ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
「そこにいるの…だれかな?」
男神の瞳が壁越しに私を貫く。気配を感じ取られた?一般人同然のはずの神様に?
向けられている強烈な殺気による焦りから変な汗が滲み出している。急いで出てきた部屋に隠れて息を潜める。早くなる鼓動の音がうるさい。何をしたわけではないがバレてはいけないような気がする。トントンと階段を上がってくる1人の足音が聞こえてくる。その足音は、この部屋に入ってきて、隠れている私の目の前まで来ていた。
「あ…。」
そこにいたのは黒い髪に青い瞳をした美しいシアンスロープの青年であった。それだけならばまだ良かったのだが、彼の右手には彼の身の丈に等しい槍があったのだ。青年はその槍を私の顔の真横に突き刺した。恐怖と焦りから呼吸ができない。
「団員が出払ってるタイミングを狙って泥棒とはやるな。」
「ち、ちが…」
「まあいい。何をしていたかはギルドに突き出せばわかる話だ。」
そして青年が私の手を縛ろうとした時、玄関の方から少女の声が聞こえてくる。
「待って、待ってくださいラステノールさん!」
息を切らしながら先程の少女が部屋に入ってくる。
「…リィヤ?」
「その人は泥棒じゃないです。私が招いたんです。」
「そうなの?」
「はい。街の外で思いっきりズッコケて泥だらけになっていたので呼んだんです。」
先程の少女、リィヤの証言を聞いてラステノールと言われた槍を持っている青年はキョトンとしている。そしてこちらの顔とリィヤの顔を見合わせてから手を額に当てた。
「クッフフ…アッハッハ!」
笑い始めた。
「マジかよ、俺もうてっきり泥棒だとばっかり。客人だったのね。ごめんごめん。」
先程までの冷酷な表情はすでに消え、目に涙を浮かべるほどにゲラゲラ笑っている。ヒーヒー言いながら落ち着いたところで改めてこちらに向く。
「いやあ本当にすまなかった。俺はこのケルヌンノスファミリアの団長、ラステノール・フリンだ。」
頭を下げながら自己紹介している。
「あ、いえ…怪しかったのは私、なので。」
「ちょっと待っててな、今主神様呼んでくるから。」
そうして、彼が部屋を出ようとした時ちょうど部屋に牡鹿の角を持った白髪の美形な男性が入ってきた。
「フリンくん先走りすぎだよぉ。危なくないっていう前に上がってっちゃうんだもん。」
やれやれと言ったふうに肩をすくめている。
「え?!気づいてたんですか?」
「そりゃ気づくよぉ。だってその子、
「あ、言われれば冒険者の気配を感じない…。」
団長がアッという顔をしているのを横目にその男神、ケルヌンノスは私の前に来た。
「ごめんねぇ僕の眷属が。ところで君、良ければうちのファミリアに入らない?」
「へ…?」
「いやなに、君まだファミリア見つかってないんでしょ?そんでここに来てるってことは冒険者になりにきたんだろうしさ。」
「あ…。」
そう、ここはオラリオ。冒険者の集う都市。外から来る人間なんてのは商人でない限りは冒険者になりたい人間だけといっても過言ではない。そう思うのは当然だ。実際、冒険者になって私も戦いたい。ダンまちのキャラになってみたい。だけど、私はつい数時間前までただの日本の女子高生だったのだ。そんな人間がモンスターと命の取り合いが出来るとは到底思えない。だからといって何か職を手に入れられるわけではないが。
「いきなりだったね。ごめん。まあ、何かやりたいことや入りたいファミリアが見つかるまでこのホームは好きに使ってくれていいよ。幸いにも部屋は余ってるし。」
少し残念そうな顔をしてケルヌンノスは部屋から出て行こうとしている。私の頭の中で葛藤が起こっている。冒険者になりたい、でも死にたくはないし戦える気もしない。かといって冒険者以外に何がある?娼婦とか?それは嫌だ。もし冒険者になるとしてここ以外で受け入れてもらえる可能性はあるのか?戦った経験のないハーフエルフなんてどこにも受け入れられないだろう。そんな纏まらない考えのもと口を衝いて出た言葉は。
「あの!」
そう呼び止めた。
男神が振り返りこちらを見る。
「私を眷属にしてください!」
言ってしまった。大声で、宣言してしまった。もはや言い逃れできない。男神は一瞬驚いたがすぐ笑みを湛え、私に近づき、手を取った。
「よく言ってくれた!いいだろう、君は今日から僕の眷属だ!」
そう、大声で言われてしまった。
あの恥ずかしい宣言のあと私は自室を与えられた。場所は2階の手前の方。部屋の中には最低限のベッドとクローゼットが置かれているだけの簡素な部屋だ。
今はベッドに腰掛けて思案している。現状私に起こっていることに謎が多すぎる。まずこの姿。なんの脈絡もなく変化しているなど不可解にも程がある。導入が下手くそな転生小説のような雑な変化だ。次に私が話している言語。私の耳には日本語に聞こえるがこの世界の人は日本語など話せるはずもない。この世界では
「はーい。」
扉を開けるとリィヤが立っていた。
「もうすぐでお昼なんですけど、食べられますか?」
「あ、食べるー!お腹すいちゃってさ。」
「ならついてきてくださいね。」
そして一階の食堂に案内された。
食堂はかなり広く、某ハリーなポッターの魔法学校の食堂を一列分持ってきたような印象だ。すでに団員と思われる人がすでに何人か座っている。とりあえず、近い席に座ってみる。
少しの間待っていると、ケルヌンノスが入ってきた。
「やあ諸君、我が眷属たちよ。今日は我々の新たな仲間を紹介しようと思う。そう、そこの彼女だ!」
と指を指された。
「まあ、自己紹介はまた後日とするがね。みんな顔を覚えてあげてくれたまえ!」
拍手が起こった。なんとももどかしく、くすぐったい。そして拍手が終わったとき、ちょうど厨房の奥から食器を持った男性が出てきた。黒い髪に獣の耳、そして長身。それはまさしく、団長であった。