閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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オルディス編の事件のイメージは『那由他の星の物語』になります。





66話 始動

 

 

 

「教授! 何をしているんですかアルバ教授!」

 

 オルディスの駅舎でガイウスはホームのベンチにいるアルバに声を掛ける。

 

「おや? どうしましたガイウス君?」

 

「どうしたじゃ、ありません」

 

 はあっとため息を吐いてガイウスは唸る。

 帝国政府への定時連絡を終えた後にアルバの姿がいないと法術を駆使して探して見れば、ヘイムダル行の夜行列車のホームにいる事に気付いて慌てて追い駆け、今に至る。

 

「帝国政府からの要請で《第Ⅱ》の特別演習を陰ながらサポートすると言う契約だったはず……

 それにオリビエ・B・アレイスターにようやく追いつけたと言うのに、何処に行くつもりですか?」

 

「ああ、そんな事もあったね」

 

 前者はガイウスが帝国内で巡回神父をする上での条件。

 後者は数ヶ月間、アルバの方針で帝国各地に出没するオリビエを捜索していた。

 

「そんな事って……はあ……」

 

「おや、珍しいですね。君がそんな不機嫌なため息を吐くのは」

 

「アルバ教授、何なんですかあの男は?」

 

 ガイウスは不快感を隠さず愚痴をこぼす。

 

「何かあったのかね? 情報交換をした時には接触はできなかったと言っていませんでしたか?」

 

「ええ、ちょうど憲兵隊に連行されていたところでしたから顔を一目見る事しかできませんでした」

 

「ふむ……」

 

「彼はあろうことか、レストランで無銭飲食を行い、悪びれもせずに逮捕されていた……

 あんな横柄な貴族がまだいたとは……ユーシス達が頑張っていると言うのに」

 

 このラマール州で追い付く間にも、彼が帝国各地で行って来た騒動を聞く度に顔をしかめてはいたが、我慢の限界だった。

 あのような振る舞いをする貴族がいる事をガイウスは学生の頃の特別実習や内戦で知っていた。

 今は貴族がオズボーンや現四大名門の働きによってその横暴な振る舞いは取り締まられ、横柄に振る舞う貴族は少なくなったがオリビエの振る舞いはユーシス達の努力に泥を投げる行為にガイウスには見えた。

 

「それに教授だって知っているはずです。これまでの彼の軌跡で巻き込まれた人達は口を揃えて嫌っています」

 

「しかし彼が騒動を起こしたおかげで、起きていた事件の人的被害が零になっているのは事実だ」

 

「あんなお調子者が計算をしていたとでも言うんですか? 教授の考え過ぎではありませんか?

 それなら今回の高級ワインの無銭飲食にはどんな計算があったとお考えですか?」

 

「しかしだね。ガイウス君……

 帝国人が50万ミラの高級ワインを無銭飲食したと言うのはこの本にもあった話だよ?」

 

 アルバは夜行列車に乗る暇つぶしに持っていた本の表紙をガイウスに見せる。

 

「それは物語を面白くするための誇張表現だとクリスが言っていました」

 

「ふむ、私は史実に忠実に書いてあると聞いたんですけどね?」

 

「アルバ教授、良く考えて下さい……

 確かにその本の主人公はオリヴァルト殿下がリベールを旅した時のものをです……

 オリヴァルト皇子は確かに陽気な御方だが、決して浅慮ではない……

 だからこそ、一国の皇子が、それもユーシス達貴族の頂点に立つ皇族が、他国で無銭飲食をして捕まるなんてあまりにも現実味がありません」

 

「そうかね……?」

 

 ガイウスにとって帝国貴族と言えばユーシスやラウラと言った尊敬できる人物である。

 故にオリビエを帝国貴族の一人として認めるのは、ユーシスやラウラ、貴族ではない帝国人への酷い侮辱に感じてしまう。

 

「どうやら私とガイウス君には帝国人の認識に大きな隔たりがあるようだね」

 

「俺には教授が言う様な帝国の未来を左右しかねない存在だとは到底思えません」

 

「私も確信があって言っているわけではないですよ」

 

 アルバは本を閉じて改めてガイウスと向き直る。

 

