7月10日
六月の特別実習の後始末も一段落し。定期考査も終わった翌週の朝。
生徒たちはグラウンドに整列していた。
「さて、今回は特殊な状況となるため次の特別実習先の発表をここで行わせてもらおう」
オーレリア分校長は整列する生徒たちを見回して、感慨深いものを感じる。
既に第Ⅱ分校が開校して三ヶ月の時が経った。
四月はまだ初々しさを感じていた生徒たちも、都合三度の修羅場を潜り抜け戦士としての顔つきになりつつある。
それに満足そうに頷きながらオーレリアは続ける。
「既に聞き及んでいると思うが、来週から帝都で行われる夏至祭に各都市の士官学院が集い機甲兵を競わせる催しが企画されている」
その言葉に生徒たちは様々反応を示す。
「故に今週の授業は午前のみとして、午後の教練は全て機甲兵実習を行う事にする……
存分に研鑽を重ねて、闘いに挑むがいい。そして――」
オーレリアがそこで一度言葉を止める。
張り詰めた緊張が生まれ、生徒たちは自然と息を呑んで身構える。
「私がそなたたちに言う事は一つ――勝て――」
たった二つの音がもたらす威圧感に生徒たちは思わず身震いする。
「もしも無様を晒す負け方をしようものならば……ふふふ……」
妖し気な笑みを浮かべるオーレリアに生徒たちは背筋に冷たい汗が流れるのを感じて――
「分校長、激励はそのくらいで。彼らの紹介をお願いします」
ミハイルがそれを諫め、話の先を促す。
「うむ、そうだな……
ではこの一週間、そなたたちと共に学ぶこととなったゲストを紹介しよう」
「やあ第Ⅱの諸君、久しぶりだね」
オーレリアが場を明け渡して、生徒たちの前に出たのはセドリックだった。
「今日から夏至祭までの一週間、本校Ⅰ組は分校のお世話になることになったからよろしく頼むよ」
セドリックの背後には本校Ⅰ組生徒が並んでいる。
クリスにキーア、エイダとフリッツ。それらを合わせて二十名ほどの生徒たち。
「何故僕たちが本校に短期留学に来たかと説明させてもらうと、公平性を期すためですね」
生徒たちが何故と浮かべた疑問にセドリックは澱みなく、答える。
「知って通り、今回の機甲兵レースは僕が企画しています……
だけど勝負の行方に本校を贔屓するつもりはない……
しかし僕が本校に通っている限り、疑惑の目は拭うことはできないでしょう」
セドリックの言葉に生徒たちは確かにと頷く。
「僕自身の公平性を保つための分校への短期留学……
Ⅰ組はその付き添いとなってしまいますが、そもそもⅠ組もこちらのⅦ組と同じように機甲兵レースへの参加は辞退することになっています」
何かと活躍の場が多かったⅦ組と同じように、皇子と同じクラスという事で目立つⅠ組はⅡ組以降へと活躍の場を譲ることをセドリックは説明する。
「あとはゼムリアの三高弟が集まっているからね……
博士たちの知見に触れる機会を本校の生徒たちにも経験して欲しいという打算もある」
「それは……」
「まあ……博士たちの実験を引き受けてくれるって言うならむしろ歓迎……かな?」
不信感を抱いていた生徒たちはⅠ組の理由にある程度の納得を示す。
「僕からは以上……
続けて、僕たちとは違う本命のゲストを紹介させてもらおう」
そう言うセドリックの横に二人の女性が立つ。
「まずは君たちから右の女性……
彼女はリベール王国王室親衛隊のユリア・シュバルツ准佐」
「初めましてエレボニア帝国の士官学生諸君……
ご紹介頂いたユリア・シュバルツという……
今回は機甲兵の教練と言う事で君たちに教えを乞う立場になるので気安く接して欲しい」
ミュゼと同じミント色の髪の女性士官は毅然とした佇まいで一礼する。
続けてセドリックはもう一人の女性を紹介する。
「左の女性がカルバード共和国 エミリア・ハーリング中尉」
「共和国軍空軍中尉、エミリア・ハーリングです」
黒く長い髪の女性軍人は礼儀正しく続ける。
「今回はシュバルツ准佐と共に三高弟の造る機甲兵に乗るためにカルバード共和国から派遣されました……
身に余る大役ですが、微力を尽くす所存です……
ま、お国の事情はなしに仲良くしてくれると嬉しいわね」
堅苦しい挨拶をしたかと思えばおどけた口調で気安い言葉を投げかける。
共和国の軍人と聞かされた生徒たちは一瞬緊張するが、エミリアのおどけた態度に毒気を抜かれてしまう。
「彼女たちは夏至祭レースでラッセル博士とハミルトン博士が調整した機甲兵に乗ってもらうことになっている……
Ⅰ組にはユリアさんを、Ⅶ組にはエミリアさんの教導をしてもらうことになっています……
また夏至祭が終われば、機甲兵教練の返礼としてリベールとカルバード合同の飛行艇教練に参加できるようにカリキュラムを組んでいるから楽しみにしておくように……
それじゃあ、次はマキアスかな?」
セドリックの言葉に今度は眼鏡をかけた青年が前に出る。
「君たちと顔を合わせるのはクロスベルぶりかな?
