閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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71話 ラマール戦線Ⅳ

 

 

 

 カカカとチョークが黒板に走る音が夕暮れの教室に響く。

 等間隔で並んだ椅子や机には一人を除いて座っている者はいない。

 

「――つまり今のクロウ君は生と死の境界線上に立っている状態になる」

 

 眼鏡を掛けたオリビエは黒板に書いた図解と共に丁寧な説明をたった一人の生徒であるクロウにする。

 

「本来の騎神の役目は《鋼の至宝》を封印している重し……

 大きな損傷を受けたとしても《騎神》が一機でも健在ならば、そこから情報が補完されて修復がなされるわけだね」

 

 クロウはぼうっとその説明を右から左に聞き流し、窓の外を眺める。

 

「騎神にとっては致命傷の傷は起動者の魂と魄を使って修復する……

 騎神が優先するべきは《鋼》の封印の維持ということだね」

 

 校庭からは生徒達の楽し気な声が聞こえてくる。

 今思えば、あの何も考えずに学生をした青春の日々はクロウにとって悪くないと言えるものだった。

 

「そういう意味では今のクロウ君の状態はとても微妙な状態にあると言って良いだろうね……

 《黄昏》に必要な起動者として“預言”が君を生かすか、それとも別の《蒼の起動者》を選別するか判断を迷っているのか、それともオルディーネが引き留めているのか……

 クロウ君はどっちだと思う?」

 

 黄昏ているクロウに対して遠慮なしに質問を重ねるメガネのオリビエをクロウは無視する。

 

「ともかく外ではダーナ君も頑張ってくれているようだし、君が闘争心――生きる気力を見せれば《黄昏》が君を生かしてくれると思うよ」

 

「………………もう…………良いんだよ」

 

 外に視線を向けたままクロウはポツリと呟く。

 その言葉はメガネのオリビエには届いていなかったのか、彼は構わず続ける。

 

「このままオルディーネに喰われてしまえば……

 クロウ・アームブラストと言う存在の残りカスは、ボクのように“不死の王”となりこの世界を彷徨うことになってしまうだろうね……

 そうなると不便だよ?

 肉体も生前の記憶も理性もなく、魔獣の様にただ彷徨い歩き、自分が何者かも分からず、死ぬことすらできないアストラル体として永劫に彷徨うのは」

 

「…………それも良いかもしれないな」

 

 オリビエの語る末路にクロウは自嘲する。

 テロリストとして、関係ない者を巻き込み、更には仲間さえも目的のための犠牲にして復讐を成さんと突き進んで来た。

 だが、クロウの知らないところでその復讐は多くの者を狂わせた。

 クロウ・アームブラストの存在は、故郷であるジュライが燻ぶらせていたモノを燃え上がらせ、暴動の原因となった。

 その暴動は弟分のスタークの家族を奪い、彼を新たな復讐者にしてしまった。

 

「…………こんなはずじゃなかったんだけどな……」

 

 振り返ってみればクロウが歩いてきた道には血と屍だけが積み上げられていた。

 関係ない人を巻き込み、親しかった者や、仲間だった者から恨まれ、果てには仇の理由だったはずの祖父の名誉さえ穢してクロウの手の中には何も残らなかった。

 

「こんな事ならヴィータやカイエン公の誘いなんて乗らずに、一生チンピラでいれば良かったんだ」

 

「聞いているかいクロウ君?」

 

「…………もういい……」

 

 クロウは机の上に突っ伏して目を瞑る。

 

「ふむ……そういう時はこの言葉を言ってみると良い。これは元気の出る魔法の言葉さ……さあ、御一緒に“ラブ&ピース”!」

 

「…………」

 

 オリビエの言葉に突っ伏したクロウは無反応。

 

「ふむ……聞こえなかったのかな。“ラブ&ピース”だよクロウ君!」

 

 煩わしそうにクロウは耳を塞いだ。

 

 

 

 暗い暗い、騎神の操縦席。

 操作盤のほのかな光が項垂れたクロウの姿を照らす。

 《ARCUS》と連動していることもあり、通信が一方的にノイズ交じりの声を届ける。

 

「クロウ君、お願い返事をしてっ!」

 

「クロウ兄ちゃん! クロウ兄ちゃんっ!」

 

「起きろクロウ! こんな時に何を呑気に寝ているっ!」

 

