閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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界の軌跡
リィンが何か残火の太刀みたいな技を使ってる
クロウとトワだけど機甲兵の相乗りをしている
ルーファスが奇剣を派手に使ってる

とりあえず問題はなさそう

しかし、また遊撃士擬きの職業が増えたけど、クロウのような元テロリストという前科持ちが任されて良い仕事なのか?


53話 先輩達

 

 

 

 宿酒場《バーニーズ》。

 そこには珍しい客が三人いた。

 一人は一番背が高いがトールズ第Ⅱ分校の制服を着たクロウ。

 もう一人は一番背が低く、見た目は子供だが身綺麗な白いスーツを着たトワ。

 そしてもう一人はラフな恰好をした太った青年、ジョルジュ。

 

「ククク……本当に一年生をやり直しているんだクロウ」

 

 ジョルジュはまだ学生をしている元同級生の制服姿にジョルジュは笑わずにはいられなかった。

 

「うるせえよ、そのネタはもう飽きたっての」

 

 クロウは不貞腐れてジョッキに口を付ける。

 

「ねえクロウ。写真撮って良い? 導力ネットのグループラインで同級生のみんなと共有するからさ」

 

「ふざけんな! 絶対にするんじゃねえぞ!」

 

 ジョルジュの提案をクロウは全力で拒否する。

 もっともジョルジュも本気ではなかったのか、それ以上の無理強いをする事はしなかった。

 

「はは! 何だか思っていた以上に元気そうで安心したよ。改めて久しぶりだねクロウ……」

 

「…………ああ」

 

 ジョルジュの言葉にクロウは頷く。

 

「わたしたちがこうして集まれたのは……いつ以来だったかな?」

 

 三人で卓を囲んでいる事にトワは感慨深く振り返る。

 

「たしか、二年前のガレリア要塞での特別演習の時が最後かな?」

 

「そうだったか? 内戦が終わった後はバタバタしてたからな」

 

 ジョルジュの言葉にクロウは適当に頷く。

 

「クロウ君、そうだったか――じゃないよ! あの時はクロウ君達の襲撃でクロウ君が死んだ事になって大変だったんだからね!」

 

「そんな事もあったなぁ……」

 

 トワが怒り出してクロウも思い出を振り返る。

 クロスベルで行われた第一回西ゼムリア通商会議に合わせて行われたトールズ士官学院一年生の引率としてクロウ達は当時のガレリア要塞にいた。

 貴族派の手引きで導力戦車を暴走させ混乱を作り、飛行艇で強襲を掛けて列車砲を占拠。

 その列車砲を使って通商会議に出席したオズボーンを撃つ算段だった。

 それこそ、目の前のトワを巻き込む事も、クロスベルの市民や各国の首脳陣が巻き込む事も厭わずに。

 

「そんな事も、じゃないよ!」

 

 筆舌し難い顔で睨んで来るトワからクロウは視線を逸らしながら、横目でトワの顔をまじまじと見る。

 

「それにしても……」

 

 何度自分はトワを成り行きで殺そうとしたのか振り返る。

 二年前のオルキスタワーでは列車砲でオズボーンもろとも、更にはカルバードのテロリストから提供された戦略級導力爆弾でクロスベルもろとも。

 それらが失敗し、オズボーンを護るために立ち塞がったトワにオルディーネで攻撃を仕掛け、人質に取り、更には《C》の正体に気付かれた口封じでオルキスタワーの屋上から投げ捨てた。

 その後もトールズ士官学院を強襲し、トワだけではなくジョルジュも巻き込む大技を繰り出した。

 

「…………俺って最低じゃね?」

 

「何を今更……」

 

 クロウの呟きにジョルジュは肩を竦めて呆れため息を吐く。

 

「って言うか何でお前ら、こんな最低な奴といつまでも縁を切らねえんだよ?」

 

 クロウはこれまで触れて来なかった話題を切り出した。

 トワとジョルジュは互いに顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。

 

「おい……何だよ。その意味深なやり取りは?」

 

「いや、ようやくクロウの方から踏み込んできてくれたなって思ってね」

 

「これも《Ⅶ組》に参加したおかげかな? 入学式よりずっといい顔をするようになったよクロウ君」

 

「けっ……」

 

 まるで見透かした保護者のような態度にクロウは思わず悪態を吐く。

 

「それで、僕たちがクロウと縁を切らない理由か……」

 

 不貞腐れたクロウの態度に気を悪くする事なく、むしろ懐かしさを感じたようにジョルジュは続ける。

 

「そもそも僕達にとって、クロウがテロリストをしていた事は裏切りじゃないからかな?」

 

「おいおい、ジョルジュ。それは……」

 

「だってそうだろ?