「それで教授は何故、ここに? ここはヘイムダル行のホームですよ?」

 

「ああ、急用ができてね。オルディスの調査についてはここで手を引かせてもらうよ」

 

「え……?」

 

 アルバの突然の言葉にガイウスは耳を疑った。

 《第Ⅱ》の特別演習が始まったこと、アルバの目的だったオリビエにようやく追いついたこのタイミングで梯子を外されてガイウスは困惑する。

 

「な、何故? 帝国政府に《第Ⅱ》の特別演習を陰ながらサポートするという契約はどうなるんですか?」

 

「それは君たち、星杯騎士団に与えられた任務ですよね? 私には関係ありません」

 

「で、ですが……それじゃあオリビエという男と接触するのではなかったのですか?」

 

「そうですね……それは私も迷いました」

 

 ガイウスの指摘にアルバは頷く。

 ユミルで《リィン・シュバルツァー》が発生の前後から目撃されるようになった《オリビエ》。

 これはまだ目撃情報が少なく帝国政府には把握されていないが、各地で出現している“幻獣”を狩り回り、クロスベルにも現れた仮面の子供《c》。

 そしてリィンと話したことで知った《アルバ神父》という存在。

 そしてついでに《劫炎》と正面から戦えた《メカみっしぃ》。

 

「リィンという存在がいるにも関わらず、怪し気な存在がいるのは何故……?

 呪いの分散? 黒の目を誤魔化すため? それとも別の意図が?

 つまり今のリィン・シュバルツァーは完全体ではないということでしょうか?」

 

「リィンの完全体って……」

 

 アルバの漏らす考察にガイウスは何と返事をして良いか困る。

 

「おっと失礼、つい考え込んでしまいました」

 

「それは良いんですけど……」

 

「ガイウス君、君は《オリビエ》《c》《アルバ神父》、そして《リィン》……

 この中で調べるならば、どれが一番優先度が低いですかね?」

 

「何ですかその選択肢は? 気を付けるべきはリィンだけでは?」

 

 比べるのも烏滸がましいという態度でガイウスは答えた。

 

「ええ、そうです。私も同じ答えです……だからこそ、おかしい」

 

 ガイウスにアルバは同意しながらも、その認識がおかしいと結論付ける。

 

「意味が分かりません」

 

「これまで聞き込みで《オリビエ》を嫌う人間しかいなかった……

 しかし最初に彼の存在を耳にした時から、強烈な違和感がありました」

 

「教授……?」

 

 “迷惑を掛けられた”と“嫌う”は似ているようで違う。

 

「私はこの現象と同じモノを知っています」

 

 彼女の場合は逆に出会う者の第一印象が“愛される”という因果を持っていた。

 

「しかしありえない……

 《彼》は文字通り魂を削ってこちらの次元に干渉した。魂魄を引き裂き、魂を維持する器がなければいくら超帝国人であったとしても物理的に生きているはずはない……

 《彼》であるはずはない。《彼》ならばこんな回りくどい方法を取る必要はない……ならば……」

 

「教授っ!」

 

「はっ! いけませんね。さっきからつい思考に没頭してしまう」

 

 苦笑いをしながら、アルバは咳払いをして話を進める。

 

「とにかく私は今感じている疑問を解消しないと気が済まないのですよ」

 

「…………教授、帝国政府の要請とは別に俺には貴方を監視する任務も任せられています」

 

「ふむ……では、オルディスに《蛇の使徒》たる《鋼の聖女》と《蒼の深淵》……

 そして執行者は《死線のクルーガー》と《痩せ狼ヴァルター》の四人を私は確認した」

 

「なっ!? シャロンさんが生きていた! それにここにいる!?」

 

 アルバがもたらした情報にガイウスは絶句する。

 

「この情報を帝国政府と七耀教会に伝えると良い。そうすれば彼らは私の動向など気にしている余裕はなくなるはずだ」

 

「貴方は……」

 

 数時間前の情報交換の時には何もないと言っていたはずなのに、出て来た新情報はガイウス一人で処理するにはあまりにも大きかった。

 そして彼にとっては仲間の情報を平然と売る所業にガイウスは強い不快感を覚える。

 そんなガイウスにアルバは同情の言葉を掛ける。

 