 ――頼む……静かにしてくれ……ようやく……終われるんだ……

 

 聞こえて来る声にクロウは返事をする気力などなく、うっすらと開いた目は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 オルディスの埠頭にはひりついた戦場の空気が漂っていた。

 

「へえ……」

 

「っ…………」

 

 ゼファーは殺気が満ちたその場所に散歩をするような足取りで軽快に進み、シオンはその後を周囲に警戒心を募らせながら小走りで続く。

 

「よう、ゼノ、レオ。元気そうだな」

 

 ゼファーは埠頭の奥で自分を待っていた二人の男に気安く話しかける。

 

「団長……」

 

「いや……ルトガー・クラウゼル」

 

 サングラスと黒いジャケットを纏った二人は神妙な顔をしてゼファーの本当の名を呟く。

 

「後ろのそれは海上要塞から盗み出した魔煌機兵だな」

 

 二人の背後にある魔煌機兵はルトガーが海上要塞に入り浸っている事もあり、よく知っている見慣れたものだった。

 しかし、その見慣れた姿には見慣れないモノが着いていた。

 

「はっ……ようやく肚を括れたみたいだな」

 

 《ゾルゲ》と《ハンニバル》。

 それぞれの右腕と左腕には本体とは明らかに意匠の異なる造りの《蒼の腕》が取り付けられているのを見て、ルトガーは笑う。

 

「ああ、あれからいろいろ考えさせてもろうたわ」

 

「ルトガー・クラウゼル。貴方に頂いた恩義は計り知れない……俺はその恩を仇で返してしまったのでしょう」

 

「ま、別に良いさ……生き返ったなら生き返ったで、この状況もそれなりに愉しめてはいるからな」

 

 素直な感想をルトガーは口にする。

 まさか猟兵の身でありながら、《ゼファー・イーグレット》という堅気な身分をもらえるとは生前では考えた事もなかった。

 

「で、どうするんだ?」

 

 周囲に満ちる殺気に答えは分かり切っていてルトガーは尋ねる。

 それに答える前にゼノはレオニダスに向かって問い掛けた。

 

「なあ、レオ……アンタは引き返すならここやで?」

 

「余計な気遣いは無用だゼノ……団長を蘇られせる案に賛成したんだ。俺も同罪だ」

 

 真面目なレオニダスの答えにゼノは肩を竦めて、ルトガーに向き直る。

 

「ほな、ルトガーさん。何年かぶりになるが、あんたの暗殺を再開させてもらおうか!」

 

 ゼノはブレードライフルを構え、蒼黒い闘気を迸らせる。

 

「貴方を蘇らせた我らの罪。貴方を殺し直すことで贖罪とさせてもらう」

 

 レオニダスはマシンガントレットを構え、蒼黒い闘気を漲らせる。

 

「…………はっ……やっとか」

 

 かつての部下たちの殺意を浴びてルトガーは愉し気に笑う。

 

「わざわざ《蒼》の腕を奪ったって事は俺の状況も分かっているみたいだな?」

 

「ああ、《騎神》の加護のせいであんたはその時まで死ぬことはないらしいな」

 

「だが《騎神》同士の干渉ならば、貴方の命に届く可能性が万に一つある」

 

 ゼノとレオニダスの答えにルトガーは笑みを絶やさずに続きを促す。

 

「それだけじゃないだろ? 囲んでいるのは何人だ?」

 

 埠頭の各所で自分達の会話が終わるのを待っている気配にルトガーは尋ねる。

 

「はは、ざっと数えて百人やな」

 

「《超帝国人》が成し得たとされる百人斬り。貴方にはこれでもまだ足りないかもしれませんが」

 

「その代わり、どいつも後がなくて死に物狂いであんたの首を取ろうとしてくるで」

 

「そして貴方を討ち取った者にこの作戦に参加した者は今後従う契約になっている」

 

「ほう、つまり《猟兵王》の首を取って、《猟兵連合》の団長を決めるって事か……そいつは楽しそうだ」

 

 取り囲んでいる気配は数多く、ルトガーの感覚では細部までは捉え切れない。

 先の内戦で敗走し、帝国政府の摘発から逃れたが団が崩壊した猟兵。

 二流と扱われていたが、《猟兵王》の首を取って成り上がりを画策している猟兵。

 ただ面白そうというだけで参加している猟兵もいる。

 まさにピンからキリまで。

 組織としてではなく、俺が、俺が猟兵王の首を取るのだという逸った思いが籠った殺意の視線を感じてルトガーは笑う。

 

