「あれは……」
《紅き翼》カレイジャスの艦橋で西の空に立ち昇る蒼い光にセドリックは唇を噛む。
「あれがクルトの報告にあった精霊回廊か……エマ?」
「はい……まだ遠いですがあり得ない程の霊力の高まりを感じます」
同じものを見ていたエマは神妙な顔で頷く。
精霊回廊、精霊の道。
呼び方は様々な古の移動手段であり、自分達も一年半前の内戦で利用した。
七耀脈の流れに乗って移動することができ、門は精霊信仰の名残が強く残っている場所に開くとされている。
「どうやら元カイエン公はオルディーネを精霊に見立て、導力停止現象で集めた力で門を無理矢理作ったと思います」
「…………そう言えば考えた事はなかったんだけど、精霊回廊では一度にどれくらいのものが運べるんだい?」
「分かりません。昔の資料では機甲兵のようなものをいくつも揃えるなんて規模の大移動には使われていませんでしたから」
「それじゃあ失敗する可能性もあるのか……あのカイエン公がそこまでの賭けに出るなんて」
「セドリック皇子、進路はどうしますか?」
操舵席に座るクリスが尋ねる。
このままオルディスを目指すのか、それともヘイムダルに戻るのか、その判断をクリスはセドリックに求める。
「エイダ、導力ネットに上げらているオルディーネの様子は? それから現場の《第Ⅱ》との通信は?」
「どちらも通信は途絶しています」
「そうか……」
その報告にセドリックは考える。
オルディーネの中のクロウはかなり危険な状態にあるというのが魔女であるエマの判断であり、彼の救護にエマは同行している。
オルディーネもクロワール達と一緒に精霊回廊で転移しているのか、オルディスに残っている戦力とヘイムダルに転移した戦力はどれだけなのか。
既にミルサンテ上空まで来てしまったカレイジャスをどちらに向かわせるべきかセドリックは悩む。
「殿下……《黒き翼》から通信です」
「映してくれ」
エイダの報告にセドリックが応えると、一つの導力モニターの画像が切り替わる。
『御機嫌ようセドリック殿下』
画面に現れたのは異様な様相の男だった。
真っ赤な獅子を模したマスクをそのまま名前としたレオマスク。
《黒き翼》の艦長として、オズボーン宰相に紹介された男は見るからに怪しい。
もっとも彼が統括する《鉄血の騎士》は全員が仮面を着用しているため、指摘したところで意味はないかもしれない。
『大変な事になりましたね』
「前置きは結構です。要件を仰ってください」
『ではセドリック殿下、私たちは《ティルフィングBG》を除いてヘイムダルに戻らせて頂きます』
「……そうでしょうね」
自分達よりも遅れて帝都を発進した《黒き翼》はまだ帝都の方が近い。
クロワールの転移が成功したと考えるなら、《黒き翼》は位置的にも帝都へ戻るべきだろう。
「でも何故、ティルフィングだけをオルディスに?」
意図は分からなくもない。
空戦ができるタイプの《ティルフィング》を念のための備えとしてオルディスに送り出しておくのだろう。
「それで殿下達はどうなされるつもりですか?」
「僕たちは――」
「艦の下から異常な霊力反応っ!」
セドリックの言葉にフリッツの報告が被さる。
「船体下部の導力カメラの映像を映してくれっ!」
セドリックの指示に紅獅子が映っている別の導力モニターがそれを映す。
そこには光が巨大な塊となって結実する姿が映し出され、それは一機のアスモダインとして顕現する。
「一機だけか?」
その疑問を呟くと、眼下のアスモダインから黒い光の波紋が放たれる。
その光はカレイジャスを透過してセドリック達の目の前を過ぎ去った。
「なっ何だ今のは!?」
「こ、攻撃されたの!?」
「落ち着いて。今のは導力停止現象だ。カレイジャスは対導力停止現象の処置を受けているから問題はない」
