「オオオオオオオオオッ!」
「はああああああああっ!」
雄々しい声を上げて二人の《剣匠》が機械の衣を纏って剣を交える。
「流石だなクロワール卿」
「抜かせっ!」
賞賛の言葉を一蹴してティルフィングは金の剣で突きを放つ。
衝撃波を伴う突きの剣閃を《ドラッケン》は大剣で滑らせるように受け流し、返す刃で光の剣閃を薙ぎ払う。
「遅いっ!」
ティルフィングは軽やかな足捌きで剣閃を躱すと回り込んで剣を薙ぐ。
「っ!」
半瞬遅れて、《ドラッケン》は大剣を盾に受け止め、二機は鍔競り合う。
が、力比べは一瞬。
大剣を傾け、相手の剣を刀身に滑らせてティルフィングの動きを《ドラッケン》が崩す。
「ちっ――」
ティルフィングは片手を地面に着いて、そこから力任せに跳躍して返す刃から逃れ――
大剣を振り抜いて隙を見せる《ドラッケン》に突きを構えて――
銃撃がティルフィングを襲った。
「くっ……」
装甲を叩く銃弾にクロワールは顔をしかめて《シュピーゲル》へと視線を送り――
「どこを見ているっ!」
剛剣の一閃を剣で受け止める。
「病み上がりの分際で!」
「そう言うそなたはここまでの使い手だとは思っていなかったですよ」
悪態を吐くクロワールに対してヴィクターは賞賛を送る。
どうしても動きがぎこちなくなる《ドラッケン》に対して、ティルフィングはあらゆる面で上回っているが、それは操縦者の技量がそのまま反映されることでもある。
ヴィクターとオリヴァルト。
二人掛かり。それに加えて戦術リンクの恩恵を受けた連携でようやく拮抗しているのは、クロワールの技量があってこそでもある。
だからこそ、ヴィクターは解せない感想を抱く。
「クロワール卿……それほどの腕を持ちながら何故、皇族を……オズボーン宰相を目の敵にする?」
「…………」
ヴィクターの問いかけにクロワールは沈黙を返す。
「それほどの腕……さぞかし多くの努力を積み重ねたはず……
その苦労を知っているそなたが、クロウ君を受け入れる度量を持っていたそなたが、何故古い確執に縛られているというのだ?」
「黙れ」
ヴィクターの言葉にクロワールは大きく踏み込み、大振りの一撃が《ドラッケン》を盾にした大剣ごと吹き飛ばす。
「家の妄執に囚われず、才に恵まれた貴様に私の何が分かるというのだ!?」
静かな怒りの言葉に反して苛烈な一撃にヴィクターは目を剥く。
「クロワール卿……本当に私たちは分かり合えないのかね?」
アルノールに向けられる憎しみを図り切れずオリヴァルトは思わず尋ねる。
内戦が始まる前のクロワールは確かに気位の高い振舞が目立つ貴族の中の貴族という傲慢な一面もあった。
しかしその政治手腕は決して貴族だけを優遇したものではなく、オルディスを始めとしたラマール州を問題なく統治できていた優れた領主。
それがオリヴァルトの評価であり、相容れない部分はあっても決して嫌悪だけしかない人間ではなかった。
そして今の堂々たる武人としての戦いぶりに、剣の才能が並にしかなかったオリヴァルトは改めて彼に畏敬の念を抱く。
「そなたたちにとっては獅子戦役の事など遠い昔の事でしかないのだろう」
瞼を閉じれば思い出す。
「だが私に……カイエン家にとっては連綿と受け継がれた血の記憶なのだよ」
ずっと、ずっと昔から見続けてきた悪夢。
それに伴う黒い囁きがカイエン家にオルトロスの野望と恨みを忘れさせてくれない。
「夢……血の記憶……」
荒唐無稽な話だが、魔女や呪いを知っているオリヴァルトはクロワールの言葉を笑うことはできなかった。
「そうだ……オルトロスの記憶を持つ私は彼の無念を晴らさなければならないのだ。そのために私は兄をっ!」
「クロワール卿! それは違う! 君は帝国の“呪い”に操られているんだ!」
「違う! これこそがカイエン家の矜持だ!」
前衛の《ドラッケン》を無視してティルフィングは《シュピーゲル》へと襲い掛かる。
「させん」
突きを横から大剣で弾き落とす。
「くっ……」
ティルフィングは距離を取って、何度目かの仕切り直しとなる。
