閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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90話 代表

 

 

 7月11日――

 生徒たちは自習となった一時限目に大教室に集まっていた。

 

「それでは私たちの夏至祭レースに使う機体の最終決定をしたいと思います」

 

 教壇に立ってティータが議題の進行する。

 

「それじゃあリィンさん……」

 

「ああ……」

 

 ティータに促されてリィンは黒板に機甲兵の名前を書いていく。

 

「では皆さん、どの機体が良いか、意見はありませんか?」

 

 ティータが生徒たちに意見を求める。

 

「やっぱりレースするなら一番速い《ケストレル》じゃねえか?」

 

「そうだよね。軽量型だから他の機体よりもずっと早いタイムを出せたし」

 

「やはり他校も《ケストレル》を選んでくるんじゃないかしら?」

 

 まずは普段から《ケストレル》を使っているシドニーが意見を出して、それにカイリやマヤが同調する。

 

「いや、そうとも限らないぜ」

 

 しかしそれに異を唱えたのはパブロだった。

 

「《ヘクトル》の重エンジンの加速は馬鹿にできないぜ……

 ロングストレートなら《ケストレル》の速度にだって負けてねえ。装甲も軽素材のものにすれば《ケストレル》を後ろから追い抜くことだってできたぜ」

 

「装甲を減らすって、あのシミュレーションはそんな設定もできたのか?」

 

 パブロがもたらした情報にゼシカが驚く。

 

「《ヘクトル》の重量が8.3トリムに対して《ケストレル》の重量は4.6トリムだったかな?」

 

「《ヘクトル》の方が装甲は重くて多い分、換装すれば機体重量差はかなり減らせたよ……

 同じ条件で《ケストレル》と《ヘクトル》で比べてみたけど、どちらも一長一短になりそうだった」

 

 グスタフが呟いた機体の情報に、スタークがパブロと検証したデータを更に提供する。

 

「《ケストレル》は軽い分初速はあるけど、エンジンも軽いから最大速度は少しヘクトルに劣るくらいだな……

 逆に《ヘクトル》は四機の中で一番出力があるエンジンを積んでいるから加速さえ乗れば《ケストレル》以上の速度も出たな」

 

「パブロが《ヘクトル》でコースレコードを更新していたのはそういう理由だったのか」

 

 その報告にヴァレリーは不思議に感じていた疑問に納得する。

 

「みんな凄いですね。私なんて《ドラッケン》を走らせるだけで精一杯でしたのに」

 

「私もです」

 

 積極的な意見交換が行われている中でルイゼとタチアナは疎外感からため息を吐く。

 

「二人とも完走できるだけ凄いじゃないか。僕はどうにもうまく曲がり切れずにコースアウトをしてばかりだというのに」

 

 ウェインはむしろそんな二人に対して自分の不甲斐なさを嘆く。

 

「あたしは普段《ヘクトル》に乗っているけど、速度が乗った時のあいつは制御が難しいんだよな……

 まあ、《ケストレル》も同じところはあったけど、ただ走らせるだけなのに奥が深いと言うか……」

 

 レオノーラもまた思うようにタイムが伸びなかったことに唸る。

 

「《シュピーゲル》についてはゼシカとクルトはどう思っているんだい?」

 

「え……?」

 

「ゼシカの意見はともかく、僕もか?」

 

 フレディに話を振られてゼシカとクルトが注目される。

 

「うん、みんな一通りの機体は経験したけど、やっぱり普段から《シュピーゲル》を使い慣れている二人は意見はどうなのかなって」

 

「そうね……」

 

 ゼシカは少し考え込んで、答える。

 

「《シュピーゲル》は上位機種だけあって、速度も出るし、足回りの安定性が良いと感じたわ」

 

「重量もそれなりにあるからコース取りのための衝突にも当たり負けしないからな……

 だけど安定性が良い分、爆発力が足りないと言うべきなのかな?

 タイムも結局、他の機体ほど伸びなかった」

 

「うーん、単純な速さだと《ケストレル》で、直線だと《ヘクトル》……

 《シュピーゲル》だとバランスが良くて、《ドラッケン》は扱い易さかな?」

 

 みんなの意見をサンディがまとめ、リィンがその言葉を黒板に書く。

 

「他に意見は?

