「僕はボールガイぼる!ジムチャレンジに参加するみんなに、ボールの素晴らしさを伝えて回ってるんだぼるよ〜!」
「はぁ……そうですか。頑張ってください」
エンジンシティに辿り着いた翌日。朝食の用意をしていたチカの隣には、見知らぬ不審者が座っていた。椅子まで自前で用意して、いったい何のつもりなのだろうか……そう勘繰っていると、不審者は聞くまでもなく自己紹介してくれた。
彼の名はボールガイ……現チャンピオンのユウリがまだチャレンジャーだった頃から非公認で活動していた、ガラルリーグ公認マスコットである。公式マスコットとしてジムチャレンジを宣伝する傍ら、己の使命であるモンスターボールの魅力の普及も行っているとのこと。正直ボールを模した風貌も相まって、単なる不審者としか思えない。
「その右手に光るダイマックスバンド……君もジムチャレンジに参加するんだぼるね!勇敢なチャレンジャーに敬意を評して、ボールガイからプレゼントを贈るぼるよ〜!」
「あっはい……ありがとうございます……?」
「それじゃあ僕はもう行くぼる!君の活躍をささやかながら願っているぼるよ〜!」
「何だったんだ……?」
プレゼントと称して渡された大量のモンスターボールを抱え、チカは困惑の声を漏らす。ジムチャレンジ当日という大事な日に、何とも変な奴に絡まれてしまったものだ。
プレゼント自体はありがたいものである。モンスターボールはいくらあっても困らないし、数を揃えようと思えばかなりのコストがかかるからだ。
具体的に数えてはいないが、渡されたボールの数はざっと見てだいたい40個程。これ程の数のモンスターボールをいったい、奴はどこに隠し持っていたのだろうか。疑問は尽きないが、チカはもうボールガイのことは考えないことにした。あんな不審者のことを考えていては、脳みそがいくつあっても足りやしないだろうから。
「よし……行くか!」
朝食を終えたチカはキャンプ道具一式をしっかりと片付け、意気揚々とエンジンスタジアムへ向けて歩を進める。受付でマスタードからの推薦状とダイマックスバンドを提出し、本人確認の後にユニフォームの採寸を行う。自分の背丈に合わせて調整された上下の白を基調としたユニフォームには、『442』と自身のナンバーが記されていた。
必要な準備は終わり、後は開会式を待つだけ。腰に取り付けたモンスターボールを叩き、同じ気持ちを抱いているであろう2匹と心でコミュニケーションを取る。特にブルンゲルは昨日捕まえたばかりであるため、指示を受け入れられるよう念入りに打ち解けておかなければならない。
「うらあ!」
「ぶるうぅん!」
「ああ、楽しみだな。……開会式、始まるぞ!」
「うらあ!」
参加者に集合を呼びかけるアナウンスが流れ、その誘導に従ってチカはチャレンジャーの控え室まで移動する。広いはずの控え室は多くの人間でごった返し狭くなっており、ジムチャレンジがどれ程多くの者が夢見る舞台であるかということがよく分かる。
ちなみにジムチャレンジの概要を説明すると、だいたいこんな感じになる。纏めると……
1.ガラル地方を回り8つのジム/スタジアムを順番通りに制覇し、『ジムバッジ』を集める。
2.ジムバッジを集め切ったチャレンジャー達とシード枠であるジムリーダー達でファイナルトーナメントを行い、優勝した1人だけがチャンピオンへの挑戦権を得る。
3.最後に残ったチャレンジャーとチャンピオンが戦い、ガラル地方最強のポケモントレーナーを決めるタイトルマッチを行う。
……だいたいこんな感じである。
ジムリーダーとはジム/スタジアムでチャレンジャーを待ち構える者のことを指し、彼らに勝つことでジムバッジが手に入る。チャレンジャーにとっての門番でもある彼らは、同時に頂点を目指してチャンピオンに挑む同志でもあるのだ。
『レディースエンドジェントルマン。今年もガラル全土を賑わす祭典が無事、始まりの時を迎えます。最強のチャンピオンが5度目の王座防衛を果たすのか、それともまだ見ぬチャレンジャーがその座を奪い取るのか……お時間となりました。全チャレンジャー入場です!』
ワアアアァァ……!!
「すっごい賑わい……こんな中でバトルを……!」
「この喝采、全部オレのものだ!」
「最終的に、オレが勝つ」
「わたくしの力、知らしめてやりますわ!」
「やっぱ、どいつもコイツも気合い入ってるな」
万雷の喝采を以って、スタジアムを埋め尽くす観客達がチカらチャレンジャーを出迎える。この歓声は言うなれば期待の表れ。世代交代以来無敗の最強チャンピオン、ユウリを倒すトレーナーが現れてほしいという大きな期待。
周りを見渡せば、誰もが自信に満ちた眼差しで壇上に上がったチャンピオンを見つめている。『あの女を倒して頂点に立つのは自分だ』という、強い意志の篭った眼。それでこそ、挑戦し甲斐が……倒し甲斐があるというものである。
『それでは最後に、チャンピオンユウリからチャレンジャーの皆様へのメッセージがございます』
『ごきげんよう。ここにいる中で私のことを知らない者などいないでしょうから、自己紹介は省略しますね』
……自分に自信持ち過ぎだろ。当たってるけど。
司会から渡されたマイクを手に取り、閉会の挨拶をするチャンピオン。
その言葉や所作の端々からは、先代チャンピオンを倒して最強の座を勝ち取り、5年もの間居座り続けてきた強者の自信を感じられた。これがチャンピオンユウリ。これがガラル最強の女。この女に勝たない限りは、頂点に立つことはあり得ない。
……上等。壁が高い程、燃えるってもんだぜ!
『ガラル全土を巡る長旅に、ワイルドエリアの目まぐるしく変わる極端な気候。相手を構わず襲いかかる野生のポケモン達に、各スタジアムで立ち塞がるジムリーダーの皆様。これから皆さんには、多くの壁が立ち塞がることでしょうが……そんな困難の全てを跳ね除けて、私に挑む者が出ることを私は期待しています。以上……それでは、よい挑戦を』
ユウリは一礼で言葉を締め括り、壇上から優雅に降り去っていく。その後ろ姿はまるで、チャレンジャー達に『この背中に追いついてみせろ』と言っているかのようで。
その挑発的な背中を見せつけられたチカは、更に打倒チャンピオンへの意欲を燃やすのだった。
「チャンピオンになるのは……俺だ!」
キャラクター紹介#3
名前:ブルンゲル
性別:♂
おや:チカ
性格:のんき ひるねをするのがすき
覚えている技:ねっとう みちずれ
おにび じこさいせい
紹介:ワイルドエリアの一部である『見張り塔跡地』にあるダイマックスポケモンの巣穴で見つけたポケモン。巣穴からは強力なポケモンであることを示す白い光を出していたが、タイプ相性的にウーラオスには敵わなかった。