「すまないヴィクター卿。足を引っ張ってばかりだね」
「いえ……殿下には私も助けられております……
しかしクロワール卿の中にこれほどの激情が隠されていたとは……」
叫ぶ怒声と共に繰り出される苛烈な攻撃は以前の彼を知る者としてはイメージが合わない。
「殿下、やはり無傷でティルフィングを取り返すことは諦めて頂きたい」
「……それほどの相手なのかい?」
ヴィクターの言葉にオリヴァルトは苦笑いを浮かべる。
無意識にオリヴァルトは周囲にリィンを探すが、既に彼は退避したのか視界やセンサーが探れる範囲にはいない。
「出来る事ならカイエン公とも分かり合いたかったのだけど……」
「殿下……」
「分かってる。彼を裁かないで済ませられない程に、事は大きくなってしまっていることは」
此度の戦いでどれだけの犠牲が出たかオリヴァルトはまだ知らない。
オルディスやラクウェル。ミルサンテ。そして帝都の外で行われている戦いもまだ続いているのかも分からない。
例え、今投降してくれたとしても首謀者であるクロワールが極刑に処される事を回避することはできないだろう。
「ラブ&ピースは難しいねえ、リィン君」
やるせなさを言葉にしてオリヴァルトは腹を括り――
「ヴィクター卿、ここからは――」
「いつまで遊んでいる?」
オリヴァルトの言葉を遮って、それは現れる。
轟音を立てて、ドライケルス広場に着地するのはクロワールが乗っている《白》のティルフィングとは色違いの《黒》のティルフィング。
「鉄血の騎士……もう戻って来たのか?」
オルディスへと緊急発進して向かった《鉄血宰相》の親衛隊の登場にオリヴァルトは驚く。
「ちっ……これ以上、無駄な時間は掛けられぬか」
ティルフィングは眼前に剣を縦に構え、クロワールは闘気を練る。
操縦者の気息に連動して、ティルフィングは光を纏う。
「喰らうが良い! 我が必殺の一撃をっ!」
一息でティルフィングは《黒》の間合いに深く踏み込み、渾身の一突きを放った。
「壱の型――螺旋撃」
《黒》の軍刀が突きよりも速く、ティルフィングの右腕を斬り飛ばした。
「ぬぐっ!」
その結果に目を剥いたクロワールは慌てて、ティルフィングを後ろに跳び退かせ――《黒》は追従して軍刀を振る。
「弐の型――疾風」
《黒》は駆け抜け、ティルフィングの左腕が飛ぶ。
「貴様っ!」
「参の型――業炎撃」
振り返るティルフィングに《黒》は炎を纏う一撃を見舞う。
「肆の型――」
腰溜めに軍刀を構えた《黒》はそこで動きを止め、炎に焼かれたティルフィングはゆっくりと後ろに倒れた。
「…………ふん……他愛もない」
白けた侮蔑を呟き、《黒》は構えを解く。
「そんな……」
「むう……」
あまりにも唐突な終わりにオリヴァルトとヴィクターは唸る。
帝都に住まう市民の安寧を考えれば一刻でも早い決着が望ましいのは分かっているが、それでも直前まで言葉と意思を交わした二人は複雑だった。
「動け! 動け! まだだ! 私はまだ終わっていない!」
しかし二人の戸惑いを他所に焼かれたティルフィングの中からクロワールの声が響き渡る。
その事実にオリヴァルトは安堵して――
「貴様の役目はもう終わっている」
《黒》は無造作に軍刀を逆手に掲げ、切っ先を倒れたティルフィングに突き付ける。
「待ちたまえっ!」
「さっさと去れっ!」
オリヴァルトの静止の言葉など意に介さず、《黒》は無慈悲に軍刀を落とした。
次の瞬間、世界が凍り付いた。
大気が凍てつき、大地が凍り、広場と宮殿の間の湖も瞬く間に凍り付く。
機械の体も瞬く間に氷に覆いつくされて、落とされた軍刀はティルフィングに届く前に固まる。
「……何だこれは?」
《黒》は未知の現象を訝しみ周囲を見回す。
全てが一瞬で凍り付いた光景にクロワールは白い息を吐いて、呟いた。
「そうか……《M》よ……使ったのか……」
《黒》が、オリヴァルトが、ヴィクターが戸惑う中で一人察したクロワールは一度目を伏せて――開く。
「ならば私も最後まで殉じるとしよう!」
一同の隙を突く形でティルフィングに黒い光が灯る。