公安七課のマキアス・レーグニッツだ……
僕たち役割は夏至祭が終わるまでの間、博士たちの護衛になる……
君たちの学業を邪魔するつもりはないが、何かあれば雑用でも頼ってくれて構わない」
マキアスの紹介に続いて、ロイドやエレイン、ルネ、サラが軽く挨拶をする。
「…………何だか、随分と人が増えたな」
「そうですね……それだけ夏至祭に力を入れていると言う事なのでしょうか?」
リィンの小声の呟きにアルティナが応える。
「Ⅰ組がだいたい20人くらいで、ユリアさんとエミリアさん、それに七課の人も……
流石に寮にそこまでの空き部屋はないわよね?」
「それについては……Ⅰ組は《アークロイヤル号》で寝泊まりするらしいな」
「は、一週間も列車で寝泊まりとは同情するぜ」
「ですが、特別実習の行き帰りも合わせればわたしたちも……あら? クロウ先輩どうかしました?」
「……いや、何でもない」
クロウは教官たちに対して違和感を覚え、探るように観察をして――
「ねえクロウ君、あそこにいるのはエマよね? そうよね? ああ、あんなに大きくなって」
イソラが興奮した様子でクロウの背中を叩く。
「そう言えばお前は委員長と関係者だったな」
Ⅰ組の引率の教官として同行してその場にいるエマは第Ⅱの生徒たちの中に、イソラを見つけて固まっていた。
「これは一波乱あるか?」
その先のエマの反応を想像してクロウは肩を竦め――
「もう良いかしら?」
一通りの紹介が終わったところを見計らってアリサが声を上げた。
「リィンとアルティナ……二人とも一緒に研究棟に来てくれるかしら?」
「え……ですが……」
突然名指しされてリィンはアルティナと顔を見合わせる。
「許可なら取っているわ……
昨日、ミリアムから頼まれたアルティナの新しい装備に関する話よ」
「…………分かりました」
リィンは視線でミハイルに問いかけて許可をもらい、アルティナと共に生徒たちの輪から離れて研究棟へと向かう。
「えっと……朝礼はこれで終わりなんですよね」
クルトの質問に教官たちは答えず、リィン達が研究棟へ入って行くのを最後まで見守ってからオーレリアは口を開いた。
「いや、もう一つ。そなたたちには伝達事項がある」
「ですが、それならリィンとアルティナが――」
「って事は、その二人に聞かせない方が良い話ってことか?」
クルトの疑問を遮ってクロウは唸る。
厄ネタの気配にクロウは肩を竦める。
「クロウ君にとっては他人事じゃないよ」
「……それはどういうことだ?」
トワの言葉にクロウは眉を顰めて聞き返す。
その疑問に答えたのはエミリアだった。
「うちの国の恥を晒すことになるんだけど……」
ため息を吐き、生徒たちの視線が集中することを感じながらエミリアは続ける。
「この一か月の間、カルバード中央情報省の特殊部隊――通称《ハーキュリーズ》が帝国入りしてね……
その数は私たちが把握しているだけでも100名。帝都の夏至祭に合わせるようにヘイムダルを中心に潜伏して活動しているらしいのよ」
「おいおい……それって……」
「カルバード共和国からの先制攻撃……ということか?」
「そう思われても仕方がないのは分かっているんだけどね」
生徒たちの率直な感想にエミリアはもう一度ため息を吐く。
共和国最精鋭の特務部隊の帝国潜入作戦。
《ハーキュリーズ》の全容をエミリアにもまだ知らされていないが、帝国側にどんな邪推をされても文句は言えない状況にある。
今この瞬間にも帝都で《ハーキュリーズ》が事件を起こすか、《ハーキュリーズ》の誰かを捕縛されるだけでも、帝国に共和国への侵攻を宣戦布告させる理由を与えてしまう事になる。
「私のパパが掴んだ《ハーキュリーズ》への指示の一つにとんでもないものがあってね……