狼狽えるフリッツとエイダをセドリックは一喝して宥める。
「…………機関出力は正常……ほっ……」
「セドリック皇子は導力停止現象を見たことがあるのですか?」
「え……? ま、まあ……トリスタでも一度導力停止現象が起きた事があるからね」
「…………」
エイダの質問にセドリックは言葉を濁して頷き、エマは明後日の方に視線を迷わせる。
そんな二人にエイダは首を傾げ――
「現出したアスモダインに高エネルギー反応っ!」
「カレイジャス、緊急旋回!」
「了解っ!」
セドリックの指示にクリスがカレイジャスを動かす、
地上から放たれた野太い導力砲がカレイジャスは掠める。
「他の敵影は!?」
「――ありません! アスモダインは一機だけのようです」
「エマ?」
「おそらく精霊回廊から零れ落ちたものだと思います」
「そうか……」
エマの推測にセドリックは考える。
転移そのものは成功している。
四機あったアスモダインの内、一機がミルサンテ近郊に現れた事からそれは間違いない。
「帝都は《鉄血の騎士》である貴方達にお任せします」
セドリックは繋がったままの通信で紅獅子に向かって言う。
『よろしいのですか?』
「今ミルサンテに現れたアスモダインを無視する事はできない。あれは僕が倒す」
セドリックの宣言に艦橋にいる者たちの緊張が高まる。
「君たちはこのまま海上要塞に向かって《第Ⅱ》と合流。彼らの《機甲兵》も導力停止現象の中でも動ける機体だ……
彼らを回収次第、オルディスに向かうか、帝都へ戻るかの判断はエマ、君に一任する」
「分かりました」
セドリックの命令にエマは頷く。
「では《テスタ=ロッサ》を甲板、カタパルトデッキに移動します」
「いや、その必要はない」
エイダの言葉にセドリックは笑うと彼女達に背中を向けた。
「こっちの方が早いよ」
「セドリック皇子!?」
駆け出して艦橋から出て行ったセドリックは艦内を駆け抜けて甲板に出ると、そのままの勢いで手すりを蹴って空へとその身を投げ出した。
眼下に広がる大地とラクウェルの街並み。
その近郊に我が物で立ち、カレイジャスに砲撃の狙いを付けようとしているアスモダインが一機。
「来い――《緋の騎神》テスタ=ロッサ」
『――応っ!――』
*
「ラクウェルにアスモダインが現れただと!?」
その一報を聞いた瞬間、アッシュは衝動的にヘクトルを走らせていた。
「アッシュ!?」
「カーバイド! 何処へ行くっ!」
「うるせえっ! 敵がオルディスからラクウェルに移動したって言うなら、そっちに行くだけだろ!」
教官に対してあるまじき暴言。
しかしミハイルがそれを咎める間もなく、通信は切断されて《ヘクトル》は陣を駆け抜けて街道へと出てしまう。
「くっ……勝手な真似を」
しかしその判断の早さはミハイルも否定できなかった。
「ハーシェル、シュバルツァー達との通信は!?」
「転移の影響で回線が切断されてしまったようです」
「くっ……」
現状で唯一、オルディス内の情報源になるリィンとの交信ができない事にミハイルは唸る。
「ミハイル教官、私たちもアッシュさんの後を追うべきだと思います」
「イーグレット……?」
空から周囲を見回して地上に戻って来たミュゼにミハイルは聞き返す。
「報告した通り、一機のアスモダインはラクウェル方面に……
他の三機はオルディスに視認できませんでした、おそらくはラクウェルより向こう側で現出していると思われます」
「っ――そうか」
「ですが、街中でもまだ戦闘は続いている様子です」
「そうか……」
ミュゼからの報告にミハイルは更新された情報を元に考える。
現状の《第Ⅱ》が出来る事は少ない。
ヘイムダルは無理でもラクウェルならば機甲兵やデアフリンガー号の速度ならば、間に合う可能性はある。