「これは……導力停止現象の光っ!」
オリヴァルトが声を上げる。
「ちっ――」
《黒》は苛立ちが籠った舌打ちを叩き、体に纏わりついた氷を砕く勢いで軍刀を振り下ろす。
しかし意思に反して《黒》は動かなかった。
「何をしている動けっ! 鉄くずがっ!」
「これは……ヴィクター卿っ!」
「こちらの機体も急激に導力が低下しています……これはいったい……」
目の前の画面から残存導力が急激に低下していく。
オリヴァルトは訝しむとともに迷う。
この機体はこんなこともあろうかと零力場発生装置を搭載しており、導力停止現象に対しては対策済みだった。
にも関わらず導力は低下し、このままでは直ぐに機甲兵は機能を停止して目の前の外を映すモニターも暗転してしまうだろう。
「完全に停止する前に機体を放棄するべきか……いや、でも……」
しかしオリヴァルトの迷いは杞憂に終わる。
導力の低下は半分を切ったと事で止まる。
機甲兵が停止しないことにオリヴァルトは安堵し、次の瞬間聞こえた機械の言葉に息を呑む。
『フェンリル駆動率――70、80、90、100、110%。システムの異常を感知、直ちに使用を停止してください。繰り返します』
離れたオリヴァルトの耳にも届くほどに異常な駆動音を轟かせるティルフィング。
「まさかクロワール卿。貴方は自爆するつもりか!?」
ティルフィングに搭載されている《フェンリル》は少ない導力を増幅強化するための機構だが、その原型はカルバード共和国が開発した戦略級爆弾である。
爆弾としての機構はティルフィングには搭載されていないが、規定の使い方から逸脱させて暴走させればその限りではない。
「くっ――」
近付こうとした《シュピーゲル》は颶風が吹き荒れた押し返される。
可視化するほどに濃密になった導力の輝きがティルフィングの結晶回路を光らせ、赤く染まっていく。
励起した導力は迸り、火花と暴風をまき散らし、爆発のための力を膨れさせていく。
「殿下、お下がりください。ここは私が――」
「ダメだ! これはアルノールとしてボクがやらなければいけないことだ」
ヴィクターの進言を却下してオリヴァルトは《シュピーゲル》に銃を捨てさせた。
そして代わりに左手の盾を前に突き出すと、盾は割れて銃口が現れる。
引き金を引けば、導力銃ではない炸裂音が連続して響き渡り、導力停止現象の光を灯すティルフィングに弾丸が降り注ぐ。
「こんなこともあろうかと火薬式のマシンガンを仕込んでいたのだけど……」
無数の銃弾はティルフィングの装甲を削るものの、決定打にはならない。
オリヴァルトは意を決して、操作を切り替える。
銃撃は止まり、盾が回転して銃口よりも大きな砲門が現れる。
「カイエン公…………っ――」
言いかけた言葉を呑み込んでオリヴァルトは引き金を引く。
機関銃と同じ、導力に依存しないミサイルが放たれる。
導力停止現象の光を受けても、そのミサイルは怯まず臨界寸前のティルフィングに着弾――爆発した。
*
――何をしている?――
久しぶりにその声をクロワールは聞いた。
それまで明確な言葉として聞いたわけではないが、内戦が始まるまでずっと自分を急き立てていたのはこの言葉だとクロワールは確信する。
――貴様の役割はとうに終わっている。貴族なら潔くその首を差し出せ――
「ふん……」
黒い囁きにクロワールは嘲笑を返す。
「随分と聞き分けが良くなったな亡霊よ」
生涯に渡り、アルノールへの恨みを垂れ流していた《黒い囁き》をクロワールは侮蔑する。
――何……?――
「アルノール打倒はもはや貴公の復讐ではない! 私の悲願であり“闘い”なのだ! 負け犬は疾くと消えるがいいっ!」
クロワールの一喝に黒い気配は膨大な導力の奔流の中に埋もれるように消える。
「ぐっ……」
もっともクロワールに声の正体を気にする余裕などなかった。
ティルフィングと同調し、体中の血液が異常に駆け巡り、人体構造を無視して増えるような苦痛。
帝都中の導力を受けるにはティルフィングもクロワールも器が小さすぎる。