それの阻止を士官学院の君たちに“要請”として依頼させて欲しいってことになるのよ」
「共和国からの“要請”?」
「そ……ちゃんと帝国政府の承認も得ているお仕事だから、そこは安心していいわよ」
いよいよもって怪しく大事の気配に生徒たちは不安を覚える。
そんな彼らに申し訳なさを感じながらエミリアは要請書を取り出して、読み上げる。
「トールズ士官学生たちへの“要請”として、共和国最精鋭部隊《ハーキュリーズ》の騎神起動者暗殺計画を阻止せよ」
「騎神の起動者って……」
「それって……」
「はっ、ついにタマを狙われるようになったかパイセン」
「茶化すなアッシュ」
生徒たちの間に緊張が走り、ユウナはキーアを、クルトはセドリックを見て。アッシュはクロウを茶化す。
「…………一騎当千の《騎神》に対抗する手段として、起動者が乗り込む前の生身ならば……ということなんでしょう」
《ハーキュリーズ》の思惑を想像してミュゼは顔をしかめる。
戦場において現代の兵器で《騎神》と止める術はない。
ならば騎神に乗る前の起動者を狙えば良いというのは実に合理的な判断である。
「《ハーキュリーズ》の優先順位は……
“クロスベル総督”ルーファス・アルバレア、“次期皇帝”のセドリック・ライゼ・アルノール殿下」
「僕やルーファス卿に関しては周囲に常に人がいるという狙いにくさからの優先順位だろうね」
「そして“学年が下がった”クロウ・アームブラスト」
「ちょっと待て! カルバードにまでその呼び方が広がってるのかよ!」
クロウの抗議を無視してエミリアは続ける。
「第二目標は二年前、カルバード共和国に経済攻撃を行ったディーター派だった“クロスベルの魔女”キーア・バニングス」
「…………」
名指しされたキーアは口を噤んで、エミリアからの視線に顔を伏せる。
「キーアちゃんが第二目標って事は……」
「わざわざあいつをこの場から離したって事は……まさか……」
「そう……そのまさかよ」
生徒たちの想像にエミリアは頷く。
「《ハーキュリーズ》の最優先目標は《零の騎神》の起動者となったリィン・シュバルツァーの暗殺よ」
*
「ん……?」
「どうかしましたか?」
呼ばれた気がして振り向いたリィンにアルティナが首を傾げる。
「いや、何でもない」
気のせいだと頭を振り、アリサが入った部屋に入る。
「それじゃあ早速だけど、これがミリアムから頼まれたアルティナの装備よ」
作業台に置かれているのは長大なライフル。
「これは……魔導杖ですか?」
「そ、Ⅶ組の今の戦闘スタイルに足りないものとして勝手に用意させてもらったわ……
もちろん私たちが勝手に用意したものだから不満があれば拒否してくれても良いわよ」
決して無理強いはせず、アリサはとりあえずアルティナに持ってみてと促す。
「随分と長い杖ですね」
両手で杖を構えたアルティナと比較して、身長を超えた長さの杖にリィンは感想をもらす。
「通常の魔導杖の機能の他にバスターの機能も合わせてるから、その分ちょっと大きいのよね……
でも戦術殻から利用した浮遊ユニットを取りつけてあるから見た目ほど体感の重量はそんなに感じないはずよ……
それに戦術核と同じように乗れば飛べるわよ」
「それは“杖”なんですか?」
「どちらかと言えば、おとぎ話に出て来る“魔女の箒”ね……
あとそれから、こっちが以前リィン達に渡したオーバルスーツをアルティナに調整したものね」
アリサはアルティナの反応を、そこそこにして新しいトランクを開けて、中から制服を取り出す。
「前はインナーだけだったけど、第Ⅱの制服に合わせていろいろ改造した見たわ。とりあえず着替えてもらえるかしら?」
「分かりました」
アリサの申し出にアルティナは素直に頷き――
「それじゃあ俺は教室に戻って――」
その場にいてはまずいとリィンは踵を返した。
