閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

67 / 113



とりあえず今後必要な修正は、うちのリィン君がよく使う三体の分け身から繰り出すブレイクダウン・タイフォーンこと《孤影斬・三連》が《三連・孤影斬(みつら・こえいざん)になりそうです。






67話 ティルフィング強奪

 

 

 ウォレスがクロウの調査報告を執務室で聞こうとした瞬間、要塞が揺れた。

 

「またシュミット博士か……」

 

 昨日から頻発する震動にウォレスは辟易した様子でため息を吐いた。

 

「あの……御言葉ですが、シュミット博士は今はラクウェルにいると思いますが」

 

 恐る恐ると言った様子のトワの進言にウォレスは我に返って通信機に向かって叫ぶ。

 

「何があった!?」

 

『第五格納庫で爆発、詳細は調査中です!』

 

 やはり第五格納庫かとウォレスは舌打ちをする。

 

「第五格納庫!?」

 

 聞こえて来た報告にトワが声を上げる。

 第五格納庫と言えば、新型の魔煌機兵の見学に《第Ⅱ》の生徒達は向かった先、生徒達は無事なのかとトワは慌てて《ARCUS》を開いて通信を繋げる。

 

「アルティナちゃん――」

 

 こういう時、一番頼りになるだろう少女との通信を繋げる。

 

『申し訳ありません。現在、敵と交戦中です。《クラウ=ソラス》』

 

 殴打の音が《ARCUS》から響く。

 

『ランディ教官、早く拘束を解いてください』

 

『少し待て……くそ……』

 

「そこにランディ教官もいるの!?」

 

 聞こえて来た声にトワが問いを重ねるが、通信はそこで強制的に切断されてしまう。

 

「いったい何が起きてるの……?」

 

「まさか……っ!」

 

 クロウはカイエン公達の事を思い出す。

 オルディスの襲撃は明日だとは言ったが、ジュノー海上要塞を襲撃しないとは言っていない。

 

「くそっ!」

 

 まんまと出し抜かれた事を察したクロウは駆け出した。

 

「待て! アームブラスト!」

 

 ミハイルがそれを呼び止めるが、クロウは聞かずに執務室を飛び出した。

 

「はは、どうやら見事に先手を取られちまったみたいだな?」

 

 そんなクロウの姿にレクターは肩を竦める。

 

「くっ! ハーシェルはここで生徒達に連絡を取れ! 私はデアフリンガー号に戻る!」

 

「は、はいっ!」

 

 ミハイルとトワは行動を開始する。

 ウォレスは第五格納庫だけには留まらない各所からの報告を一身に受けている。

 

「さて、俺らはどうするクレア?」

 

「そうですね……」

 

 話を振られてクレアは考える。

 この場での自分とレクターの扱いは客将に過ぎない。

 要塞内部は統合軍の領域、それでなくてもクレアがここで介入するには人員が足りない。

 

「ウォレス准将の指示下に入るのが――」

 

「何っ!? 新型の他に、士官学院の《機甲兵》が盗まれただと!?」

 

 クレアの叫びを遮って、ウォレスの声が執務室に響き渡る。

 

「新型の格納庫っていうと……盗まれたのはリィンの《ティルフィング》か?

 あれは特殊なロックが掛かっていてあいつにしか動かせないはずじゃなかったのか?」

 

 レクターは首を捻って振り返り、そこには誰もいなかった。

 

「あれ……? どこ行ったクレア?」

 

 

 

 

 

「クロワール・ド・カイエンだと……」

 

 《白》から聞こえてきた名乗りにクルトは顔をしかめる。

 新型の魔煌機兵たちは次々に起動し、示し合わせた様に用意されていたそれぞれの武装を手に取る。

 《メルギア》が四つのバスターライフルを抱え、《ゾルゲ》がブレードライフルとボウガンを背中に装備し、《ハンニバル》は巨大なマシンガントレットを装着する。

 そして始まるのは蹂躙だった。

 《ゾルゲ》と《ハンニバル》がブレードライフルとガンドレッドに内蔵された火器を乱射する。

 生身の兵達への直接攻撃はないが、弾丸が穿たれた壁や床。その衝撃に兵達は翻弄されて後退する。

 

「こちらも《機甲兵》を出せっ!」

 

