閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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57話 ラマール州Ⅱ

 

 

「うう……」

 

 リィンは顔を蒼白にし、海の見える公園のベンチで項垂れる。

 

「シュバルツァーがここまでおかしくなるのは珍しいな」

 

 そう言いながらアッシュは《ARCUS》で揶揄うようにリィンの写真を撮る。

 

「むー」

 

「アッシュさん……」

 

 それを見咎めるようにアルティナはジト目を向け、《クラウ=ソラス》が現れて壁となる。

 

「意外だな。リィンにも苦手なものがあったのか」

 

 クルトは妙な関心をして、原因を考える。

 

「車に酔ったってことはないと思うから……この独特な海の匂いかしら?」

 

 ユウナも初めて経験する潮の匂いにリィンが気分を悪くした理由を推測する。

 

「むうー」

 

「しかしリィンがこれじゃあ演習はどうすっかな?」

 

「むむむうー!」

 

 頬を膨らませて子供のような抗議をするミュゼに一同はため息を吐く。

 

「おいミュゼ。いい加減機嫌を戻せよ」

 

「クロウ先輩はそれで良いんですか? 貴方だって海の街の出身のはずなのに」

 

「そんな事言ったって仕方ねえだろ?」

 

 クロウはミュゼの文句に懐かしいものを感じる。

 オルディスはクロウにとって縁が深い。

 ジュライから流れて辿り着き、前カイエン公とヴィータに見初められた始まりの場所。

 そして前任の《Ⅶ組》として四人で特別実習を行った場所でもある。

 その時も、初めての海にはしゃぐ者や戸惑う者がいた。

 

「むう……」

 

 クロウの賛同を得られなかったミュゼはまたむくれてしまう。

 故郷に帰って来た反動なのか、学園にいる時とは違って随分と子供っぽくなっている。

 一同はその姿に親しみを感じるが、改めてリィンに向き直る。

 

「で、どうすんだこのポンコツは?」

 

「ポ、ポンコツって言うな……俺なら大丈夫だ……」

 

 アッシュの言葉にリィンは蒼白な顔のまま立ち上がる。

 

「全然大丈夫そうに見えないわよ」

 

「とりあえずお前は導力車で留守番だな」

 

「留守番って……俺は本当に大丈夫だ」

 

 クロウの決定にリィンは異を唱える。

 

「別に元々誰か導力車の番をする必要はあるんだから気にすんな。むしろサボれてラッキーくらいに思っとけ」

 

「そんなわけにはいかないだろ」

 

 そう言うもののリィンの顔色は悪い。

 一同は無理をしているリィンを宥めようとして――

 

「ちょっと良いかな?」

 

 蒼く長い髪の女性がおもむろに一同の中に割って入り、リィンの前に進み出る。

 

「あ……貴女は……」

 

「う~ん……ちょっと箍が緩んでいるかな?」

 

 蒼い女性はリィンの診断するように額に触れて、両手で頬を首筋を撫でて行く。

 

「うん、これで」

 

 蒼い女性はリィンの額に指を当て、何かを唱えるとそこに微かな光が灯り、弾けた。

 

「あ……」

 

「リィンの顔色が……」

 

 蒼白だった顔に血の気が戻り、リィンは元に戻った体を確かめるように見下ろしてから、蒼い女性に向き直る。

 

「ありがとうございます。ダーナさん」

 

「どういたしまして、元気そうで良かったかな」

 

 蒼い女性はリィンに微笑みかけるとそのまま慣れた仕草でリィンの頭を撫でる。

 

「ちょ――やめてください」

 

「ふふ、照れなくて良いのに」

 

 リィンの反応に蒼い女性は笑う。

 

「ダ、ダーナお姉様……」

 

 突然の女性の出現に驚いている一同の中で、ミュゼは戦慄と共に声を掛ける。

 

「ミュゼちゃん。お帰り」

 

「お帰りじゃありません! どうしてダーナお姉様がリィンさんとそんなに親し気なんですか!?」

 

 捲し立ててミュゼは詰め寄り問い質す。

 

「どうしてって……」

 

「ダーナさんは霊脈の調査でユミルに来てくれた時に知り合ったんだ」

 