「やはり君には守護騎士は向いていないですね」

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「守護騎士をするには君が正直過ぎる、謙虚過ぎる、優し過ぎる、そしてまとも過ぎる……

 もっともそれらは今の守護騎士にはないものですから、役割分担と割り切れば良いかもしれませんが」

 

「…………それでもこれは俺が帝国の戦いに関わるために決めた道です」

 

「ならばガイウス君、君の目の前には二つの道があります」

 

 アルバはにっこりと笑い続ける。

 

「一つはこのまま帝国政府や七耀教会に求められるままに働く事……

 もう一つはそれらの信用と信頼を捨てて、私と共に真実を確かめる事」

 

「真実を……確かめる……?」

 

「その道を選ぶなら、君も私も全てを失う事になるかもしれませんね」

 

「す、全て……?」

 

 アルバの言葉にガイウスは思わず怯む。

 

「そう全てです……命、人との絆、最悪はその人が世界にいた記憶すら奪われるかもしれません」

 

 はははと悍ましい事を笑いながら語るアルバにガイウスは寒気を感じる。

 彼の言葉が正しければ、身の破滅を意味しているというのにアルバはそれを少しも畏れた様子はない。

 むしろそうなっても一興だと己の好奇心に準じる姿は狂気を感じさせる。

 初めてガイウスはアルバが――ゲオルグ・ワイスマンが《破壊僧》と呼ばれる片鱗を見た気がした。

 

「ガイウス・ウォーゼル君、君はどの道を選ぶ?」

 

 

 

 

 

「……」

 

「クルト君…………おーい」

 

「……………」

 

「クルト君ってば!」

 

「え……?」

 

 肩を掴んで揺さぶられ、そこでクルトはユウナに呼び掛けられていたことに気付く。

 

「何かようかユウナ?」

 

「何かようか、じゃないわよ。いつまでそうしてるの?」

 

 ユウナの言葉の意味が分からず、クルトは首を傾げる。

 そんな彼にユウナはため息を吐いて、それを指差した。

 

「さっきからずっと、霞を食べてるみたいだけど大丈夫?」

 

「霞……?」

 

 クルトはユウナが指差した自分の目の前、夕食のトレイに目を落とせばそこには皿以外何もなかった。

 

「およそ三分ほど、クルトさんは何もない空間を食べ続けていました」

 

 そう言ってアルティナが《ARCUS》で撮影していた数分前のクルトを見せる。

 そこには食事を機械の様な動作で口に運び、一定のリズムで食事を続け、食べるものがなくなっても同じ動作を繰り返しているクルトが映っていた。

 

「なっ――」

 

「そんなにゼファーさんに負けたのが悔しかったの?」

 

「…………別にそんなんじゃない」

 

 クルトはユウナの質問を顔を逸らしながら否定する。

 

「彼はランディ教官の古巣の《赤い星座》と対を成していた《西風の旅団》の団長を務めていた人だ……

 俺なんかが挑んだところで十本に一本取れるくらいに差があるのは最初から分かっている事だ。そんな事でいちいち落ち込んだりしない」

 

「…………十本に一本、取れるつもりなんですか?」

 

「っ――」

 

 アルティナの指摘にクルトは言葉を詰まらせる。

 ゼファーは年代と実力と共に、父マテウスのようにクルトの理解が及ばない領域にいる達人なのは間違いない。

 見栄を張って十本に一本などと言ったが、クルトはゼファーに勝てるイメージが思い浮かばない。

 

「悩んでるようだなクルト」

 

「あ、ランディ先輩」

 

 俯き黙ってしまったクルトにユウナとアルティナが困っていると、ランディが会話に入って来る。

 

「あんまり気にすんな。あのオッサンは俺の親父と三日三晩殺し合いをしたっていう化物なんだ」

 

「でも……そんな彼とリィンやアッシュは戦いが成立していました」

 

 思い出すのは機甲兵を使った訓練。

 リィンもアッシュも戦う度に戦闘時間は伸び、果てにはゼファーから一本以上の勝利を取っている。

 逆にクルトはゼファーと戦えば戦う程、戦闘時間は短くなり、一本も取れていない。

 