「リィンはドアの前で待機ね」
「え……でも……」
「待機ね」
「…………はい」
有無を言わせないアリサのプレッシャーにリィンは負けて頷く。
「それじゃあ……アネラスさん、アルティナのお着替えを手伝って」
「はいはーい! アルティナちゃんお着替えしましょうねー!」
おもむろにアリサが指を鳴らすと、どこからともなくアネラスが現れた。
「……アネラスさん、どこから現れたんですか?」
「やだなあ弟君、朝礼の時からずっといたよ」
「いや……でも……」
「ささ、弟君は一度部屋から出て、新しいアルティナちゃんを褒める言葉を考えておくんだよ」
アネラスはリィンの背中を押して部屋から追い出してドアを閉める。
無情にも閉められた目の前のドアにリィンはため息を吐いて、待つこと十分。
「弟君、入って良いよ」
アネラスの声に、リィンがもう一度研究室に入ればそこには装いを新たにしたアルティナが立っていた。
「どう弟君? どう? アルティナちゃんはかわいいでしょ?」
アルティナの背後に回り、自分の事のようにアネラスはアルティナの新しい服の感想を求める。
「どうって言われても……」
アリサが調整したのか、アルティナの新しい制服は今までのものと大きく変わったところはない。
制服の各所に装飾品のようにオーブメントの端子があるのと、胸元を飾る大きめのリボン。
そして一番目を引く変化はアルティナの頭にある髪飾り。
「ウサギの耳……? アリサさん」
「ただの髪飾りじゃないわよ……
エプスタイン財団で開発されたエイオンシステムって言う人間と機械の“情報処理の共鳴接続”を行うオーブメントよ……
まあアルティナに必要かは分からないけど、邪魔なら外して構わないわ」
「エイオンシステム……聞いたことがあります」
アリサの言葉をアルティナはシステムを意識する。
「あ……」
「アルティナちゃん、耳が……」
システムが起動したのを示すように髪飾りが明滅する。
その光に共鳴するように魔導杖が一度光り、浮き上がる。
「…………ん……」
アルティナは杖に触れずに手を振ると、それに合わせて浮いた杖が振られる。
二度、三度、杖を振り回してアルティナはリィンに顔を向ける。
「リィン……」
「ああ……」
次の瞬間、鉄の塊である杖の柄がリィンに向かって振り下ろされた。
「っ――」
難なくリィンは鞘に納めたままの太刀でそれを受け止めて、弾き、返す刃で鞘をアルティナに向かって振る。
「ん――」
鞘の打撃はアルティナが展開した障壁に受け止められる。
「……そんな感じで《クラウ=ソラス》に出来た事はだいたいできるように調整しておいたわ」
二人の素振りにアリサはそう言いながらアルティナに分厚いカタログを渡す。
「細かい仕様とか、付け替えられる武装はこれに纏めておいたから確認して……それで今の時点で分かる不満点はあるかしら?」
「そうですね……
このように運用するのならば柄の部分の装甲を増やしていただけますか?」
「装甲……なら盾パーツを追加ね」
「それと……」
アルティナは空中で杖を振り回し、杖から長大な導力ライフルに変形させてその上に腰掛ける。
「…………座り心地は《クラウ=ソラス》の方が良かったですね」
「それは我慢しなさい」
アルティナの文句にアリサは苦笑いを浮かべる。
「エイオンシステムを使うなら講師を呼ぶように手配するわ……
それからオーバルギアをアルティナ用に調整して――」
「…………ん……?」
「どうしたアルティナ?」
アリサの説明を聞き流し、アルティナは髪飾りを光らせたままあらぬ方向へと視線を向ける。
「いえ……声が……」
「声……?」
アルティナの呟きにアネラスが耳を澄ませてみる。
「声なんて聞こえないけど……」
「エイオンシステムと《Oz》のシステムが干渉しているのかしら?
