ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第十二話 蚩尤(デウスデア)

 

「君は…さっきの…」

 

呆然としている団長は脳の処理が一瞬遅れたようで、そうつぶやいた次の瞬間に、跳び退いてナイフを構えた。少女は先程地下水路の奥へと走っていた女の子だ。

少女は倒れる二人の男の息を確認し、絶命を確認したのか剣を鞘にしまい、二人の武器を懐にしまって話し始めた。

 

「あんまり警戒しないでほしい。私は君たちに危害を加えるつもりもなければ、レベル1の駆け出し。特に貴方には勝てる気がしない」

 

そういった彼女は私と団長に視線を順番に送り、手を上げて降参のポーズを取った。私の位置がバレているのは、先程声を上げたのが聞こえていたからだろう。それを聞いた団長はナイフを腰にしまう。

 

「ならば、何の用だ。見たところ、君と彼らは同じファミリアだったように見えるんだが、同胞を殺してまでやりたいことでもあるのか?」

「私を…私と、私のお姉ちゃんを助けてほしいの。ここじゃ話すのに向かないし、場所を移しましょう。ほら、そこの人も一緒に来ないとそのうちバレるよ?」

 

そう言われてそそくさと団長の後ろにつく。なんか…敵意がないって言われても、いくら何でも、怖いと言うか、なんというか…。

 

場所を移してたどり着いたのはギルドの目の前。

 

「それじゃ、お縄につこっか」

 

団長がしっかりと手を掴んだ彼女にそう告げる。

 

「君、闇派閥だろ?僕たちじゃ手に負えないというか、助けてほしいならギルドによる派閥解体の時にでもしてもらえば…」

「それじゃ間に合わない。いいの?あのヴリトラハン…フェリドゥーン・スラエタオナが死ぬよ」

 

少女が、少しばかり声を荒げる。それは周りの注目を集めるに足るものだった。その声のせいで、なんだなんだと人が集まってくる。

 

「っ…!それはどういう意味か聞かせてもらおう。人目もあるし、一旦路地裏に行くよ」

 

団長は私にそう耳打ちすると、すぐさま路地裏へと駆けていった。私も、団長の後に続く。しかしまあ流石はレベル3後半、入り組んだ路地裏に入られるとあっという間に見失ってしまう。迷いながら、路地裏に無数に生える脇道を覗き込みながら進んでいる…あんまりにも多いよ、脇道。いくらでも逸れられそう。

気を取り直して、進んでいると、脇道のさらに奥から、団長の声と、先程の少女の声が微かだが聞こえてくる。

ようやく見つけた…と疲れた体を引きずりながらそっちに向かう。

角を曲がると、壁ドンのような構図の二人がいた。無論壁ドンなどというものではないのだろうけど。

 

「置いてってごめんね、キミ。体の調査をした結果、彼女は火薬玉の類を隠し持ってるわけじゃなさそうだ」

「最初から敵意はないと言っているはずなんだけど。ところで、君達の名前は、なに?」

「残念ながら、教えるわけにはいかないな。そんなことはどうでもいい。先程の話について教えてもらおうか」

 

よく見ると、少女はローブを引っ剥がされ、服をひん剥かれたあとのようだ。さすがに相手が闇派閥の少女だからってここまではしなくてもいいでしょ…と思ったが、ソードオラトリアのときの闇派閥の奴らのように自爆されたら困るのも確かだ。

 

「まずは前提から話していきましょう。私の所属はシユウファミリア。聞いたこと、あるでしょう?」

「シユウファミリアか…一大闇派閥の一つだが…あそこはすでに解体されたはずじゃなかったか?」

「表向きはね。でも、主神…シユウも、団長も、少数だけど構成員も、まだ全員生き残ってる」

「団長も…!?ということは…」

「そう、アルディア・レス。呪詛姫はまだ健在なんだよ」

 

それを聞いた団長は、顎に手を当てて少し思考を始めた。

 

「なるほど、フェリドゥーンを殺しうる…か」

「そういえば自己紹介がまだだったね。私はエルヴィ・レスという」

「!?君は…」

「まあお察しの通り、アルディア・レスの妹。最恐のパルゥムが誇る唯一の汚点、出来損ないの愚妹だよ」

「姉を助けてほしいというのは、つまりアルディア・レスを闇派閥から足を洗わせろと、そう言いたいのか?しかし一体なぜ?」

「それがヴリトラハンの死につながってくるの。これ以上の話しをするにもこの場所は不適だと私は判断してるのだけど、ここでいいの?」

「…。いいだろう。キミ、この子をホームに連れて行こう」

 