「僕と二人とでは何が違うんだ……」

 

 質問と言うよりも愚痴。

 何もゼファーに限らず、前回の特別実習から機甲兵戦闘でのクルトの戦歴は黒星が続いている。

 

「先月からアッシュさんはヴァリアブルアックスの他に《ベルゼルガー》や《テスタ・ロッサ》、訓練の度に別の武器を使っていますね」

 

「その上、卒なく使いこなしているのよね」

 

 アルティナの言葉にユウナもまた愚痴る。

 

「アッシュが器用万能の天才肌だからな、選択肢が増える事がそのまま強みになる。つまり俺と同じタイプだな」

 

「自分で言いますか……って《ベルゼルガー》って言えば元はランディ先輩の武器だったんですよね?

 ティータちゃんやアッシュに一度お説教してたみたいですけど、結局使い続けているんですね」

 

「ああ……まあな……」

 

 ユウナの言葉にランディは歯切れ悪く頷く。

 

「《ベルゼルガー》は確かに俺専用のSウェポンだったが、ブレードライフル自体は珍しいもんじゃねえからな」

 

 ゼファーが使っている機関銃が仕込まれているバスターソードも、《西風の旅団》の《罠使い》が使っている武器もブレードライフルである。

 

「流石に俺の都合で“武器”を使うなとは言えねえよ……

 あれがなかったら《零の魔神》との戦いだってどう転がってたか分かったもんじゃねえからな」

 

 自分の拘りと生徒の命。

 それを天秤に掛けるならランディは当然後者を選ぶ。

 

「それに新しい魔煌機兵用の武装デバイスのリストを見せてもらったんだが、試作用のブレードライフルやらいろいろあってな……

 俺がどうこう言う以前に量産化されてるんじゃ、口を出しても仕方ねえんだよ」

 

 ランディは結局のところ、どれだけ葛藤を抱いていても世界は自分とは関係ないところで回っているのだと思い知らされた。

 

「これも技術の進歩なのかもしれませんが……」

 

 ランディの葛藤を察してクルトは慰めの言葉を掛けようとするが、うまい言葉は見つからない。

 

「そういうユウナさんはリィンに機甲兵用の導力魔法を作ってもらったのに、戦歴は振るいませんでしたね?」

 

「ああ……うん、あれって防御用の導力魔法だから訓練ではあまり役に立たないのよね」

 

「リィンは導力工学にも才能があるようですね……」

 

 《八葉一刀流》でありながら積極的に導力魔法を技に組み込み始めたリィンにクルトは勝手に裏切られた気持ちを抱いていた。

 そして今日見た、廃棄船を一撃で消し飛ばす導力魔法の砲撃。

 もしもあんなものが当たり前になる戦闘になるのなら、果たして剣はどこまで通用するのか、どこまで剣は価値があるのか。

 

 ――アッシュも、ユウナも、リィンも新しい技術を取り入れて進歩している――

 

 ――対して僕は?――

 

 その疑問がクルトの頭を過る。

 

 ――僕はこの数ヶ月で何を得た?――

 

 ――僕はクロスベルで過ごした半年で何を得た?――

 

 クルトの得た力はティオが造ってくれたビームザンバーだけ。

 使いこなせる努力はしたが、実剣で戦っていた時とどれだけの差があるのか自分でも分からない。

 

「リィンやアッシュと比べたら、僕は……」

 

 ――僕から剣を取ったら何が残る?――

 

「っ――」

 

 過った思考にクルトは寒気を感じる。

 

「……そう言えば」

 

 ランディは俯くクルトを一瞥してから別の話題を振る。

 

「新型の魔煌機兵の見学の許可が下りてな。希望者を集めて行くつもりなんだがお前達はどうする?」

 

「新型の魔煌機兵……ってリィン君が大破させたって聞きましたけど?」

 

「あれは鉄道憲兵に提供するための一号機らしいな……

 それとは別に統合軍で運用する機体は別に開発が進んでるらしいぜ」

 

「へえ……良いじゃないクレアさんが乗る魔煌機兵とやらの性能、見極めさせてもらおうじゃない」

 

「貴女はクレア少佐のなんなのですか? まあ情報を更新する有用性は認めますが」

 