 兵が叫び、時間稼ぎに銃撃しながら応戦する。

 

「無駄な事を……」

 

 《ハンニバル》は足のローラーを回転させて急発進する。

 

「ディザスターアームッ!!」

 

 進路上のモノを轢き潰す勢いで突撃し、マシンガントレットを隔壁に叩きつけ、同時に炸裂して打ち出された太い鉄杭が一撃で分厚い鉄の扉を吹き飛ばす。

 

「馬鹿な! あの隔壁を一撃だと!?」

 

「あの装備は何だ!?」

 

「まずい奴等が線路に出るぞ!」

 

 怒号が飛び交う。

 《魔煌機兵》達は破壊した隔壁をこじ開けて、隣の貨物運搬用の線路へと出る。

 そこから外へ続く橋までいくつもの隔壁があるが、基本は一本道。

 

「ここは通さんぞ!」

 

 向かいの格納庫の扉が開き、武装した機甲兵達が現れる。

 

「ははは、遅いで」

 

 《ゾルゲ》の背中から鉄の矢が撃ち出され、それは機甲兵たちの頭上で炸裂し、無数の機甲兵にとっては細い針の雨になって降り注ぐ。

 

「この程度で怯むと思ったか!」

 

 針の雨をものともせず機甲兵は前へと進み――

 

「いいや、これでしまいや」

 

 《ゾルゲ》の目から赤い一条の光が走り、散らばった針の一つに当たる。

 次の瞬間、針が炸裂する。

 一つの針が炸裂すると、周囲に散らばった無数の針も次々に炸裂して辺り一帯は一瞬で火の海と化して機甲兵達を呑み込んだ。

 

「な、何なのよこれは!?」

 

 半壊した隔壁越しに熱波の余波を受けたユウナは悲鳴のような声を上げる。

 まるで戦争が始まったかのような光景に呆然としてしまう。

 

「ユウナッ!」

 

 鋭いクルトの言葉にユウナは我に返る。

 

「クルト君?」

 

「君はみんなと一緒に要塞の奥へ避難するんだ」

 

 既にクロワール達の目的は達し、要塞から脱出しようとしている。

 要塞の構造上、中へ避難すれば彼らの戦闘から安全を確保する事はできる。

 

「その言い方、クルト君はどうするつもり?」

 

「僕は……」

 

 ユウナの問いにクルトは火の海を振り返り答える。

 

「デアフリンガー号に行く」

 

「デアフリンガー号に行くって無茶よ! だって向こう側の格納庫には火の海があるのよ!」

 

「それでもだっ!」

 

「クルト君!?」

 

 ユウナの制止を無視してクルトは導力スーツの結界を起動しながら火の海の中へと駆け出した。

 

「くっ……」

 

 導力の障壁越しにも感じる熱さにクルトは顔をしかめながらも足は緩めずに一心に走る。

 炎が視界を塞ぎ、魔煌機兵の足下をすり抜けてクルトは火の海を駆け抜ける事に成功した。

 

「何で今更カイエン公が……」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、クルトは脇目も振らずに走りを再開する。

 クロワール・ド・カイエン。

 公式の場で遠目に見掛けた事くらいしかクルトとは接点のない元四大名門の当主。

 だが今のクルトにとってはそれだけで済まない男でもあった。

 

「くそっ!」

 

 普段のクルトならあり得ない悪態を吐きながら、デアフリンガー号の前に到着する。

 

「クルト君!?」

 

 何かの作業をしていたみっしぃが制服を焦がしたクルトに驚き振り返る。

 そんな彼の反応を無視してクルトは後方車両に向かう。

 

「《シュピーゲル》を出します」

 

「クルト君、待って! 今ミハイル教官と話をして――」

 

「退いてください!」

 

 みっしぃを押し退けてクルトは車両ハッチを解放してその中の《シュピーゲル》に乗り込み、起動させる。

 システムが立ち上がるわずかな時間をクルトは焦れるように苛立つ。

 

「クロワール・ド・カイエン……」

 

 それは一年半前の帝国の内戦を主導した貴族連合の主宰。

 セドリック皇子が帝都で打ち倒し、ジュライへ逃げ延びてから消息不明だった男。

 そしてヴァンダール家の名誉を貶めた男でもある。

 

