ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第十四話 立案(アンブッシュプラン)

「さて、どう攻略するか、だ。とりあえず、現存のシユウファミリアの構成員数、レベル、本拠地、ルートリングがわかるとありがたい。エルヴィちゃん、この紙に知っている限りを書き記してくれ。マッピングもできるだろ?」

「分かった。でも、本当にいいの?私に協力するなんて...」

「なに、冒険者は気分で動くものだろう。ただの気まぐれさ」

 

その紙を受け取った彼女は机に向かっていそいそと筆を走らせ始めた。

 

「ノクシアちゃん。ちょっと、二人で話がしたいから廊下に来てくれるかな」

「え、あ、はい」

 

ちょっと圧が強い...ような。団長が扉を開いて私を誘導するので、それに従って廊下に出る。団長が扉を閉めて、腕を組んでため息をついた。絶対私の同行に乗り気じゃない!

 

「あのさ、ノクシアちゃん。本当に、いいの?闇派閥の危険性っていうのはこの前のダンジョンなんかの比にならない。それに、君が殺すのはそこに生きている人間だ。まだダンジョンにまともに潜ったこともない君に相手させるのは、いくらなんでもヘビーすぎる」

「...おっしゃるとおりです」

「今からでも考え直したほうがいいと思うんだけど、ダメかな...?その、あんまり言いたくないけど君は死ぬよ...?」

 

そんなこと私が一番わかってる。闇派閥、本編でもソードオラトリアでも残虐行為の限りを尽くしたうえに、ネームドすらも殺害しきる文字通りのオラリオの暗部。私が行けば、まず絶対に死ぬだろう。

 

「それでも!」

 

私は引くわけにはいかない。目の前で、助けを求める人がいるなら、助ける。これは私がダンまちを読んで得た知見だ。私が巻き込まれたなら、なりふり構わず全力で、立ち向かうのが、英雄だ。

 

「私は、あの子を助けたい。それ以外に、考えることがありますか?」

「強情だなぁ...。いいよ、同行を歓迎する。でも、これからは僕たちは新人と団長でなく、同じクエストを受けるLv1冒険者と、Lv4冒険者のタッグだ。今まで通りの甘さはないよ」

「はい!」

 

部屋に戻ると、今ちょうどマッピングが終わったエルヴィがこちらに振り返った。

 

「今終わったよ」

「よし、ありがとう。そのマップを参考に、計画を立てていこう」

「うん、これが今のマップ」

 

彼女が羊皮紙を床の上にベロンとおく。そこに書かれていたのは、さっきの水路の先、広大なオラリオの水路だ。そして、どこに誰が何レベルの冒険者が何人、時間帯ごとのローテーションまで書かれていた。

 

「私が知ってるのはこの程度。必要最低限しかないけど、許してほしい」

「いや、想像以上だ。感謝する」

「この黒い点が、お姉ちゃん...アルディア・レス、こっちの二重丸が主神だよ」

「この、端にある中途半端な切れ目はなんだ?」

 

団長が指をさしたのは、黒丸二重丸たちの後ろにある謎の道だ。

 

「そこは、私も知らない場所。何につながっているかさっぱり」

「オラリオの水路入り口の場所的にこの先におそらく道はない。何かを隠している部屋と考えるのが普通、か」

 

そうつぶやいた後、少し考えた後に団長は立ち上がって、がさごそと机を漁った後に、赤色の蝋石を取り出して、マップに一本の線を引いた。

 

「このルートリングがおそらくいいと俺は考えている。どの時間帯でも警備が少し厚いが撤退するときに退路を取りやすいし、ほかのルートからの増援がたどりつくまでに一番時間がかかる。そして、このルートを通れば、身を隠しやすいだろう部屋構造が多い」

「部屋の構造...?ここからどうやって...」

「オラリオの水路システムと地形、地質から、部屋構造はなんとなく把握できる。部屋の中に物なんかがあれば、もっと簡単に身を隠せるだろうね」

 

何でこの人水路システムと地質把握してるの?そして、水路システムからなんでそんな細かいところまで把握できてるの?化け物だ。

 

「うん、私もそれでいいと思う。というか、私から提示するルートもそれにするつもりだったし...。すごいね、さすがケルニアスティーツェ」

「さて、次は決行日だ。フェリドゥーンの遠征開始よりも前、具体的には一週間は前がいい」

「それはなぜ?」

「おそらくフェリドゥーンの遠征は深層への単騎行軍。待ち伏せるなら、俺なら先人に倣って下層にする。下層で待機するならおそらくは一日前だ。それまではリヴィラででも待機するんだろう。概算でしかないけど、メインルートを避けて行くならばリヴィラ到着は三日前にするだろう。だから一回目のアタックを仮に失敗したときに二回目を挑めるようにするには一週間前が適切かな」

「...なるほど。フェリドゥーンの遠征は聞いた話ではあるけど、二週間後のはず。だから焦ってたんだよね」

「思ったよりも近いな。...それに、ノクシアちゃんの強化を一週間で、か...キツイね~」

「うっ、それはすいません」

 

一瞬だが、団長はふにゃと破顔した。可能な限り私を戦力として運用できるように、一人になっても死なないようにしようとしてくれているのが伝わってくる。

 

「さて、さっき俺は啖呵を切ったわけだが、実のところこのメンバーだけで攻略するには圧倒的にメンバーが足りない。アルディアとの一騎打ちならいざ知らず今回は攻略だ。最低でもあと一人、欲しい」

「誰かアテがあるんですか?」

「ほかのファミリアで一人、ね。カースに対して広い知見を持っている冒険者がいるんだ」

「そんなピンポイントな人選が...!」

「うん。Lv2だけど、大抗争の時には闇派閥の討伐でとても活躍したんだ」

 