 別に僕達は《帝国解放戦線》と直接戦ったわけじゃないし、クロウと帝国を良くしようなんて未来を語り合ったわけじゃない……

 騙して犯罪の片棒を担がされていたならともかく、クロウが貴族派だった事を責める理由にはならないよ」

 

「だけど、俺は――」

 

「ねえ、クロウ君」

 

 言い返そうとした言葉はトワによって遮られる。

 

「クロウ君はまだオズボーン宰相に復讐したいと思ってるの?」

 

 その問いにクロウは顔をしかめ――ジョッキを呷ってから重い口を開く。

 

「正直、分かんねえ」

 

 それが内戦が終わってから今日まで考え続けて来たクロウの答えだった。

 

「あの時はただ、周りの声に釣られて何も考えずオズボーンを憎んで……

 たぶん復讐なんて口実で、祖父さんの事件の真実もどうでも良くて、怒りの矛先を向けて暴れられるなら誰だって良かった……んだと思う」

 

「クロウのお祖父さんか……」

 

「たしかジュライの鉄道爆破を疑われた話だよね?」

 

「ああ……ジュライの噂話ではオズボーン宰相が前後のタイミングが良すぎるから真っ先に疑いを向けていたが所詮は遠い帝都の宰相の話だからな……

 噂の尾びれが付くなら近場の祖父さんが槍玉に挙げられたって事なんだろうよ」

 

「その噂話をクロウは信じたんだよね?」

 

「まあな……だけど調べてみればジュライの鉄道を爆破して犯人の噂話なんてオズボーンだけじゃなかったんだぜ」

 

 オズボーン以外で真っ先に上がるのは、鉄道網が敷かれた事で必然的に海運貿易が衰退したジュライの南に位置するオルディス。

 ノーザンブリアとの海運業が滞っている事を良い事に、重い関税を吹っ掛けて利益を得ていたのはクロウを《帝国解放戦線》と引き合わせたクロワール・ド・カイエンに他ならない。

 

「帝国政府に併合された後に、祖父さんの代わりにジュライ市長に任命された野郎とかもだな……

 これはクロスベルでも似たような事件があったらしいな」

 

 クロスベルでは未然に防がれた事件。

 共和国の暗殺者に市長を殺されたと罪を被せて、市長の秘書が企てた暗殺計画。

 ジュライの鉄道爆破事件がそれと同じなら、どうだろうか?

 帝国への併合後に市長の座を欲しさに鉄道爆破の罪を祖父やオズボーンに被せ、悠々と権力者の椅子に座った誰かがいたとしたら……

 

「もっとも十数年も前の話だ……

 今更本当の真実がどれかなんて、いくら調べたところで俺に見つけられるはずねえんだがな」

 

 疑い出せばそれこそ噂の数と共に犯人の候補は出て来る。

 

「それに笑えるぜ……

 今のジュライじゃ。鉄道爆破の犯人は俺だって噂があるんだぜ。当時何歳だと思ってるんだか、ははは!」

 

 クロウは思わずそんな噂話まで出回っている事を笑う。

 だがジョルジュとトワは笑えなかった。

 

「オズボーン宰相は何って言っていたの?」

 

「あのクソひげは相変わらず疑いたければ好きにすれば良いとしか言わねえんだよ」

 

 結局、ジュライの事は何も語ろうとしないオズボーンのせいでクロウは気持ちの落ち着け先を今でも迷走させていた。

 

「オズボーン宰相にはそういうところがあるよね……

 クロウには悪いけど、ヴァルカンという元猟兵の動機なんて完全な逆恨みだったと思う……

 なのに弁明を一切しないのは潔いのかもしれないけど、余計な混乱を助長させているようにも見える」

 

