ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
反撃の兆しが出たように思えたこの戦場だったが、現状は振り出しに戻っただけだ。近づくもののほとんどを焼き尽くす劫火に、それらを束ねて放たれる一瞬で空気を毒にする高温の熱線。
辛うじて避けてはいるが、その熱や薄くなる空気に我々は徐々に疲弊していく。
「ケルニアス・ボルグを撃ち込む余裕もねぇ!ていうか、魔力に反応して狙われるのか…!」
「…私の弓で意識を引きます!魔導石で意識を引けば!」
「なら、私もやるよ」
私たちで二手に分かれて駆け出す。弓に矢をつがえて、魔力を蓄え続ける。だが、魔導石に宿せる魔力などたかが知れている。私やフラカちゃんごときの魔力には目もくれず、やはり魔法を唱える団長が狙われつけている。ていうか、団長の足の光輪の魔法もヘイトが向く要因に拍車をかけていそうだ。
なんとかなれと矢を放つも当然のように空中で塵となって消えてしまう。
「何…この音」
私と合流したフラカちゃんがそうつぶやいた。ゴウと燃え盛る音に混ざって、遠くの方から、ドドドドという音が、近づいてきている。
その音の正体は私たちの上方にある、入水孔から現れた。人でもモンスターでもなく、それは水だった。大量の水が、文字通り堰を切ったように流れ込んできているのだ。あまりの水量に蒸発が間に合っていない。ともすれば黄竜本体の炎すらも徐々に弱くなっていき、水蒸気が空間を満たした。
濃い霧が晴れ、赤い炎を纏った巨大なシルエットが現れる。だが、それの上方に影が、彼女が跳んでいるのが見えた。
「これは蜘蛛の呪い。巣を張り、絡め取れ」
竜の体を斜めに大きくきり裂きながら、詠唱が響く。
「シージン・フウゾウ」
着地したその人物は、黒の外套に黒の仮面。長剣を右手に持ったパルゥム。
「 アルディアちゃん!」
「呪詛姫、アルディア・レス。今戦場に舞い戻った」
「なんで戻ってきた!」
「細かいことは後だ。冒険者にはなった」
といった彼女は外套を開き、中から大量の武器が地面に刺さる。戦場ヶ原さんみたいだ。
「私は今からこれを全てあいつにぶつけて呪いをかける。そうすれば勝ちの目も出てくるだろう」
と言った彼女は両の手に握られた禍々しい意匠の剣を全力で投擲し始める。刺さっている槍を蹴り上げ足で射出し、地面の剣を残弾と言わんばかりに投擲を続けた。半分は脅威を感じた竜の熱線に焼き尽くされたが、それでも残り半分はその肉体に届いた。
2本だけ残ったナイフを両手に握り、彼女は駆け出す。その速度は、先ほどの戦闘よりも速い。呪えば呪うほどステイタスの上がる呪詛の姫、その真価が発揮されている。対す黄竜も強力すぎる呪いに身じろぎをしたことで蜘蛛の呪いがより深く突き刺さっている。
「は、速い…!」
「呪いだけじゃない…多分、レベルアップしてる」
「えっ!」
今や黄龍の意識は完璧にアルディアに向いている。というのも、黄龍からしてみれば呪いという魔力を向け続けてくる不快な存在、呪いの籠もった、要は魔力の籠もった武器が感覚器に大量にノイズとして映っているのがあるのだろう。
団長も、すでに魔力をまとめ上げることに成功した。
「 そろそろ、撃たせてもらうぜ。2回も詠唱の邪魔されて苛ついてんだ…。我が槍は猟神の息吹。仇なす者を討ち滅ぼす鏃であるッ!撃ち抜け!ケルニアスッ!」
団長が跳躍する。私が見ても分かるほどに一気に膨れ上がった魔力が槍を、アルディアから譲り受けたトウテツを、包み上げる。投擲モーションに入った団長の目の前には、ターゲットがすでに切り替わった黄龍、今にも放たれようとしている熱の塊がある。
だが、意味をなさない。熱のためられた大口が十字に大きくきり裂かれる。
「お前の相手は私、だろ?」
「ボルグッ!」
不敵に笑ったような彼女の背後から、細く、長く、鋭く伸びた槍が飛んでくる。着弾時にそれは高密度の爆弾となって、爆ぜた。
今までにもなかったほどの大爆発だ。団長の怒りで増幅された魔力が、アルディア・レスが全力で作り上げた神造武器の寿命全てを凝縮して放たれた団長の槍至上最高の火力だ。落ちてきた団長をなんとかキャッチする。魔力の込め過ぎでマインドダウン寸前、グッと親指を立てた団長と笑い合う。
爆風が終わった後、そこにいたのは上半身…女体のほとんどが吹き飛んだ黄龍だった。だが、今だ地に堕ちていない。
「まだ生きてんのかよっ!」
団長が絶叫する。その化け物の下には、団長の爆発に巻き込まれてしまったアルディアちゃんが倒れているのが視界に入る。
その存在はもはや我々に敵対のつもりはないらしい。それこそがかなりまずい。生存本能のままに、逃げを選択したそれはもはや崩れた上層へと飛翔した。
