ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
現在の階層 十階層、荒野
「...」
「悪いな、ノクシア...こんなにいるとは思わなかったんだ...」
そこには霧の荒野にふてくされてしゃがんでいるノクシア・フッドと、視界の通る一体に転がるドロップアイテム、魔石を回収している団長ラステノール・フリンがいた。
数時間前に十階層に到達した二人は、無限ともいうべきモンスターに囲まれた。この階層だとしても異常なモンスターパーティーである。
そして、今ここにいるのはその地獄を乗り越えた二人である。
「今まで、こんなことはなかった...それに、ほかの冒険者も見当たらない...なにかが妙だね」
「ダンジョンに異常が起こっている...ということですか?」
「お、立ち直った」
「ふてくされてても何もなりませんから」
「いい心がけだ」
一通り魔石などを回収した団長は立ち上がり次層への道をにらんでいる。何かをかんじとっているのだろうか。
「よし、さっさと十一階層に突入しよう。時間は食われたけど、まだ許容範囲だ」
「...はい」
ノクシアの目には、光がなかった。
十一階層に降りた二人を出迎えたのは、これまた、十階層とは別の地獄であった。そこに広がっていたのは阿鼻叫喚。数多の冒険者が血祭りにあげられている光景であった。
「たす、たすけてくれ!」
「ひぃぃぃぃ」
「うぁぁ」
10人はいるだろう冒険者の集団が、悲鳴を上げながらある存在に引きちぎられ、かみ砕かれ、その命を肉塊へと変容させられている。
「インファントドラゴン...!」
その光景の主を見たラステノール・フリンはそうつぶやく。
その存在はインファントドラゴン、幼竜ともいわれるがその戦闘力は上層を探索している冒険者では文字通り歯が立たない。事実上の、上層の階層主。
しかし、希少種であることから被害自体は少ない...という存在であったはずなのに今、その竜は幸か不幸か二人の前に立ちふさがった。
「ノクシアちゃん、やれるね?」
「は?」
団長が、今までとは少し違う槍、どちらかといえばチープな槍を大鞄の中から取り出しながらそう言った。いや待てよ、さすがに馬鹿じゃねぇの?私もやらないといけないの?万一ヘイトがこっちに向いたら全然死にますけど。
ノクシアの中に、地獄の連続の影響で消えていたはずの恐怖心が、復活した。
でも...これを倒せれば強くなるチャンスだし、今蹂躙されてるあの人たちを助けないと...でもやっぱこわいよぉ~~~~~!
そうやって弓をぎゅっと握ってためらっていると、隣の団長が槍を構えた。でも、いつもの構えと違う。肩の上、槍投げの構えだ。
「我が槍は猟神の息吹」
そして、始まったのは詠唱。ラステノール・フリンの魔法だ。
しかし、その始まりと同時にインファントドラゴンもまた魔力に向かって走り出した。距離にして130m。インファントドラゴンの速度であれば5秒もかからずにたどり着く距離である。
異常な速度で突撃してくるその竜を目の前にして、思いのほかノクシアは冷静であった。
慣れた手つきで矢を番え、手を放す。放たれた矢は風をまとい、風を裂いて十一階層を突き進み、突撃してくるインファントドラゴンの眼球を、貫いた。
その痛みに大きくのけぞったインファントドラゴンと二人の距離はおよそ5m、そして、彼らの目の前には魔石のある心臓がむき出しのインファントドラゴンがいる。
「打ち抜け!ケルニアス・ボルグ!」
団長が、槍を放つ。それは先ほどの矢よりもはやい速度で魔石に飛んでいき、爆ぜた。
霧に覆われたの薄暗い十一階層の中に、爆風と、閃光が駆け抜ける。その余波は近づこうとしていたオークやインプを消し炭にして余りあるものであった。
すべてが終わったその場に残ったのは、耳をキーンとさせて茫然自失なノクシアと、生き残った冒険者たち、そして砕けた槍と魔石だけである。
「ふう、ナイス支援だったね」
「な、何させるんですか!何するんですか!死ぬかと思いましたよ!」
「死にかけるのなんて今更だろ?さ、次に行こう」
ノクシアの抗議の声なんてどこ吹く風、信じていたよと言うかのように魔石だけを回収して次の階層へと団長は歩を進めていた。
「ああ、君たち。なるべく早く帰ったほうがいいよ。これは警告だ」
団長は転がっているその冒険者を見下しながらそういい放つ。それを聞いた冒険者はヒュッという声を上げながら生き残った仲間を引き連れて十階層のほうへとかけていった。
「団長、そんな言い方しなくても...」
「彼ら、闇派閥のグレーゾーンだよ。大方、モンスターの捕獲でもしにきたんだろうね」
「えっ!?あー、それはなるほど...」
彼らは一切のモンスターのいない十二階層を突き進んだ。インファントドラゴンの影響か、ともすれば何らかの存在のせいなのかは、彼らは知らない。