「ランドルフは戦術科の生徒を率いて地方軍と合流し、オルディスに向かってくれ……
ハーシェルは帝都方面への通信を呼び掛け続けろ。私たちはカーバイドを追ってラクウェルに向かう!」
その指示に《第Ⅱ》は動き出す。
「た、大変な事になっちゃいましたね」
昨夜はラクウェルで豪華な食事をしていたティータは今の状況に申し訳なさを感じずにはいられなかった。
「君が気にする事じゃない」
そんな彼女の気持ちを察し、クルトは更新されたマニュアルを《シュピーゲル》の内部で読みながらフォローする。
「昨夜の強奪事件は仮に君やリィンが要塞に残っていたとしても起こっていたはずだ……
むしろシュミット博士を現場から遠ざけていたというだけでも意味はあったさ」
「クルトさん……本当に大丈夫ですか?」
「君までそう言うのか? ちゃんとミハイル教官から許可は得ている」
「でもでも昨日のクルトさんはアガットさんみたいだったし……」
昨夜のクルトの激昂ぶりにティータはリベールでの古龍事件の時のアガットの姿とクルトを重ねる。
「そのアガットさんという人がどんな人かは知らないけど、昨日のあれは忘れてくれ……
それよりこの短時間でシュピーゲルを直してくれてありがとう」
「いえ……要塞で半壊していたシュピーゲルからパーツを流用した応急処置ですから……
《オルディーネ》との合体はできないと思うから気を付けてください。あとクルトさんに言われた通り、実体剣を二本と予備の導力剣は全部付けてみました」
「ありがとうティータ」
追加された装備を確認しながらクルトはティータに礼を言う。
もっともクルトの気持ちは複雑だった。
今の戦況次第では怨敵であるクロワールはクルトの手の届かない所に行ってしまった。
そのやり場のない憤りをラクウェルに現れたアスモダインにぶつけるつもりでクルトは《シュピーゲル》を立ち上がらせた。
「《シュピーゲル》――クルト・ヴァンダール、出る」
《シュピーゲル》は陣から駆け出して先行するアッシュの《ヘクトル》を追い駆ける。
「クルト君、大丈夫なの?」
並走した《ドラッケン》――ユウナが気遣うように声を掛ける。
「ああ、できれば今すぐにでもクロワールに向かいたいところだけど……」
精霊回廊の使用を止められなかった事から、オルディスにクロワールがいる可能性は低い。
「クロワールの下に辿り着くにはまず、あのアスモダインを倒さなければならないなら、そうするまでだ!」
遠方に見える巨体を睨み、クルトは気持ちを逸らせる。
『Ⅶ組のみんなに伝えます』
ラクウェルへと急ぐ《Ⅶ組》にトワの通信が入る。
『現在、アスモダインはラクウェル、ミルサンテに一機ずつ、ヘイムダルに二機、それぞれ転移が確認されました』
「そんな広範囲に!?」
トワの報告にミュゼが唸る。
『その内、ミルサンテにはセドリック皇子の《テスタ=ロッサ》……
ヘイムダルではキーアちゃんの《ヴァリマール》が迎撃に出ています……
なのでみんなはラクウェルに転移したアスモダインを撃破する事にまず集中してください』
「っ――セドリックが……一人であれと……」
その報告にクルトは思わず反応してしまう。
それを聞こえなかったふりをしてトワは続ける。
『これまでの戦闘で判明したアスモダインの性能について報告するね……
アスモダインは導力停止現象で周囲の導力を奪って砲撃や、防御用の導力フィールドを展開するみたい……
付け加えると装甲はリアクティブアーマーだから導力が続く限り、高い防御力を維持してるの……
あとはセンサー系が異常に鋭いってサラ教官から報告もあったから、ステルスとかは通じないと思った方が良いかも』
「そ、それでどうやって戦えって言うんですか!?」
理不尽とも言える性能さにユウナは泣き言をもらす。
『えっと……が、頑張って!
