閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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73話 ラマール戦線Ⅵ

 

 

「クロウッ!」

 

 帝国解放戦線を蹴散らしたアンゼリカは《メルギア》から降りて、朽ち果てた《蒼》に駆け寄る。

 その姿は無残なものだった。

 転移の触媒にされた《蒼》は磔された状態から地面に転がっている。

 頭は転がり、両腕はなく、ひび割れたボロボロの体が横たわっている。

 

「クロウッ!」

 

 アンゼリカは剥き出しの“核”の奥、ガラスのような壁の向こうにクロウの姿を見つける。

 

「起きろクロウ!」

 

 壁を叩き、アンゼリカは呼び掛けるが項垂れたクロウはまるで反応しない。

 

「クロウッ!」

 

「無駄よ」

 

 もう一度声を上げるアンゼリカに応えたのは少女の声。

 

「君は……?」

 

 アンゼリカが振り返るとそこには戦場には場違いな女の子がいた。

 どこか《Ⅶ組》の後輩を思い出させる面影を持った女の子。

 誰だったかと、アンゼリカが考えを巡らせている内に女の子は続ける。

 

「クロウ君にはもう生きる気力がなくなってる」

 

「生きる気力がない?」

 

 アンゼリカが聞き返した言葉に女の子は頷く。

 

「テロリストとなって多くの犠牲を作り、時には仲間を生贄に捧げて成し遂げた復讐……

 その先には貴族連合の尖兵として更なる犠牲を生み出した。それこそ殺したいと憎んだ“鉄血宰相”と同じ事をして、それ以上の悲劇を積み重ねた」

 

「それは……」

 

 女の子の言葉にアンゼリカは言葉を濁す。

 

「ジュライの弟分を復讐者にした時点で、クロウ君の心は折れていたのよ……

 そして“相克”の呪いによって死に逃げる事もできずにいたクロウ君はようやく訪れた“死”のチャンスを受け入れようとしている」

 

「そんな馬鹿なっ! クロウがそんな真面目に償いを――っ……」

 

 アンゼリカは言いかけた言葉を呑み込む。

 何だかんだで折り合いをつけているのだと思っていた。

 今回の領邦会議で顔を合わせた時も、写真で取引をしてくるという馬鹿な一面を見せてアンゼリカは安堵したものだ。

 

「いつまで償えば良いのか、どれだけ後悔しても罪を責め立てる人が現れる……

 クロウ君はオズボーン宰相の様な“鉄の心臓”を持ち合わせていなかった……

 “相克”の運命がある事を考えれば、ここで果てさせて上げるのもクロウ君のためなのかもしれないわね……例え彼が“ノスフェラトゥ”になってしまうとしても」

 

「そんな事を認められるわけないだろ!」

 

 女の子の言葉をアンゼリカは激昂して否定する。

 

 ――また私は見過ごしたのか?

 

 クロウが《C》であった事、クロウが苦しんでいた事、親友だと思っていた男の苦悩に気付かなかった自分をアンゼリカは呪う。

 

「死ぬなクロウ! 死んで楽になろうとするなっ!」

 

 その言葉に壁の向こうのクロウが応える事はなかった。

 

「くそっ!」

 

 反応がないクロウにアンゼリカは悪態を吐いて、踵を返す。

 

「簡単に諦めるのね?」

 

「諦めたわけじゃない!」

 

 女の子に言い返し、アンゼリカが《メルギア》に乗り込むと自分の《ARCUS》と接続して導力ネットに繋げる。

 

「トワッ! ジョルジュ! どちらでもいい返事をしてくれ!」

 

 そう叫ぶアンゼリカの頭上に、アスモダインが打ち上げた導力ミサイルの雨が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

「間に合えっ!」

 

 《ティルフィング》を追って《モルドレッド》が帝都を駆け抜ける。

 軽量高機動型の《ケストレル》の後継機なだけあって、その速度は並の機甲兵よりも速い。

 横倒しになったドライケルスの像を踏み砕いて《モルドレッド》は運河を跳び越す大跳躍をしてバルフレイム宮の壁面に着地し、そのまま駆け上がる。

 