この真上にあるのはダイダロス通り。そこで暴れられたら死者が大量に出る。冒険者の到着も遅い。しかし我々ではもはや追いかけることはできない。今ここにいるのはマインドダウン寸前の団長、意識不明のアルディアちゃん、私とフラカちゃん。矢が当たろうがもはやそんなもの意に介さない黄龍をとめる手段が私にはない。
絶望のままに見上げるしかない私たちの視界に、数時間ぶりの日の光が差してくる。それは望んでいた安穩の象徴ではなく、絶望の色として訪れてしまった。落ちてくる瓦礫で本当に天蓋が崩れてしまったことを悟る。
「あ、ああ…あああ…」
もはや届かない距離に行ってしまったそれに、厄災に手を伸ばす。これから失われ行く命が、地上の惨劇が脳裏をよぎり意識がくらむ。太陽と見まがう温度を纏って、それは…日の光のもとへと…。
次の瞬間、金炎が消えた。
一瞬の出来事だった。金の炎とともに天に登る
そしてそのまま重力に惹かれ、終には私たちの目の前に堕ちてきた。
「無事でしたかー、ケルヌンノス・ファミリアの皆さん…ってなんか人数少ないし知らない人が混ざってますね」
「エトラ…ちゃん?」
上空から軽やかな身のこなしで降りてきたのは、我々のファミリアのギルド受付担当、本作の第九話〜第十話にのみ登場したあの、元ガネーシャファミリア所属のレベル4冒険者、エトラ・ドルカだった。
「いやー、アルディア・レスはもう死んだんですかね?兎にも角にも私の魔眼が復活して、その矢先に謎の少女に助けてって泣きつかれて
「それはっ…はぁ…はぁ…私から、話す…」
遅れて息も絶え絶えのエルヴィが降りてきた。安堵と疑問が渋滞して混乱してしまっている私にエルヴィが懇切丁寧に説明してくれた。
団長が送り出した後アルディアちゃんと2人で用水路を走っていたエルヴィちゃんたちは途中でかつて協力関係だった闇派閥と遭遇。アルディアちゃんはステイタスがない状態にもかかわらず団員をすべて制圧し主神を強請り
オラリオの大通りを白装束の少女が、かつての
「ほぼ病み上がりのアドバイザー連れてどこまで行くつもり〜?」
「こっち…急いで!」
「ってぇ、なんだこれ〜」
ダイダロス通りに着いた彼女は驚愕する。地面が大きくひび割れていたのだ。今にも抜けそうなそれに警戒を強めたところ、その地面を貫いて傷まみれの炎をまとった竜が飛び出してきた。詳細は分からないが、そのダンジョンの摂理から外れた歪んだ造形からエトラの脳裏に一つの結論が現れる。
「
あのときの因縁の一切を思い出し奥歯を噛み締める。数年ぶりに魔眼を構え、全身が捉えられたその竜は五感の一切を喪失した。方向感覚すらも失ったそれは抗う手段を失って堕ちていった。
「で、今に至るってわけだね〜」
「久しいな…魔眼姫」
エトラちゃんの後ろ、物言わぬ骸となった竜から這い出てきたアルディア・レスが立っている。
「へぇ、生きてたんだ。呪詛姫」
今にも殺しそうな怒気を隠さずエトラちゃんはアルディアと向かい合う。噂に聞きしかつての姫2人が今ここに対峙した。
「私はもうシユウのところじゃない。抵抗もしない。連行してくれ」
「言われなくてもそのつもりだけど?余罪がたんんんまりあるんだわ」
そして、エトラちゃんが持ってきていた縄によってアルディアは拘束された。
その後エトラちゃんが呼んだギルド、ガネーシャ・ファミリアの治安部隊による立ち入り規制が敷かれ私たちやエルヴィちゃんは事情聴取のためにしばらく拘束されたが、シユウの殺害などのほとんどをエトラちゃんが不慮の事故として処理してくれたため闇派閥内のいざこざにたまたま居合わせてしまった、ということになってすぐに解放された。
アルディアちゃんだけは今までの余罪まで含めて審判に掛けられ、冒険者資格の半永久剥奪処分と数カ月の謹慎が言い渡されてしまった。
「ねぇ、エルヴィちゃん。行く場所がないんなら…うちに来ない?」
「えっ…いいの?」
「もちろん!ねっ!団長!」
「 ……いいよ…」
団長は団員にどう説明するかで胃痛がしていそうな顔をしている。
「改めて礼を言わせてくれフラカ。君がいなければ作戦は失敗していた」
「いいんだよ、私たちの仲じゃないか。これからも贔屓に、ね」
バチーンとキャラに合わないウインクをした彼女はそのまま別れていった。
そして私たちを迎えるのは久しぶりの、あのホーム。そして門の前に立つ巨大な鹿の角のシルエット、我らが主神、ケルヌンノス様だ。
アルディアを殺すつもりでずっと機会を狙っていたんですがなんか生き残ってしまいました。
せっかくなので有効活用していきたいと思います。
カースウェポンが呪武具なの今更気づいたけど、流派が違うってことで一つお目溢しを…