ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第二十四話 神造呪詛武器(トウテツ)

 目の前で起きた惨劇、噴き出した血に私たちは息を呑んだ。木の槍を持った右手は魔力暴発(イグニス・ファトゥス)によって槍ごと吹き飛び、腹を貫いたところから服に鮮血がにじんでいる。そして最も見るべきは大きく切り裂かれたその腹だろう。腹を貫いた槍がシュルシュルと縮み地面に降りてきた2人を3人は見ることしかできなかった。もはや死に体、アルディアは見下しながらボロボロの戦士に背を向ける。

 だが、アルディアの右腕をもはやぐちゃぐちゃの指で彼はつかんだ。

 

「まだ…終わっちゃいねぇだろ…!」

 

といいながら腹に刺さった槍を握る。そしてそれを無理やり引き抜き再び詠唱を始める。

 

「我が槍は…猟神の…息吹…」

 

あの距離では団長も巻き込まれてしまう、いやそれすら想定済みの自爆攻撃だ。しかし、アルディアにはどうにも動揺している素振りがない。手を振り払おうともせず、ただその詠唱をまじまじと聞いている。

 

「仇なす者を、討ち滅ぼす鏃である―撃ち抜け…ケルニアス、ボルグ」

 

だが、その詠唱の終わりには爆発もなにも起こらず、手放された槍が床にぶつかり跳ねる音だけが虚しく響いた。結果は、不発だった。団長の手を振り払った彼女は私たちの前まで歩いてきて話し始めた。

 

「この剣は銘をコントンという。私は、この剣で斬ったものの魔法を奪うことができるのだ。以前の物はイマイチ勝手が分からなかったからな、使いやすいものと入れ替えられて助かった」

 

アルディアは右手に持った赤黒い刀身のナイフをまじまじと見ながら語った。もはや、彼女(ノクシア・フッド)の耳にはそんな言葉は入っていなかった。彼女は話終わりを待たず横を通り抜けて団長のそばに駆け寄ってしまった。もはや巨悪を倒すなどどうでも良くなっていた。今は、ただあの人を治すことだけを。

すぐそばに走り脈を確認し、ポーションをあるだけ開く。少しずつではあるが彼の腹の傷は塞がっていき、流れ出ていた血も止まってきた。

 

「私には目的がある、お前たちはもう用済みだ。逃げるなり好きにしろ」

 

カツカツ、足音を響かせながら遠ざかる彼女に背後から声がかけられる。

 

「お姉ちゃん!」

 

ピク、と肩が動きアルディアが立ち止まる。がすぐに歩き出す。

 

「目的って何!?私にくらい相談してよ!なんでいっつも一人で抱え込んで…私の知らないところに行っちゃうの!」

 

また立ち止まり、今度は振り向く。

 

「うるさいな…お前には関係ないことだ」

「関係ないって何!私は、確かにお姉ちゃんの比にならないくらい弱いけど!でも妹で、おんなじファミリアで!ずっと一緒にいようって言ってたじゃん!」

「うるさいっ!」

 

エルヴィの訴えをかき消すほどの大声量が地下空間いっぱいに響く。涙混じりのその一言を皮切りに、彼女は堰を切ったようにしゃべり始める。

 

「私があなたを頼る?あり得ないこと言わないで!あなたはそんなに弱っちいのに?今だって、手を借りた人たちに頼りきりで…!」

「それはお姉ちゃんが私をダンジョンに行かせてくれなかったからじゃん!」

「えーそうよ!私が全部手を回してたわよ!気づいてたのね!恥ずかし〜。だって危ない目にあってほしくなかったんだものしょうがないでしょ!」

 

落ちこぼれの少女が高潔の呪詛姫に進言しに行くという題目は瞬時に、ただの姉妹喧嘩へと落ちていた。と同タイミングでギャーギャーというわめき声にラステノールも目を覚ました。

 

「なに…?なにが起こってるんだ…?エルヴィと…アルディアが…口喧嘩?」

「団長!目を覚ましたんですね!」

「いでででで」

 

勢い余ってノクシアも団長に抱きつき、傷がふさがりきっていない彼はその痛みに悶えた。

 

「それでお姉ちゃんの目的って何?もういいじゃん、呪詛姫なんてお姉ちゃんのキャラじゃないし昔みたいに話してよ。てかキャラぶれてたよ」

「は〜、ほんっとこんなはずじゃなかったんだけど…。これも全部この出来損ないの妹をやる気にさせたあんたたちが悪いのよ」

 

とこちらにまでやっかみが飛んでくる。と同時に彼女はマスクを外し、フードを取った。エルヴィにそっくりなその顔は泣き腫らしたことが一目で分かる。黒く雑に切りそろえられた髪はオシャレの概念を捨て去っていることが見て取れる。横になった団長を全員で囲んで、彼女が話し始めた。

 

「私は、このシユウファミリアを終わらせるつもりだったのよ」

「…え?」

「私たちの今の計画は知ってるわね、フェリドゥーンを殺すの。そのために作った武器があってさ。今は私の鍛冶場においてある。銘はトウテツ。うちの主神(シユウ)神血(イコル)と額の神鉄をふんだんに混ぜ込んだ神造呪詛武器。それが持つ呪詛は…」