もうすぐ旧Ⅶ組の援軍としてアリサちゃん、ユーシス君、ガイウス君が《ティルフィング》で参戦するから』
自分でも無茶な事を言っていると自覚していたトワは空しいエールを送る事しかできなかった。
*
それは唐突に起こった。
一年半前の内戦が嘘のように綺麗に造り直された伝統ある造りの帝都の街並み。
その街の中で七耀脈が目に見える程に活性して輝き始めて、燐光が溢れる。
帝都の至る所で起きたその現象。
それらは巨大な人型となり――
「させないよ」
キーアはそう呟くとヴァリマールに太刀を掲げさせる。
刀身が銀色に輝き、その光を波紋のように広げり、予め各地に刺したドローンの子機に共鳴して七耀脈の流れに干渉する。
帝都に幾つも現れた光は一度霧散すると、その流れに沿って一まとめになり、帝都の外へと誘導される。
現出したのは巨大な二機のアスモダイン。
更に魔煌機兵の新型の《モルドレッド》と《メルギア》。さらには五体の既存機甲兵と銃火器で武装した兵士達。
そしてキーアも見知った《白のティルフィング》が現れる。
「っ……」
報告で聞いていた姿にキーアは顔をしかめる。
同時に彼らが現出した事で気付いた気配にキーアはさらに顔をしかめた。
「おじさん」
『何かねキーア君?』
すぐに返ってきたオズボーンの返答にキーアは感じたものをそのまま報告する。
「今、精霊回廊から出て来た人達はほとんど《グノーシス》を服用してると思う」
『そうか……了解した』
深くは追及せず、オズボーンは短い言葉でキーアの言葉を受け入れて、待ち構えている軍へとその情報を送る。
「…………」
キーアは帝国でも《グノーシス》が悪用されている事実に複雑な気持ちを抱かずにはいられない。
『さて、キーア君。君は手筈通り、防御に専念してくれたまえ』
「本当に良いの、オーレリア分校長?」
オズボーンとは違う声にキーアは聞き返す。
『無論だ。これはそもそも一年半前の内戦の延長。クロスベルを故郷とする君にとっては他人事の戦争なのだから』
ヴァリマールの隣に立った《黄金のシュピーゲル》に乗ったオーレリアは意気揚々とした調子でキーアの問いに答える。
「でも――」
『むっ――来るぞっ!』
オーレリアの言葉にキーアは意識を切り替える。
視線を戻した敵勢力の中、二機のアスモダインが黒い光を波紋のように放つ。
「それはもう識ってるよ」
それはトールズ交流戦でキーアが《ティルフィング》との戦いで見たものと同じ光。
光を浴びた《灰》はそれをものともせずに太刀の鞘でもあるドローンを分離させて飛ばす。
二機のアスモダインによって展開された導力停止現象によって、《灰》の背後のヘイムダルからあらゆる導力器がその機能を止める。
奪われた導力は二機のアスモダインに集まり、そうして充填されたアスモダインの胸の砲門に光が宿る。
「《壁よ》」
キーアの呟きに反応してドローンを頂点にして《灰》の前に巨大な光の壁が造られる。
「吹き飛べエレボニアッ! 鉄血宰相っ!!」
《M》の叫びと共に野太い砲撃が二つ、放たれる。
「っ――」
《灰》は太刀を掲げ、霊力を漲らせて壁に力を注ぎ込み――防ぎ切った。
「おおっ!」
「蒸気戦車部隊、砲撃を開始せよっ!」
初撃を防いだ《灰》に歓声を上げた帝国軍人たちは前に出てアスモダインへ攻撃を開始する。
「ちっ――また《灰》か!」
「ははっ! 残念だったなクロワール卿っ!」
憤るクロワールに真っ先に先陣を切って突撃した《黄金》が大剣を振り下ろす。
「っ――その大剣。そしてその《黄金》の機体……オーレリアかっ!?」
