ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第十五話 死神(サンタ・ムエルテ)

「やあ、久しぶりだね、ラスト」

 

仮面を外したその神物は、銀、いや白髪の老齢の、赤色のローブに身を包んだしわだらけの細身の女性だった。だが、背筋はぴんと伸びていて、爪に光る真っ赤なネイルや表情の若々しさから老人という感じはあまりしない。

 

「お久しぶりです。サンタ・ムエルテ様」

「まったく、そんなよそよそしくしないでくれよ。そこのお嬢ちゃんみたいにビンタするくらいの距離感でいようじゃないか!」

 

私を指さしてその神様は笑う。いや、神様とは知らず本気でビンタしてしまったのは申し訳なく思うけど、あんなおどかし方してくるならしょうがないじゃん。

 

「は、はじめましてサンタムエルテ様」

「ああ、いいビンタだったよ、ノクシア...だっけ?おどかして悪かったねぇ」

 

真っ赤に膨らんだ左の頬を抑えながら手を差し出してくるサンタムエルテと握手を交わす。

 

「さあ、余興はこの辺にしておこう。ラ・フラカなら好きに使っていいよ」

「ありがとうございます。ですが、本当によろしいのですか?フラカはこのファミリアの団長にして唯一の戦力のはずでは...」

「なに、闇派閥ごときに殺されるような眷属じゃないよ!」

「ちょっと誇張ですが、まあ問題ないです」

 

フラカちゃん...と呼んでいいのかはわからないが、彼女はサンタムエルテ様に背中をバシバシたたかれながらため息をついている。なんというか、この二人、一人と一柱は距離感が近くそして、道具と、使い手のような関係性に思える。

フラカちゃんの無機物的な話し方や、血の通ってない雰囲気がこの印象につながっているのだろうか。

 

「作戦の概要は後日聞きます。今日は遅いですし、ね」

「ああ、悪いね。それじゃ、帰ろう二人とも」

 

よし、と団長が立ち上がる。

来た時と同じようにフラカちゃんが先導するのについていって、再び暗い廊下を抜けた先、星明りに照らされた路地に出た。

 

「それじゃあ、よろしくね」

「ええ。頑張りましょう」

 

改めて向き合い、今日のところは解散となる。軽くお辞儀をしたフラカちゃんは、扉を閉め、カチャンと鍵の閉まった音がした。

 

「さ、今日のところはいったん帰ろう」

 

団長に引き連れられて、暗い路地を進んでいく。気が付けば、すでに消灯がなされた猟神の館の目の前に着いていた。

 

「それじゃあ、エルヴィちゃんは俺の部屋に泊まってくれ。ノクシアちゃんは、後で僕の部屋に、弓を持って来てね」

「え...?」

「それじゃあ、またあとで」

 

と団長はエルヴィちゃんを連れて暗い館の中へと消えていった。私もそのあとに追随して、館の二階、私にあてがわれている部屋に入る。ベッドに少し腰掛けて、とても濃かった今日を反芻する。

ギルドに冒険者登録をして、ロキファミリアと出会って、お洋服を買って、そして、闇派閥のいざこざに巻き込まれて...。

濃すぎるよーーー!キャラも一気に増えすぎだよ!

団長、リィヤちゃん、主神くらいの主要キャラクターだけでしばらくは簡単な冒険すると思ってたから、一気にこんなに増えたら、困っちゃうよ。

エトラさんの存在とか、場合によっては忘れられかねないよ...今日であったばっかなのに...。

そういや、団長が弓を持って部屋に来てって言ってたけど、どうしたんだろう。今日何も食べてなくてお腹ペコちゃんなんだけど。

ひとまずは壁に立てかけてある弓と、団長に買ってもらった剣、そして大矢の入った矢筒を背負って団長の部屋に行く。弓を見たいって話ではないだろうから、一応冒険一式を持っていくことにした。

コンコンとノックすると、扉が開いたが、開けたのは団長ではなくエルヴィちゃんだ。

 

「あれ?団長は...」

「お、思ったよりも早かったね。中に入っておいで」

 

中に入ると、リュックサックの中に大量の荷物を詰め込み、腰に剣を挿して、穂先に布のかかった槍を小脇に抱えている団長がいた。

 

「あ、あのその荷物は何...」

「おお!弓以外も持ってきたんだね。偉い。何って、今から一週間の遠征をするんだよ」

「は?」

「ノクシアちゃんは冒険者なり立て、多少強引にエクセリアを稼がないとどうあがいても役立たずだ。というわけでみっちり努力してなんとかしようという作戦さ」

 

はいこれとバトルクロスを差し出しながら団長が笑顔でいう。

待ってください。一週間これからダンジョンにこもりっぱなしなんですか?