アルティナの視線の先は……」
「機甲兵の格納庫ですね」
アリサの呟きにリィンが答えて、顔を見合わせる。
「エイオンシステムに共鳴しそうなものと言えば……」
「オルディーネか……それとも……」
リィンは脳裏に過ぎった可能性に思わず言葉を濁す。
「良く分からないけど、気になるなら行ってみれば良いんじゃない?」
「アネラスさん……ですが……」
アネラスの提案にアルティナが躊躇いを見せる。
その姿にリィンが口を開いた。
「行こうアルティナ」
「リィン……?」
ユウナの言葉、クロウの言葉を思い出しながらリィンは続ける。
「もしも“彼”がアルティナを呼んでいるのなら……それはきっと信じて良いんだ」
「ですがわたしは……」
「俺だって“彼”と本当の意味で向き合えていない……
だけどいつまでも立ち止まっているわけにはいかなんだろうな」
リィンは自嘲してアルティナに手を差し出す。
「俺も怖い。だから一緒に踏み出してくれないか?
これが今の俺に出せる精一杯の答えだ……それじゃあダメか?」
不安そうに作り笑いを浮かべるリィンにアルティナは逡巡をして……リィンの手を取った。
「分かりました」
そうして踏み出した二人だが、目的地は壁を挟んだすぐそこ。
アルティナに先導されて辿り着いたのは予想通り《零の騎神》の足下だった。
「ゾア・ギルスティン……」
リィンの呟きに応じるように《零》の目に光が灯り、全身に霊力の光が走る。
勝手に待機状態となった《零》にリィンはやはり普通の騎神とは違うと改めて認識する。
「アルティナ……」
「はい……」
アルティナはリィンと手を繋いだまま、もう一方の手で《零》の足に触れる。
「――っ、大丈夫そうね……二年前は誰かが触れたら弾かれたり結晶化されそうになったりって大変だったけど」
「アルティナちゃんだから、なのかな?」
アリサとアネラスは何が起きてもすぐに動けるように身構えながら、二人の背後で警戒をする。
「……………あなたがわたしを呼んだんですか?」
「…………」
アルティナの声に《零》は言葉を返すことはなかった。
低い霊力の鳴動や共振が鳴り響く中、アルティナはまるで会話をしているように言葉を続ける。
「あなたはわたしに何を求めているんですか?」
「…………」
「え……? いえ……ですが、それは……」
アルティナが驚き、《零》を見上げる。
《零》は言いたいことは言ったと言わんばかりに目や体から光を決して休止状態へと戻る。
「…………アルティナ、ゾア・ギルスティンから何を言われたんだ?」
「具体的な言葉を聞いたわけではありません……
大まかに意訳すれば、リィンが未熟者だからわたしを準起動者にして補助しないかと提案されました」
「未熟者……」
「随分と辛口な評価なんだね」
「っ…………」
三人の言葉にリィンは思わず項垂れる。
「えっと準契約者って、セドリック君とエマちゃんみたいな関係だっけ?」
「ええ……騎神に備わっている外部からの霊力供給システムの一種です」
「一応、あたしも二年前の本校でセドリックの準契約者になってはいたのよね……
まあ今はいろんな装備造りとかでいろんな無茶を言われるくらいだけど」
アリサは思い出したように《緋》との繋がりを口にする。
「そっか……じゃあアルティナちゃんはまたリィン君と一緒に戦えるんだね」
「それは……」
アネラスの言葉にアルティナは顔を曇らせる。
「アルティナちゃん?」
「わたしは《Oz》です。《クラウ=ソラス》がいなくなったとしても、この体にどんな機能が組み込まれているかわたしは把握できていません……
そんなわたしが《零の騎神》の準契約者になって良いはずがないんです」
俯きながら準契約者になる事に否定的な言葉をアルティナは吐き出す。
その言葉にアリサとアネラスは無言でリィンの背中を叩いた。
「っ――何をするん――」
抗議に振り返るがリィンは二人に睨まれて口を噤む。
早く、アルティナに何か言えと無言の圧力を掛けて来るアリサとアネラスに気押されながらリィンはアルティナへと掛ける言葉を考える。
「えっと……アルティナ……」
「…………はい」
「《クラウ=ソラス》の件を気にしているのは分かってる……
