはもう二機は離脱していた。
「まるで子供だね」
「もしかすれば、その通りなのかもしれないな」
ルーファスの呟きをアリオスが肯定する。
強大な力に目が行ってしまいがちになるが、《零》の立ち回りは決して巧いとは言えない。
唯一《零》を無敵にさせていた《空の鎧》もなく、極大魔法がないのなら二人にとってはもはや《零》は脅威にならない。
「では手早く済ませよう」
一方的な戦いが始まった。
《琥珀》は《零》の間合いの見極めて、攻撃を誘発して隙を作り、剣と砲で攻め立てる。
《金》はレーザーを空に放ち、剣で攻め時間差で更に追い打ちを掛ける。
「……凄い」
二人の戦いぶりにリィンは見入ってしまう。
立ち回りもそうだが、何より驚くのは戦術リンクを繋いでいないのに至っている完璧な連携。
相方の邪魔をせず、さりとて自分の行動を制限せず、相方の能力を引き出すように協力する。
まるで旧知の仲のような戦いぶり。
もっとも二人にとっては、友愛の連携ではなく理詰めの連携に過ぎなかった。
「このまま押し切る」
想定以上に手応えに《琥珀》と《金》の攻撃は激しくなる。
堪らず距離を取った《零》は魔法陣を展開して――膝を着いて不発させた。
「ルーファス総督っ!」
「ああっ!」
《琥珀》と《金》は左右から突撃し、“核”がある胸を外して腰を交差するように突き刺す。
「おおおおおっ!」
「プラドー! このまま押し込めっ!」
二機はそのまま《零》を押し込み貫通した刃で巨木に縫い付ける。
「――――――」
《零》はもがき苦しむように腕を振り回し、《琥珀》と《金》の頭を掴む。
しかしそこにはもう握り潰すだけの力はなく――
「どうやらこれで終わりのようだな」
「ああ、そのようだ……はあ、今から事後処理を考えると頭が痛むよ」
アリオスとルーファスは光が消えていく《零》の目に終わりを確信して――
『因果逆転――クレセントミラー』
触れた手を起点に不発したと思わせた術が駆動し、幻の刃が《琥珀》と《金》を貫いた。
*
「…………え……?」
自分が出る幕もなく《零》の無力化と拘束に成功したと思われた瞬間、リィンの目の前で結果が組み変わったかのように幻の刃に貫かれて《琥珀》と《金》が崩れ落ちる。
《零》は二本の剣を突き刺したまま、剣を放そうとしない二機の首を掴んで軽々と持ち上げる。
次の瞬間、《零》から溢れた緋色の霊力が《琥珀》と《金》を包み込み――
「《ティルフィング》と《エル=プラドー》の霊力が減少、代わりに《ゾア・ギルスティン》の霊力が回復していきます」
「っ――」
アルティナの報告にリィンは息を呑み、《白》を走り出させていた。
だが距離を取っていた事が災いする。
《白》が辿り着く前に、《零》は突き刺さった二本の剣を何事もなかったように自分から引き抜く。
そこに傷痕はなく、引き抜いた剣をそのまま、まず《琥珀》の頭上に振り上げる。
「やめろおおおおおおおっ!」
リィンの絶叫が響き渡り――それに応える声が《白》の中に響いた。
「――任せろ――」
蒼天から降り注いだ一条の光が《零》の振り下ろさんとした右腕を吹き飛ばした。
「狙撃!? その声はクロウ!? 何処から!?」
「分かりません。導力レーダーの範囲外からの狙撃です」
驚くリィンとアルティナを他所に、新ガレリア山の頂上で片膝を着いて狙撃銃を構える巨大な《蒼》の姿があった。
「す、すごいです。クロウ先輩。この距離を一発で当てるなんて……」
観測主をしていた《ケストレル》のミュゼは遠く離れた場所で見事に《零》の右腕を奪う事に成功したクロウの狙撃の腕を賞賛する。
「はっ、当然だ」
「クロウ先輩! 今の一撃でライフルの全体がオーバーヒート! 連結した加速器にも異常が!」
「クロウ先輩! こっちも……くっ……戦術リンクが引きちぎれそうです!」
「そのまま根性であと一発持たせろ!」
泣き言を叫ぶクルトとユウナをクロウは一喝して黙らせ、クロウはライフルのシステムで拡大された《零》の姿を睨む。
「――っ《ゾア・ギルスティン》が動きます――ええっ!?」
同じものを見ていたミュゼは《零》の動きに目を疑う。
左手に握ったアルバレア家の宝剣を模した剣を振り被る《零》。
どれだけの距離があるか、どれだけの高低差があるのか、分かっていないのだろうかとミュゼは訝しみ――
「術式限定解放――《空の翼》」
片腕が吹き飛んだ事により封印が緩み《空》の力が行使される。
空間圧縮による反動を利用した超高速移動。
騎神と比べて小さな剣は一直線に飛び、距離も高さも無視して刹那で《蒼》の頭部に着弾した。
「…………え……?」
《零》の奇行を訝しんだミュゼは隣から聞こえた破砕音に振り返り、唖然とする。
「――――ここっ!」
顔を半分抉られながらもクロウは目を逸らさずに引き金を引き絞る。
