ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第二十五話 胎児(イレギュラー)

 我々を見下す彼の瞳には、狂気的な笑みが浮かんでいる。そして両手を広げたうちの片手にはキラリと光る球体、宝玉の胎児が握り込まれている。

 

「聞こえてんだよクソアマァ…!理由つけて俺に逆らうのが気に食わなかったが有能だから生かしてやってたってのによぉ…!」

「チッ、もうバレたか」

「ああバレたさ!来いよ俺様の魑魅魍魎達!」

 

と、彼が胎児を掲げる。本編でモンスターを誘き寄せるみたいな効果はなかったはずなのに、ひょっとしてそんな機能が…!

と思ったが何も起こらない。

 

「あ、あれ。モンスターがどうたらって言ってたのに…使い方くらい説明しろよ無能どもがぁ!」

「お前すら使い道を知らされていなかったとはな。これで終いだ」

「ま、待てよ…お前らを拾って、育ててやったのは…誰だ?この私だろ、なあ」

 

シユウは想定が外れたことで動揺しきっている。アルディアやエルヴィを見て、おそらくいつもの調子で脅しているのだろう。だがもう彼女たちにそれは通用しない。

 

「ク、クソ…俺は、神だぞ…!俺を殺したら重罪だ!お前らもただでは…!」

「見る奴がいたら、の話だけどね」

「なら居たらいいんだよな」

 

と、その場に誰とも知らぬ声が響く。アルディアの背後にいきなり現れた人物。アルディアはその声が響くと同時に跳ね退いた。

 

「誰だ。お前」

「素でいいんだぜ呪詛姫。今さら取り繕ったって無駄だって」

「チィッ…!」

「お、お前は!よぉし!よく来てくれた。わ、我を助けろ!」

 

その人物を視界に収めたシユウは明らかに元気になる。と同時にゴトり、と音が響く。シユウの左腕が、球体とともに地面に落ちたのだ。

 

「あ、あ、ああ、ああああぁ!!!!」

 

絶叫が響く。

 

「いやー思ったより無能だったね、シ、ユ、ウ、サ、マ。もう用済みだからさ、それ返してもらうね」

「な、何を言ってるんだ…」

 

その謎の男が球体を拾い上げてシユウを無視してどこかへ去ろうとする

 

「クソっクソっクソ…!どいつもこいつも舐めやがって!俺は、僕は、我は…!すべてを手にする()()だぞっ!」

 

痛みに悶え苦しむシユウが絶叫する。と同時に空間にゴォォ、というモンスターの唸り声が響いた。これは、テイムされたモンスターが迫ってきている…?

 

「真打ちこそなかれど余の魑魅魍魎どもならばいくらでも使える…!逃げれると思うなよ」

 

 ダンジョンでインファントドラゴンがいた階層の冒険者たちが脳裏によぎった。団長は彼らを闇派閥のグレーゾーンと言っていた。彼らの捕獲したモンスターたちはシユウに捧げられるものだったのかもしれない。

 

「いやあ、怖い怖い。じゃ、俺は逃げさせて…」

「逃がすわけねぇだろ、っと。姿見せやがれってんだ」

 

暗闇にいたその人物をラステノールが死角から槍を突き上げて奇襲する。そして、ついにその人物が白昼にさらされる。

 

「おま、えは」

「あれっラストじゃん。奇遇〜」

「知り合いですか?団長」

「ああそうだ…それも、最悪のな」

 

団長の名を親しげに呼んだその人物は少しピンクがかった、宝石のような真っ赤な髪の美丈夫。背が大きく、見惚れてしまうほどの美形。団長の攻撃をくるりと回避した彼は柱に足をかけてこちらに目を向けている。

 

「フェル…!まずはお前から殺してやるよ…!」

「おお怖。血気盛んでよくないねぇ」

 

憎悪をたぎらせる団長は全身の毛という毛が逆立って、その目は今まで一度も見たことがないような怒りを滲ませている。

 

「しかしラストがいるなら予定変更。これ奪ったら逃げるつもりだったけど…苦しんで死なせてやるよ」

 

と彼は胎児を見せびらかせながら何処かへと消えていった。

 

「逃がすかよ…!」

「ま、待ってください。今は目の前の脅威を何とかするのが先です」

 

怒りに身を任せて今にも飛び出しそうな団長を引き留める。彼も正気を取り戻したのか改めてこの空間に続々と流れ込んできているモンスターたちに目を向けた。眼前いっぱいに獰猛な目が光っている。その数は、ダンジョンの中にいるのかと勘違いしてしまうほどだ。でも、この程度あの日の地獄の行軍に比べれば生ぬるく見えてしまう。

 モンスターはほとんどが上層のもの。中型種も混ざっているが、一番強くてもミノタウロスだ。

 

「モンスターとの戦闘は久しぶりだが、倒さないことには、だな」

「まさか呪詛姫と肩を並べて戦うことになるとはね。しかし、あの野郎、なぜこんなところにいやがる…!」

 

全員で武器を取り出し、眼前のモンスターたちに構える。まずはここを抜けることが最優先だ…!