「っ――」

 

 クルトは操縦桿を握る手に力が入り、システムが完全に起動した。

 

「シュピーゲル、クルト・ヴァンダール出ますっ!」

 

 立ち上がった《シュピーゲル》はクロワール達を追い駆けるために走り出し――

 

「だから待てと言っている」

 

 みっしぃの拳が《シュピーゲル》を殴り倒した。

 

 

 

 

「ふふ、こうも簡単にことが進むとはな」

 

 要塞と陸地を繋ぐ橋を駆け抜けてクロワールは要塞を振り返って感慨にふける。

 要塞内部に協力者がいたおかげで、難なく新型の魔煌機兵と《白の機神》を奪取できた。

 

「せやけど、のんびりしとる暇はなさそうやで」

 

 ゼノがそう言うと、先程自分達が破って出て来た城門から機甲兵と装甲車、そして戦車が出て来る。

 

「流石に立て直しが早いか……」

 

「ふふ、想定の範囲内であろう。やれ、ゼノ」

 

「はいはい」

 

 クロワールからの指示に肩を竦めながらゼノは《ゾルゲ》のハッチを開いて外に顔を出すと、夜の空に信号弾を撃ち上げた。

 変化は海の方にあった。

 暗い夜の海中から浮き上がった“それ”は体の各部に取り付けられたコンテナの蓋を開く。

 一つ、二つ、三つと夜の空に打ち上げられた大型の導力ミサイル。

 それは大きな放物線を描き、要塞の頭上で炸裂して無数の小型ミサイルとなって降り注ぐ。

 要塞と言うだけあって小さなミサイルではビクともしない。

 しかし、追撃部隊の足を一時的に止める脅しとしては十分であると同時に、駆け抜けた際に所々で転がしておいた導力地雷を誘爆させるには十分だった。

 ミサイルが着弾した橋にいくつもの誘爆が起こり、橋に亀裂が走る。

 

「あんたらはそこで大人しくしとってや」

 

 橋が崩壊を始める。

 これから先の本命の作戦において、海上要塞の戦力は邪魔になる。

 船や飛行艇はあるが、陸路を絶ったことで要塞の戦力は大きく制限されるだろう。

 

「ほな、行こか」

 

 ゼノが《ゾルゲ》に乗り直して振り返った瞬間、それは汽笛をけたたましく鳴らして現れた。

 

「何っ!?」

 

 崩壊を始める橋から後退した追撃部隊とは逆に銀の列車が崩壊する橋に飛び込む。

 

「正気か!?」

 

 導力ミサイルの衝撃で荒れた線路にも関わらず、全力疾走する列車は崩壊する橋の上を跳ねながら突き進み、クロワール達の横を一陣の風となって駆け抜けた。

 橋を渡り切った列車は速度超過によって脱輪してレールから外れ、横転する。

 

「はは! 随分無茶な事をするやないか」

 

「たしかトールズの列車だったか……何を考えて――む……」

 

 横転した車両のハッチが開き、中から一体の機甲兵が跳び出して、一同の前に着地する。

 

「その機体は統合軍とトールズ第Ⅱ分校のものだ! 今すぐ降りて投降しろ!」

 

 双剣の導力刃を構えてクルトは三機の新型と見慣れた《白》の前に立ち塞がる。

 クルトはその姿に困惑と苛立ちを覚えずにはいられない。

 

 ――《ティルフィング》はリィンにしか使えないはずなのに、しかもカイエン公なんかに……

 

「ふん……小癪な真似を……」

 

 一早く橋を落として追撃を断つ策を見破り、閉じ込められるはずだった要塞から列車での脱出。

 一歩間違えれば海に落ちていただろう無謀を実行できる胆力をクロワールは賞賛するとともに脅威を感じる。

 同時に《シュピーゲル》が構える双剣に思う所を感じた。

 

「お前達は下がっているが良い」

 

「おいおい」

 

「クロワール卿?」

 

「追撃は絶った。後はあの野良犬が出て来るのを待つ必要がある。少しくらい戯れても問題はあるまい?」

 

 その言葉に猟兵の二人は肩を竦め、異論を挟む事はしなかった。

 

「聞いているのか! 早くその機体から降りろと言っているんだ!」

 