「いかにも。お久しぶりです、クロワール卿。久闊を叙したくもありますが、まずはその機体は我が校の生徒のもの、お返し願おうか!」
「貴様……導力停止現象の中で何故機甲兵を動かせる!?」
大剣と太刀を切り結びながら《シュピーゲル》と《ティルフィング》はぶつかり合う。
「こちらにはゼムリアの叡智が偶然にもいたとだけ御答えしておこう……
それよりもかつては《剣匠》と呼ばれる程にまで登り詰めた腕前、この一年半で随分と取り戻したようだな」
「抜かせ若造が! 我が覇道の邪魔をするというのなら、かつての同志であっても斬り捨てるのみよっ!」
激しくぶつかり合う二機を他所に、《灰》は帝都の城壁から動かず、四つのドローンを駆使して帝国正規軍の援護に徹する。
「本当に良いのかな?」
必死に戦う帝国人を他所に、アスモダインが打ち上げる導力ミサイルや導力砲を片手間に防ぎ、キーアはため息を吐く。
導力兵器が使えない彼らは果敢にも剣や槍で機甲兵や、使える導力兵器で武装したテロリスト達に挑む。
「…………やっぱりキーアも――何っ!?」
参戦しようかと考えた瞬間、感じた悪寒にキーアは周囲を見回す。
「…………見られてる……?」
キーアは西の方をじっと見つめて、刺すような視線の正体を観る。
「鳥……じゃない……この視線は…………っ!?」
答えを出そうとしたところでキーアは異様な気配を感じて戦場に視線を戻す。
「この気は――え……?」
キーアが意識を向けた先には二体の新型魔煌機兵が膝を着いた状態から立ち上がろうとしていた。
《モルドレッド》はその手にキーアが見覚えのある“太刀”を現出させる。
《メルギア》は武装を放棄して、ナックルガードを装着する。
「もしかして……リィン……?」
二つの新型は帝国解放戦線を背後から強襲した。
*
「どいてくださいオーレリア分校長っ!」
「その声はシュバルツァーかっ!?」
《黄金》と《白》の戦いにリィンは《モルドレッド》で乱入する。
精霊回廊による大規模転移に乗り捨てにされた《モルドレッド》に乗り込んで便乗したリィンは、狭い操縦席をアルティナと密着した状態で、自分本来の機体に躊躇いなく斬りかかる。
「《モルドレッド》だと!? メイド、何をしている……メイド? メイドとは誰だ? いや違う者が乗っているな?」
斬りかかってくる仲間のはずの機体にクロワールは困惑しながらも、眉を顰め問い質す。
「その機体は俺のだ! 返せっ!」
「ふんっ! 私が、このクロワール・ド・カイエンが使ってやっているのだ光栄に思え!」
言い返して来た言葉にリィンは眦を上げる。
「リィン、落ち着いてください」
「分かってる!」
アルティナにそう返しつつも、リィンは荒々しく《モルドレッド》を操って斬り結ぶ。
「そのまま抑えているがいい!」
鍔競り合う《白》と《モルドレッド》に《黄金》は回り込んで大剣を振るう。
「ちぃ――」
《白》は背後に跳び、頭上から降って来た唐竹割りの大剣を回避する。
《モルドレッド》は《黄金》を回り込み、《白》に迫り――太刀を盾にして剣閃を弾く。
「っ……刺突の剣閃!? この間合いで!」
十アージュは離れているだろう間合いに対して、《白》は抜き手を見せない速度の刺突を連発して《モルドレッド》を突き放す。
「構わん! 進めシュバルツァーッ!」
怯む《モルドレッド》をフォローするように《黄金》は大きく跳躍して大剣を大地に突き立てる。
「王技・剣乱舞踏っ!」
闘気の剣群が地面から突き上がり、津波となって《白》に襲い掛かる。
「跪けっ!」
対する《白》は氷の闘気で剣の津波を凍てつかせ、続く一突きで《黄金》の必殺を破る。
「一の型《螺旋撃》」