 

 

 ………およそ時間にして十分ほどだろうか。あり得ない速度で数十はいたはずのモンスターたちが魔石へとその姿を変えていた。最も恐ろしいのはアルディアの活躍だった。先ほどラステノールに向けていた3振りを全て魔石を貫くことに使われ、1秒に四匹近くを倒しているあり得ない速度であった。

 

「ふう…ってウソでしょ、シユウ逃がしてる」

 

あたりを見渡したアルディアが気づいた。いつの間にかシユウが消えていた。それに気づいた彼女は目に見えない速度で駆け出し、わけも分からないまま我々もついていく。

 レンガ造りの細い道を全員で駆け抜けていると先頭を走るアルディアが分かれ道のあるところで立ち止まり、話し始める。

 

「あの傷じゃあ遠くまではいけないはず。そしてこの地下空間から地上に戻るまでは私の工房を除けば一本道だ。他にも入水口はあるが神の身体能力では登れないものだけ、私はトウテツを拾ってから追いかける。先に行っていてくれ」

 

彼女は脇にそれ、我々は先ほどの大穴の開いたルームへと戻ってきた。エルヴィの描いた地図の端とは、要するにアルディアの工房への道、そして貯水槽に行くために新造された階段のことだったのだろう。シユウがいたのは最初に出会ったときと同じく玉座の上であった。ふんぞり返っていた最初とは異なり今は息も絶え絶えでようやくたどり着いたという雰囲気である。

 

「ここに戻って来たからにはお前らは終わりだ…来いよ、我が最強の怪異!」

 

そして高らかに叫んだ彼は玉座のそばにあったレバーを一気に引き下げる。

 

「俺の奥の手を切らせたことは賞賛に値する。だがな…黄竜の前ではお前らは無意味だ…!」

 

彼がそう言い終わると同時に、彼が口から血を吐いた。

 

「が…ごふっ…」

「ハイになってないで、私がいないことに気付くべきだったね、主神様。あなたの人生より長い輪廻で自分の傲慢を悔いるといい…ってもう聞こえてないか」

 

心臓を貫いたその剣は角のような形状、純粋に刺すことだけを目的とした神剣、トウテツだ。

 

「黄竜、シユウの切り札…そんなの持ってるなんてね。でもどれほど強くてもこれで刺せば…」

「無理…だ。ゴホッ」

「なっ…!」

 

倒れ伏したはずのシユウから声がする。

 

「それは呪詛武器じゃない…!呪文を唱え、呪いが籠もった武器でしかない…。勘違いしてるようだがなぁ…即死はフェリドゥーンにしか機能しない…!ハ、ハハ、ざまぁ…ない、ぜ…」

 

と最後の呪いを彼は漏らしながら光となって消えていった。次の瞬間、我々を轟音と衝撃が襲う。この都市の人工物では抑えきれない、柔らかな檻を砕きながらなにか巨大な生命が胎動している音である。その音の発信源は我々の下、いや、横…?巨大な揺れすぎてどこにでもいるような感覚が我々を襲う。

 

「これは、下に降りて見に行くべきか…?」

「ま、またですか」

「ここは多分もうすぐ崩れる。このままここにいるよりも下の方が安全」

 

フラカちゃんが言い終わりと同時に先んじて下に飛び降りたのを皮切りに私も飛び降りた。

 最下層の光景は先ほどとは大きく変化していた。床には膝くらいまで水が来ていた。そして一番の変化は、明るい。だがその明るさは地上由来の喜ばしいものではなく、大壁に入った巨大なヒビから漏れ出した金の光によるものだ。

 

「隣の貯水槽にモンスターを仕込んでたってわけ、ね」

「て、ていうかこの光なんなんですか…?」

「シユウの言うことを聞くならば黄竜というモンスター由来だろうな…だが、そんなモンスターは聞いたことがない」

 

その話の最中も徐々に広がっていく壁のヒビに内心強い恐怖を覚えていると、ゴウ、と燃え盛る音とともにヒビから爆炎が噴き出した。一筋だったそれが、徐々に2本、3本と増えていき、火炎が帯となった。

 

そして、私は反応できなかった。

 

 気づいた時には私に団長が覆いかぶさっていた。遅れてやってくる肌を焼く感覚。いや、そんなものではすまない。熱い、痛いとか、そんなものを超越した高温。余波で先程まで膝まであったはずの水位が、この空間に満ちていたはずの水がすべて蒸発していっている。少し顔を上げればこの貯水槽の真ん中を切り裂いた極太の熱線が視界にはいる。

 一気に酸素が消滅する息苦しさの中、熱が終わり、溶け抉れた地面の向こうを見る。そこには黒いコートの少女が団長同様にエルヴィに覆い被さっているのが見える…見えるが、様子がおかしい。コートどころか人体すらも焼けてしまったように見える。エルヴィはともかくアルディアならば余裕で避けられる攻撃だったはずだ。

 いや、違う。無理に決まってる。向こうの2人はすでに自分事として気づいていた、当たり前の前提が、私の頭のなかにやっとよぎってきた。遅すぎる。彼女たちは、主神を失った。それはつまり、冒険者の資格を剥奪されたことに、他ならないのだ。

 そんな絶望を気にするはずもなく、金光の炎竜は我々の前に、ただ我々を殺すためだけに、姿を現した。

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