ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第二十三話 最下層(フォール)

 やばーい、すごい殺意がこっちに向いてまーす。こちらに肉薄しようと地面を蹴ったアルディアの行く道を団長の槍が遮った。

 

「お前の相手は俺、だろ?」

「邪魔をするな、鏃ごときが」

 

ナイフによる斬撃を放つが、焦っているのか先程よりも団長も捌くのが楽そうだ…と思ったらアルディアの袖口から天井に向けていきなり長大な槍が突き上がった。長さは3Mほどだろうか。団長はすんでのところで身をよじりそれを回避した。

 

「この()の銘はトウコツ、飽くなき戦に身を委ねるものの槍」

 

そう言い終えると同時に槍が唐突に中ほどで90度曲がって団長のほうへと突撃してくる。がそれを真正面から穂先同士をぶつけて相殺する。

 

「変な動きしやがってカースウェポンってよりかはマジックアイテムだな…!」

「魔法などと同じにされては困る、な」

 

その槍の下を潜るようにアルディアが肉薄し、カチ上げるような蹴りを放つ。団長はそれを真っ向から受け止めながら槍を回転させて石突きで反撃をするがアルディアは回避してしまう。こうした細かい攻防において先ほどからダメージを受けているのは団長だけだ。カースウェポンによる攻撃こそ食らっていないものの確実に実力に差が出ている。だが、一体なぜなのだろう…。

 

「ぐっ」

 

と声が漏れたのに反応して団長を見ると蹴られた顎からボタボタと血が流れ出ている。

 

「私は靴の踵にも武器を仕込んでいる。打撃と見て侮ったな。この刃の傷は一生のものになる」

 

そうして更に軽やかになったアルディアは3本の武器と様々な体術、仕込み武器を駆使しながら団長を追い詰め始めた。一応私の矢やフラカちゃんの鎌による支援などもあるはずなのにそれらは一切意に介されず、また再び蚩尤を狙おうとしても放つ前にナイフが投擲されることで阻止されてしまっている。

 だが、アルディアの行動は不可解だ。矢を放とうとした瞬間だけを狙ってナイフ…キュウキって言ってたっけ、を投擲できるなら私本体を狙えば数発は当たってすぐ身体が動かなくなるはずなのに、しかも近接戦してるフラカちゃんもいくら団長との2人がかりといえどレベルの差がある、キュウキと言わずとももう1本の推定カースウェポンのナイフで切りつければすぐさま団長との一対一になって楽になるはずなのに。

 ズキ、と頬の痛みが増すのが分かる。と思った時に今度はフラカちゃんではなくエルヴィが懐に来ていた。

 

「ノクシアちゃん、これ」

 

と言って手渡してきたのはポーションと少量の液体が入った試験管。おそらくフラカちゃんが解析してくれた解呪薬だろう。それらを一気に飲み干す。と、徐々に痛みが引いていった。

 

「ありがとう、ねえエルヴィ。あなたのお姉さんってなにか目的があるのかな」

「え?」

「いや、なんか、殺せるはずなのに殺さない…っていうか、むしろ殺そうとしてないんじゃないかって思っちゃって」

 

と矢を放ちながら小声でエルヴィに尋ねる。

 

「わかんない…な。私も顔を合わせることすらあんまりしてこなかったから」

 

話していると改めてこちらに殺意が向いた気がする。前言撤回、全然殺されそうです。

 にしてもなんでこんな長期戦になってるかなぁ、と思う。現状は作戦の第二段階、第一段階…戦場呪詛を無力化したら降伏してくれる、が成功しなかった時のための力押しで制圧する状態だ。事前の計画では第一段階で時間を長引かせるなどあえて呪詛を食らうことで呪詛(カース)の持つデメリット、ステイタスダウンなどの反動を蓄積させて弱体化させて楽に勝つつもりだったのに。むしろ私たちが呪詛を受けるほどなんかあの人元気になってってない…?