「リリリリリィンンンンンンッ!」

 

 ガクガクと激しく揺れる機体にアルティナが青い顔をするが、そんな事にリィンは構っていられない。

 

『古き良きエレボニア再生のため、オルトロス帝こそ真のアルノールだという証明のため、何より我が覇道のためっ!』

 

 通信機から苛立つ言葉が垂れ流される。

 

「ふざけるな……」

 

 《ティルフィング》が構えたバスターライフルが限界を無視して駆動する。

 そこに生まれる“力”の高ぶりをリィンは良く知っている。

 

「ふざけるなっ!」

 

 それはリィンが初めて作った《鋼》の導力魔法。

 まだ兵器としてしか使えないが、それでも手に負えないと封印されたはずの《鋼》にとっての進歩の一つであり、シュミット博士やティータと一緒に開発したモノなのだ。

 その威力はリィンが良く知っている。

 最低出力でも廃棄船を一撃で消滅させる事が出来る程のエネルギー爆発を引き起こす。

 それを最大出力で帝都で放てば、狙いのバルフレイム宮だけに被害は留まらずルフィナとナユタがいる大聖堂やエリゼがいる女学院にまで被害が及ぶだろう。 

 

『ここで全て――ホロビロッ!!』

 

 躊躇なく放たれる真っ白な光。

 天井が堕ちて来ると錯覚するような白に《モルドレッド》は前面に導力障壁を展開した上で、右手に紅耀、左手に琥耀の力を纏わせて導力障壁を支えるように前に突き出す。

 圧倒的な、触れれば何もかも破壊する破滅の光。

 リィンはシュミットの言葉を思い出していた。

 

『シュバルツァー。ラッセル。貴様たちはこの兵器にどんな対抗手段を考える?』

 

 破壊しかもたらさない兵器を造る事に気乗りしていなかったリィンにシュミットが向けた雑談でしかない。

 

「クレセントミラー」

 

 《幻》の導力魔法。

 効果は導力魔法の反射であり、それを《鋼》の力で強化して支える。

 どんな強力な魔法であっても、導力魔法ならば対策はいくらでも立てられる。

 シュミットの言葉通り、導力障壁は《鋼》の砲撃を受け止め――屈折させて光を散らす。

 

「ぐうっ!」

 

 激しい光の奔流が《モルドレッド》を激しく振動させる。

 中ではリミッターを解除した導力エンジンの異常を知らせるアラートがけたたましく鳴り響く。

 永遠にも感じる導力砲の照射が終わった頃には、《モルドレッド》の装甲は溶解し、特に両腕は原形を留めない程に崩れていた。

 

「…………アルティナ……大丈夫か?」

 

 息も絶え絶えにしながら、リィンは抱き着いているアルティナに声を掛ける。

 

「な……何とか……」

 

 圧倒的な破壊の気配に生きた心地がしなかったアルティナはそれでもしっかりとした返事をして――《モルドレッド》は《ティルフィング》の蹴りを受けてバルフレイム宮の壁に叩きつけられた。

 

「よくも私の偉業を邪魔してくれたなっ!」

 

「何が偉業だ! お前は自分が何をしようとしていたのか分かっているのか!?

 あんなものを帝都で撃ったらバルフレイム宮だけでは被害は済まないんだぞ!」

 

「それがどうした?」

 

「何……?」

 

 悪びれもなく言い切られてリィンは怯む。

 

「それが“闘争”よっ! 敵を最後の一人まで滅ぼし尽くすっ! それこそが人の本質っ!」

 

 金の剣が閃き、咄嗟に屈んだ《モルドレッド》の頭が斬り飛ばされる。

 

「くっ……」

 

「帝国は私が再生するっ! 正しき帝国のあるべき姿に私が正すのだっ!」

 

 

 

 

 

「クロウッ!」

 

「クロウ君っ!」

 