「ユミルに行く……まさか私が女学院を退学した後にそんなことが!?」

 

「うん……エリゼちゃんに相談されて霊脈や地盤、それに大樹の事を調べに、エリゼちゃん達にとっては春休みの時に……」

 

「なっ!?」

 

 ダーナの言葉にミュゼは言葉を失う。

 

「またシュバルツァーの姉を名乗る奴が増えたか」

 

「けっ、どこまで弟ブルジョワジーを更新するつもりなんだか」

 

「二人とも、ダーナさんはシズナ姉さんとは違うから」

 

 毒を吐くアッシュとクロウにリィンは肩を竦める。

 

「ダーナさんは……

 ユン老師にボコボコにされた俺を手当てしてくれたり、

 ヴィクター師にメタメタにされた俺を手当てしてくれたり、

 マテウス師にギタギタにされた俺を手当てしてくれたり、

 時にはシズナ姉さんの相手をして、俺を守ってくれたり……とにかくとても良い人なんだ」

 

「お、おう……」

 

「お前も苦労してんだな」

 

「それにこの太刀だってダーナさんが造ってくれたものなんだ」

 

 誇らしげにリィンは入学前にエリゼから受け取った太刀を差し出して見せると、ミュゼは衝撃を受けたようによろめいた。

 

「そんな……あの時、あと一ヶ月女学院に残っていればそんな絆イベントが発生していたなんて!?」

 

「絆イベント……?」

 

 ミュゼの言葉にアルティナは首を傾げる。

 

「これが耽美な世界とは違う、NTRと言うものですか!?」

 

「エヌティーアール?」

 

「ミュゼ、あんた何言ってるのよ?」

 

 頭を抱えて悶えるミュゼにアルティナとユウナはひたすらに困惑する。

 

「はっ……寝てから言えよ。だいたいどっちかって言えばBSSじゃねえか?」

 

「今度はビーエスエスか……一体何なんだそれは?」

 

「そいつはな……」

 

 聞き返したクルトにアッシュはにやりと笑い、耳打ちをする。

 それに興味を抱いたアルティナとユウナも顔を寄せて、その略称の意味を説明される。

 

「なっ!?」

 

「ちょっとミュゼ! こんな往来で何言っているのよ!?」

 

「ミュゼさん、やはり貴女は不埒な人でしたか」

 

 三人の批難の目にミュゼは我に返り、誤魔化すように咳払いをする。

 

「こほん、お久しぶりですダーナお姉様。お元気そうで何よりです」

 

「うん、ミュゼちゃんも元気そうで安心したかな……

 おじいさまもおばあさまもクロスベルの事件に巻き込まれたって知って心配していたんだよ」

 

「ええ、もしも時間が空けば顔を見せに行きます」

 

 少し怒った素振りをするダーナにミュゼは素直に頭を下げる。

 

「それでお姉様はどうしてこちらに?」

 

 そして改めて要件を尋ねるとダーナは一同を見回して答えた。

 

「領邦会議への案内役としてイーグレット家より派遣されましたダーナ・イーグレットです……

 いつも妹がお世話になっています。ようこそトールズ第Ⅱ分校の皆さん、オルディスへ」

 

 ミュゼがしたように歓迎するダーナの立ち振る舞いに《Ⅶ組》は戦慄する。

 

「ミュゼが妹!?」

 

「女郎蜘蛛の姉のくせに腹黒じゃないだと!?」

 

「二人ともそれはダーナさんにあまりにも失礼じゃないか?」

 

「うーん、ミュゼちゃん。貴女は士官学院でどんな風に過ごしているのかな?」

 

「あ……あははは……」

 

 ダーナの問い掛けにミュゼは明後日の方向を向いて笑うのだった。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、災難だなユーシス」

 

 カイエン公爵家城館。

 会議室から別室に移動したパトリックは会議で槍玉に挙げられていたユーシスを労う。

 

「すまないね。フォローしようとは思ったんだが……」

 

「気にするな。あの程度の誹謗中傷など慣れている」

 

 気丈に振る舞うユーシスにパトリックはため息を吐く。

 

「しかし、貴族の存亡が危ぶまれる今、いったい何を考えているんだろうね……」

 