「最高のもてなしだな……なら俺たちも応えないわけにはいかないな。シオン」

 

「はい」

 

「あれを出してくれ」

 

 ルトガーの言葉に含まれた意味をシオンは読み解き、顔をしかめた。

 

「あれ……ですか?」

 

「そうだ。あれでいい」

 

 念を押した問答してからシオンは虚空に向かって手を伸ばし、彼女の背後に現れた紫の戦術殻がシオンにそれを渡す。

 それをそのままシオンはルトガーに手渡し、彼は調子を確かめるように二度三度振る。

 

「…………は……?」

 

「…………何のつもりだルトガー・クラウゼル?」

 

 手にした得物は彼の巨大な銃剣《バスターグレイブ》ではない。

 

「何のつもりも、今回の俺の武器はこれだ。オルディスをお前達の死体で汚すわけにはいかないだろ?」

 

 そう言って片手で握った“それ”をルトガーは二人に突きつける。

 

「ふざけんなやっ! そんなおもちゃで俺らとやり合うつもりとか、舐めるのも大概にせいやっ!」

 

「…………」

 

 大声で突っ込みを入れるゼノに対して、レオニダスは無言だがその視線には相棒と同じ不満で満ちていた。

 

「おいおい、おもちゃとはひでえな。これでも娘の土産なんだぜ?」

 

 ルトガーは突き付けた《湯美瑠》と鍔元に刻まれた木刀に肩に担ぐように構え直してため息を吐く。

 

「ああ、シオン。お前さんは姿を隠して大人しくしてな」

 

「了解しました」

 

 シオンはそれに頷いて、紫の戦術殻の腕に座るとゼノ達の目の前から消えた。

 

「っ――」

 

「安心しろ。シオンにこの戦いには関わらせないって、これは“猟兵達だけの戦場”だろ?」

 

「ならば先程、貴方が言った俺達と言うのはどういう意味だ?」

 

 レオニダスは寒気を感じながら聞き返す。

 

「こういうことだ――」

 

 ルトガーは“胸”に手を当てて、黒い闘気を漲らせる。

 

「っ――《戦場の叫び》!? いきなりか!?」

 

「――いや、これは――」

 

 二人はルトガーを中心に渦巻く気配に目を見張る。

 

「ああ、そうだ。これは《ウォークライ》じゃねえ」

 

 ルトガーは嗤う。

 黒い闘気を別の色が塗り潰す。

 その色は血の様な《赤》。

 その色に合わせるようにルトガーの髪も赤く染まり、目は金色の獣の目と化す。

 

「さあ、暴れるぞ――バルデルッ!」

 

 宿敵の名を叫び、ルトガーは移植された“心臓”の力を解放する。

 

「――《戦鬼合一》――」

 

 鬼気を纏った最狂の猟兵がここに顕現する。

 

「………………うあ……」

 

「ぐう…………」

 

 相対するだけで身が震える程の脅威。

 生前の、それも最高だったはずの《闘神》との戦いの時の姿以上の鬼気が漲る姿にゼノもレオニダスも、潜んでいた百の猟兵達さえもその圧倒的な存在感に圧倒される。

 

「俺はこいつを使えるようになったばかり、せいぜい試させてもらうぞ。ゼノ、レオ……いや、有象無象どもっ!」

 

「じょ、上等やないかっ!」

 

「脅威度を大幅に修正……いや、どんな手を使ってでも貴方を超えさせてもらう。ルトガー・クラウゼルッ!」

 

 ゼノとレオニダスは考えていた前哨戦を切り上げて、背後の《魔煌機兵》に乗り込む。

 それに合わせ、周囲から無数の機甲兵の駆動音が一斉に響き始め、倉庫の屋根や路地裏からわらわらと猟兵達が現れて一斉に銃口をルトガーに集中させる。

 

「さあ、戦争を始めようじゃねえかっ!」

 

 木刀を片手に髪を真っ赤に染めたルトガーは叫び、猟兵達の戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……? オジサンッ!?」

 

 遠くに感じたあり得ない気配にシャーリィは思わず振り返ってしまう。

 

