ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
私たちの眼前に現れたのは、階層主ゴライアスである。ゴライアスといえば、レベル4相当の階層主。いくら中層といえど団長のワンマンで討伐できる対象とは思えない。
見覚えのある肌の黒さではないのが唯一の救いってところかな?
「想定より早いけどまあ、いいや」
そういうと、団長は背中に入れていた本命の剣槍を取り出した。
「さあ、ここが正念場だよ、ノクシアちゃん。これが最終試験だ」
その言葉に、驚いたりうろたえたりするのはもうやめた。今回の地獄の突撃行は戦わなければいけない場所で、ちゃんと戦えるようにするための訓練も兼ねていたのだろう。
弓に矢を番え、全霊の力で弦を引く。放った大矢は風切り音を響かせながらゴライアスの目をとらえた。
が、その程度の攻撃ではインファントドラゴンの様にはいかず、命中したにもかかわらず少し怯ませるだけにとどまった。
それが開戦の嚆矢となり、改めてこちらに気付いたゴライアスが咆哮を上げる。それを受けた私の体が、ほんの少し、ほんの数秒ではあるが、停止してしまう。さすがにミノタウロスよりは強くて普通にビビり散らしてしまう。
「ひぃっ」
「いい一撃だ!もうちょっとだけでいいからゴライアスをひきつけておいてくれ!」
私のそばにいた団長が私をほめて、無茶ぶりを出しやがった。何を言ってるんだ、とは思ったが団長はすぐに跳んでゴライアスの背後に回って全部私にヘイトが向いていることから否が応でもひきつけなくてはいけなくなった。
「覚えておいてくださいよぉぉ!?」
たたきつけられる拳や、魔力の衝撃波のせいで隆起しては砕けていく地面を息も絶え絶えで駆け抜ける。
「此れは精霊たちの
「団長って魔法二つも発現してるの!?」
すごい!まだレベル3、そんでエルフでもないのに二つ魔法持ってるの結構レアじゃない?
「こっちはちょっと邪道だからあんまり使いたくはないんだけどな」
ふわっと私のそばに着地した団長がはははと弱く笑う。
「俺の前のファミリアで発現したものだからケルヌンノス様を裏切ってるような気分になるんだよな」
「そうなんですねっ、あのっ、今言われてもっ、反応できる余裕ないですっ」
なにせ、今もまだたたきつけられる拳をぴょんぴょん飛び跳ねながら頑張って避けている状況だからだ。団長はスイスイと避けているけど私にそんな芸当はできない。
「悪いね、それじゃあ、ここからは俺がゴライアスの相手をしよう」
そう言った団長は、ぐっと足に力を込めてゴライアスめがけてとんでもない速度で跳躍した。団長の足を見ると、両足に小さな光輪が巻き付いている。その速度は、先ほどの馬よりもはやく、アニメ版ダンまちのベル君が撃退していたイグアスと目測同じくらいである。
自らの肩に立った団長にさすがの巨人も気がついた。肩の上の邪魔な虫を吹き飛ばそうと魔力を込めて口の中に風が集まっていく。その時間、私から見ればおそらく1秒ほど。常人なら回避すらも間に合わない速度だが、団長、ラステノール・フリンは違う。肩を蹴り、あごの真下へと、肉薄。身をかがめた団長は魔力塊が放たれるよりも前に真上の顎を、蹴り上げた。
その一撃によって顎の形は粉々に砕け、また、蹴り上げられたことで魔力の塊が口の中で爆発した。
そのダメージを受けたゴライアスは大きくのけぞり、すでに雄たけびも上げられなくなった喉をかひゅ、とならして呻いている。
ゴライアスの真上、上空にとんだラステノールフリンは剣槍をぐっ、と構えくるん、くるんと回転しながら落下を始めた。次第に回転は速度を上げ、通常の重力によるよりもはやい速度でゴライアスへと引き付けられていく。その姿は端から見れば流星のようで、垂直に、ゴライアスの口をおさえる手に向かって落ちていく。それが着弾したとき、ゴライアスの腕は爆ぜた。
最も、爆発をしたという意味ではなく手首に落ちた流星が、ぶ厚い皮を引き裂き、肉をはじけ飛ばし、血をあたり一帯に巻きらしながら貫き、手をゴライアスの腕から離した光景が、一瞬のうち、ノクシアの目には何が起こったかわからない速度で起こったがために爆発したように見えたという訳である。
右手を失い、今度は激昂したゴライアスは減速して空中にいる団長めがけて、左手による張り手を放った。
しかし、それは失敗に終わる。大きく振りかぶられたその腕は、爆弾の括りつけられた矢によって軌道を逸らされた。
下を見れば、ラステノールフリンの大鞄と雑に切られた包帯が散らかり、そして弓を構えているノクシアフッドがそこにいた。彼女は初激で、自らの通常の弓によってゴライアスに与えられるダメージが貧弱である、ということを悟った。だから、ラステノールフリンの鞄を漁り、火炎石を発見。それを包帯で矢に括りつけていたということだった。