団長は、よし、と言いながら立ち上がる。

 

「それじゃ、行こっか。顔合わせは済ませないとね」

 

団長に引き連れられて、オラリオの夜闇の中を私とエルヴィちゃんは歩く。団長の背中と、空に輝く星々以外には何があるか見えず、団長を見失えば途端に迷いそうな感じだ。オラリオの場所にして、南西。ダイダロス通りほどでないにしろ入り組んだ路地を進んでいると、団長が立ち止まり背中にわぶっという声を上げながら激突してしまう。

 

「ついたよ。ここだ」

 

目の前には一つの木の扉。団長がその扉を一定のリズムでノックすると、奥のほうからパタパタと小走りで近づいてくる音が聞こえる。そしてカチャと扉の鍵が開く音がすると、団長が取っ手に手をかけ扉を開く。

 

「やあ、ラ・フラカ。少し相談があるのだけど、いいかな?」

 

扉の向こうには、やせぎすの少女、目の下にはクマがひどく、唇も乾燥している、骸骨のような少女が立っていた。

 

「...面倒ごとな気がするけど、いいよ。中で話そう」

「ありがとう。さあ、中に入ろう」

 

団長に手招きされるままにその、怪しい少女の家の中へと入る。家の中は、外と同じほどの暗さ、灯りがともされておらず、うっかりすると転んでしまいそうだ。ある程度進んだところで、ボウッという音とともに視界が開ける。先ほどの少女が壁にかかっていたランタンに火をともしたらしい。

そして、私は絶句してしまった。

先ほどまでは真っ暗で見えなかった、壁や部屋の中が私の視界に入ってきた。壁には無数の何かの生物を漬けた液体、床には血痕と何かが煮えている鍋、極めつけはあちこちにされている髑髏の装飾。はっきり言ってこの子のほうが闇派閥でないか。

 

「団長、団長、この子ヤバくないですか?」

「一見ヤバく見えるのは仕方ない。でも慣れて」

 

いつの間にやら3人分のコーヒーらしきものを持ってきていた少女がそう答える。テーブルの上にカップを置き、ソファに座るように案内される。警戒しつつも座るとフッカフカのソフ

ァですごく心地よい。真ん中に団長、右手に私、左手にエルヴィちゃんの三人で座っているのだが、さすがに三人だと狭い。そして、少女が私たちの正面に腰掛ける。

 

「それで、相談はなに?」

「これから俺たちは闇派閥残党の討伐を行う。協力してくれないか?」

「ああ、なるほど。だからシユウファミリアといるんだ」

 

そういうと、彼女はエルヴィちゃんを一瞥した。

 

「目標はシユウファミリア?わかった。協力するよ」

「悪いな」

「ちょっとまって、なんで私のことなんて知ってるの」

 

エルヴィちゃんが口を開いた。

 

「私が闇派閥の構成員を全員把握しているというだけ」

「そんなこと、できるはずが...」

「まあ、私に知らない構成員がいないわけではない。でも少なくとも有力な構成員は把握してる」

「有力?私はただのLv1で...」

「アルディアレスの妹を把握しないわけがない。いつか使えると思ってマークしてたから、今回来てくれて僥倖、カモがネギを背負ってきたみたい」

「ちょ、そんな言い方...」

 

私が、少女のぶしつけな、何のオブラートにも包まない発言に突っかかる。そんな人のことを道具扱いなんて、いくら相手が闇派閥だからって言っていいことと悪いことがある。

 

「いい、事実だから。私は無能のエルヴィ、その程度の使い方しかできない」

「エルヴィちゃん...」

「ま、まあ!お互いに自己紹介してないし、そろそろしようか、ね?ノクシアちゃん」

 

三人のギクシャクした空気を解消するために団長が口を開く。無理に作った笑顔でこちらに向き直る。

 

「そ、そうですね。えと、私はノクシア・フッド、ケルヌンノスファミリアの新米です」

「ノクシア、ね。私はラ・フラカ。サンタムエルテファミリア所属。専門は解毒と解呪。あとは見てのとおり、呪術」

 

そう言って彼女はテーブルのわきに置かれていた巨大な頭蓋骨に手を触れる。人ほどの大きさのそれは、黒くぬらぬらと妖艶に光っている。撫でるとそれは撫でたところを中心に淡く発光した。なにか強力な力がこもった呪具なのだろうか。 

 

「それは...いったいどんな呪術なんですか?」

「これ?これはインテリアだよ」

 

ならそんなに意味ありげに撫でないでいただきたい。だが、その頭蓋骨がどうにもおかしい。手を離したのに、いまだに発光している。さらに、カタカタ言い始めた。次第にその頭蓋骨の揺れは、大きくなっていく。ガタガタと揺れる其れはさながらなにかの封印が外れるような印象を覚える。

そして一瞬だけ揺れが止まったかと思いきや、目が発光して口が大きく開いた。

 

「わぁ!」

「キャーーーーーーー」

 

ビビり散らして身をすくめて、絶叫する。終わった後も耳をふさいで絶叫し続ける。少しして、目を開けると、目の前に骸骨がいた。

 

「ギャーーー!」

 

絶叫しながら思いっきり平手打ちをすると、目の前の骸骨は回転しながら吹き飛び、巨大な頭蓋骨に激突した。

 

「いたた...ははは、元気な子だねぇ」

「サンタムエルテ様、いたずらもほどほどにお願いします」

 

吹き飛んだその人、いや神は骸骨の仮面を外して、立ち上がった。

 

 

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