 一足先に部屋に戻り寛いでいたアンゼリカは先の会議の事を思い出して疑問を浮かべる。

 

「ユーシス君が本当にヘルムート・アルバレアの血を引いているのか……

 実際の所、どうなんだいユーシス君?」

 

「アンゼリカ先輩、それは……」

 

 アンゼリカの単刀直入の質問にパトリックは苦言を挟もうとしてユーシスに手で制される。

 

「俺に言われても困るとしか言えませんね……

 母は俺を身籠り、出産した時にはアルバレア家から離れていた。俺がヘルムート・アルバレアの息子であるというのは母の遺言によるものですから」

 

 それはある貴族が唐突に会議に上げた疑問。

 出生の疑惑から、血の繋がりがないならユーシスがアルバレア家の当主になっている事への疑問に繋がり、不信感を募らせた状態で会議は行われた。

 

「まあ、子供が親との血縁を証明するのは難しい事だね。かく言う私も何度父上との親子の関係を疑われた事やら」

 

「アンゼリカ先輩のとは違うと思うんですが」

 

 笑い飛ばすアンゼリカにパトリックは肩を竦める。

 

「あまり気にするなユーシス。老人たちはたぶん本気でユーシスを失脚させることまでは考えていないはずだ」

 

 パトリックは己の考えを言葉にする。

 

「革新派側からの信頼が厚く、皇族の《機甲兵》である《ティルフィング》を借り受けている君は四大名門の中で次代の筆頭と最も有望株とされている……

 貴族がなくなったとしても君の地位は揺るがないものとなりつつある……

 それに老人たちが嫉妬しているんだろうし、僕たちが若造が会議を仕切っているのも面白くないんだろう」

 

 僕は当主の代行に過ぎないけどね。

 と、自嘲するようにパトリックはおどけてみせる。

 

「ただの嫌がらせと言うわけではないだろう……」

 

「ほう……それはいったいどういう――」

 

「失礼します」

 

 アンゼリカの言葉を遮って一人のメイドが部屋に入って告げる。

 

「ダーナ様が《Ⅶ組》の方々と共に御到着しました」

 

「そうか、分かった。通してくれ」

 

 ユーシスは話をそこで切り、メイドに指示をする。

 

「ユーシス……」

 

「大丈夫だ。それよりアンゼリカ先輩の心配を今はするべきだ」

 

 ユーシスの指摘にパトリックはアンゼリカの顔を見る。

 

「先輩、公爵家城館で刀傷沙汰はやめてくださいよ」

 

「ふむ、それはあの阿呆次第としか答えられないな」

 

 剣吞な空気を纏い始めたアンゼリカにユーシスとパトリックはため息を吐いた。

 

 

 

 

「こちらが四大名門の領主様たちの控室になります」

 

 ダーナに案内された部屋を前に、リィンとクルト、アルティナの三人が突然身構えた。

 

「ちょっと三人共どうしたのよ!?」

 

 ユウナは慌てて三人の奇行を咎めるが、今にもそれぞれの得物を抜こうとしている三人は油断することなく応じる。

 

「扉の向こうから殺気を感じる」

 

「殺気?」

 

 クルトの言葉にユウナは首を傾げて扉を見る。

 調度の良い、いかにも高そうな扉。

 しかしいくら凝視してもクルト達が言う殺気をユウナは感じる事はできなかった。

 

「本当に? 公爵家の城館なんでしょ? 警備だって完璧なんじゃないの?」

 

「それは……そうなんだが」

 

 ユウナの言い分にクルトは揺れる。

 その様をクロウは一笑して、進み出る。

 

「安心しろって、たぶん誰かに潜入されたとかじゃねえ……殺気を向けられているのはたぶん……俺だ」

 

 そう言ってクロウは適当にドアをノックし、その向こうにいるだろう人達の返事を待たずに扉を開けた。

 

「おう、入るぜ」

 

「クロウ……」

 

 失礼な入室を咎めようとリィンはクロウの肩を掴もうとして息を呑む。

 扉一枚の隔たりがなくなった事により、直接向けられる事になった殺気。

 

「やあ、クロウ。随分とマシな顔になったようだね」

 

 殺気の主は椅子から立ち上がり、友好的な笑みを顔に貼り付けてクロウを歓迎して歩み寄る。

 