「クロウ!」

 

「クロウ兄ちゃん!」

 

 ――やめろ――

 

 友人や弟分の声から耳を塞ぎ、クロウはその言葉を拒絶する。

 

「《C》!」

 

「立て《C》!」

 

「責任を取れっ! 《C》ッ!!」

 

 ――やめてくれ――

 

 かつての仲間達の声から耳を塞ぎ、目を伏せてクロウはその言葉を拒絶する。

 

 ――何をしている? 立って戦えよ償うんだろっ!――

 

 ――何をしている? オズボーンの首はすぐそこだぞっ!――

 

 ――生きて戦い続けろっ!――

 

 ――戦って死ねっ!――

 

 帝都や戦場に満ちた想念が渦巻いてクロウに纏わり付く。

 友たちの声は大多数に埋もれ、闘争の言葉が耳を塞いでなお、クロウを責め立てる。

 

「ああ……いっそ身を委ねてしまえば良いのか……」

 

 思考を放棄すると、その弱気に黒い力がクロウの中に入り込む。

 

 ――戦えっ! 闘えっ! 争えっ!――

 

 突き動かす“闘争”の声。

 

「それが貴方の答えなのね」

 

 戦場に満ちた黒い想念を受け入れて吸収していく《蒼》を見上げて、女の子は呟く。

 “闘争”の想念を受け入れた《蒼》はその体を修復していく。

 欠損した両腕が再生し、翼が、頭が、そして長く禍々しい尾が新たに生えて《蒼黒い獣》が立ち上がる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 戦場に獣の雄叫びが鳴り響く。

 《蒼黒い獣》は尾を一閃すると、衝撃波が戦場を薙ぎ払った。

 

「ク、クロウ!?」

 

 アンゼリカが立ち上がった《蒼》に安堵した瞬間、《メルギア》の頭が《蒼》に掴まれていた。

 

「クロウ、何を――!?」

 

「ガアアアアアアアアアアアッ!」

 

 力任せに《蒼》は《メルギア》を振り回して、その首をもぐ。

 投げ飛ばされた《メルギア》は蒸気戦車の隊列を薙ぎ倒す。

 

「《C》っ! 良し勝てるぞっ!」

 

 《蒼》の復活に帝国解放戦線は活気づく。

 しかし《蒼黒い獣》はそんな彼を標的にする。

 投擲された《メルギア》の頭が機甲兵に突き刺さり、仰け反って倒れる。

 

「《C》! 何をしている!?」

 

 蹂躙が始まる。

 戦場にいる者、目につくもの全てを壊さんばかりに《蒼》は暴れ始める。

 両軍の歩兵は薙ぎ払われて、機甲兵は四肢を引き裂かれて地に伏す。

 

「《C》っ! 邪魔をするかっ!」

 

 《M》は叫び、アスモダインの砲門が《蒼》に向けられる。

 

「アームブラストめ! 本性を現したかっ!」

 

 蒸気戦車が《蒼》に砲門を向ける。

 

「死ねっ! 《C》!!」

 

「撃てっ!」

 

 導力砲の光線が、大砲の砲弾が《蒼》に殺到し――銀色の壁が全てを防いだ。

 

「ダメだよクロウ! それ以上《鬼の力》に身を委ねたら戻ってこれなくなっちゃう」

 

 四つのドローンで造った結界の中、《灰》は暴れる《蒼》を押さえ、キーアが呼び掛ける。

 

「ガアアアアアアアアッ!」

 

 キーアの声にクロウは獣の叫びを返す。

 

「っ――」

 

 暴れる《蒼》、理性を失ったクロウにキーアはどんな言葉を掛けて良いのか迷う。

 あらゆる最適を識っているはずのキーアはクロウに掛けるべき言葉が分からない。

 

 ――何でそんな奴を庇うの?――

 

 ――そいつはクロスベルを列車砲で撃とうとしたテロリストだよ――

 

 ――こいつがいなければ《彼》も無理をする必要はなかったんだよ――

 