「それがどうした!?」
クロワールは吼える。
「この程度の痛痒など、これまでの屈辱に比べればどうということではない!」
明らかな強がり。
それでもクロワールは脳裏に己の生涯を走馬灯のように思い出し奮い立たせる。
――何故、扉が開かない。何故、私を選ばない《大いなる騎士》よ!――
どれだけ、開くことのない伝説の扉の前で渇望し夢想したか。
――カイエンの剣、こんなものか……
血を吐く思いで手に入れた《剣匠》を軽々と踏み台にして見向きもしなかった天才との差にどれほどの絶望を味わったか。
――良い勝負だった。機会があればまた手合わせをしよう……
平民のくせに恵まれた体格と剣才を持った男に負かされた事にどれだけの屈辱を感じたか。
――クロワール、アルノールへの恨みは捨てるべきなんだ……
悪夢を知らない兄をどれだけ羨んだか。
――アンタがカイエン公か……まっ、これからよろしくな……
そして《騎神》に選ばれた少年をどれだけ妬んだことか。
「私は……私はクロワール・ド・カイエン……」
全ての感情を怒りにしてクロワールは力の奔流の中で叫ぶ。
「私を選べ! 大いなる騎士よ! 私はエレボニアの――否っ! 私はゼムリアの王となる男だっ!」
誇大な宣誓。
貴族の立場を失ってもなお、己の闘争を貫き通す一念の末にクロワールは無我夢中の境地となって力を呑み込む。
「……神気合一……」
無秩序に膨張を続けた力の暴走が止まり、ティルフィングの一点に集束していく。
失った両腕や、ひび割れた装甲はゼムリアストーンで埋まり修復され、過剰な力を注ぎ込まれて自壊して、再び修復を繰り返し、ティルフィングはゼムリアストーンの結晶の中に埋もれていく。
「この光は……?」
オリヴァルトは撃った弾丸の行く末が分からず、見覚えのある光に立ち尽くす。
力の奔流は止まり、ドライケルス広場には巨大なゼムリアストーンの結晶が現れる。
その光景にオリヴァルトはかつてトールズの旧校舎の地下で見たものを思い出す。
「まさか……」
ある予想がオリヴァルトの脳裏に浮かび、それを肯定するようにゼムリアストーンが爆ぜるように砕け散った。
「ククク…………ハハハ……」
クロワールの歓喜を含んだ笑い声が響き渡る。
「アルノール……そしてオズボーンよ。私はついに手に入れたぞ“大いなる力”を!」
“それ”は両手を天に広げて笑う。
それはもはや《白のティルフィング》ではなかった。
《蒼の騎神》を彷彿とさせる翼を持ち、所々に金の装飾がなされたパーツが彩る鋼の装甲。
黒よりも暗い蒼い、《藍色》の騎神。
「この霊圧は……」
現れた未知の機体に《黒》は眉を顰める。
「これは騎神なのか? クロスベルの時と同じ……」
「クロワール卿……貴方はそこまでの意思を持ちながらどうして……」
オリヴァルトは記憶を反芻し、ヴィクターは一念を押し通したクロワールを賞賛しながらも嘆く。
その呟きを聞き留めた《藍》は笑うのを止めヴィクターの《ドラッケン》に顔を向ける。
「違うなヴィクター・アルゼイド……私はもはやクロワールではない」
「何……?」
「今の私は超帝国人クロワール・ド・カイエンであるっ!」
高らかに名乗り、《藍》はその手に金の剣を握る。
金の剣も原型なる肉厚な刀身が変化し作り直されていた。
カイエンの剣技に合わせた細い刺突に適した細剣。
《藍》は溜めるように金の剣を構え――次の瞬間、光が《ドラッケン》の頭を串刺しにした。
「なっ!? ――ぐあっ!?」
突然視界が奪われたヴィクターは何が起きたのか理解できず、次の瞬間機体が激しく揺れて吹き飛ばされる。
「ヴィクター卿!?」
目にも止まらない速さで《ドラッケン》の頭を貫き、蹴り飛ばした《藍》に《シュピーゲル》は振り返り銃を向けて――
「――っ」
割り込んできた《黒》のティルフィングの背中にオリヴァルトは引き金を引くのを躊躇う。
「壱の型――螺旋撃」
「アンッ!」
《黒》の軍刀と金の細剣が交差する。
「弐の型――疾風」
「ドウッ!」