「っ――破甲拳っ!」

 

「――うぐっ!」

 

 一瞬の隙を突いて、肉薄したリィンの拳がシャーリィの脇腹にめり込む。

 

「おらっ!」

 

 さらに彼女の背後からヴァルターが二人を纏めて蹴り飛ばさんと襲い掛かる。

 

「ドラグナーハザードッ!!」

 

「っ――」

 

 リィンはその場から跳び退いて、シャーリィは背中にヴァルターの飛び蹴りを直撃する。

 吹き飛ばされたシャーリィは民家をいくつも貫通して彼方へと消え――リィンとヴァルターはそんな彼女を一瞥する前に太刀と拳を交わしていた。

 

「ははっ! 向こうも楽しそうな事になってるみたいだなシュバルツァーッ!」

 

 シャーリィが思わず目の前の戦闘から目を逸らしてしまう程の“何か”に触発されたようにヴァルターの昂る。

 

「こっちも派手にやり合おうじゃねえか! しっかりついて来いよっ!」

 

「くっ――はああああっ!」

 

 ヴァルターの拳の連打の速度が徐々に上がっていく。

 リィンは歯を食いしばりながら、太刀の速度を上げていく。

 一息の間にいくつもの太刀と拳を交わし、同時に二人は背後に跳び退いた。

 

「ソラリスブリンガーッ!」

 

 ヴァルターを狙って放たれた大剣は目標を失って大地に突き立ち、アルカディスギアを纏ったアルティナはその大剣を手に取ると、低空で飛翔してヴァルターに迫る。

 

「――捉えたっ!」

 

 最大速度に乗せた突撃がヴァルターを捉えた――とアルティナが確信した瞬間、ヴァルターの手がソラリスブリンガーの切先に触れと軌道が逸れる。

 

「っ――!?」

 

 触れたはずなのに何の手応えもなく軌道を変えられた技にアルティナは驚愕しつつも、空を駆け抜けて――

 

「遅えよっ!」

 

 空を飛ぶアルティナにヴァルターは余裕で追い付き、足を振り上げてアルティナの無防備な背中に――リィンが割って入って太刀で受け止める。

 

「くっ――」

 

「良いぞ、よく追い付いた! 次だ!」

 

 アルティナを無視してヴァルターは蹴り飛ばしたリィンに向かって駆け出す。

 

「待ってっ! …………あ……」

 

 声を上げた時にはもう二人はその場にはいなかった。

 アルティナを置き去りにしてリィンはヴァルターと斬り結ぶ。

 刃を立てているにも関わらず、ヴァルターは巧みな拳捌きで手甲で受け止め、拳で弾く。

 

「ほらほら、どうした!?」

 

 余裕のあるヴァルターの態度に、リィンは大きく距離を取った。

 

「あん?」

 

 その行動にヴァルターは眉を顰める。

 

「これ以上は無駄だ」

 

「おいおい萎える様な事を言うなよ。ようやく体が温まってきたところだろ?」

 

 リィンが“鬼の力”を使って本気で斬りかかっていたにも関わらず、ヴァルターはまだ準備運動だったと宣う。

 確かにリィンもまだ探りの段階で全力ではなかったが、それでもヴァルターに刃を届かせるイメージができない。

 

「それとも本当にあの兎を潰さないと本気になれないか? なら――」

 

「勘違いするな」

 

 リィンは太刀の刀身に手を当てる。

 

「俺の《八葉》では届かない。まずはそれを認めないといけない」

 

 リィンの指が鍔元から切先へとゆっくり太刀を撫で、触れた刀身が黒く染まる。

 

「へえ……」

 

 その変化にヴァルターは興味深そうに観察する。

 

「導力停止現象下だから導力魔法じゃねえな。方術か法術の類か……いや、殴って確かめるか!」

 

 黒塗りの太刀を構えたリィンにヴァルターは正面から突っ込み、拳を振り被る。

 

「一の型――《螺旋撃》っ!」

 

 繰り出された一撃はヴァルターにとってもはや見慣れた技。

 失望しながら横薙ぎに振られた斬撃にヴァルターは拳を合わせて打ち落とし――

 

「ぐはっ!?」

 

 打ち落とし損ねて、太刀はヴァルターの胴を捉えた。

 

「っ――硬気功か」

 

