「やっと着いたな、ガラル本島。ここが本島名物のワイルドエリアって所か……広いな」
「マー!」
「ははッ……肩慣らしには丁度良いかもな!」
「クマー!」
列車に揺られることおよそ4時間。長旅を終えたチカはようやく、本島へと足を踏み入れた。目の前に広がる広大な景色に、ボールから出してやったダクマと共に感嘆の声を漏らす。
目的地はこの広いワイルドエリアを越えて、その先にあるエンジンシティという大きな街。そこにあるスタジアムでマスタードからの推薦状を渡しエントリーすることで、ガラルリーグジムチャレンジへの参加が可能となるのだ。
ワイルドエリアは人間の管理がなくなって久しい『広大な』土地であることから、野生ポケモンの楽園とでも言うべき場所になっている。ここを無事に通り抜けるには、野生のポケモンを相手にしても切り抜けられる強さがいる。ジムチャレンジ前の肩慣らしとしてはお誂え向きだと、1人と1匹は悪どい笑みを浮かべるのだった。
「っとと、その前に……マスタード師匠から貰ったコレ、ちゃんと使っておかないとな」
「マー?マー!」
「ああ……ダクマ、『しんか』する時だ!」
「マ────!」
『しんか』と……そう言われたダクマは歓喜の叫び声を上げた。待ちに待っていた時が遂に来たとなれば、その興奮振りにも頷ける。チカから渡された赤と黒の巻物を手に取り、ダクマはそれを目一杯に広げていった。そこに書かれている内容を、一言一句挿絵も含めて余さず頭の中に入れていく。
ポケモンとは不思議なもので、肉体の成長や特定の物質との接触など様々な要件を満たすことでその姿を変えることがある。何らかの条件を経ることで新たな姿に生まれ変わる……人はポケモンに起こるその現象を『しんか』と名付けた。
より強く、より速く、より大きく、より美しく。
ダクマにも今、その時が訪れていた。食い入るように巻物を見つめていた彼の目からは光が溢れ出していき、やがて全身を包み込む。光に覆われた白いシルエットは次第に大きく、逞しくその姿を変えていく。光が消えて再び姿が露わになった時、そこにもうダクマの姿はなかった。
鍛え抜かれた逞しい筋肉に、道着を思わせるような黒と白の体毛。頭上では逆立った毛が鉢巻のように風にたなびいており、落ち着き払ったその佇まいはまさに一流の空手家のそれである。
未熟なダクマはもういない。そのポケモンの名はウーラオス。共にガラルの頂点を目指す相棒は、ここに新たな姿を手に入れた。
「いくぜ相棒……目指すはエンジンシティだ!」
「ウラー!」
未踏の地へと足を踏み入れる。ここでの戦いはウーラオスを更に強くするし、共にジムチャレンジを戦う新たな仲間も見つけられるかもしれない。淡い期待を胸に走り出したチカを待っていたのは──
「イワアアアァァック!」
「ホルーゥド!」
「ルンパ!ルンパ!」
「ホーロゥ!」
「野生ポケモン、多過ぎんだろ!」
「ウーラァ!」
──大量の野生ポケモン達による、厳しい自然の洗礼であった。
「1匹1匹相手してたんじゃキリがない、最短距離で突破するぞ!あんこくきょうだ!」
「ウーゥ……ラァ!」
うららか草原を抜けてこもれび林へ突入したチカとウーラオスは、そこで多くの野生ポケモンによる波状攻撃を受ける。幸いと言うべきか長年の修行の成果もあり、この辺りのポケモンとウーラオスではそのレベルにかなりの差がある。
1匹の実力で言えば大したことはなくとも、それが寄り集まれば脅威となり得る。物量という名の暴力に押し潰されそうになるその前に、ウーラオスの拳が活路を切り拓いた。
全身から沸き立つ暗黒のエネルギーを拳に集中させ、全力で撃ち放つ必殺『あんこくきょうだ』。拳圧だけで多くの敵を薙ぎ倒せるこの技を受け、野生ポケモン達は散り散りとなる。チカはその隙を見逃さずに自転車のターボ機能を全開化し、ウーラオスをボールに収めて走り出すのだった。
「ふぅ……いきなり酷い目に遭ったな。ダメージは大丈夫か?ウーラオス。怪我したのならキズぐすり使っとかないといけないからな……」
「ウーラァ……」
こもれび林を抜けて、見張り塔跡地まで逃げ込んできた1人と1匹。全力で自転車を漕ぎ続けたチカも連戦したウーラオスも、かなり疲労していることが見て取れる。
廃屋に背中を預け、チカはここまでの疲労を吐き出すかのように大きく深呼吸をする。ワイルドエリアは野生ポケモンの巣窟で危険ということは事前に調べて知っていたが、まさかLv.70を超えているウーラオスが、更にレベルを上げる程とは想定していなかった。己の思慮の浅さを自嘲し、乾いた笑みを虚空に浮かべる。
あまり立ち止まってはいられない。ここも襲ってくるようなのは少ないとはいえ、やはり野生ポケモンの巣窟である。また面倒なことになる前に出発する必要があるため、チカは再び自転車を出した。
現在地である見張り塔跡地を抜ければ、あとはキバ湖の沿岸を渡って関所を通るだけ。本島に着いた頃はまだ昼頃であったが、ゴタゴタしている内に既に日は暮れて夜の闇が顔を出してきている。夜は更に厄介なポケモンも増えるので、野宿することなく早めに抜け出したいところであったが……
「あの光……」
「うらあ?」
「間違いない。ダイマックスポケモンの巣穴だ」
「ウラア!」
抜け出したいところだが、チカにはどうしても気になってしょうがないものがあった。夜闇をバックに絢爛に輝く一条の光。そこに『ダイマックスポケモン』がいるということを示す、周りへの警告と力を誇示する光であった。
しかもその光は桃色。通常巣穴から漏れ出る光は赤い色をしているのだが、中にいるダイマックスポケモンの力が強い程に、その色は白に近い桃色へと変わっていく。この巣穴に潜む『誰か』は、恐ろしい力を持っているのだということがありありと伝わってくるのだ。
「コイツを捕まえれば、きっと頼もしい戦力になってくれるはずだ……いくぞウーラオス!久しぶりに激戦になるぞ!」
「ウラァ!」
そんな強者の待つ巣穴へ、チカは何の躊躇いもなく飛び込んでいった。ウーラオス1匹しか手持ちのいない現状を打破し、新たな旅の仲間を引き入れるために。本当に、何の躊躇いもなく。
「ぶるうううぅぅん!」
「ブルンゲルか……相手にとって不足はないな!」
「ウラァ!」
「いくぜウーラオス、『キョダイマックス』だ!」
戦いが、始まる。
キャラクター紹介#1
名前:チカ
性別:男性
年齢:13歳
相棒:ウーラオス(いちげきのかた)
紹介:ジムチャレンジを制覇し、ガラルリーグのチャンピオンとなることを夢見る少年。マスター道場での修行の成果とそこで出会った相棒と共に、頂点を目指して旅をしている。