ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第十八話 迷宮の楽園(アンダーリゾート)

巨大な魔石が一つと、黒いゴライアスのドロップアイテムだけが転がっている十七階層、私たちは一瞬のうちに引き起こされた暴虐の張本人と今向かい合っている。

 

「ダンジョンシャクラ、今のは...」

「さあな。だが、異質といえる」

「異質...」

 

団長はいつもの癖でその場で考え始めるが、少し袖を引いてやると今の目的を思い出したらしくハッとした。

 

「とにもかくにも、助かった。また機会があったらよろしくな」

 

フェリドゥーンは何も言わない。私たちが一礼をして18階層向かった時、目の前にドサリと何かが落ちてくる。先ほどの黒いゴライアスのドロップアイテムである。

 

「これは...」

「俺には不要なものだ」

「わ、悪いな」

 

団長は申し訳ないような、もらっていいものなのか悩みながらではあるが、結局目の前の上質な素材の魅力に負け、それを肩に担いだ。改めて18階層に行くスロープに足をかけ、するすると下って行った。

なんか、フェリドゥーン、ずっと私を見てた気がするな...?

 

 

現在の階層、第十八階層 

 

「水浴びだ~~!」

 

ヒャッホ~と水浴び場に人目をはばからずダイブを決める。あの後十八階層に降りた私たちは真っ先にリヴィラの町に向かい、なにも構わずに宿を取った。そして、二人とも休むことなく水浴びに解散したのだった。

ボールスさんに聞いたところ、私たちの迷宮行は二日ほどだったそうだ。

二日間迷宮にこもりきりだったことで体にたまった汚れを洗い流し、団長が持ってきていた石鹸で体をもっこもこの泡まみれにする。

そしてほんのり冷たい水の中に全身を浸して石鹸を洗い流す。これをすること約4回、ようやく体に染みついた返り血のにおいや、埃などを拭うことができた。

この水浴び場は、本編ダンまちで美少女たちが水浴びをしていた場所にほど近い場所である。なぜ本編の場所を選ばないかというと、いつか彼女たちが入る場所を汚すわけにはいかないからだ。本編での彼女たちの姿を想像してオヒョヒョヒョという笑い声をひとがみてないのをいいことにあげてしまった。

着ていたものは今洗濯に回しているので、リヴィラで割高で購入した着替えのバトルクロスに身を包み、町の入り口に戻る。と、少し道を外れたところからガヤガヤという声が聞こえてくる。あんまり出歩くと怖い気もするけど、見に行きたくなっちゃった。

そちらの道に行くと、遠目ではあるが先ほど見た巨体。フェリドゥーンスラエタオナが全身にナイフや石などを投げつけられながら向こうへと歩いていくのが見える。

 

....?

状況が、全く読み込めないよ。

 

「よぉ嬢ちゃん。嬢ちゃんもやんねぇか?」

「なに、なにをですか?」

「何ってお前...名物フェリドゥーン当てだよ」

「フェリドゥーン当て????」

「ああ、嬢ちゃんは初めてなのか。よし、ルールを説明してやるぜ」

 

と、小石を手に一個だけ持った小汚いおっさんにルールの指南を受ける。

フェリドゥーン当てとは

フェリドゥーンスラエタオナは一度だけなら人間から攻撃を受けてもスキルの関係で反撃ができないらしく、それを活かして少し前の冒険者が憂さ晴らしに石を投げたのが始まりらしい。

ルールは簡単で、物をフェリドゥーンに投げて点数が一番高かった奴が勝ちとのこと。点数は当たった部位、投げたもの、投げた距離をまとめたそういう表があるらしい。

 

野蛮...!圧倒的野蛮なゲーム...ッ!

さすがに大丈夫です~と伝えてその場を離れた。なんというか、あの人も大変だな...。非倫理的過ぎて、やめろと言いたいところだが、あの数のLv2荒くれ冒険者に喧嘩を売ってまで道理を通そうとする正義感は私にはなかった。てかフェリドゥーンなら効かなそうだしな。

ホテルの一室に戻ると、団長がベッドに腰かけていた。

 

「戻りましたぁ」

「おお、早かったな」

 

タオルで頭をわしゃわしゃしながら団長と違うベッドに腰かける。

 

 

「ん...んう?」

 

目を開けると、天井と、淡い魔石灯の光が視界に入る。あれ?私いつの間に寝っ転がってたんだろう。と思ってむくりと体を起こすと、外が真っ暗になっていた。

...あれ?