 まるで鉄の塊を殴った手応え。

 ようやく捉えた一撃だが刃は通らず、リィンは眉を顰め次に繋げる。

 

「くっ――」

 

 ヴァルターは初めて苦悶の表情を浮かべるが、肉薄した間合いのままリィンは太刀を振るう。

 

「七の型《暁》」

 

 一瞬七斬の連撃がヴァルターを襲う。

 硬気功の上から、渾身の力でリィンはヴァルターを滅多切りにする。

 

「っ――」

 

 最後の斬撃がヴァルターの胸を一文字に刻み――ヴァルターは怯むことなく前に踏み込み、肩からリィンに密着するように身体を寄せる。

 

「ゼロ」

 

 触るように当たったヴァルターの拳から爆発したような衝撃を受けてリィンは弾き飛ばされる。

 

「くっ……が……」

 

 リィンは着地して打たれた脇腹を押さえて膝を着く。

 今の一撃で呼吸が乱れ、白い髪は元の黒髪に戻り、リィンは忘れていたように呼吸に喘ぐ。

 

「クカカ……なるほど術としてはアーツのダークマターか?

 太刀に付与して俺を引き寄せて、常にカウンターになるように攻撃を成立させたってわけか」

 

「っ……初見でそこまで見抜くのか……」

 

 ヴァルターは楽し気にリィンが行った太刀の種明かしをする。

 

「良いぜ。そうこなくちゃ……ゾクゾクしてきたぜ」

 

 胸に刻まれた刃傷をそのままにヴァルターはおもむろに戦術オーブメントを取り出す。

 

「ああ、やっぱりお前だったな。これを使うべき相手はあいつじゃなかった」

 

「……何を?」

 

 格闘家のヴァルターが戦術オーブメント、つまり導力魔法を使う事にリィンは違和感を覚え――その答えはすぐに理解させられた。

 

「ARCUS駆動――《神気合一》っ!」

 

 ヴァルターの気配が爆発するように存在感を増す。

 “神気”を纏い、傷の痛痒などないかのようにヴァルターは叫ぶ。

 

「…………っ……《神気合一》」

 

 呼吸を整え、改めてリィンは神気をその身に纏い、太刀を正眼に構える。

 

「ああっ! 良いぜっ! そいつとサシでやってみたかったんだ!」

 

 満面の笑みを浮かべ、神気を纏ったヴァルターは――横から静かに突っ込んで来た魔煌機兵《モルドレッド》に蹴り飛ばされた。

 

「…………………え……?」

 

 リィンは大きな放物線を描いて飛んでいくヴァルターを目で追って、間の抜けた声をもらす。

 まるで出しゃばり過ぎだと咎めるように、機械の人形は生身の人間に容赦なく、一片の慈悲もなく、蹴り飛ばされたヴァルターはオルディスの海の水柱となった。

 

「…………………え……?」

 

 リィンはその光景にもう一度、間の抜けた声をもらしてしまう。

 

「リィンッ!」

 

 アルティナが空から追い付いて着地し、リィンはそこで我に返った。、

 

「あ……えっと……この《モルドレッド》はアルティナが?」

 

 リィンは肩透かしを喰らった空虚さに神気を解きながら、要塞から奪われたはずの《モルドレッド》についてアルティナに尋ねる。

 

「いいえ、わたしではありません」

 

「じゃあ誰が……?」

 

 リィンは振り返り、前蹴りの姿勢から片膝立ちとなった《モルドレッド》に視線を向けた。

 

「…………ん? ハッチが開いたままだな」

 

 回り込んで見れば、《モルドレッド》の操縦席へのハッチは開けっ放しになっていた。

 

「おかしいですね。周囲には生体反応はないのに」

 

「まさか無人で動いた?」

 

 リィンとアルティナは微動だにしない《モルドレッド》に首を傾げる。

 と、そこでタイミングを良くリィンとアルティナの《ARCUS》が戦闘駆動が解除されたのに合わせて着信を知らせる。

 

「…………トワ教官からだ…………出ないとまずいよな?」

 

「……現在地は公爵家城館前ですから、後回しにしてもよろしいのではないでしょうか?」」

 

 気付けば目的地でもあったカイエン公爵家城館前にいた二人はトワ教官からの連絡を先奥にしようとして――

 

「こらこら二人とも、トワからの連絡を無視するのはいただけないね」

 