振り返った団長が私にそう告げて、彼女の手を引いてホームへ向けて歩き始めた。神妙な表情をした彼は、何らかの覚悟をその身のうちに宿しているように見えた。先程の闇派閥を殺したときの手慣れ感、彼には何か、秘密があるのだろうか…。

 

それは、それとして

 

「だんちょぉ!私、なんっっっも!理解できてないです!」

 

思わず大声を出してしまった。いやだってそうだろう。登場人物誰も把握できない知らんストーリーのシリアスシーンをお出しされたら、コイツラは誰なんだよ!教えてくれよ!って言いたくなっちゃうものだろう。

シユウファミリア?アルディア…レス?だっけ、誰?おそらく本編には出てきてないファミリア、本編で絡んでいないだけか、それとも、開始前に全滅したか。

それにヴリトラハンは誰なんだよぉ!名前長くて覚えらんない!誰!?フェリなんちゃら・スラエなんちゃらさんは!

 

この大声を聞いた団長はポカンとして私の顔を見ている。なんなら、手をすり抜けてローブを回収していた彼女も同じ顔をして私を見ている。

 

「あ〜その、理解できてないっていうのは…」

「団長、キミも理解してるな?キリッ…みたいな感じで去ろうとしてましたけど、私、今回の事件何もわかりませんでした。闇派閥の残党がヤバそうってことくらいしかわかりませんでした」

「そ、そっか…ま、まあすでに壊滅した闇派閥の事情なんてつい最近まで普通の人だったキミにはさっぱりか…ヴリトラハンの解説はいいとして…」

「そのヴリトラハンさんも知らないです」

「そのエルフ、大丈夫なの?非常識ってレベルには見えないよ…」

「無知は仕方ないことだからね…うん…。アイズ・ヴァレンシュタインを知ってたのは不思議だけど…。それじゃ、ヴリトラハンっていうのはね…」

 

そこから20分ほどだろうか、歩きながらの用語解説コーナーが団長によって行われた。

フェリドゥーン・スラエタオナとはインドラ・ファミリア所属の最上級冒険者、レベル5の一人だそうだ。ヴリトラハンとは彼の2つ名の一つ。そして、現オラリオの最強のヒューマン。単体戦闘能力だけならば、かのオッタルすらも容易に凌駕する冒険者だと言われているらしい。なんか…聞いてる限りだと、レベル8相当のステイタスに、実質無限の火力を持つ魔法、ありとあらゆる武器を扱うことに長けた複数のレアスキルを持つ、それこそ創作主人公レベルのトンデモスペックの様に思えるのだけど…。

 

次に、アルディア・レスという人物。眼の前の女の子、エルヴィ・レスのお姉ちゃんらしい。現在のレベルは4、二つ名は呪詛姫。暗黒期に一度だけ、かのブレイバー、フィン・ディムナすらも倒したことがあることから最恐のパルゥムの呼び名を持つという。複数のカース、カースウェポンを操る二つ名通りのカースの使い手だそうだ。かつてのパルゥムの英雄を模した仮面を常につけている…らしい。彼女は冒険者でありながらも、優秀な鍛冶師のようで幾多の高品質なカースウェポンを作ることができるそうだ。

 

そしてシユウファミリア。闇派閥の一つでスミス系と探索系を兼任しているファミリアらしい。ここの作り出したカースウェポンが闇派閥の間で大々的に流通したことが暗黒期の被害拡大、期間の延長につながり、暗黒期、最も多くの人を殺したファミリアの二つ名を戴くほどだそうだ。主神はシユウ。常に誰か、他の神に恨みを向けており、その恨みを発散させるためだけで数柱の神を天界に送還したそうだ。すでにこのファミリアはロキ・ファミリア、ガネーシャファミリアの共闘によって壊滅したが、たしかに主神や団長の捕縛はできていなかったそうだ。

 

「なるほど…なるほど…つまり、ヤバメの闇派閥が最強の冒険者を目の敵にして殺しに行こうとしてる…ってことであってますか?」

「ああ、その認識であってるよ。これ以上の仔細は…この子が何を知っているのか、それはここで、聞かせてもらおうか」

 

そう言った団長の視線の先には、我らがケルヌンノスファミリアのホームがあった。

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