 クルトさんだけじゃなくて、他のⅦ組の皆さんも何か意見はありませんか?」

 

「そうね……やっぱり《ドラッケン》を選ぶべきよ! 何と言っても扱い易いし、素直に反応してくれるのが良いと思う」

 

「いえいえ、やはりここは王道の《ケストレル》で行くべきかと」

 

「はっ……《ヘクトル》だろ。一番後ろから全部抜いてゴールを決めるのは最高に気持ちよかったぜ」

 

 Ⅶ組の三人はここぞとばかりに自分が使っている機体を推薦する。

 三人の言葉を切っ掛けに、自分のお気に入りの機体こそが、という意見が上がり、会議は難航する。

 

「ふふ……」

 

「楽しそうですねティータさん?」

 

「うん、楽しいよ」

 

 アルティナの言葉にティータは満面の笑みで頷く。

 遠い故郷のツァイスでは同年代でティータと同じレベルの話をできる者はほとんどいなかった。

 しかし今の教室にはオーブメントを調整する者と使う者が入り乱れて様々な意見が交わされている。

 完成された祖父やシュミットの仕事を間近で見学する事も楽しいが、ここにはまた別種の楽しさがあることにティータは嬉しくなる。

 

「ところで、あれはどうにかした方が良いんじゃないか?」

 

 リィンが教室の奥でふんぞり返っているクロウを指す。

 生徒たちは一斉に振り返って、複雑そうに表情を歪めた。

 

「おいおい、どうしたガキども。チャンピオンの意見が欲しいのか?」

 

 調子に乗ったクロウの言葉に生徒たちは更に表情を歪める。

 

「何であいつがベストスコアばっか取ってんだよ」

 

「機甲兵の扱いなら私たちの方が先輩のはずなのに」

 

「タイムは縮めるもので、下がるものじゃないのよ」

 

「ふ……負け犬どもの遠吠えが心地いいなあ」

 

 口々に囁く声にクロウは機嫌を良くする。

 

「調子に乗っていますね」

 

「まあ、実際クロウは四機全部で第Ⅱのコースレコード一位を取っているからな」

 

 勝者こそ正義と言うならば、今のクロウの態度は決して間違っていない。

 

「クロウ先輩は普段から《オルディーネ》の速度に慣れてますからね、機甲兵の速度ではクロウ先輩には物足りないのかもしれません」

 

「オルディーネは特に騎神の中でも飛翔力に優れている。あれを乗り回せるなら大抵の機体の速度は制御できるだろ」

 

「だからってあの調子は……」

 

「帝国解放戦線やカイエン公の因縁の事がひと段落したのもあるだろうけど、オルディーネが壊れていて暇なんじゃないか?」

 

「ああ、なるほど」

 

 リィンの言葉にアルティナはクロウの増長の理由に納得する。

 

「そういうお前は何か意見はねえのか?」

 

 クロウがリィンに投げかけた言葉に教室が静かになる。

 

「クロウ……俺が口を出しても――」

 

「細かいこと気にすんなって。お前から見てどの機体がお薦めか聞いている雑談だろ」

 

 遠慮するリィンにクロウはいじるように問いただす。

 

「……どの機体も……」

 

「ぜんぶって言うのはなしだぜ」

 

 機先を制するクロウの言葉にリィンは眉をひそめて口を噤む。

 

「…………なら機体じゃないけど、気になったことが一つ」

 

「おう、何だ何だ?」

 

「シミュレーションではそのシステムがなかったけど、本番で導力魔法は使って良いんですか?」

 

「リィン、ルールで積極性のある他選手への攻撃は禁止されているよ」

 

 スタークはリィンの疑問にそう答えた。

 

「それは分かってる。だから使うのは補助アーツの方だ」

 

「補助アーツ……」

 

「あ……」

 

 リィンの言葉に生徒たちは顔を見合わせてその存在を思い出す。

 

「火のアーツなら出力の増加、風のアーツなら追い風や空気抵抗の制御とかできるはずだろ?」

 