ヤバい、寝てた!と思って部屋を見渡すとそこには誰もいなかった。

団長に、置いてかれた?...かもなぁ。

でも、思い返すと私はざっと丸二日寝ないで冒険していたのだ。そりゃ気が抜けたら寝落ちもする。しょうがないじゃないかと再びベッドに身を投げてふてくされる。ぶーぶー言いながらもどうやって帰るかの不安に駆られていると、部屋の扉が開かれた。

 

「おっ、目を覚ましたか。腹減ってないか?飯を買ってきたんだ」

 

部屋に入ってきたのは両手いっぱいに大量の食糧の入った紙袋を持った団長だ。すっかりおいていかれていてと思っていた私は安堵するとともに、団長の性格を疑った私自身を恥じた。団長が紙袋から取り出したパンと、迷宮の楽園特産の果物を受け取って食べ始める。食べたものが胃に到達した瞬間胃袋が空腹を認識し、部屋中に巨大なお腹の音を響かせた。

私が真っ赤になり、腹が減ってたんだなぁと団長が笑う。

 

「そういえば団長、さっきリヴィラの町の中でフェリドゥーンを見ましたよ」

「そうなのか。どこかに向かう最中だったのかもな。にしても、街中で見るってことはフェリドゥーン当てにでも巻き込まれたのか?」

「団長も知ってるんですね」

「そりゃあ一大イベントだからな、嫌でも耳にする。もっとも、あんまりいい気分はしないけどな」

 

ご飯を食べている途中にふっと出た、なにげない話題。団長はリヴィラの冒険者の野蛮さにはぁとため息をつきながら紅茶をすすり、すすっている途中で何かに気付いたような顔でテーブルにティーカップを置いた。

 

「そうか...!そのためのエルヴィか...!」

「え?なに、ふぉうしましたか?」

「フェリドゥーンのスキルは、正確には、非モンスターの害のない存在から攻撃を受ける、受けたときに攻撃ができない、というものだ。この範囲は明確に区切られているわけじゃないが、エルヴィならどうあっても一発は攻撃ができるんだ。この特性を活かして、なにか即死のカースウェポンを持たせてエルヴィを特攻させる計画だったんだろう」

「そんな…でも、他にレベル1の冒険者なんていっぱい…あっ」

「そう、シユウファミリアの構成員はサポーターを含めて全てレベル2以上。エルヴィを除いてな」

「だからって、そんな即死のカースウェポンなんて作れるんですか?」

「そういえば、地下水道の本の内容について、結局話すのを忘れていたな」

 

私が懐疑の声を漏らすと、団長があの時、エルヴィと出会うきっかけになった地下水道で後で教えると言っていた本の内容を語った。

あの本に書かれていたのは、死を強制する呪術というものだったそうだ。といっても、魔法に由来するものではなく、一定の手順を踏むことができれば誰にでも再現することができる極東のものらしい。

団長の考察に依れば、その呪術をアルディア・レス、シユウファミリア団長の作ったカースウェポンに混ぜ込んだものをエルヴィに持たせて、それでフェリドゥーンを一突きするつもりなんじゃないか、ということだった。

 

「まあつまり、今回のシユウファミリアのキーパーソンは、エルヴィってことだ」

「...ってことは」

「ああ」

 

私の嫌な予感は、団長によって肯定される。

 

「万が一に備えて、今すぐ帰らないと言えない」

「そんなぁ!」

 

残酷な宣告に、思わず涙があふれてしまう。もう全力でぬくぬくするつもりだったのに、今すぐあの地獄に舞い戻らなくてはならないというのはさすがに酷じゃないですか?一度休みだと思った心を再び戻すのは無理ですよ。と、うだうだうねうねしていたが団長がもう準備を始めているのを見て、弓を杖にしながら折れた心で立ち上がった。

チェックアウトを済ませ、団長の買ってきてくれたご飯をもぐもぐとむさぼりながら団長と並走する。

 

うう、もう少し休みたかった...。

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