 

少し貯めた彼女は言い放った。

 

「即死」

 

場に緊張が走る。

 

「代償も即死。これをエルヴィに持たせてフェリドゥーンに突撃させる…それがシユウの目的だった。それは私にとって最も許せないことで何度も何度もアプローチを変えないかと打診しても駄目だった。もとより脱退するために言うこと聞いてたわけだし殺したほうが早くない?ってなっちゃってさ」

「えっ!?脱退したかったの!?」

 

とエルヴィが絶叫する。

 

「当たり前でしょ。私だって人を殺すための呪われた武器なんて作りたくないわよ。貴女を連れて自由になるためにシユウの命令を淡々と聞いてたの…まあ、その、私の作品たちに愛着はあったけど…」

「それにまつわる余罪はここを出たらだ。だがそれならトウテツができた瞬間に突き刺してしまえばよかったんじゃないか?それにいざとなればトウテツなんかに頼らなくたって送還自体はできたはずだが…」

「送還なんて絶対ムリ、あいつは確実に息の根止めるって誓ってるの。さっきそこのハーフエルフ…ノクシアが矢を放った時はヒヤヒヤしたわ」

「だからあの殺気だったんだ…」

「できた瞬間に刺さなかったのはあいつの持ってる厄ネタのせい」

「厄ネタ?」

「そう。あいつが死ぬと詳細は分からないけど自動で悪さするようにできてる変な球体。どこかの神から横流しされた赤子の入った緑の球体でさ」

「ッ…!」

 

ノクシアの脳裏に、ソード・オラトリアに登場した、あれがよぎる。十中八九、宝玉の胎児だ。

 

「それごとぶち壊す必要があって、そんであんたの魔法が必要になった。レアマジック、ケルニアス・ボルグ」

 

コントンの切っ先を団長に向ける。団長はああなるほど、という様子を見せる。

 

「俺のこれで威力を跳ね上げてシユウごとその球体を吹き飛ばそう…ついでにトウテツも同時に消滅して全部解決って寸法か」

「奪ったら適当にあしらって追い返すつもりだったんだけど、思ったよりあんたたちが用意周到で手加減できなくなっちゃった。少し悪いと思ってる」

「しかし、いつから調べられていたんだか…」

「ついこの間…あんたたちが用水路に足を踏み入れたときからだよ。一応闇派閥だからコネクションがあってそれで侵入者を調べたら、思ったより私の計画に相性のいい魔法があって、さ」

 

じっと団長を見るその目は、柔和なこの空気でも蛇のような狡猾さをはらんでいて、どうにも恐ろしい。そして、同時にエルヴィが懐の剣を手に取りながら口を開いた。彼女の持つ剣、第一級の呪詛武器である「斬った相手のステイタスを奪う剣」、だ。

 

「あとお姉ちゃん。私にこの剣を用意してくれたの、なんで?」

「それもバレてるの?なら私が貴女のために動いてることも分かっててほしかったわ。…そりゃ、貴女が自力で逃げ出して大規模ファミリアに助けを求められたらそれに越したことはないもの。そしたらあとはどさくさに紛れてシユウを殺して私も死んで悪が倒れたでチャンチャン、でしょ?」

「私はてっきり、お姉ちゃんからの隠れたSOSのサインかと…。それに、ずっと一緒にいるって約束してるのに勝手に一人で死のうとしないでよ」

「それは…うん、ごめん」

 

あの呪詛姫のしおらしく妹に負けている姿と姉妹愛に皆の緊張の糸が少しずつほぐれていく。

 

「姉妹仲睦まじいところ水を差すけど、ラストの魔法は帰ってくるの?」

「ん?まあね。コントンを壊す、あるいはコントンに新しい魔法を入れる…そうすることで今入ってるものは元の持ち主の身体に戻る、そういうもの。だからもうしばらく耐えてもらう必要があるね」

 

さて、とアルディアは立ち上がる。漆黒の、フルフェイスにしたフィアナの仮面を被り、フードを被り直す。

 

「これで後腐れなくあいつを殺せるよ。エルヴィ、少し待っててね。もうこんなところにいなくていいように、人を殺さなくても生きていける場所に連れて行ってあげるから」

「結局、守られちゃうね…。でも、これで最後だよ。そしたら、明日からまた、昔みたいに歩いていこっ!」

「あんたたちはここにいて。裏切りがバレたら、すぐあの宝玉を使われかねないし」

「ああ、了解した。なにかあれば、すぐに呼べよ」

「ふふ、期待しているよ猟神の鏃(ケルニアスティーチェ)

 

との会話の最中、どこからともなく拍手が徐々に近づいてくる。

 

「いやあ、良い姉妹愛だ。だが、この僕への裏切りとは良くないなぁ、アルディアァ…!」

 

このルームに現れたその存在は、上空の大穴の光に照らされてその姿を表す。鉄の額当てに中国風の衣装。あの玉座にふんぞり返っていた、シユウだった。

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