彼女が考え抜いた末で出した今の装備でできる最大限の答えにラストは軽く親指を立てた。一度地面に体を下したラストは数歩バックステップを行ってノクシアの隣に立つ。
「ナイス支援だった。ノクシア」
「ッ!ありがとうございます!」
褒められた彼女の眼はキラキラとしている。
「さて、もう一押しかな」
団長が改めてゴライアスを見つめると、その存在は何もかもを邪魔し、腕を切り下ろした存在に対して人一倍の憎悪をもって一瞥していた。すでに魔力弾も打てない、右腕も切られたゴライアスはこちらに走ってきて、焼けただれた左腕でこちらを叩き潰しに来た。
私は大慌てで回避しようとしているが、団長は動じない。胸の前で槍を持ち、穂先をゴライアスの左手にスッと差し込む。拳が勢いのままたたきつけられて地面を大きく揺らした時、拳がバラりと解ける。
拳の中から、血しぶき一つ身にまとわない団長が現れた。団長は二本の槍をそれぞれ両腕に携えてたたきつけられた腕を瞬時に駆け上がり始める。徐々に加速し、肩のあたりで跳躍。魔石のある位置、腰の部分を大きく二回、引き裂いた。
着地した団長は吠える。
「打ち抜け!ケルニアス・ボルグ!」
左手に握られた、粗雑なつくりの槍を思いきり投げ飛ばす。肉が裂け、キラキラと輝く魔石がうっすらと見えるゴライアスの急所に槍が吸い込まれていった。コンマ数秒後、十一階層を飲み込んだ爆発の奔流が再びこの階層でも引き起こされた。
幾度も起こるソニックウェーブに耐え、その余波が終わってゴライアスを見るとそこには先ほどの巨人の姿はなく、爆ぜた槍の刺さった大きな魔石が転がっていた。
「やりましたね!!団長!」
「ああ、そうだな。にしても、さっきはいい支援だったぜ」
「必要だったか、不安になってきましたけどね...」
ノクシアは先ほどの左手切断を思い出しながらそうぼやく。魔石の回収をしているラストにそのぼやきが届いたかは、不明である。
次の瞬間、二人に名状しがたいおぞけが襲い掛かった。
ぞわりと二人の背中をなぞるそれは、次第に大きくなり、二人に、近づいていると思わせた。その、得体のしれない感覚を受けて二人とも徐々に呼吸が速くなっている。
場に満ちる緊張感、迷宮を抜ける風が何かの慟哭のような、鳴き声を上げたようにも聞こえる。
「は、はやく18階層に行こうか、ノクシアちゃん」
「そう、ですね...」
足がすくんで動けないノクシアを団長が手を引く。団長の手も微かではあるが震えている。小走りで二人が走り出した瞬間に、すでに割れている嘆きの大壁が、再び悲鳴を上げた。
バキ、バキという音を立てながら先ほどよりもより大きなヒビが入っていく。
その瞬間ノクシアは、足を止めてしまう。頭の中に浮かんだのは、あの存在。
ダンまちの二部、アニメでは一部の最終回付近の、あの存在。ヘスティアの神威に中てられたダンジョンが生み出した、防衛装置。
黒い、ゴライアス。
でも、その存在は神威がなければ生まれない。それか、神威と同じほどの威圧感、で、も...。
ノクシアの脳裏に、一人の人間が浮かぶ。赤の肌の、ダンジョンの天敵。フェリドゥーン・スラエタオナ...。次の瞬間、答え合わせが行われる。
嘆きの大壁に一瞬現れた骸骨、そして壁が引き裂かれて、黒い肌のその巨人が姿を現した。
黒い...ゴライアス...!
討伐の推奨レベルは推定5、その化け物だ。
動かない私を引っ張ろうとしていた団長も、その奇怪な存在を目の当たりにして停止している。
「あれ、は...」
「逃げましょう団長!アレはヤバいです!」
「あ、ああ。そうだな」
今度は私が団長の手を引いて18階層への道を駆ける。駆けている途中で団長に速度を抜かされる。そうしていると、18階層の方からこちらに向かって誰かが歩いてきているのが見えた。
「フェリドゥーン!?」
私がそう大声出したのを意に介さず、槍、弓、ナイフ、剣、斧をそれぞれの腕に装備したダンジョンの王が私たちと入れ替わるように17階層の真ん中に立つ。黒いゴライアスはとてつもなく巨大な咆哮を響かせている。
先ほどのゴライアスの咆哮くらいならば耐えられる私は、これには意識が飛びそうになる。
しかし、フェリドゥーンはそんなことに一切動じず、その腕の剣を黒いゴライアスに投擲する。首に命中したその剣は空間に大規模な雷を走らせ、黒いゴライアスの分厚い皮膚を焼き切り、その首を落とした。
「...は」
次の瞬間、ゴライアスの身を巨大な雷が包み込む。絶縁体質のゴライアスの皮膚であるにもかかわらず、その雷はゴライアスの肌を焼け焦がし、終わったときには魔石が露出していた。
わずかな速度ではあるが肉塊がうごめいて再生しようとしている中をゆっくりと近づき、フェリドゥーンは槍を魔石に突き刺した。
周りでうごめいていた、肉塊が灰になって消える。
「やっぱ、フェリドゥーンって頭おかしくない...?」