ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
場所はケルヌンノスファミリアのホーム、猟神の館、会議室。部屋の中にいるのは私を含めた四人。私、団長、エルヴィ、主神だ。
机を挟んで向かい合った椅子に主神とエルヴィが座り、主神の後ろに二人で立っている構図だ。
「それで…君の姉…呪詛姫が、インドラのところのフェリドゥーンを殺そうとしてる…っていうこと、かな」
「そうなります。それを事前に阻止して、姉を蚩尤のところから取り返したいのです」
「う〜ん、話がいまいち読めないな。なぜ殺す、なぜ助ける、どう殺す、どう助ける、その他にも色々と不明瞭な点が多いなぁ」
「では、私の知っている限りのことはお教えしましょう」
主神様は彼女の真贋を見抜くように、飄々として頬杖をつきながらもじっと彼女を見つめている。彼女もまた主神から目を離さずにじっと目を見つめている。
「なぜ殺す、は蚩尤、私たちの主神のせいです。インドラ様を、昔の敵に似ていると言っていました。だから殺すって。なぜ助ける、は姉が主神に利用されてるからなんです。もともとは優しい人だったのに、主神とであってから姉は変わってしまったんです。それに、フェリドゥーンを殺そうとすれば、姉もただではすみません。私は、死んでほしくないんです」
ただ、淡々と、けども重い言葉で語られる思いのほどは対面して聞いていなくても覚悟のほどがつたわってくる。幾多の人々をも殺害した、闇派閥の団長でも、その身を案じてくれる人も、いるのだ。
「どう殺す、はこれが関係していると思うんです。確証は持てないんですけど」
そういう彼女は、懐から紙を一枚取り出した。そして、それをテーブルの上に広げる。紙に描かれたのは、謎の文字と、真ん中にナイフ。ただ、文字はどこかで見たことあるような。
「これは、蚩尤ファミリアの最重要機密、主神と団長のみが知るカースウェポンの設計図です。この文字が何かは、私には読めないのですが。もしかしたらヒエログリフの一種かもしれないと思って、持ってきてみたのですが」
主神がそれを手に取って、まじまじと見つめる。
「う~ん、わかんないな...これは、極東?いや、ちょっと違うな...二人はどう?って、無理か」
ちらと主神が見せてきたけど、この文字、古代中国語的な奴だ...!ってか、どちらかというと漢字?っぽいけど...どうなんだろう、本当に漢字なのかな、似てるだけで別の言語の可能性あるし、変に混乱させたくないから黙っておこう。
「ま、僕がわかんないのが君たちにわかるわけないか。これは後で知ってそうな奴に聞いてみよう」
その紙を袖の中に仕舞い、再び会話が始まる。今度は主神のターンだ。
「うん、思惑を止めなくちゃいけないことはわかった。いくら闇派閥とはいえ子供たちの命が失われるのは悲しいことだから助けるのも賛成だ。でも、ここで問題がある。最後の質問、どう助けるかのビジョンが見えない」
主神から突き付けられる言葉。主神は言葉を続ける。
「別に助けに行ってもいいんだ。説得...が通じなければ実力行使で解体することははっきり言ってケルヌンノスファミリアには可能だ。そのくらいの戦力はある。でも、それで何人が犠牲になる?かのフィンディムナが撤退を余儀なくされるほどだ、安全に勝てる相手じゃない。君の姉を助けたことで助かるかもしれないアルディアとフェリドゥーンの乗った天秤は僕の眷属たちの乗った天秤よりは軽くなってしまうよ」
彼女は黙っている。まだ主神は言葉を続ける。
「君が安全に勝てる策を持ってきてくれるなら話は別だが、そんなに不確定なものにファミリアとして加担するわけには、いかないな」
一通り話し終えた主神はテーブルの上の紅茶をすする。その音は、場に重々しく響く。彼女はというと、太ももの上で手を悔しげに握っている。顔は伏せられて見えないが、ギリという歯を食いしばる音が聞こえてきた。
少し心配になってしまった私は、彼女のそばへと寄って、背中をさすろうとしてしまった。
次の瞬間、私の首は掴まれ、冷たい感触が首筋に当たる。本日二度目の、拘束と脅しだ。
「...そんなことは、わかってる。馬鹿な考えだってことも...。このまま協力しなければ、彼女を殺すぞ...!私は、闇派閥だ。殺すと言ったら、本当に...」
彼女の破れかぶれの脅しも、哀れにもどこからともなく取り出した団長の槍によって阻止されてしまう。カキンという金属のぶつかる音とともに、彼女の手の中の短剣は宙を舞い、床に転がった。
槍をもとのスタンスに戻した団長は、私を彼女の手の中から引きずり出して、主神に振り返った。
「ファミリアとしてはダメですが、俺一人で行くならばどうでしょう。同じレベルに限りなく近く、手の内も知っている彼女に遅れをとることはないですし、フェリドゥーンが失われることは、このオラリオの衰退に直結します。いかがでしょうか」
主神は、はぁ~~と大きなため息をついて、数秒間団長と見つめあった。
「う~ん、本当は君も危険にさらしたくないし、団長としての節度を持ってほしいからダメと言いたいところだけど...その目をしてるラストを止められたことは僕にはないからなぁ。うん、いいよ。でも気を付けてね」
「ふっ、ありがとうございます」
主神がちょいちょいと私を手招きし、耳打ちする。
「多分、彼女に勝ったらフィンディムナの上に立てると思ってるんだ。子供っぽいよね~」
「あ~なるほど...」
ひそひそと話す私たちにかまわず、団長はしりもちをついて唖然としているエルヴィの手を掴んで立ち上がらせていた。
「それじゃ、ひとまず俺の部屋に彼女を案内しますね」
「あの、私も、団長と一緒に戦いに...」
「それは無理だ。正直、足手まといでしかない」
部屋を出ていこうとする団長に共闘の誘いをするが、あっさりと、ばっさりと切り捨てられてしまう。たしかに私は役に立たないけど!でもここまで絡んでしまった以上、最後の最後まで付き合いたいのが冒険者魂というものだろう。
「なら、せめてサポーターとしてでも...」
「ダンジョンに行くわけでもない、サポーターなんていらないよ」
「そ、それでも弓ならカースの範囲外から攻撃できて...」
「悪いけど、君じゃあ誰にも太刀打ちできない。シユウファミリアはスミス系だが、そのランクはB相当とされている。サポーター以外の構成員は軒並みLv.2以上だ。そんな彼らに、君の弓が当たるとは...」
「ま、いいんじゃないかな。連れてっても」
団長による結構きつめの言葉による、やさしさの断り文を、主神の言葉が遮った。
「で、ですが...」
「そのくらいの覚悟の上でしょ、彼女も。なに、いい成長の機会になるだろうさ」
「...あなたがそこまで言うならば。それじゃあ、ノクシアちゃんも俺の部屋に来てくれ。作戦会議といこう」