 ランディの提案にユウナは純粋な好奇心から、アルティナは先程の手痛い教訓を思い出して二人は受け入れる。

 

「僕は……」

 

 食事の後の自由時間はゼファーの動きを想像した稽古をしようと思っていたクルトは難色を示す。

 

「クルト君も行くよね?」

 

「いや、僕は――」

 

「来とけよクルト。今の煮詰まった状態で稽古しても意味はねえって、何だったら後で個人授業をしてやっても良いぜ?」

 

「ランディ教官……分かりました」

 

 ランディの提案にクルトはため息を吐いて受け入れる。

 

「さて、それじゃあ他の奴等にも声を掛けて――」

 

「ランディ様、少々よろしいでしょうか?」

 

 さあ出発だとテーブルから立ち上がったランディに、いつの間にかそこにいた銀髪のメイドが声を掛けた。

 

「あ……? えっと確かあんたはこの要塞のメイドさんだったか?」

 

「クルーガーとお呼びください。ランディ様」

 

 朗らかなメイドの微笑みを正面から受けたランディは漂う甘い匂いもあり思わず唾を飲む。

 

「そのクルーガーさんが俺にいったい何のようだい?」

 

「実は昨日、ランディ様を一目見た時から、ずっと気になってしまって……」

 

 クルーガーは頬を赤らめて恥じらいながら続ける。

 

「出来る事なら一度、二人きりでお話がしたくてお声を掛けさせて頂いたのですが、ご迷惑ではないでしょうか?」

 

「ふっ……貴女のような美人からのお誘いを断るなんて野暮な事はしませんよ」

 

 ランディは紳士に振る舞ってクルーガーの申し出を受け入れる。

 

「ちょっとランディ先輩!?」

 

「見学はトワの方も声を掛けてるから、そっちに合流してくれ」

 

 抗議の声を上げるユウナにランディは悪びれた様子もなく言ってのける。

 

「さあ、行こうか。クルーガーさん」

 

「ありがとうございます。ランディ様」

 

 上機嫌の二人は食堂を去って行く。

 その背に残された者達は――

 

「最低……」

 

「ランディさん……」

 

 侮蔑と嘆きの言葉がもれる。

 

「あれ……?」

 

 ふとユウナは普段の彼女ならここで言うはずの言葉が呟いていないことに気付く。

 

「どうしたのアルティナ?」

 

「……何がですか、ユウナさん?」

 

「いつものアルティナならランディ先輩に不埒だって言うでしょ?」

 

「…………ええ、そうですね……不埒な教官ですね」

 

 ユウナの言葉にアルティナは同意してその言葉を口にしながら顔をしかめて考え込む。

 

「どうしたんだアルティナ?」

 

「…………いえ、先程のメイド……どこかで見た記憶があったような気がしただけです」

 

 気のせいだとアルティナは静かに首を振った。

 

 

 

 

 

「それじゃあトールズ第Ⅱ分校のみんな、これからジュノー海上要塞の第五格納庫に新型の機甲兵である《魔煌機兵》の見学に行きます」

 

 デアフリンガー号が停泊するホームでラクウェルへ行けなかった生徒達は集まっていた。

 

「新型の機甲兵か……」

 

「どんなものなんだろう?」

 

「いつか《第Ⅱ》でも使えるようになるのかな?」

 

 先頭を歩くトワの背後で生徒達は思い思いに雑談を交わす。

 

「お……どこに行くんだお前達?」

 

「あ、クロウ君」

 

 格納庫に向かう一団は廊下を歩いていると、単独行動をしていたクロウと遭遇する。

 

「戻って来たんだ。それで……」

 

 トワは背後の生徒達にクロウに与えられていた“要請”の事を聞かせるのを躊躇い言葉を濁す。

 

「…………リィンはいないんだな?」

 

 クロウは一団を見回して呟く。

 

「クロウ君?」

 

 ただいない生徒の名前を呟いただけなのに、トワはそこに違和感を覚える。

 

「リィンやアッシュ達はゼファーさんが企画したゲームのご褒美で今頃はラクウェルの高いレストランを楽しんでるわよ」

 

 クロウの問いにユウナが答える。

 