 どこからともなく現れたアンゼリカがリィンの手の中から《ARCUS》を奪っていた。

 

「アンゼリカさんっ!?」

 

『よかった繋がった――って、アンちゃん!?』

 

「やあトワ。また君の声が聞けて嬉しいよ」

 

 開口一番にアンゼリカが惚気る。

 

『アンちゃん!? その《ARCUS》はリィン君のだよね? それにアンちゃんは公爵家城館に囚われているってユーシス君が言っていたけど』

 

「リィン君が街の中で大暴れをしてくれてね、それに乗じてこっそりと抜け出させてもらった……

 ああ、大丈夫。リィン君とアルティナ君もすぐ傍にいるよ。ところでトワ。元カイエン公の狙いなんだが」

 

『あ……三人共聞いて、元カイエン公の本当の狙いは――』

 

 トワの言葉の途中、オルディスの地面に光の線が走り、《モルドレッド》が同色の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

「ふむ……戦場の流れが変わったな」

 

 《ティルフィング》の中で、戦場の勢力図を眺めていたクロワールはある時期を契機に変わった敵戦力の動きを分析する。

 

「導力停止現象を中和できるシステムがあった事は驚いたが、まだ数の揃わぬ海上要塞の残存部隊などアスモダインの敵ではない」

 

 アスモダインに搭載されているのは対機甲兵武装だけではなく対人兵器もある。

 果敢にも生身でアスモダインに挑む者もいたが、導力停止現象が無効化された段階で進撃させた弐号機と連携させて戦線は維持されている。

 

「このタイミングで《第Ⅱ》の学生たちも戦線に参加させたか……

 向こうにも《精霊回廊》について詳しい者がいたのかもしれんな」

 

 精霊回廊に干渉する装置は導力ネットに晒しものにしている《蒼》の十字架がそれである。

 映像を流せば真の目的に気付かれる可能性もあったが、士気の向上や各地に潜む同士を奮い立たせる切っ掛けとして必要なことでもある。

 

「できれば三日……いや二日は籠城して引きつけたかったが致し方あるまい」

 

 ままならないものだとクロワールは肩を竦めて、戦場に指示を出す。

 

「アスモダイン壱号、弐号!

 攻撃を維持したまま防衛ラインまで戻れ!

 二機が戻り次第《蒼》の精霊門を開き! 我ら《真・帝国解放戦線》は帝都ヘイムダル》に奇襲を仕掛けるっ!」

 

 クロワールの号令に威勢の良い返事が返って来る。

 それに満足そうにクロワールは頷き、視線を下に落とす。

 

「ククク、もうすぐだ。ギリアス・オズボーン……

 この《バスターライフル》を貴様がいる帝都に撃ち込んでくれる……

 そうすれば後は…………ククク、アハハハハッ!」

 

 クロワールの笑いが《ティルフィング》の中に木霊した。

 

 






NG 心残り

クロウ
「頼む……静かに……」

オリビエ
「ふむ……本当に心残りはないのかいクロウ君?」

クロウ
「やっと終われる……俺はもう…………」

オリビエ
「ベッドの下に隠した本」

クロウ
「……」

オリビエ
「導力端末の隠しフォルダ」

クロウ
「…………」

オリビエ
「導力ネットの検索履歴」

クロウ
「………………」

オリビエ
「もう一度聞くよ。クロウ君、君はこのまま死んで良いのかい?」







《戦鬼合一》
ルトガーにとっての神気合一。
蘇生にあたり、宿敵でもある《闘神》バルデル・オルランドの心臓を移植された事で得た力。
《赤い星座》はこの作品内では獅子戦役の頃に起動者となった猟兵の末裔であり、アルノール程ではないが古き血を持っている。
移植は成功したものの、原作リィンのように《鬼の力》と発現できるほどの才はなかったが、ダーナがルトガーの体と心臓の調整を行ったため、発動が可能となった。
リィンとは違い、心臓がオルランドのものであるため、白髪ではなく赤髪に変化する。


木刀《湯美瑠》
ダーナがユミルのお土産に買ってきて土産の一つ。
ダーナが一筆入れたものであり、ユン老師がリィンをしばき、ヴィクターがリィンを叩き、マテウスがリィンを飛ばし、シズナがリィンをいじめた逸品。




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