「聞いているとも」

 

 そう答えると《白》は太刀を細剣のように眼前に立てて構え――神速の速度で《シュピーゲル》の懐に踏み込んだ。

 

「速いっ!?」

 

 普段の《白》よりも速い動きにクルトは驚きながら双剣を交差させて突き出された刺突を受け止めた。

 

「ほう、私の突きを防ぐか……だが――」

 

「っ――!?」

 

 《白》が突いた腕を引き戻したと思った瞬間、《シュピーゲル》は新たな衝撃を剣に受けて仰け反る様にしりもちを着く。

 

「所詮は士官学生、私の前に立つには未熟」

 

「未熟だと!?」

 

 一方的に付けられた評価にクルトは激昂して《シュピーゲル》を立たせる。

 

「ならばヴァンダールの双剣、とくと味わえっ!」

 

 双剣を構え気を昂らせ、クルトはその評価を見返すために戦闘を開始する。

 

「甘い」

 

 突撃と共に放った交差斬りは双剣が交わる一点を突かれて防がれる。

 

「ちっ――レインスラッシュッ!」

 

 初撃は防がれたが間合いは詰めた。

 そこから《シュピーゲル》は乱れ斬りへと切り替える。

 

「この程度か?」

 

 《白》は左右から迫る斬撃を一つの太刀の刺突だけで全て打ち落とす。

 

「ぐっ――テンペストエッジッ!」

 

 《シュピーゲル》は体を捩じり、竜巻の如き動きを持って双剣を並列させて渾身の一撃を繰り出した。

 

「なっ!?」

 

 しかし渾身の一撃は空を斬り、勢い余った《シュピーゲル》は竜巻のように空転する。

 

「やはり未熟」

 

 《白》は膝を着いて止まった《シュピーゲル》の眼前に太刀を突き付けて同じ侮蔑を繰り返した。

 

「…………《青の剣匠》」

 

 思わずクルトはクロワールの二つ名を呟く。

 東方では剣匠は鍛冶師を意味するが、帝国では最も剣を巧みに操る者という意味で使われている。 

 つまりクロワールは《光の剣匠》と同等、つまりは父マテウスと同等の剣士だと評価されていた事になる。

 

「これがロラン・ヴァンダールの再来と言われた神童か……どうやら噂程ではなかったな」

 

「っ――何だと?」

 

 未熟に続く侮蔑にクルトは眦を上げる。

 

『クルト君。クルト君。冷静に、橋を落とされても要塞には飛空艇も船もあるから――』」

 

「うるさい、貴方は引っ込んでてくれ!」

 

 みっしぃの助言を無視して《シュピーゲル》は駆動した導力魔法を発動する。

 即席の導力魔法は小爆発を起こし、《白》を怯ませる。

 

「はああああああっ!」

 

 突き付けられた太刀を跳ねのけて《シュピーゲル》は猛攻を仕掛ける。

 斬り下ろしに斬り上げ、薙ぎ払い、そして突き。

 クルトが持ち得る全てを駆使してとにかく攻める。

 しかし一撃たりともクルトの双剣はクロワールに届かない。

 

「逃げてばかりいないで戦え!」

 

 躱すばかりで剣を交えようともしないクロワールにクルトは文句を叫ぶ。

 

「だから未熟者だと言うのだ。剣を交えるだけが剣術だと思ったか?」

 

 紙一重で見切りクルトの猛攻を余裕で躱し続けるクロワールはヴァンダールと打ち合いなどごめんだと言い返す。

 

「この――」

 

「そこっ!」

 

 剣が乱れた一瞬を狙いすました刺突が《シュピーゲル》の胸を突かれた。

 

「っ――」

 

 明らかに手加減をされた一撃に《シュピーゲル》はたたらを踏んで距離を開ける。

 彼が本気なら機甲兵の装甲などものともせずにクルトを串刺しにする事ができただろう。

 

「ヴァンダールも随分と質が落ちたものだな。やはりあの時、皇族の守護を任せたのは失敗だったか」

 

 肩を竦める《白》の人間的な動きにクルトの苛立ちは爆発する。

 

「貴様が父上を語るなっ!」

 