「いやいや待てよリィン。機甲兵用のアーツを組むなんて、そんな……できるのティータちゃん?」

 

 シドニーはリィンの提案の答えを求めてティータに尋ねる。

 

「そうですね……

 機甲兵も設定次第ではアーツ運用する事もできますからリィンさんが言う、補助アーツも扱う事はできると思います……

 ただ機甲兵のサイズで力を安定させて使える導力魔法を組むのは、わたしには難しいですけど、リィンさんならどれくらいでできますか?」

 

「…………え? 俺が設定するのか?」

 

 ただの疑問だったのに仕事を割り振られてリィンは狼狽える。

 

「いや、でも俺はハミルトン博士のサポートをしないといけないし」

 

「でも第Ⅱの関わることを禁止されてるわけじゃないですよね?

 ならリィンさん、第Ⅱが勝つために協力してください」

 

「う……」

 

 リィンが周囲を見回すと、期待するような眼差しが集中する。

 

「…………分かった。できる限り協力はする」

 

 藪蛇を踏んでしまったと嘆きながらリィンはティータのお願いを受け入れる事となった。

 

「ではそろそろ話をまとめましょう」

 

 ティータの音頭で生徒たちは私語を慎む。

 

「機体の性能はそれぞれに良いがあるのなら、後は明日発表されるコースに合わせて出場する人を決めたいと思います……

 ロングストレートがあるコースなら《ヘクトル》でシドニーさん……それから……」

 

「なあティータ?」

 

「はい? どうしましたかリィンさん?」

 

 言葉を止めてティータはリィンに向き直る。

 

「今、資料を読み直したけど、ティータはシミュレーションの回数が随分と少ないけど、どうしてなんだ?」

 

「え……それは……」

 

 ティータは気まずそうに目を泳がせる。

 

「ほら、わたしは整備班のリーダーになるわけですし……

 それにわたしはリベールからの留学生だからこういう催しに代表になるのはまずいかなって……」

 

 普段のティータなら造る事も、使う事も楽しんでいるだろうイベントにも関わらず、遠慮して裏方に徹しようとしている。

 先程まで俺が出たい、私が出ると、言い合っていた生徒たちをリィンは一瞥して口を開く。

 

「多数決を取る」

 

「リィンさん!?」

 

「トールズ第Ⅱ分校の代表選手はティータ・ラッセルが良いと思う人は挙手してくれ」

 

「ふえええええっ!?」

 

 リィンの言葉に生徒たち全員が一斉に手を上げる。

 

「うん、ティータちゃんなら私も文句はねえな」

 

「今更リベール人だとかエレボニア人だからとか、そんな遠慮はなしでやろうぜ」

 

「ティータ、君だけがあのふんぞり返っているクロウを一位から下げる最後の希望なんだ」

 

 手を上げた生徒たちは口々にティータの説得を始める。

 

「でもでも、わたしは整備班のリーダーで……」

 

「ティータ、こう考えられないか?

 ティータが選手になれば、機甲兵はそれこそティータの好きなようにいじり回すことができるって」

 

「……わたしの好きなように……」

 

 リィンの言葉にティータは心が揺れる。

 

「ティータちゃんのために調整して、ティータちゃんが一番に試して、ティータちゃんのための一機を作ってみたくない?」

 

「ティータさんが望む導力魔法を、望むがままにリィンに造ってもらえます」

 

「わたしのための一機……わたしの望むがまま……」

 

 ユウナとアルティナの言葉にティータは更に揺れる。

 

「そう言えば、整備班では他校の機体を覗くことはできないだろうな」

 

「だがレース中ならば間近で他校の機体を観察し放題になるんじゃねえか?」

 

「観察し放題!」

 

 クルトとアッシュの言葉にティータは目を輝かせる。

 そしてミュゼがティータに囁く。

 

「アガットさんに良いところを見せるチャンスですよティータさん」

 

「っ……!?」

 

「それに……――」

 

 続けてごにょごにょとミュゼはティータに耳打ちをする。

 

「ええっ! そんな……でも……」

 

 ティータは顔を赤面させ狼狽えながらも、まんざらでもなさそうに答えを決めた。

 