 クロウの愚痴にジョルジュはオズボーンの不自然さを口にする。

 

「徹底した対処をするかと思えば、彼のような生存者を残して争いの火種を残していたようにも感じるんだ」

 

「奴の不幸を考えれば、猟兵なんて見逃す理由なんてないしな……」

 

 ハーメルで知ったオズボーン家の事件をクロウは思い出す。

 貴族派に雇われた猟兵に妻子を殺された。

 ヴァルカンがその猟兵ではないだろうが、オズボーンには貴族派に猟兵に復讐する動機があり、例え何を巻き込んで果たそうとしても同じ事をしたクロウがそれを間違っていると指摘する資格はない。

 

「あーくそっ! やめだやめ! あんなくそひげ親父の話なんてやってられるか!」

 

 これ以上は考えたくもないとクロウは話を打ち切る。

 ジョルジュもトワもそれ以上の追及はせずに話題を変える。

 

「ジョルジュ君はとりあえず七月まで《第Ⅱ》にいてくれるんだよね?」

 

「うん、主にオルディーネの調整のための専属としてね」

 

「別に必要ないんだけどな。《騎神》は基本的にメンテナンスなんていらないし」

 

「一応、《第Ⅱ》の生徒達のためでもあるんだよ……

 夏至祭のレースのため、生徒達には《機甲兵》に集中させたいってシュミット博士の要望なんだ」

 

「あの偏屈な爺さんがな……」

 

「そう言う事だから二ヶ月くらいお邪魔させてもらうよ……

 クロウの夏至祭のレースのサポートもだけど、オルディーネについての要望も可能な限り聞くように政府からもお願いされているから」

 

「…………ああ」

 

 ジョルジュの手伝いをクロウが拒む理由はない。

 正体を明かし、内戦を経ても本校の時と同じように接してくれる稀有な友人にクロウは感謝する。

 

「…………なあジョルジュ、トワ……」

 

「ん、何だい?」

 

「どうしたのクロウ君?」

 

 クロウの呼び掛けにジョルジュとトワはあの頃の様に振り返る。

 

「その…………何だ……」

 

 その二人にクロウは内戦が終わってからずっと言ってなかった言葉を口にする。

 

「………………悪かった……」

 

 それは顔を背け小さくか細い謝罪の言葉だったが、確かに二人の耳に届いた。

 

「ようやく謝ったか」

 

「ふふ、次はアンちゃんに謝らないとだね」

 

「おいおい、気が滅入る事を言うなよ」

 

 謝罪を受け入れてくれた二人にクロウは安堵し、顔を一変させた。

 

「ジョルジュ、トワ……実は折り入って頼みがあるんだ」

 

「頼み……それってもしかして……」

 

「クロウ君……うん、わたしたちが出来る事なら喜んで協力するよ」

 

 神妙なクロウの顔にジョルジュとトワは気を引き締める。

 おそらくはリィンと同じように《騎神》の力不足についての悩みだと推測する。

 二度に渡る特別実習では《騎神》でありながらも大破する程に厳しい戦いを繰り広げて来た。

 この先の戦いを乗り切るため、《オルディーネ》の強化は必須だと二人は考える。

 

「そうか……じゃあ、わりぃけど金貸してくれねえか?」

 

「…………」

 

「……………………」

 

「いやー今日の夏至祭予選レースを外しちまってさぁ……

 正直、ここの食事代を払ったらもう素寒貧で、明日からどうするか悩んでたんだ」

 

「クロウ……」

 

「クロウ君……」

 

「来月の給料が出たら必ず返すから、な!」

 

 トールズの時と同じ気安さと馴れ馴れしさで金をせがむクロウに懐かしさと呆れをジョルジュは感じる。

 

「クロウ君……」

 

 そしてトワはにっこりと笑い、告げる。

 

「クロウ君、正座」

 

「へ……?」

 

「クロウ君、正座」

 

「いや、ここは店だし。周りの迷惑が――」

 

「じゃあ外の石畳の上で正座だね」

 

 笑顔のままトワは有無を言わせない迫力にクロウは逆らう事はできなかった。

 

 

 

 

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