 この男が起こした内戦のせいでヴァンダールは皇室の守護役の任を解かれた。

 自分とセドリックの間にできた溝とは別として、ヴァンダールが落ち目になった原因でもある男を前にクルトは冷静ではいられなかった。

 

「敗残の将が今更何をするつもりだ! 内戦はもう終わったんだ! 貴方達は負けたんだ!」

 

「終わってなどいない!」

 

「っ――」

 

 クロワールの怒気を孕む言葉にクルトは思わず怯み、息を呑む。

 

「まだ私はここにいる! 私がいればいくらでも貴族連合はやり直せる!」

 

「そ、そんな屁理屈を……」

 

「あの男さえ排除できればどうとでもなる。貴族の誇りを忘れ、自分の意志を持たぬ貴様に我が前に立つ資格はない!」

 

 言葉と共に《白》が踏み込む。

 

「くっ――」

 

 咄嗟にクルトは《シュピーゲル》を下がらせて双剣を盾にする。

 しかし繰り出された三つの突きは針の穴を通すような正確さで双剣の盾を無視し、《シュピーゲル》の両肩と頭部を撃ち抜いた。

 

「くそっ! 動け! 動けシュピーゲル! どうして動かない!?」

 

 暗闇に閉ざされた操縦席の中でクルトは叫ぶ。

 

「ふん、造作もない」

 

 腕と頭を失い、動かなくなった《シュピーゲル》に《白》はもう一度太刀を引くように構え――

 

「クロワール卿」

 

 レオニダスの声にクロワールは反応して《白》を背後に跳ばした。

 直後、闇夜を切り裂く一条の導力砲の軌跡が《白》の前を擦過する。

 

「――来たか」

 

 クロワールは振り返り、海上要塞から飛び立つ《蒼》の姿を確認して《シュピーゲル》を見る。

 

「命拾いしたなヴァンダール」

 

 捨て台詞を残して《白》は踵を返す。

 

「ここが最初の執念場だ。各自の健闘を期待する」

 

 クロワールは猟兵たちにそう言うと、空から迫る《蒼》に背中を向けて《白》を走らせた。

 

 

 

 

「くそっ」

 

 クロウは長距離砲による狙撃が外れて悪態を吐く。

 《蒼》に乗り込み、逃げた一団を探したところでクルトが乗る《シュピーゲル》の危機に碌に狙いを付ける暇もない狙撃だったため、当たる事は期待していたわけではない。

 しかしそれでも今の一撃で終わってくれていればと思わずにいられない。

 

「こちらクロウ・アームブラスト。このままクロワール達の追撃を開始する」

 

『待ってクロウ君! 一人でなんて危ないよ』

 

「そんな事言ってる場合じゃねえだろ」

 

 トワの返答に通信機を切ってからクロウはぼやく。

 クロワール達はよりにもよってリィンの機体を盗み出した。

 リィンにしか起動できないはずの《白》をどうやってと疑問があるが、実際に動かしているため考えるだけ無駄だとクロウは割り切る。

 

「あいつの機体や作ったクォーツが悪用されたら……」

 

 人嫌いでありながらお人好しを捨て切れない《リィン》が自分に非がないのに背負い込む姿が目に見える。

 

「おら! とっとと止まれ! テメエら!」

 

 空を飛ぶ《蒼》と大地を走る《白》と《魔煌機兵》の速力の差は歴然だった。

 《蒼》は瞬く間に彼らに追い付き、その進路上に砲撃を降らせる。

 できれば無傷で《白》は取り返したいという威嚇に《ゾルゲ》が応戦する。

 《ゾルゲ》が背負った槍の一本が空にいる《蒼》を狙って打ち上げられる。

 

「そんなもんに当たるかよ」

 

 空を自在に飛べる《蒼》は難なくそれを回避し――槍は閃光を爆発させた。

 

「っ――閃光弾か!?」

 

 目が眩み、《蒼》は距離を取ると――

 

「――――ダインスレイブ――――」

 

 目の前の《白》でも《魔煌機兵》でもない。砂浜に潜んでいた女騎士は戦術殻が変形した弓矢を構え――放った。

 超速で射出された魔の一矢は閃光の中を一直線に飛び、《蒼》の翼を砕いた。

 

「なっ!?」

 

