ガラルの頂点を目指して   作:笛とホラ吹き

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9:バウタウンへ

 ターフタウンからバウタウンまでの道中、5番道路には『預かり屋』という施設がある。そこではなんらかの事情で手元に置いておけないポケモンを2匹まで預かってもらうことができるのだが、ポケモンが異性の場合預かってもらっているうちにその2匹のタマゴができていることがある。

 このタマゴこそが、ポケモントレーナーが預かり屋に自分のポケモンを預ける理由の大半となっていたのだが。今は人道的な問題や環境的な問題で、タマゴを目的に異性のポケモンを同時に預けることは法律で禁止されている。タマゴから孵ったポケモンを育てずに野垂れ死にさせたり、野生化させて環境を激変させてしまうことを問題としたからだ。

 

「道着の奴、また会ったわね!ここで会ったが100年目、リベンジさせてもらうわよ!」

「いいぜ……トレーナーたるもの、目と目が合ったらポケモンバトルだろ!?」

 

 今、チカはその預かり屋の前で足止めを食らっていた。3番道路で戦ったトレーナーと再会し、リベンジマッチを挑まれたのだ。

 もちろんチカは再戦の要求を受け入れる。ポケモントレーナーは目と目が合ったらポケモンバトルという、いつからあるのか分からない暗黙の了解を律儀に守り続けているのだ。因みに、トレーナー同士は戦わなければならないという法律はない。

 

「これが私の新戦力、ストリンダーよ!」

「ストリンダー?ソイツはこの辺には生息してないはずだろ、何で捕まえられてるんだよ!?」

「そこの預かり屋さんで貰ったのよ!貰った時はまだエレズンだったけどね!進化させたの!」

「そりゃあ勤勉なことで……やるぞ、ウーラオス」

 

 モンスターボールを投げてウーラオスをバトルへと繰り出す。ストリンダーはこの辺りでは珍しいポケモンではあるが、ウーラオスならば負けることはないという自信を持って。

 ウーラオスが構えを取り、ストリンダーもべろりと舌舐めずりをして挑発する。いつでも動けるよう体勢を整えておきながら、両者は共に動こうとする気配を見せない。相手には相当な実力がある、それを察しているからこその警戒。およそ1分程続いた風の音だけが聞こえる沈黙──それを破ったのは両トレーナーの合図であった。

 

あんこくきょうだ!」

オーバードライブ!」

 

 指示を送られた瞬間、ウーラオスが凄まじい速さで地面を蹴り加速。ストリンダーも思いっきり空気を吸い込んで技の準備に取り掛かる。

 

「アアアアアァァァ!!」

「ウゥ……ッ!」

 

 先制したのはストリンダー。稲妻のエネルギーを纏った強烈な音波を放ち、空気のみならず大地すら震撼させる。全身を痺れさせる雷撃のような音波をモロに食らい、ウーラオスは思わず攻撃を中断して耳を塞いでしまう。

 

「今よストリンダー!ヘドロばくだん!」

「リンダァ!」

「くっそ……避けろウーラオス!」

「うらっ!」

 

 間一髪のところで回避するウーラオス。ヘドロばくだんを放つその瞬間、音波が止んだ隙を見逃さずチカは反撃を命じる。その命令を受けたウーラオスはしっかりと動きを合わせ、ストリンダーの顎に強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

 何かが砕けるような音がして、殴られたストリンダーは天高く放り出されていく。ウーラオスの攻撃は技でも何でもない普通の攻撃ではあったが、それはストリンダーが満足な声を出すことを封じるのに十分な威力があった。殴られた顎をさすり、口内に溜まった砕けた歯の欠片などを吐き出したことからも、口の中は酷い状態になっていると伺える。

 

「ストリンダー!?ぐぅ……!ばくおんぱよ!」

あんこくきょうだだ!!」

「ウラァ!」

「ドリンッ……!?」

 

 口の中が傷付いたストリンダーでは、技を出すに足る音量を出すには大きなタメが必要となる。それはウーラオスが攻撃を繰り出すのに十分な隙。

 ウーラオスの放つ神速の正拳突きが、ストリンダーの胸に叩き込まれる。暗黒の一撃はストリンダーの意識を完璧に刈り取り、地に伏せさせる。ものの一発で戦闘不能にまで追い込んだ。

 

「あああああ!!?ストリンダーぁぁ!!」

「さっさと次を出しな!またぶっ飛ばしてや……」

 

 トレーナーは絶叫しながらきぜつしたストリンダーをボールに戻し、次のポケモンを繰り出そうと新たなボールを探る。中々鞄の中からボールを出そうとしない様に焦れたチカは催促してみたが、帰ってきた言葉は次なる絶叫であった。

 

「何で!?何でボールないの!?ああ!!ポケモンセンターにみんな預けてるから今手持ちのボールないんだったぁ!!」

「……は?」

「覚えてなさいよ!次は必ず……アンタにリベンジしてやるんだからあああぁぁ!!」

「……何だったんだ?」

 

 ガシガシと頭を掻きむしり、頭に響くような高い叫びを上げるトレーナー。そのまま手持ちがいなくなったことで負けを認め、賞金を支払おうと財布を取り出して……その中にもお金が入っていないことを何度も確認する。

 賞金を払えず、負けたトレーナーとしての礼儀も尽くせぬまま去ることを恥じてか、少女は悔し涙を流しながらターフタウンのポケモンセンターへと走っていくのであった。

 

「本当に、何だったんだ……?」

「うら……」

 

 光のように唐突に現れ、嵐のように去っていったトレーナーの少女。カイリューもかくやという速度で小さくなっていく背中を見送りながら、チカはとても実感のこもった呟きを残したのだった。

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