《モルドレッド》は技の硬直に肉薄し、渾身の一撃を振り――《白》の太刀が半ばから折れて飛ぶ。
「ぬうっ!?」
たたらを踏んで後退する《白》に《モルドレッド》と《黄金》は迫る。
「ふざけるなっ! こんなところで私は終わらん! 私は――クロワール・ド・カイエンなのだぞ!」
追い詰められ、クロワールは咆える。
それに応えるように黒い瘴気が《白》を――戦場の帝国解放戦線やアスモダインを包み込んだ。
「ガガガガガガガガガガガッ!」
「アアアアアアアアアアアッ!」
「ギギギギギギギギギギギッ!」
戦場に不気味な悲鳴が折り重なる。
「鬼の力……? いや 肉体変異――魔人化!?」
戦場の解放戦線は人間から一回り大きな魔人へと変貌して、理性を失った獣となって更なる暴力を振り撒く。
更には二機のアスモダインが滅茶苦茶に撃つ砲撃や銃撃の嵐が戦場をかき乱す。
「滅茶苦茶だ……」
リィンはその戦場に慄き、冷や汗を流す。
「リィンッ!」
アルティナの声にリィンは意識を《白》に戻す。
「オオオオオオオオオオオオオッ!」
クロワールもまた彼らと同じような獣の咆哮を上げ、霊力の高まりに合わせて《ティルフィング》の装甲が開き――さらに光の紋様《聖痕》が装甲に浮き上がる。
「なっ!?」
自分が使う以上のものが引き出されている《白》にリィンは絶句する。
「まさか――」
《白》は黒に彩られた金の霊力をその手に集中すると、《金》は剣を形となって具現化する。
「空想具現――《ケルンバイター》……何でお前がそれを使えるっ!?」
《空》の力の一端を解放した力にリィンは思わず叫ぶ。
「シュバルツァー来るぞっ!」
オーレリアの声にリィンは身構え――次の瞬間、《白》は《モルドレッド》と《黄金》の目の前にいた。
「――――ホロビヨッ!!」
《金の剣》の一閃が《黄金》の大剣を切り裂き、《クラウ=ソラス》の太刀に傷を刻む。
「うぐっ!」
「アルティナ!?」
痛みに喘ぐアルティナにリィンの意識が逸れる。
その隙を逃さず、《白》は金の剣を掲げる。
「帝技――魔剣乱舞」
空中に無数のケルンバイターが現れる。
《空》の導力で具現化されたそれはあくまでも一時的な模造品。
《理外》ではなく《空》の力を宿して、《モルドレッド》と《黄金》。そして戦場に降り注いだ。
*
《白のティルフィング》が帝都ヘイムダルの中央通りを駆け抜ける。
外縁から一直線に伸びた大通りには導力が停止した導力車や導力トラムが放置されている。
それを文字通り蹴散らし、怯えた帝都市民の視線を感じながらクロワールは紅い街を疾走する。
「ククク……待ちに待った時が来たのだ……」
クロワールは喉を鳴らし、笑みを噛み殺す。
「思えば長かった……あんな野良犬に任せる大役ではなかったのだ」
一日千秋の気持ちで、ヘイムダルを大通りを走破したクロワールは再建されたドライケルス像を踏み台にして空高く舞い踊る。
緋色のバルフレイム宮を見下ろし、そこにいるだろう怨敵、鉄血宰相ギリアス・オズボーンの存在をクロワールは感じ取る。
「これで悪夢は終わる――」
《白》は背負った長大な二つの導力ライフルを合体させて一つにして構える。
「古き良きエレボニア再生のため、オルトロス帝こそ真のアルノールだという証明のため、何より我が覇道のためっ!」
バスターライフルに搭載された導力エンジンが駆動し、唸りを上げる。
充填された二つの力は“相克”し、高め合い、銃身は熱を帯びて赤熱し始める。
《白》の操縦席にはアラートの音が鳴り響くがクロワールは構わずに導力の充填を続け――
「ここで全て――ホロビロッ!!」
破壊の光が帝都ヘイムダルに墜ちた。