 翼を失った《蒼》はその衝撃に困惑したまま墜落する。

 

「くそっ! 立て直せ《オルディーネ》!」

 

 翼以外の推進器を総動員して姿勢制御をして《蒼》は砂浜に不時着する。

 

「今やっ!」

 

 そんな《蒼》に《ゾルゲ》がブレードライフルを掃射しながら迫る。

 

「くっ……」

 

 降り注ぐ弾丸が装甲を削る。

 《蒼》は堪らず横に走り出し――それを踏んだ。

 

「導力地雷!」

 

 飛び上がるように周辺を囲んで地面から飛び出した導力爆弾が一斉に起爆する。

 爆発に包まれた《蒼》は思わず足を止める。

 そこに《ゾルゲ》がブレードライフルを剣として構え直し――

 

「甘えっ!」

 

 迫る《ゾルゲ》に合わせて《蒼》は爆煙に紛れて持ち替えた双刃剣を一閃する。

 

「はっ――それはこっちの台詞や」

 

 《ゾルゲ》は狙い済ましたかのように足を止める。

 双刃剣は空を斬り、そして《ゾルゲ》の目から赤い光が《蒼》を捉える。

 

「っ――何だ……これは?」

 

 赤い光線に《蒼》は身構えるが何も起こらない。

 だがすぐに答えが降り注ぐ。

 海にいる何かからから打ち上げられた無数の導力ミサイルが《ゾルゲ》が《蒼》に照準している光線の誘導で《蒼》に降り注ぐ。

 

「――うおっ……くそっ! 耐えろオルディーネ……」

 

 クロウに出来る事は蹲って終わりの見えないミサイルの雨に耐える事だけだった。

 そうしてミサイルの雨が止んだ頃には《蒼》の姿は無残なものに変わり果てていた。

 《蒼》の象徴でもある翼は砕け、装甲はどこを取っても無傷な所はなく砕け、罅だらけ。

 しかしそれでも五体満足なのは流石《騎神》とも言えた。

 

「…………武装は……」

 

 息を整えながらクロウはわずかな時間で機体の損傷を確認する。

 翼は折れ、両肩の導力砲も二丁の拳銃もどこかに行ってしまった。

 

「双刃剣と……後は腰の短砲だけか――ちっ」

 

 砂塵を掻き分けて《ハンニバル》が襲い掛かる。

 巨大なマシンガントレットの打ち下ろしを《蒼》はその場から跳び退いて回避する。

 

「まだ動くか」

 

「騎神を舐めんな!」

 

 レオニダスの呟きにクロウはやせ我慢の言葉を返す。

 

「くそっ! 何でお前には修復機能がねえんだよ!?」

 

 マシンガントレットと双刃剣をまじ合わせながらクロウは愚痴る。

 そんな事を言われても困るという念が《蒼》から伝わってくるが、一合一合、拳と剣をぶつけ合う度に全身に走るフィードバックの痛みにクロウはそれどころではない。

 

「っ――」

 

 拳を受け止めるたびに体中が軋む。

 敵は目の前の《ハンニバル》だけではない。

 煙が晴れれば、他の三機も参戦してくる可能性や海からの砲撃もあると考えればここで手こずっている暇はない。

 

「出し惜しみはなしだ。全力で行くぞオルディーネ!」

 

 罅だらけの装甲を開き、オルディーネは出力を上げる。

 

「いくぜっ!」

 

 双刃剣を回転させるように両手で振り、上下の刃の連撃を《ハンニバル》に浴びせる。

 

「むっ……くっ……」

 

 《蒼》の勢いに《ハンニバル》は巨腕を盾に身を固めて防御に徹する。

 

「オラオラオラッ!」

 

 刃の嵐は《ハンニバル》の巨腕を上に弾き、無防備な胴体が晒される。

 

「デッドリークロスッ!!」

 

 渾身の力を込めた十字の剣閃を《蒼》は放つ。

 いかに重装甲な《ハンニバル》でも第二形態状態の《蒼》の必殺を喰らえばひとたまりもなく、その剣閃は《ハンニバル》の左腕を粉々に吹き飛ばした。

 

「――外したっ!?」

 

 その結果にクロウは驚きの声を上げる。

 胴体を狙い、殺すつもりで放った必殺が左腕だけしか破壊できなかった事にクロウは困惑して、振り抜いた双刃剣を戻そうとして異変に気付く。

 