一度距離を取り、助走をつけた《黒》に《藍》は正面から挑み、軍刀と細剣が交差する。
「貴様っ!」
「ちいっ! 参の型――業炎撃」
渾身の一撃を込めた大上段からの《黒》の一撃が空を斬る。
「何っ!?」
大地を斬っただけの手応えに《黒》は目を見開き、次の瞬間細剣が撫でるように《黒》の首を斬り飛ばし――
「ふむ……こんなものか」
「貴様っ!」
機械故、首を落とされても致命傷にならない《黒》は怒りを露わにして《藍》に襲い掛かる。
しかし《藍》は《黒》が振り回す軍刀を軽い足取りで空振りさせ、一振りさせるたびに一突きを返し――
「終わった“贄”の分際で! 吾を愚弄するか!」
全身の関節を貫かれ、崩れ落ちる《黒》の負け惜しみの言葉にクロワールは気分を良くしながら背を向け、オリヴァルトの《シュピーゲル》に向き直る。
「クロワール卿……貴方は……いったい何をした?」
生物をゴーレムへと化える《魔煌化》とは違う。
オリヴァルトに理解できたのはそこまでであり、新生したティルフィングの姿は騎神を彷彿とする容姿の流麗さと力強さを兼ね揃えていた。
「あれはクロスベルでヴァリマールが再錬成された時と同じ光だった……
《機神》が騎神化した? アンヘル・ティルフィングとでも言う存在なのか?
それにその“気”はまるで――」
混乱を極めるオリヴァルトの反応をクロワールは声を上げて笑う。
「フハハハ! ただの帝国人でしかない貴様に帝国人を超えた者の偉大さは分かるまい」
「くっ――」
その嘲笑に不意を打つように《シュピーゲル》は銃を向け――閃光のような突きが《シュピーゲル》の両肩を撃ち抜いた。
「なっ!?」
「貴方はそこで見ていると良い」
無力化した《シュピーゲル》にそう言うと、《藍》はバルフレイム宮を見上げる。
「その顔を見ないまま終わりにするのは忍びないが……まあ良かろう」
《藍》が剣を空に掲げると、光が雲に届くほどに伸びる刃と化す。
「やめろクロワール卿! 宮殿には避難した市民もいるんだぞ!」
オリヴァルトが思わず叫ぶが、そんな言葉ではクロワールは止まらない
「長きに渡る因果、これで終わりにしようアルノール……そしてギリアス・オズボーンッ!」
大望を成就する事に浸り、クロワールは巨大な金の刃をバルフレイム宮へと落ちる。
次元さえも斬り裂く《空》の刃。
およそこの世に存在する刀剣の中で、至高の剣が無慈悲に振り下ろされて――白い光に砕かれた。
「ぬうっ!?」
クロワールは驚愕に目を見開き、何事かと空を見上げる。
砕けた巨大な刃は金の雨となって帝都に降り注ぐ。
健在なバルフレイム宮の姿にクロワールは顔を歪めて、大望を邪魔した何者かに向かって叫ぶ。
「誰だ! 私の邪魔をするのは!?」
それに答えるようにドライケルス広場に一機の騎神が降り立つ。
「なっ!?」
オリヴァルトはその機体に目を疑う。
「何故……そんな馬鹿な……」
その機体がいることはあり得ないとオリヴァルトは首を振る。
帝国政府と七耀教会の間に行われた極めて高度な政治的な取引を行ってヘイムダル大聖堂に解体されて、ケビンを始めとした五人の守護騎士による力で念入りに封印されたはずの騎神がそこにいた。
オリヴァルトもオズボーン宰相と共に封印に立ち会った。
更に言えば、来月には封印した四肢を各地の四大都市の“始まりの地”に移送する事が計画されていた。
しかし、今目の前に立っている騎神には傷一つない。
クロスベルで蘇った時の禍々しい姿とは違う、内戦の時に現れた時の姿でその騎神は再び帝都の危機に現れた。
「《零の騎神》ゾア・ギルスティン……」
オリヴァルトは畏怖と期待を混ぜた声でその名を呟いた。
アンヘル化ってなんだろうなあ……
ちなみにこれはアルベリヒの想定外です。
彼はカイエン公が呪いを突き抜けて神気に至るとか全く考えておらず、自滅するだけだと思ってました
カイエン公の思考は戦いにおいて相手を族滅するタイプ
この思考は闘争の中でも、呪いの原因になった焔と大地の眷族の始祖にとても近いため、呪いとの親和性が高いとしています