撃ち出された弾丸は空を翔け、ライフルは爆発し、それに加えて弾けるようにオルカイザーの合体は爆発するように強制解除された。
「クロウッ!?」
新ガレリア山の山頂の上で立ち昇る黒煙にリィンが目を奪われ、遅れて投擲から体を起こした《零》の胸に《蒼》が撃った渾身の弾丸が命中して仰け反る。
「うおおおおおおおっ!」
同時に森の中から《ヘクトル》が飛び出した。
前へ、前へと機関銃を乱射しながら突撃する《ヘクトル》。
右足に弾丸を集中させ、《零》の足の装甲は砕けて膝を着く。
「ぶちまけろ――」
アッシュは叫び、《ヘクトル》は銃撃を中断し、もう一つのトリガーを引けばけたたましいエンジン音が鳴り響く。
「テスタ・ロッサッ!!」
Ⅶ組がラインフォルトから受け取りティータに渡し、彼女が組み立て持たせた新武装が一閃され、狙撃で亀裂が走った《零》の胸へと叩き込まれる。
「ぶっ壊れちまいな!」
回転する刃の鎖が激しい火花を散らして《零》の胸を削る。
しかし――
「――うおっ!?」
胸を削られながらも《零》は左の拳に振り上げて《ヘクトル》の頭を潰す。
「――行けっ! リィンッ!」
アッシュの叫びを受けて、リィンは彼らを案じるよりも先に《零》へと斬りかかる。
仰け反り倒れる《ヘクトル》を跳び越すと同時に突きを放ってその場から突き飛ばし、空間を作る。
「八葉一刀流・七の型――」
リィンは《零》の胸の亀裂から覗く“核”を見据えて太刀を振るう。
「――無想覇斬!!」
一瞬七斬の斬撃が全て《零》の胸に叩き込まれて、その堅牢な装甲は斬り飛ばされ“核”が剥き出しになれば《白》は太刀を投げ捨てて《零》の体に手を突き入れる。
「おおおおおおおっ……!」
そのまま力任せに掴んだ“核”を《零》から引きちぎり、大きく後ろに跳んで距離を取る。
“核”を奪われた《零》は項垂れるように膝を着いて――
――まだ――
リィン達の脳裏に声が響く。
“核”を失い停止するはずの《零》の装甲に禍々しい紋様が浮かぶ。
「っ……第二形態!? いや……これは《鬼の力》!?」
咆哮を上げて立ち上がる《零》にリィンは絶句する。
しかし禍々しい霊力を迸らせた《零》は踵を返すと、《白》や周囲に倒れる《琥珀》と《金》を無視して空へと飛んだ。
「何処に――しまった!」
《零》の目標を思い出してリィンは焦り――
「大型の飛行物体が接近!」
アルティナの報告の叫びが示すように、空に飛んだ《零》はどこからともなく飛来した巨大な二つのブーメランに強打されて墜落した。
「え……?」
風が吹き荒れる。
《白》の頭上に“黒い翼”が駆け抜け――《零》を打ち落としたブーメランは崖の上に佇む“黒い機械人形”の両手に納まった。
「黒い……テ――ティルフィング?」
突然現れた黒い“カレイジャス”に似た飛行艇と黒い“ティルフィング”の登場にリィンは戸惑う。
「こちら《鉄血の騎士》。これより戦闘に参加する」
一方的な宣言が通信に流れると、巨大なブーメランを両手に仁王立ちしていた《黒のティルフィング》が動く。
投擲された二つのブーメランが墜落した《零》を吹き飛ばす。
《黒》はブーメランに追従するように大地を駆け、双銃剣を乱射して突撃する。
「リーサルクルセイド」
ブーメランの二撃と銃撃を受けた《零》は正面から突撃して来る《黒》に拳を振るう。
だが、《黒》はするりとその一撃を躱して《零》の背後を取ると抱き着くように片腕で羽交い絞めにして、もう一方の腕で《零》の胸に空いた穴に銃剣の刃を突き刺して、引き金を引く。
連続する炸裂音。
弾倉一つ分を体内に連射された《零》は体を大きく震わせ――力任せに組みついた《黒》を振り解く。
「鉄砕刃」
空から新たな《黒のティルフィング》が降ってくると、巨大な鉄塊を思わせる大剣が《零》の頭を潰す。
それでも倒れる事を拒む《零》に《黒》は大剣に洸を纏い――
「洸刃乱舞」
大剣の乱舞が《零》を滅多切りにして吹き飛ばし――
「セブンラプソディ」
七つの力場が《零》を囲い、七連の爆撃が襲う。
そして倒れた《零》の前に更に新たな《黒のティルフィング》が立つ。
他のティルフィングにはあった翠や青、赤の差し色すらない全身《漆黒》のティルフィングは腰の軍刀を抜き放つ。
「百式軍刀術――黒焔撃」
黒い焔を纏う一閃が《零》の首を斬り飛ばした。
《零の魔神》被害状況
ガレリア要塞 消滅・焼失
鏡の城 消滅
帝国軍二個師団 壊滅
紅の機神 中破
Ⅶ組+キーア
《白》 ケストレル 小破(ただしオーバーホールの必要あり)
ヘクトル 中破
《蒼》《灰》 ドラッケン シュピーゲル 大破
公安七課及びクロスベル総督府
《琥珀》 中破
《金》 中破
その他
ガレリア山 誕生
鉄路 寸断
マリアベル 重傷
死傷者 0
プライスレス
ティータのたんこぶ
ミハイル、トワの胃痛
エリゼの心労