 

「ふむ、どうやら疑問らしいな。この私が呪詛武器(カースウェポン)呪詛(カース)を使っても弱体化していないことが」

 

という私の考えを見透かすようにアルディアが団長たちから少し距離を取って話し始める。

 

「冥土の土産に教えてやる。私は呪詛の反動を反転させ、私への恩恵とすることができる」

「なん、だと…」

 

死神代行(ミス・ブリーチ)がBLEACHのセリフで反応してる。

 

「キュウキの反動は身体機能の低下…踵の刃はステイタスダウン…トウコツは五感の衰弱…それら全てが反転する、今の私は研ぎ澄まされた五感に活発な心体機能、そしてレベル5相当のステイタスになっているわけだ」

 

高らかに語る彼女はつま先で立ってくるくると踊っている。

 

「おい、話しすぎだぞ」

 

突如、上方からイラつきをまとった声が聞こえる。蚩尤だ。先ほど狙われたこと、アルディアが思ったよりも私たちに手間取っていることなどに腹を立てていて、そのうえ自ら情報を話し始めたことに我慢ができなくなったのだろう。気が付いたときにはルームの真ん中に移動していた彼女はコートの中から数個の球体を落とした…かと思った次の瞬間爆風が空間を支配し、浮遊感が体を襲う。

 

「フィールドを変えようか。楽しもう、諸君」

 

ラステノールの突撃により隆起してもろくなった部屋の真ん中、そこを中心に部屋の床が丸ごと抜けた。そうして冒険者たちはオラリオの下層へと落ちていった。

 

 なんとかちゃんと着地し煙が晴れる前に全員で散らばる。落ちた空間は先ほどの比にならないほど広大なルーム。遠くを見ても果てが見えず、上は落ちてきた穴以外天井が見えないほど高い。等間隔で太い柱の設置された巨大な地下貯水槽であろう。煙幕などで撹乱しながら冷えた空気の中を駆け、今は柱の裏に全員で固まって緊急会議と先ほどの傷の解呪を行っている。エルヴィは団長が抱えて運んでいた。

 

「完全に想定外だ。まさかカースのデメリットが存在しない冒険者がいるとはな」

「うん、流石に私でも読めなかった」

「ど、どーするんですかこれ。出口もわかんなくなっちゃったし」

 

柱の陰から大空間を覗くとこちらを探しているであろうアルディアの姿が遠くに見える。

 

「短期決戦で行くしかないな。幸いにもこの空間の広さなら俺の爆槍でも崩落する心配はいらないだろう」

「なら私たちで撹乱しよっか。どれだけ時間がかかっても確実に仕留められるタイミングを見計らってね」

 

すっくとフラカちゃんが立ち上がり、鎌を握り直す。そして、仕切り直しの第三フェーズが始まった。

 手始めに先ほどの計画で使った余りの閃光弾を矢にまとわせて放つ。貯水槽の中をいきなり異常な光量が照らしたのと同時に遠い柱のところにアルディアが見つかった。発光によって彼女からもこちらが認識されたらしくこちらに向かってきた。発光の続いているうちに3人の位置を確認しながら3手に分かれた。

 

「撹乱、か」

 

黒い外套の少女は地下空間を照らした光が消えた暗闇で一人立ち尽くしている。周囲に気を配っていると背後から矢の飛来する音が聞こえ回避する。そちらか…と向かうと今度はさらに背後、そして側面に迫る気配。首筋の鎌を槍で肉体ごと吹き飛ばし、背中の剣を蹴り飛ばす。しかし、どちらも浅い。回避前提、誘導のヒットアンドアウェイであることが見え透く。そもラステノールがいないことから狙いがバレバレだ。

 

「乗ってやる、せいぜい抗うといい」

 

私たちの組んだ奇襲と誘導が、気味が悪いほどうまく行っている。一瞬彼女を見失いはしたがゆっくりと歩く彼女を誘導するのは実に容易いことだった。なにか狙いがあるのか分からないが、こちらはこちらで即興の連携、誘導できてるだけでも喜ばしいことだ。

 フラカちゃん達近接組からの音の跳ね返りから場所を読みながら暗闇に矢を放ち続け、気づいた時にはポイントのど真ん中に彼女を収めていた。柱がなるべくない開けた場所、爆風から身を隠しづらい場所だ。団長が遠くに跳んだのを見て、全員で退避する。その時最後の閃光弾を放ち再び地下空間を強烈な光が包んだ。

 

「我が槍は猟神の息吹、仇なす者を討ち滅ぼす鏃である―撃ち抜け!ケルニアス・ボル…」

 

その詠唱と投擲が行われる寸前、団長の腹を凄まじい勢いで伸びてきた槍が貫き、その槍を足場に駆け上がったアルディアが、団長を切り裂いた。

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