 ――こんな人助ける価値なんてないんじゃない?――

 

「分かってる……分かってるよ。でも……」

 

 クロウを助けようとするキーアに別の可能性を辿ったキーアが苦言する。

 彼がした事、内戦で敵だった事。

 

「こんな時、ロイドなら何て言葉を掛けるかな?」

 

 そんな考えがキーアの頭に過る。

 しかし過るだけで、キーアにはクロウに掛ける言葉は思いつかない。

 

「ガアアアアアアアアアッ!」

 

 《蒼》は《灰》の腕を振り解き、鋭い爪を振り回して《灰》の胸に傷を刻む。

 

「っ――」

 

 さらに周囲に展開した防御結界に外からの攻撃が響く。

 

『キーア、これ以上は危険だ』

 

「分かってる。でも――ごめんヴァリマール」

 

 先に謝り、《灰》は《蒼》の両腕をもう一度掴むと、大きく背中を逸らして――

 

『待つのだキーア! 何をするつもり――』

 

「コメットブレイカーッ!!」

 

 特務支援課で良い体当たりだとお墨付きをもらっているキーアの――《灰》の頭突きが《蒼》の頭に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 彼女と、彼と、二人が会話をした事はほぼない。

 嫌い合っているわけではない。

 “要請”が重なって顔を合わせれば挨拶もするし、普通に話もする。

 先日のクロスベルでの特別演習においても、二人の間にはぎこちないやり取りはなかった。

 クロウにとって、その少女は余計なものを背負った大罪人だった。

 キーアにとって、その男は特務支援課を失った時の自分を思わせる大罪人だった。

 仮定は違っても、罪を背負った奇妙な共感が二人の間にはあった。

 

「…………どうすれば良かったんだろうな……」

 

「どうすれば良かったんだろうね?」

 

 何もない白い空間で背中を向け合ったまま、二人はぼやく。

 明確な答えが欲しいわけではない。

 ただ自分の半生を振り返り、何度もしてきた自問自答。

 

「復讐が何も生まないなんて、分かってんだよ……だけどそんな理屈じゃ俺の中の“焔”は消えなかった」

 

「うん……」

 

 クロウの言葉にキーアはただ相槌を打つ。

 

「復讐に誰も巻き込まない方法があるんだったら、最初からそうしてたさ! だけどそんな方法なんてあるわけねえんだ!」

 

 その言葉にキーアはクロウが復讐のために列車砲でクロスベル事撃つつもりだったことを思い出す。

 だが、それは自分も同じだと追及することはしなかった。

 

「うん、そうだよね……世界中のみんなが納得してくれる、そんな都合の良い答は《叡智》の中にはなかった」

 

「だけど……」

 

 叫んだクロウは次の瞬間、その気勢を消沈させた。

 

「だけどオズボーンが復讐の相手じゃなかったら……本当の仇が別にいたら……俺が今まで費やして来た時間は何だったんだ?」

 

「…………クロウ」

 

「一番悪い奴を殺さなくちゃいけないのに……誰が一番悪いのか分からねえ……」

 

「本当にオズボーンが悪いのか? カイエンのおっさんが一枚嚙んでいたのも本当だった……

 ジュライはいつの間にか俺が知っていた頃と変わっていた。いや……俺が知らなかっただけで、元からそうだったんじゃねえのか?」

 

「みんな嘘つきだ……みんな……みんな……俺も……嘘つきだ……」

 

「…………キーアもうそをついた」

 

 クロウの嘆きにキーアは頷く。

 

「……なあ……教えてくれよ……

 俺はいったい誰を殺せばいい? 誰を憎めば良い! どうすればこの焔の“焼燥”を消せるんだ?」

 

「それは……キーアには分からないよ」

 

 《叡智》を与えられたキーアにもその答えを出す事はできない。

 

「それにクロウはキーアの答に納得してくれるの?」

 

「…………」

 

 その言葉にクロウは黙り込む。

 