「わ、分かりました。わたしが第Ⅱの代表選手になります!」

 

 

 

 

「くっ……」

 

 ドラッケンがグラウンドをバックして駆ける。

 

「おらおら、どうした逃げ回ってばかりか!?」

 

 同じくドラッケンが左右に蛇行をしながら、相手の銃口を定めさせずに接近し、双刃剣で斬りかかる。

 

「このっ!」

 

 苦し紛れにエミリアはライフルを撃つが、クロウが操るドラッケンは容易に回避して双刃がエミリアのドラッケンを薙ぎ払った。

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

「お疲れ様ですエミリアさん」

 

 格納庫に戻って来たエミリアをリィンが出迎える。

 

「流石帝国の英雄の一人、強いったらないね」

 

 肩を竦めるエミリアを他所に、作業場ではカトルがⅦ組に指示する声が響く。

 

「そ、それじゃあ皆さん、洗浄と導力の供給をお願いします」

 

 カトルに指示されてリィンを除いたⅦ組たちが二機のドラッケンの整備に取り掛かる。

 エミリアはリィンが差し出してくれた缶ジュースとタオルを受け取って一心地つく。

 しかしやはり負けたのは悔しいのか、エミリアの表情は固い。

 

「エミリアさんは十分に良くしてくれていますよ」

 

 そんな彼女にハミルトンは優しい言葉を掛ける。

 

「クロウ君とは機甲兵戦の経験も違いますが、操作系統に関わる戦術リンクのレベルが違いますからこの結果は当然ですね」

 

「そうは言うけどね……」

 

 負けた言い訳のようでエミリアは面白くないと唇を尖らせる。

 機甲兵の操縦は飛空艇や戦車と違って、戦術リンクによる機体と操縦者が一体化して操縦している。

 それ故に、二足歩行でありながらバランスを取るためのは感覚的な制御に任せ、導力車を運転するくらいに簡略化されている。

 

「あたしの戦術リンクのレベルが2で、クロウのレベルはいくつだっけ?」

 

「ドラッケンとクロウの戦術リンクのレベルは5ですね……オルディーネで当てはめるとレベル7ですけど」

 

「あれよりも機敏に動くのか……」

 

 エミリアは自分の視界を優に振り切って接近するドラッケンを思い出して項垂れる。

 

「エミリアさん、今はとりあえず戦術リンクのレベルを上げることを目標としてください」

 

「了解……だけどハミルトン博士……

 あたしが使うドラッケンはどんな風に改造するつもりなの?」

 

「そうですね……エミリアさんの要望に合わせるならば、《蒼の騎神》に搭載された変形機構を使って飛行艇に近い形状に作り替える方が良いんでしょうけど……

 そこまでやるとフレームから作り直さなければいけなくなってしまって時間が足りないでしょう」

 

「そうですか……」

 

「機甲兵のノウハウに関しては私は二人から出遅れていますからね……

 エミリアさんに恥を掻かせてしまうことになるかもしれなくてごめんなさい」

 

「博士が謝らなくて良いですよ。パパにこの話を持ち込まれた時点で笑い者にされるのは半分くらい覚悟の上ですよ」

 

 自嘲するエミリアにリィンは少し同情する。

 

「まあ、そういうわけでⅦ組の皆さんには少し迷惑を掛けてしまうと思いますから」

 

「いえ、元々はセドリック殿下が言い出した企画ですから」

 

「そのセドリック殿下も、二人の差を埋めるためにリィン君を私に付けてくれたと思うのだけど……

 何か、面白そうな案はないのかしら? ほら、反応兵器の動力転用技術とか」

 

「ハミルトン博士、あれをドラッケンに落とし込むことは無理ですよ」

 

 リィンは探りを入れて来るハミルトンをあしらう。

 

「でもそうですね……」

 

 リィンは厳しい機甲兵訓練を重ねるエミリアを見下ろして考え込む。

 自分に出来る事からエミリアが他二人の博士たちのおもちゃにされないために必要そうなものを考える。

 

「ティータのようにエミリアさん用に導力魔法を作るか……

 それとも……エミリアさん、分け身を覚えてみますか?」

 