「そうか……」

 

 クロウは短く頷く。

 その反応にユウナ達もクロウのおかしさに気付く。

 

「わりぃなトワ。俺はこのままウォレス准将のところに行くから」

 

「あ…………うん」

 

 “要請”の報告なのだろう。

 特におかしいことはないはずなのにすれ違ったクロウの背中をトワは見送ったまま立ち尽くす。

 

「…………あのトワ教官」

 

「え……ああ、ごめんねみんな。それじゃあ改めて第五格納庫に行こうか」

 

 気を取り直して笑顔を取り繕うトワに生徒達は一度顔を見合わせて頷いた。

 

「トワ教官、見学ならあたしたちだけでも大丈夫です」

 

「え……ユウナちゃん?」

 

「だからトワ教官はクロウの後を追ってください。どうやら昨日の猟兵たちについての進展があったんでしょう」

 

 ユウナにクルトも続いて進言する。

 

「大丈夫ですって、子供じゃないんですから」

 

「ええ、基地の人達には迷惑を掛けません」

 

「だから安心してクロウの後を追ってください」

 

「みんな……うん、ありがとう」

 

 生徒達に送り出されてトワはクロウの後を追い駆けた。

 

「よし……それじゃああたしたちは第五格納庫に……あれ?」

 

 ユウナは一同を仕切る様に振り返って見回して、首を捻った。

 

「アルティナはどこにいったの?」

 

「アルティナならさっき、クロウの後をそのままついて行ったけど……」

 

 そんな答えが生徒達の中から返って来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おおっ! これが新しい《機甲兵》か!?」

 

「《魔煌機兵》と言うそうだよ」

 

「右からドラッケンに当たる汎用機のゾルゲ……

 シュピーゲルに相当するメルギア、ケストレルに相当するモルドレッド、ヘクトルに相当するハンニバルか」

 

 新しい《魔煌機兵》にはしゃぐ生徒達から一歩離れて、ユウナはそれを見上げて呟く。

 

「何だか複雑だな……?」

 

「ユウナ? それはどういう意味だ?」

 

 彼女らしくない後ろ向きな声にクルトは思わず聞き返す。

 

「だってさ、クロスベルは戦車を保有できないのに帝国はいつの間にかこんな人型の機械人形を作ってるのよ……

 しかもたった二年で新型機が出来るって言うんだから、あんまり現実感が湧かないっていうか……」

 

「そうだな……」

 

 ユウナに並んで《魔煌機兵》を見上げてクルトは頷く。

 戦車から機甲兵、飛行艇を含めて考えるなら導力革命から急激に進歩した兵器の数々。

 ガレリア要塞に設置されていた列車砲すらも過去の遺物となったバスターライフルも壁に掛かっている。

 

「あんな兵器を造って何と戦うつもりなんだろうな帝国は……」

 

 今まで考えてこなかった帝国が進む先にクルトは不安を感じずにはいられない。

 

「あれ……?」

 

「今度は何だ?」

 

「あれってリィンの《ティルフィング》じゃない?」

 

 ユウナが指を指した先には見慣れた《白い機神》が《魔煌機兵》に並んで置かれていた。

 

「一日目の演習でリィンはこっちで作業をしていたと聞いたな。その時と同じようにこっちに格納したんだろう」

 

「あ……そう言えば、そんなことあったわね」

 

「ユウナ……。まあ良い、そろそろ見学時間も終わる、みんなを集めよう」

 

「そうだね……」

 

 クルトの言葉にユウナは頷き、そしてその一団は現れた。

 

「素晴らしい機体だな」

 

 橙色の髪を後ろに束ねた精悍な顔つきの男は並ぶ《魔煌機兵》を見上げて賞賛する。

 

「誰かしら?」

 

「この要塞の人かな? 階級章は……少佐。クレア少佐と同じみたいだ」

 

 《第Ⅱ》と入れ替わりで格納庫に入った男は三人の部下を引き連れて、少し前の生徒達と同じように物珍し気に、それでいて堂々と《魔煌機兵》を見て回る。

 

「…………それでは手筈通りに行くぞ」

 

「了解や」

 

「手早く済ませるとしよう」

 