だけど《ゾア・ギルスティン》がアルティナを選んだのなら信用しても良いんじゃないか?」
「ですがわたしは《黒の工房》の道具です」
「違うアルティナはちゃんと一人の人間だ」
リィンの言葉にアルティナは首を振る。
「“人形”を失った“人形使い”なんてただの“使い”でしかありません。今のわたしは役立たずです」
「アリサさんが用意してくれた武装があるじゃないか」
「わたしはお姉ちゃんを――以前のアルティナを殺しています……」
「俺だって《彼》を殺した」
「わたしはまたわたしが知らない機能でリィンを裏切るかもしれません」
「…………それを言い出したら、もう誰も信じられなくなる」
「それは……」
リィンの言葉にアルティナは怯む。
「クロウが言った通りなんだ……
俺には何もかも足りない。力も時間も、経験も……
だからアルティナが準契約者になって補助してくれて、《ゾア・ギルスティン》の力を使えるようになるなら、《Oz》のリスクを呑み込むだけの価値はあると思ってる」
「ですが……」
「ああ、ですがだ」
アルティナの言葉にリィンは頷く。
「俺はアルティナを準契約者することは歓迎している……
でもその一方でアルティナを戦場から遠ざけるべきだと思ってる」
「っ……」
「俺はアルティナの“願い”を尊重する」
「わたしの……願い……ですか?」
「それに、これはきっと《クラウ=ソラス》がアルティナにくれた選択肢だ……
だから俺の答えよりも、アルティナが決めるべき事だと思う。資格とか出自とか、立場も関係ない、アルティナの意志はどこにある?」
「わたしは……」
アルティナは《零の騎神》を見上げる。
「…………決めるとしたら《ゾア・ギルスティン》の準契約者になるか、《藍のティルフィング》に乗るかと言うことになるのでしょうか?」
「そうだな……今はその二択だと考えて良いと思う」
《ティルフィング》に乗ると仮定してアルティナは改めて選択肢を考える。
《ゾア・ギルスティン》でリィンと共に戦うか。《ティルフィング》に乗ってリィンと肩を並べて戦うか。
「わたしは……」
アルティナは助言を求めるように振り返るが、そこには“何も”いない。
改めて自分一人で考えて、答えを出さなければいけないと実感しながら、アルティナはその答えを口にするのだった。
「わたしはリィンの準契約者になります」
「そうか……それじゃあ……改めてこういうことをするのは気恥ずかしいけど……」
そう言ってリィンは右手を差し出した。
「俺と一緒に戦ってくれアルティナ」
「……はい」
その手をアルティナは握り返し――ここに契約は結ばれた。
共和国について
皇帝暗殺は結果的に冤罪だったわけですけど
作中でオズボーンが演説で言っていた通り、ハーキュリーズを帝都に100人送り込んだ点についてはカルバードの非であり、宣戦布告と捉えられてもおかしくないのではと思うのです
機会があれば暗殺する気満々な銃器の持ち込みも含めて、何でいつまでも被害者みたいな顔しているんだと思いました
特にマッチポンプ外交を疑われているオズボーンにそれをやるのは悪手以外の何物でもないだろう
ここでのカルバードの大まかな思惑
主戦派
「騎神は確かにどうしようもないけど、それなら生身を狙えばいい……
クロスベルの魔女への報復もあるし、少しでも勝ち目を作らなければ」
非戦派
「五機の騎神の攻略方法なんてないから、宣戦布告されたらさっさと白旗上げた方が良いんじゃないだろうか?」
なお共和国はまだアルフィンとリィンの婚約については知りません
非戦派はリィンを暗殺したら、彼をお気に入りとしているオリヴァルトが主戦派になって、戦争が始まったとしても、落としどころのない殲滅戦争になる事を恐れています
アルティナの新装備について
浮遊大型魔導杖もとい“魔女の箒”
シルードバッシュで殴ることもでき、空も飛べたり、障壁を張れるので《クラウ=ソラス》にできることは大抵できます
《クラウ=ソラス》がいなくなった事で空いた容量を《ゾア・ギルスティン》に接続することで準契約者となり、アルティナは霊力制御を中心とした魔導担当として同乗します