「ああ、おかげさまでな。そっちは相変わらずみたいだなゼリカ」

 

 ユウナ達も直接それを目の当りにして、思わず身構える。

 が、そんな彼女たちの事など眼中にないとばかりにアンゼリカはクロウに話しかける。

 

「安心したよ。あの時は小突いたらそれだけで死にそうな目をしていたからね……今は死んだ魚のような目をしているが」

 

「おいおい、それはどっちがマシなんだ?」

 

 にこやかに笑っているのにリィン達は背筋に冷たいものを感じずにはいられない。

 

「さて……リィン君やミュゼ君たちをこれ以上困らせるわけにはいかないから単刀直入に言おうクロウ……

 歯を食いしばれ」

 

 左手をクロウの肩に置き、アンゼリカは見せつけるように右手で拳を握り込む。

 

「お、おい!」

 

「止める必要はない」

 

 思わず口を挟もうとしたリィンだが、ユーシスの言葉がそれを止める。

 

「理不尽に見えるかもしれないけど、彼女とクロウは同じ学年だった同級生でね……内戦のケジメという意味では僕たちが口を挟んで良い事じゃない」

 

 ユーシスに続いてパトリックも椅子に座ったまま、アンゼリカの行動を肯定する。

 

「この人が……クロウ先輩の同級生……」

 

「学年が下がる前のか……」

 

 パトリックの説明にユウナとアッシュはアンゼリカとクロウを交互に見て、武器に添えていた手を下ろす。

 

「ゼリカ……」

 

「言い訳を聞くつもりはないぞ。例えトワやジョルジュが君を許したとしても、私は――」

 

「分かってる。許しは乞わねえ。殴って気が済むなら一発と言わずいくらでも殴られてやる」

 

「ほう、クロウにしては殊勝な態度じゃないか」

 

「だが、殴るかどうかはこれを受け取ってから決めてくれ」

 

 そう言ってクロウがおもむろに取り出したのは厚さのある封筒だった。

 

「それは……まさかそんなもので私が受け入れるとでも思ったのか?」

 

 差し出された分厚い封筒。

 あからさまな賄賂にアンゼリカは不機嫌になって眦は上がる。

 

「なあゼリカ。俺さ……今《第Ⅱ》で部活動をしているんだ」

 

 そして唐突に始まるクロウの語り。

 

「俺が本校に通っていた頃はさ……

 《帝国解放戦線》の仕事や貴族派からの呼び出しとかでサボってばかりで部活動なんて参加すらしてなかっただろ?

 今も帝国政府の“要請”のせいで学院にいる時間は少ないんだが、それでもこの前、部活動をしたんだ」

 

「…………」

 

 語るクロウにアンゼリカは無言で右手を固めている。

 

「リィンの部活の数合わせでしかなんだが、写真部に所属しているわけだが……ゼリカ、この意味がお前なら分かるだろ?」

 

「……写真部……だと……」

 

 その言葉にアンゼリカはわずかな動揺を見せ、クロウの手の中にある分厚い封筒に視線を送る。

 紙幣が入っていそうなあからさまな分厚い封筒。

 しかしクロウの語りを信じるのならば、その中身はミラではない。

 

「写真の対象はその時々でな……

 この間はテニス部の写真を撮りまくっていたんだ」

 

「テニス部!?」

 

「ただのテニス部の活動じゃないぞ。暇な生徒達を集めたちょっとしたイベントだった。当然、トワの奴も参加していたな」

 

「…………いや、私は騙されないぞ。貴様がトワや第Ⅱの女子生徒のあられもない写真を盗撮していたのなら、私が今ここで、君を討つっ!」

 

「おいおい、早とちりするなよ。写真部の活動はリィンがメインで俺はおまけに過ぎないってな……

 部活で撮った写真は先にトワ達に任せて検閲しているから……まあ、お前が望むような写真は少ないかもしれないがな」

 

「ふ……ならば話にならないな」

 

「だがなゼリカ、この封筒のテーマは――“脚”――だ」

 

「――“脚”――だと!?」

 

 アンゼリカはクロウの言葉に目を大きく見開く。

 

