「いいかお前ら。今の俺の手持ちはお前らだけ……強さ的に申し分ないことは言うまでもないが、2匹だけでは数が心許ない。ジムリーダーが使ってくるポケモンはだいたい3〜5匹程度。せめて数を対等にできるくらいには、仲間を揃える必要がある」
「うらぁ」
「ぶるうぅん」
自転車を漕ぎながら颯爽と3番道路を進むチカは道すがら、ウーラオス達に新たな仲間の必要性を説いていた。
特に欲しいのは、最初の関門である『ターフタウンスタジアム』のジムリーダー『ヤロー』の攻略に役立つほのおタイプやひこうタイプのポケモン。ブルンゲルでは相性不利だし、ウーラオスだけに任せきりにする訳にもいかない。新たな手持ちの補充は急を要する課題であった。
「確かこの辺りでは、ヤクデやガーディといったほのおタイプのポケモンが多く出るらしい。発見した時のバトルは任せるぜ」
「うら!」
「ぶるぅん!」
「新たな旅の道連れは、どんな奴になるのかね?」
自転車を軽快に飛ばして、チカは3番道路を駆け巡っていく。道中ライバルに絡まれたり、ポケモンバトルを挑まれたりとちょっとしたアクシデントもあったが、ブルンゲルだけで一蹴できたので大した問題にはならなかった。
「うぅ……ぐやぢぃ……!」
「毎度ありー♪」
トレーナー同士が戦った時は、『負けた方が勝った方に所持金の一部を支払う』という暗黙の了解がある。人によっては守らずにバッくれることもあるルールだが、今回はちゃんと守られたようだ。
貰った賞金の額を数えていると、近くの草叢からガサガサと何かが動くような音が聞こえる。せいぜい自身の膝下くらいまでしか背丈のない草叢にいる者は、確実に人間ではないだろう。となればもちろん野生のポケモン。先に候補に挙げていたようなヤロー戦に役立つポケモンだといいなと思い、チカは草叢から離れてウーラオスを出した。
「がーでい!」
「ウラッ!?」
「ガーディか……いいな、捕まえるぞ!やり過ぎないように気をつけろよ、ウーラオス!あんこくきょうだ!」
「ウゥ……ラァッ!」
草叢から飛び出してきたのは、それはそれは生意気な面をしたガーディであった。人間一人相手くらい楽勝と思い込んで、大した警戒もせずにチカへと突っ込んでくる。
そんな思慮の浅さを咎めるかのように、ウーラオスの暗黒の力を纏ったアッパーカットがガーディの顎を突き抜ける。圧倒的レベル差の暴力によって天高くカチ上げられたガーディは、そのままチカの投げたモンスターボールに捕まり彼の手持ちとなるのであった。
「ガーディ、捕獲完了」
「うらあ!」
「小生意気な面した奴だったけど、ちゃんと戦力になるのかねぇ……レベルはどうにかできるけど」
「うら?」
3番道路に生息しているポケモンに、あまりレベルが高く強いポケモンは多くない。あんこくきょうだ一発で捕まえられたところを見るに、このガーディも例に漏れない弱個体なのだろう。
一応、レベルの低さや個体としての弱さはどうにかする手段があるのだが……それをするには多大なコストと時間がかかる上、専用の施設に赴かなければならないため今は使えない。今はできる手段だけで我慢する必要がある。
「出てこい、ガーディ!」
「がー!」
「今からお前を『しんか』させる。俺の手持ちになる以上は、しっかり活躍してもらうからな」
「がーでい!」
多くのポケモンは、特定の条件を満たすことでその姿を変える。ダクマがマスター道場の皆伝を受けてウーラオスにしんかしたように、ガーディは『ほのおのいし』という特殊な鉱石に触れることでしんかするのである。
ほのおのいしに触れたガーディはしんかのサインである白い光に包まれて、その身体をより大きく強いものへと変えていく。白いシルエットは少しずつ大きくなってやがて、ガーディは『ウインディ』へとしんかを果たした。しんかして渋みを増した声で大きく吠え、喜びを表すウインディ。ポケモンの中にはしんかすることを嫌がる個体もいるが、どうやら彼は違ったようであった。
「ま……このままじゃレベルも低いし覚えてる技も弱っちいものばかりで、とてもバトルの役には立たないけどな」
「でい!?」
「ターフタウンに到着するまでは、お前がウチのパーティの先発だ。ビシバシ扱いてやるから、ちゃんと覚悟しとけよ!その野生特有の人間を舐め腐った眼も、しっかり矯正してやるからな!」
「でいぃん!?」
こうして、パーティの先頭で何度も戦わなければならなくなったウインディ。故郷の3番道路を出てガラル鉱山に4番道路と、幾度となく死線を潜らされた結果。彼のレベルは捕まえられた当初の倍近くまで上がり、多くの新技を覚えたのだった。
「うぃー……でいぃ……」
「だいぶバテてんな。まぁ丸三日くらい戦い続けだったし、無理もないか。ウインディ、ターフタウンに着いたからもう休めるぞ。ポケモンセンターで回復してもらおう」
「でい!」
「急に元気になったな……」
ウインディを先頭に、野生のポケモンや道を同じくするライバルと戦い続けてはや三日。チカはようやくターフタウンに辿り着いた。真っ直ぐ進めていればもう少し早く着けただろうが、ウインディの強化が必要だったので仕方がない。
疲労困憊のウインディも、合わせるために自転車を使えなかったチカももう満身創痍である。ポケモンセンターで早く休みたいという思いは、今の1人と1匹が初めて持った同じ思いであった。