現在の階層 第十六階層 連絡路
「中層もかなりきついですね」
「ああ。ただ、今回はモンスターが少ないな」
「え。これで?」
「これで」
彼らの後ろには上層での地獄の連続と比べれば大したことのないにせよ、其れなりの数の死体の灰が転がっていた。しかしそれは、中層にしては少ないほうの量である。
十六階層を出る階段を二人で降りながら、もうそろそろでアンダーリゾートにつきますねぇ、などの会話を交わす。
しかし、最後の階段を降りた団長がいきなり槍を構えた。
「どうしまし...まさか、ゴライアス!?」
「いや、違う、そうじゃない。
ゴライアス、第十七階層に出現するダンジョンで初めて人が遭遇するモンスターレックス、階層主でもいるかと思ったノクシアの考えは否定された。
冷や汗を流してゆっくりと先に進むラステノールと、よくわかっていないがとりあえずビビっているノクシアの二人が見たのは、あまりにも静かな第十七階層。嘆きの大壁にはヒビも入っておらず、ただただ静かだった。
ただ一つの異常を除けば、平和と言って差し支えない状況である。
十七階層の中心、嘆きの大壁と向かい合う形で座禅風に座っている存在がそこにいた。籠手のついた腕と白亜の四本の義腕、白亜の兜、金の装飾がなされた鎧をまとった、赤茶の肌が鎧の隙間から見え隠れする存在、あれこそが噂に聞いた、インドラファミリア団長、フェリドゥーン・スラエタオナ...!
その存在を私たちが視界にとらえた瞬間、フェリドゥーンがこちらをゆっくりと向いた。
その瞬間、場の空気が変わる。殺気ではない、ただ意識が向いただけなのだ。それなのに、今にも意識が飛びそうになる。先ほどまで喰らっていたミノタウロスのハウルよりもはるかに強力なリストレイトが私に襲い掛かっている。
「...何用だ」
「や、やぁダンジョンシャクラ...。君こそ、こんな階層に何の用だ?」
「ゴライアスだ」
ダンジョンシャクラ、フェリドゥーン・スラエタオナはすっと立ち上がり、嘆きの大壁に触れる。すると、どこか遠いところからオォォォという声が聞こえてきたような気がする。
てかフェリドゥーンでっか。2mと30cはあるんじゃないか?
「あー、ゴライアスの討伐、か。肩慣らしってとこか?なら、俺たちに譲ってくれないか?ミッションがあるんだよ」
団長の言っていることは嘘である。そんなミッションは受けていない。私の強化のために、階層主撃破というブレイクスルーを引き起こさせようとしているのだ。
フェリドゥーンは、そういう団長をジッと見つめている。団長は、その威圧のある目に対して決して負けないよう、太ももをナイフで突き刺している。
「いいだろう」
すると、存外素直にフェリドゥーンは譲ってくれた。そういった彼は、私たちから目を離し、ピュウと軽く口笛を鳴らした。奥の暗闇、十八階層の先からパカラッパカラッと馬の走る音が聞こえてくる。姿を現したそれは、機械仕掛けの白亜の、七つ首の馬であった。そして、こいつもデカい。高さの話をするなら3mはあるんじゃないかという巨体だ。
フェリドゥーンはその巨体に軽々またがるとインファントドラゴン以上の速度で、十八階層への闇へと消えていった。
「いやあ、ヤバかった。まさか、いるとはね」
「こ、怖かった...あんなのを守る必要ってあるんですか...?」
「うーん、俺も怪しくなってきたな。ま、何かからくりがあるんだろう」
「上層のモンスターが異常に生まれていたのも、中層のモンスターが少なかったのも全部納得がいったね。上層の異様さは、フェリドゥーンという過去にも入った最悪のウィルスの侵入に危機感を覚えたダンジョンが、ほかのウィルスの侵入を許さないよう上層の守りを厚くしたんだろうね。中層は、全部フェリドゥーンが殲滅したんだろう」
「そ、そのレベルなんですか...?」
一人で闇派閥の大破壊クラスの危機感をダンジョンに抱かせるほどの脅威度なの普通にヤバすぎでしょ。
緊張感の抜けが一気にきて、ぺたんと床に座り込んでしまう。
「す、すいません。気が抜けたら...」
「ま、あんなのを前にしたらそうなるのもわかるよ。よし、リヴィラで数時間休んで、中層後半で少し慣らしてからゴライアスの討伐をしよ...」
そういいながら手を差し伸べる団長の手を掴んだ瞬間に、嘆きの大壁に巨大なヒビが走る。二人してえっ...という反応をした、次の瞬間、茶色の巨人が壁を突き破って飛び出してきた。
「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
第十七階層、唯一の出現モンスター、正当に攻略をするならば最初にぶち当たる迷宮の孤王、ゴライアスが目の前に現れた。
「フェリドゥーン!お前!めちゃくちゃすぐでてくるじゃねぇかぁ!!!!」