「キーア達に出来る事は、償い続けることしかできないんだよ……

 他の誰かが許してくれるんじゃない……キーア達が自分達を許せるようになるまで」

 

「そんなのは無理だ」

 

 クロウはキーアの答を否定する。

 

「俺にはお前みたいにまっすぐ前を向いて歩くなんて無理だ……ひたすらに、ひたむきに前になんて、俺はもう……」

 

 帝国解放戦線は《C》に戦えと、復讐を果たすために戦えと責め立てた。

 帝国軍はクロウに戦えと、罪を償うために戦えと責め立てる。

 

「もううんざりなんだよ! 復讐も! 誰かの思惑に踊り狂わされるのも!」

 

 クロウは叫ぶ。

 

「“黄昏”だか“相克”だってやりたい奴等なんて他にもいたはずだろ! 何で俺なんだよっ!?」

 

 誰にも明かした事のない心情をクロウは堰を切るようにぶちまける。

 やはりキーアにはクロウを慰める言葉は思いつかない。代わりに――

 

「ねえ……クロウ……クロウは……もしもやり直せるなら、やり直したい?」

 

「やり直す……?」

 

 キーアからの言葉にクロウはオウム返しに聞き返す。

 

「オルディーネの起動者になった事、帝国解放戦線の《C》になった事、貴族連合の《蒼の騎士》になった事。そして――」

 

 キーアは手を虚空に掲げ――“貝殻”を手にする。

 “貝殻”が光るとそれに呼応してクロウの胸に光が灯る。

 

「クロウッ!」

 

「クロウ君っ!」

 

「クロウ!」

 

「クロウ兄ちゃん!」

 

 白い空間に二人以外の声が響く。

 声はそれだけでは留まらない。

 

「何をしているクロウ! 立て! 立つんだクロウ!」

 

「アームブラスト! 私はまだ貴方に獅子心勇士章を取られたのを納得していないわよ! 立ちなさいアームブラストッ!」

 

「クロウ! 君にはまだ100ミラを返してもらってないんだぞ!」

 

「クロウのあんちゃん! 負けるなっ!」

 

「これ……は……?」

 

 無数の声はクロウにとって聞き覚えのあるものだった。

 暑苦しい貴族の男子生徒。

 女のくせにアンゼリカと同等の最強格の女貴族の生徒。

 ミラを借りたままの同じクラスの生徒たちもいれば、トリスタでブレードで遊んでいたガキどもの声もある。

 無数の闘争の言葉に埋もれていた声をキーアはクロウに響かせる。

 

「あなたには、キーアと違って、これだけの人達が声を上げてくれているんだよ?」

 

 その事実にキーアは、クロウに見せずに自嘲する。

 自分に語り掛けてくれるクロスベルの人は、どれだけいただろうか。

 クロウの繋がりと比べて、どれだけ自分が狭い世界にいたのか思い知らされる。

 

「…………だけど……俺は……」

 

「この人達の繋がりもクロウには“なかった”事にしたい?」

 

「クロウ!」

 

「クロウッ!」

 

「クロウゥゥゥッ!!」

 

「この《零の世界》には嘘はないよ」

 

 付け加えるようにされたキーアの言葉にクロウは顔を上げる。

 

「それでも決められないなら……うん、そうだね……」

 

 キーアはおもむろに立ち上がって、クロウの前に回り込んで、太刀を抜いた。

 

「はは、そいつで介錯してくれるってか?」

 

「クロウが望むならそれでも良いよ。だけどその前に、キーアと戦おう」

 

「……は?」

 

 キーアの意図が分からずクロウは間の抜けた言葉を返してしまう。

 キーアはクロウの反応に苦笑しながら、きっとロイドなら迷って動けなくなった青年にこう言うだろうと続けた。

 

「クロウが勝てば、クロウが望む通り介錯してあげる……

 だけどキーアが勝ったら、クロウはキーアがもらうね」

 

「おい、待て……何を言ってやがる!?」

 

 狼狽えるクロウにキーアは続ける。

 