「ゼリカ、俺は気付いたんだ……

 “脚”ならばトワの背の低さも絶壁さも関係ないってな。他にもリィンが撮って俺が厳選した選りすぐりばかりだ」

 

「選りすぐり……ごくり」

 

 クロウの言葉にアンゼリカは思わず唾を飲む。

 その様子をつぶさに観察していたクロウはおもむろに差し出した封筒を引いた。

 

「っ――」

 

「だが、そうだな……

 よくよく考えればログナー家を継いでノルティア州の領主になって真人間になったお前にこんなものは相応しくなかったかもしれないな」

 

 わざとらしく封筒をチラつかせながらクロウは一言、アンゼリカにだけ聞こえるように呟く。

 

「ちなみに来月にはプール開きがある」

 

「なっ!?」

 

「よし――俺の言いたい事は全部言った。さあ来いゼリカ! お前が満足するまで何発だって殴るが良い!」

 

 封筒を手にしたまま、クロウは両手を広げてアンゼリカの拳を受け入れるように無防備な身体を晒す。

 そんなクロウにアンゼリカは――

 

「はははっ! 殴るなんてとんでもない私たちは友達じゃないか」

 

 先程までの殺気はいつの間にか綺麗に消え、アンゼリカはクロウの手から封筒を奪って今日一番の笑顔を浮かべる。

 

「ふ……お前ならそう言ってくれると思っていたぜ」

 

 クロウは不敵に笑う。

 

「…………ねえ、あたし達は何を見せられてるの?」

 

「……さあ?」

 

 ユウナの呟きにリィンは辛うじてそれだけを言った。

 

「さて、パトリック君、ユーシス君……唐突で済まないが用事ができた。決して私の部屋に誰も寄こさないように」

 

「は……はあ……」

 

「いや、待ってください! 午後の会議がもうすぐ始まるんですが!」

 

「ふふ、それじゃあ《Ⅶ組》の小猫ちゃん達、慌ただしくしてすまなかったね」

 

 そう言い残してアンゼリカは颯爽と部屋から出て行った。

 そして部屋には微妙な空気と無傷なクロウが残った。

 

「クロウ先輩、あまり変な事をしているとトワ教官に怒られますよ」

 

 沈黙に耐えかねてユウナがクロウに話しかける。

 

「ふっ……そうは言うがゼリカの奴と仲直りできるならトワは何でも協力するって言ってくれたぜ……

 つまりあの写真を渡しても問題はない! それに……」

 

 くくくと喉を鳴らして笑い出したクロウを一同は訝しむ。

 

「おいおいパイセン。何を仕込んだ?」

 

「仕込んだとは人聞きが悪いな。俺は部活動で撮った写真をゼリカに渡したに過ぎないぜ……ただミュゼが撮った写真も混ぜただけだ」

 

「なるほど、あの写真も入れたんですね。まあアンゼリカさんには良い薬でしょう」

 

 惜しむらくは彼女がそれを目の当りにする瞬間に居合わせる事ができない事をミュゼは嘆く。

 

「ま、役得もあるんだ。落とし所としてはこんなところだろ」

 

 恐らくユーシス達と話している内に、アンゼリカが戻って来て殴るだろう。

 それに関しては甘んじてクロウは受けるつもりであり、自分とアンゼリカの関係はそれくらいで良いのだとクロウは笑う。

 

「そうか……それはそれとしてだな、クロウ」

 

「あん?」

 

 クロウはリィンとクルトに左右の肩を掴まれた。

 

「部活で撮った写真を勝手に使うな」

 

「たしかその日はキーアも一緒にテニスをしていたはず、まさかとは思うがアンゼリカさんに渡した写真に含まれてないだろうな?」

 

「…………ふ……」

 

 リィンの怒りもクルトの疑惑にもクロウは不敵に笑うだけで答えようとはしない。

 その後、二人の鉄拳がクロウに落ちたことは言うまでもなく、更にはアンゼリカの修羅の一撃がクロウを打ちのめすのだった。

 

「うん……リィン君はちゃんと学院でやれているみたいだね」

 

「今のやり取りを見て、その感想で良いんでしょうか?」

 

 安心したように微笑ましく安堵するダーナにアルティナは冷めた突っ込みをするのだった。

 

 

 

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