「は……? 分け身って武芸者の達人が使う分身の術みたいな戦技のことよね?」

 

「はい、それのことです」

 

 リィンは頷いて説明を続ける。

 

「やはりレースですから足回りの技術は覚えておいて損はないと思います」

 

「いやいや、ドラッケンは車輪駆動よね?」

 

「車輪駆動よりも足で走った方が速いですよ」

 

 エミリアの疑問にリィンは首を傾げながら答える。

 

「いやいやいや、そうだとしても分け身って……そもそも機甲兵でできるの?」

 

「機甲兵の特徴は武芸者の体術を再現できるところにあります……

 だから剣閃を飛ばすことできれば、ライフルの威力を上げる事もできれば、分け身を使う事もできます」

 

「それは……リィン君だけができるんじゃないのかしら?」

 

「剣閃を飛ばすのはクルトもできますし、分け身はみっしぃ教官もできますよ」

 

「帝国人すごいなあ……あとクロスベルのみっしぃも」

 

 リィンの答えに帝国の技術力を褒めるべきか、人材の凄さを褒めるべきか悩む。

 

「何を言っているんですかエミリアさん……

 分け身は東方武術が大本の技ですよ。俺が習った八葉一刀流だって、そちらの方の剣術です……

 共和国人のエミリアさんが覚えられない通りはないと思います」

 

「そんな期待されてもね。あたしはどっちかというと空軍、飛空艇乗りだから」

 

「そうですか……」

 

 リィンはハミルトンに向き直る。

 

「俺にできることはもうないみたいです」

 

「そこを何とか」

 

「そう言われても……」

 

 リィンは天を仰いで、それが視界の中に入った。

 

「あ……」

 

「やっぱり何かあるのね?」

 

「ちょっと待っていてください」

 

 リィンは一言断ってその場から離れ、《ゾア・ギルスティン》の足下へと移動し、そのまま乗り込む。

 リィンが《零》に乗り込み、周囲の生徒たちが何事か意識を向ける中、《零》は静かに鳴動して……リィンが降りて来た。

 その手には乗り込む前には持っていなかった石が握られていた。

 

「これなんてどうでしょうか?」

 

 戻ってきたリィンは拳大の石をハミルトンに差し出した。

 

「これって七耀石の結晶? こんな大きいものは初めて見たけど」

 

 エミリアはハミルトンに渡された銀耀石に驚きの声を上げる。

 

「銀色の輝き……幻の力を秘めた銀耀石の結晶ですか……

 これほどの大きさだと一千万ミラほどの価値があるでしょう……

 もしかしてユミルの石の大樹の七耀石でしょうか?」

 

 リィン・シュバルツァーとユミルから連想してハミルトンは銀耀石の出所を考える。

 しかし返ってきた答えはハミルトンたちの理解を超えるものだった。

 

「いいえ、今ギルスティンの中で造ってきました」

 

「…………ごめんなさい。歳なのかしらね、耳が悪くなったみたい。もう一度教えてくれるかしら?」

 

「ギルスティンの中で造ってきました」

 

 あっさりと同じ言葉を繰り返すリィンにハミルトンとエミリアは顔を見合わせる。

 

「博士、七耀石って鉱山とかで採掘するものですよね? 何でこの子、一千万ミラ相当の銀耀石をこの場で造ってるんですか!?」

 

「お、落ち着くんですエミリアさん……きっとこれが《騎神》の力なのでしょう」

 

「この程度のこと聖獣にもできますから、能力がある人なら生身でもできますよ?」

 

 笑って謙遜するリィンをエミリアは恐ろしいものを見た眼差しを向ける。

 対してハミルトンは両手で持たなければならない程の重さの銀耀石に思考を巡らせていた。

 

「これだけの大結晶を私が好きにしていい……?