 

「あ、あのヌンノス様に連絡とかは...」

「書置きをしたから多分大丈夫だよ」

「エルヴィちゃんは...」

「もし闇派閥がエルヴィちゃんを足掛かりにしかけてきても、負けるようなファミリアじゃないさ」

「あ、フラカちゃんに作戦の伝達とかは...」

「それはリィヤに必需品等のリストが書かれた紙を渡すようにケルヌンノス様の書置きにつけておいたよ」

 

あ、ダメだ。用意周到だ。キャンセルできない。仕方ないことなんだけど、いきなりきつすぎない?

 

「それじゃあ、バトルクロスに着替えたら行こうか。僕は外で待ってるよ」

「あ...はい...」

 

団長が部屋を出て言った瞬間に崩れ落ちてしまう。嫌だーーーー!そんなキツイと思わないじゃん!ねぇ!!

でも、泣き言を言っても状況は改善しないし、これは必要なことなんだ。頑張るしかない。

と、いうわけで今着ている服をストンと脱いでパンツタイプのバトルクロスに身を包む。

大きな外套もついていて機能性に特化していることが見て取れる。

着替え終わったので外に出ようとすると後ろから声を掛けられる。

 

「ごめんね、私のわがままのせいで...」

「いいんだよ。だって、これも私のわがままだもん」

 

そう、これはあくまでも私のわがままだ。本来ならいらなかったはずの特訓。それにつき合わせているのは私だ。気合を入れなければいけない。

 

「頑張ってくるね!」

「...うん。頑張って」

 

扉を開き、団長の隣に立つ。

深夜にオラリオを駆ける影が二人、バベルをすぐに抜けてダンジョンの門をくぐった。

 

 

現在の階層 六階層

 

他に誰も冒険者のいないこの空間で、ただ一つの剣が振るわれる音と、もう一つの弦をはじく音が響いている。

 

「きっっっっっっっつ!!」

 

二人が相対しているのはウォーシャドウの群れ、現状でも40体はいるかもしれない新米殺しの濁流(シャドウスウォーム)

続々と増えるそれを処理し始めて約20分が経過した。

ノクシア・フッド、撃破数25、ラステノール・フリン撃破数70。

 

「手が止まっているぞ!ノクシア」

 

ノクシアに近づくウォーシャドウをレベル4顔負けの速度で大量に切り殺している団長は、ノクシアに怒号を飛ばす。

 

「はいいい!!」

 

ノクシアは、すでにプルプルの手で矢筒に手を伸ばして、的確に射撃で魔石を貫いた。

 

「ま、まだ来るの...」

 

ゼーハーと息を切らすノクシアは背後から迫るウォーシャドウのかぎ爪を身をしゃがめて躱し、足払いで態勢を崩して、魔石を剣で貫いた。

1~5階層の間ですらノクシアはかれこれ100体以上のモンスターの魔石を、矢や剣で貫いた。最初の内こそ、反応が遅く団長に守られっぱなしだったが3階層を超えたあたりから射撃の精度、速度が上がり始め、4階層を突破したときには近接戦闘すらも流れ作業でこなせるようになっていた。

 

圧倒的なスパルタが彼女にもたらした急成長の結果である。

 

正面から来る次のウォーシャドウの爪を弓の突起に引っ掛け、弓を地面に突き刺して、それを支点に側頭部に蹴りを放ち、反転して矢筒から抜いた矢で魔石を貫いた。

その矢を弓に番え、団長の背後に迫っていたウォーシャドウを撃ち抜いた。

 

そうして10分が経過したころ、最後の一体を団長の剣が切り伏せたことでノクシアにとってのこの階層での地獄は終了した。

 

「ふう、なかなか骨が折れるな」

「あ、あの...ポーションください...筋疲労で、多分腕の腱切れてて...」

「ああ、はい」

 

とポーションが手渡される。それを両手にビッチャビチャにかけると先ほどまでの疲労感も、筋断裂による痛みもなくなった。

このやり取りは、計3回目である。最初のころこそ、腱が切れた痛みに悶えていたノクシアだったが、何度も繰り返すうちに慣れてしまったらしい。

 

「よし、次いこう。日が変わる前に中層くらいには到達したいな」

 

少し腰を掛けて、すぐに団長が立ち上がる。その言葉を聞いて、ノクシアも弓を杖のようにしてよろよろと立ち上がる。

二人は再び地獄の迷宮行を再開したのだった。

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