 統合軍の制服を着た二人の男はそれぞれ《ゾルゲ》と《ハンニバル》へと乗り込む。

 

「………………」

 

 もう一人の部下は無言で《メルギア》に乗り込む。

 そして橙色の髪の男――クロワールは一番奥に置かれている《白の機神》の前に立った。

 

「さあ……目覚めるが良い」

 

 クロワールが《ARCUS》を掲げると、戦術リンクの接続が始まる。

 静かな数秒の処理の後、徐に《白》の背中のハッチが彼を受け入れるように開く。

 

「ふっ……」

 

 不敵な笑みを浮かべてクロワールは危なげなく機体を登って操縦席に身を滑り込ませて、操縦席の端末に《ARCUS》を接続させる。

 

『――――認証完了――レオンハルトの七耀回路を確認――』

 

 《ティルフィング》の導力エンジンに焔が入る。

 

『セーフモード解除――第一拘束術式解放――』

 

「ふふふ……ははははっ!」

 

 システムの起動に合わせて、狭い操縦席が明るくなる。

 その光景にクロワールは込み上げた感情のままに笑う。

 

『《金雲の剣》“核殺し・ケルンバイター”の錬成術式の初期駆動を開始します――武装デバイス錬成まで後――』

 

「動いたぞ! 見ているかアルベリヒ! やはり私は選ばれた存在だったのだ!」

 

 選ばれし者にしか扱えない《機神》の起動にクロワールは気分を良くする。

 

『《ティルフィング》起動――完了』

 

 目に紅い光を灯して《ティルフィング》が動き出す。

 

 

 

 

 

 

「何だ!?」

 

 出て来たばかりの格納庫から大きな音が鳴り響きクルトは振り返る。

 駆け出して戻れば、そこには新型の《魔煌機兵》達が安全用の固定を力任せに破壊しながら動き出していた。

 

「魔煌機兵が動いている!? どうして!?」

 

 クルトが叫ぶが、それに答える者はいない。

 

「これが例の反応兵器ちゅうやつか」

 

「計四丁、全て回収しろ」

 

 《ゾルゲ》と《ハンニバル》は足元のクルトの事など気付かずに、バスターライフルを始めとした武装デバイスを装備する。

 

「しかし団長がおらんとはな。タイミングが悪かったというか」

 

「問題はない。まだ俺達は団長と戦う準備を整えていないのだから」

 

「それはそうやけどな……せっかくだから新生《西風の旅団》を宣言しとっても良かったんやないか?」

 

「無駄口が過ぎるぞゼノ。クロワール卿、まだか? やはり《機神》は動かせないのではないのか?」

 

「いや、問題ない」

 

 その声にクルトは耳と目を疑った。

 

「そんな……」

 

 《白の機神》ティルフィングが動いている。

 リィンの専用機であり、彼にしか動かせないはずの機体が何処とも知れない誰かが動かしている。

 

「何だ!? 誰が《魔煌機兵》を――《白の機神》を動かしている!?」

 

 クルトが呆然と立ち尽くしていると、格納庫に統合軍の兵達が雪崩れ込んでくる。

 

「ふふふ……ははははっ! 動いたぞ! 見ているかアルベリヒ! やはり私は選ばれた存在だったのだ!」

 

 導力ライフルを向けられた《白》は兵士たちを睥睨して名乗りを上げる。

 

「私はクロワール・ド・カイエンッ!!」

 

 太刀を一閃し、巻き起こした颶風が兵達を薙ぎ払う。

 周囲を無力化した《白》は壁に掛けられた長大なライフルを手に取り、クロワールは宣言する。

 

「この機体と反応兵器は頂いて行く。エレボニア再生のために!」

 

 

 

 

 









『那由他の星の物語』=『スターダストメモリー』始まります



 誤解がないようにフォローしますが、
 ランディ教官はちゃんとクルーガーさんがどういう意図で誘っているのか気付いています。
 その上で彼女の出方を見るために乗っています。
 なので人気のない倉庫の密室で二人きりになって、灯を消して(壊して)、互いの大事な部分を(ナイフで)狙って刺し合ったり、服を(切って)はだけさせたり、縛ったり縛られたりしていただけでちゃんと働いています。



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