 スポンサーの横槍もなければ、口うるさい監査もない、生産性も考えないでいい……」

 

「ハミルトン博士……?」

 

「この大きさの七耀石ならドラッケンの動力源にしたら……

 いいえ、ダメね。想定される出力を考えれば全身の結晶回路を作り替えなくてはいけなくなってしまう……それなら至宝の武器のように……」

 

「ハミルトン博士……?」

 

「……そうなると必要なものは……」

 

 目の前のリィンを無視してハミルトンは格納庫に素早く視線を巡らせ、アルティナを見る。

 

「え……?」

 

「アルティナさん、ちょっとお話を伺っても良いかしら?」

 

「え……あの……」

 

「ラインフォルトのアリサさんとお話させてもらいたいのだけど……そして貴女の魔導杖をもっと良く見せてくれないかしら」

 

「ハ、ハミルトン博士?」

 

 穏やかな物腰と口調だが、有無を言わせずにアルティナに詰め寄るリィンとエミリアは困惑する。

 

「エミリアさん」

 

「は、はいっ!」

 

「午後の訓練に、私は席を外します……

 貴女は今まで通り、戦術リンクのレベルを上げることに集中してください……

 どうせならリィン君。《ゾア・ギルスティン》でエミリアさんの相手をして上げてください」

 

「《ゾア・ギルスティン》で《ドラッケン》の訓練相手は無茶ですよ!?」

 

「カトルッ! あなたもこっちに来なさい!」

 

「はい? どうしたんですかグランマ?」

 

 リィンの抗議にハミルトンは耳を貸さず、カトルを呼びアルティナの手を引いて格納庫から出て行ってしまった。

 

「いったい何を造って来るつもりなんだか……」

 

 銀耀石の動揺から落ち着いたエミリアは肩を竦める。

 

「ハミルトン博士も、やっぱりシュミット博士たちの同類なんだなあ」

 

 リィンもエミリアと同じように肩を竦め、提案する。

 

「《ゾア・ギルスティン》を相手に訓練しますか?」

 

「勘弁してよ。機体性能があり過ぎて訓練にならないわよ……

 あたしはまだ世界から消滅したくないわ」

 

「はは、流石に訓練であの力は使ったりしませんよ……

 でもそれじゃあこのまま機体の完熟と戦術リンクのレベルを上げる訓練を続けましょうか?」

 

 以降の訓練の方針を決めてリィンとエミリアは整備が完了したドラッケンに踵を返して――

 

「リィン君……」

 

 恨めし声でセドリックが声を掛けた。

 

「殿下……どうかしましたか?」

 

「どうかしましたか、じゃないですよ……

 確かにハミルトン博士には少しテコ入れして欲しかったですけど、一千万ミラの銀耀石をお土産感覚で渡さないでください」

 

「えっと……まずかったですか?」

 

「資金の公平性……で他の博士たちが文句を言ったりはしないと思うけど、ハミルトン博士が造ったものの後始末はどうするつもりだい?」

 

「それは……」

 

 セドリックの指摘にリィンは目を泳がせる。

 

「今更銀耀石を取り上げるのは後が怖いから良いですけど、出来上がったものは共和国大統領と協議の上で扱いを決めさせてもらいますね」

 

 セドリックはリィンからエミリアへと視線を変えて、釘を刺す。

 

「はい、そこら辺はあたしは一兵士なので、上と話し合ってください」

 

 エミリアとしては一千万ミラ相当の銀耀石を気軽に出せる帝国の貴族の金銭感覚にただ圧倒されただけ。

 しかし、軍人としてみればシュバルツァー男爵におねだりして援助を得たとも見える。

 技術的な援助ならともかく、金銭的援助に関しての扱いがデリケートなのはエミリアも理解している。

 

「ところで……エミリアさん」

 

「ん? 何ですかセドリック皇子?」

 

「博士が行ってしまったから、分からないなら良いんですが……

 機体名の登録について、何か聞いていませんか?」

 

「機体名? ドラッケンじゃないんですか?」

 

 セドリックの問いにリィンが首を傾げる。

 

「博士たちの機体はみんな《ドラッケン》だからね。レースで実況したり紹介する場合のことを考えて別名称を考えておいてくださいって頼んでいただよ」

 

「ああ、それならもう聞いてるわ」

 

 エミリアはドラッケンを見上げてその名前を告げる。

 

「あたしが乗るこの子の名前は――ドラッケン・キャリバーン――よ」

 

 

 

 

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