「全部キーアのせいにして良いから」

 

「っ――!?」

 

 キーアはクロウに免罪符を差し出した。

 

「セドリックやルーファスはクロウはいらないって言っていたけど、《黒》と戦うためにはクロウの力が必要だとキーアは思うの……

 だからクロウの力をちょうだい。クロウの罪は過去も未来もキーアに全部押し付けていいから……

 キーアが《零》の力を使えば、クロウの罪を誰も認識できなくさせる事ができるから」

 

「…………それは……」

 

 キーアの提案にクロウは心を揺らす。

 全てを放り出したかったクロウにとってキーアの提案はまさに救いだった。

 

「それで良いのかい?」

 

 キーアではない誰かの言葉にクロウは止まった。

 

「僕が知っているクロウ・アームブラストは確かにテロリストだったが、まだ恥を知っていた……いや、でもトワ会長を人質にしてたか」

 

「おい!」

 

「いっそう一度逃げ出してしまったらどうだい? 逃げた先で前に進むきっかけが見つかることだってあるからね」

 

「はあ……それも良いかもしれないな……」

 

 軽薄な言葉にクロウは肩からため息を吐き出した。そして――顔を上げて立ち上がった。

 

「クロウ……?」

 

 黙り込んだクロウがおもむろに立ち上がってキーアは咄嗟に太刀を構える。

 

「気持ちだけ受け取っておくぜ」

 

 構えられた太刀をすり抜けて、クロウはキーアの頭を軽く撫でる。

 

「クロウ……でも……」

 

「俺はクズだ。人殺しだ……

 祖父さんを裏切って、故郷を裏切って、仲間を、スポンサーを、トワ達を裏切った……

 俺は間違いなく人でなしのろくでなしだ。まずはそれを……俺も認めないとな」

 

 目の前の少女はそれを受け入れている。

 自分よりも二回りも年下の、一回りもトワより小さな女の子が己の罪に向き合おうとしている。

 

「俺にだって、意地があるんだよ」

 

 こんな小さな子供に自分の罪を背負わせて救われようなどと都合の良い話を受け入れられる程、クロウは堕ちていない信じたい。

 

「あいつらと向き合うのは《C》の最後の仕事だ。それは誰にも譲れねえ!」

 

 クロウは目を開き、《蒼の騎神》の中で声を上げ、呼ぶ。

 

「来いっ! イソラ!」

 

「アロンダイト」

 

 クロウの声に、女の子――イソラが応えるとその背後に蒼い戦術殻が現れる。

 イソラはアロンダイトに抱かれるように取り込まれると、一人と一体は光となって《蒼》の下に飛び、ダブルセイバーとなる。

 

「ちっ――ヴィータのやつ……」

 

 アロンダイトと戦術リンクが繋がると《蒼》の中のモニターに見覚えのない術式が浮かぶ。

 

「ありがたく使わせてもらうぜ! 《Blue Destination》!」

 

 《蒼の獣》の体は砕け散り、《蒼の騎神》は装甲に聖痕を浮かび上がらせて霊力を高める。

 その霊力の奔流を感知したアスモダインの一体が防御結界を展開する。

 

「猛きより出でし蒼焔よ――」

 

 イソラが詠う。

 その声に伴って《蒼》が構えた双刃に《蒼焔》が宿る。

 

「かの双刃に宿りて道を切り裂け――」

 

「喰らえ――デッドリー・クロス!!!!」

 

 十字の剣閃が飛ぶ。

 その二閃の一撃はアスモダインの防御結界を切り裂き、半身を吹き飛ばす。

 《蒼》は翼を広げて空を駆ける。

 

「《C》っ! 貴様っ!」

 

「よう! 《M》。ケジメを互いにつけようぜ」

 

 もう一方のアスモダインの目の前で《蒼》は滞空し、クロウはかつての仲間と相対する。

 

 

 

 

 

 







 クロウは明確な償いの答は出せていないけど、立ち上がってスタートラインに立ったくらいのイメージです


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