「何だ……くっ!?」

 

 体が動かしづらい。

 違和感に下を見れば鋼の糸が《蒼》の全身に絡みついていた。

 

「何だこれは!?」

 

 叫んだクロウは背後に気配を感じ、身体に纏わり付く鋼の糸を引きちぎりながら振り返り、両腰の短砲を“それ”に向けて引き金を引く。

 

「遅い――」

 

 《ケストレル》の後継機であり、唯一要塞から盗まれていなかったはずの《モルドレッド》の短剣が二つの短砲を半ばから断ち切る。

 

「ぐあっ!?」

 

 充填された導力は行き場を失い暴発し、《蒼》はその衝撃に全身に纏っていた霊力の光が消える。

 

「くっ……いや橋が落ちてるのに何でいんだよ!?」

 

 彼らが逃げ出した後に奪取されたとしても橋が崩落している以上、その機体が陸地にいることはおかしいとクロウは叫ぶ。

 そんな疑問に彼女は一言で答えた。

 

「メイドですから」

 

 意味が分からない《モルドレッド》の言葉にクロウが言葉を失っていると、片腕の《ハンニバル》が迫る。

 

「動け、オルディーネ!」

 

 巨腕を振り被る《ハンニバル》にクロウは叫ぶが、散々痛めつけられた《蒼》はクロウの意志に応える事はできなかった。

 

「おおおおおおおおっ! ディザスターアームッ!」

 

 巨腕の鉄拳が《蒼》を捉える。

 その一撃はただ殴りつけるだけでは終わらない。

 インパクトの瞬間、ガントレットに内蔵されていた太くて長い鉄杭が打ち出された《蒼》の胸を穿つ。

 

「がはっ!」

 

 体を突き抜ける衝撃が騎神から起動者にまでフィードバックされ、クロウの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 大地に《蒼の騎神》は倒れた。

 その姿は酷い有様だった。

 優れた飛翔能力の象徴でもある翼はもがれ、全身に至っては無傷なところなどない。

 特に酷い胸は装甲が砕け散り、中の“核”が剥き出しになっている。

 

「ダインスレイブに導力ミサイル100発と誘爆用の導力地雷とわいにレオとメイドの嬢ちゃんとで畳み掛けてやっとか……」

 

 まだ原形を保っている《蒼》の頑丈さにゼノは呆れると共に、戦闘が終わった安堵の息を吐く。

 

「これで最弱の《騎神》か……果たして団長――いやルトガーの《騎神》はどれほどのものだろうな」

 

 機体の損傷をチェックしながらもレオニダスはその後の事について思いを馳せる。

 

「うむ、大義であった」

 

 いつでも参戦するつもりでいたクロワールは無力化した《蒼》を確認して構えを解く。

 そして《白》は堂々とした足取りで倒れた《蒼》の前まで進み出る。

 

「久しぶりだな。我が騎士よ」

 

 その言葉にクロウからの返事はない。

 

「帝国解放戦線のリーダー、貴族連合の筆頭騎士、そして鉄血の狗……《裏切りの蒼の騎士》よ」

 

 《白》は倒れた《蒼》に向けて太刀を振り被る。

 

「貴様には“生贄”として役に立ってもらう」

 

 《白》の太刀は振り下ろされ――《蒼》の喉元に突き立てられる。

 そのまま《白》は《蒼》の首は引きちぎり、切先にその頭を掲げる。

 

「今ここに! クロワール・ド・カイエンの名の下に《帝国の騎神》は討ち取った!」

 

 クロワールはいつの間にかそこにいるアルベリヒ――の背後に控える導力カメラを構えた戦術殻に向けて高らかに宣言する。

 

「エレボニアの貴族よ。ギリアス・オズボーンよ。雌伏の時は終わった! 私は帰って来たのだ!」

 

 その言葉は、その戦闘は一部始終が導力ネットに挙げられて世界中に響き渡る。

 

「ここに私はクロワール・ド・カイエンの名の下に、ラマール州のエレボニア帝国からの独立を宣言するっ!

 そしてこれはギリアス・オズボーン、貴公への宣戦布告であるっ!」

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。