ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
厨房と食堂を区切るカーテンをくぐって出てきたのはまさかまさかの団長であった。手には料理の載ったトレイを持っている。
隣りに座って本を読んでいる団員に耳打ちをする。
「あの…これって私も手伝ったほうがいいですか?」
「ん?ああ、あれは団長の趣味みたいなものだから気にしなくていいよ。うちのキッチンは団長の独擅場なのさ。」
そう言うと、隣の男性は出されている紅茶を啜り、また本に目を落とし始めた。そういうものなのか、と思いはしたが新参の自分が何もしないまま座っているというのはどうにも落ち着かなく、何かできることはないかと食堂を見回す。
改めて見た食堂は全体的に重厚な内装になっており、私のような現代の若者がいていい場所じゃない気がしてしまう。暗い色の木の長テーブルの上には簡易的なカトラリーと炎が揺らめく燭台が置いてある。壁には左右それぞれに多数の窓がついており、そこから差し込む陽の光が部屋の中を明るく照らしている。
食堂の奥、カーテンのあるあたりに目を向けると先程よりも座っている人が増えているのが見える。だがそこまで増えた中でも手伝いに行こうとしている人は誰もいないようだ。つまり私にできることはないのだろう。
フワリと時折舞うカーテンから覗ける厨房の中には今のところ団長しか確認できていない。どうやら独壇場というのは本当らしい。そんな風に観察していると、自身の目の前にスープが置かれた。
「よっ。好きに食べてていいからな。」
「あっ、ありがとうございます。」
団長だった。トレイの上には一つずつスープが載っている。自分の目の前に置かれたスープはパッと見はスープカレーのようでなにかしらのスパイスが浮かんでいるように見えた。
他の人も食べているようなので、手を合わせて小さく「いただきます」と言ってからスプーンでスープを飲むと、爽やかなミントとバジルの香りが鼻に抜けた。具は蕪や鱈のような白身魚が入っている。独特の爽やかさと柔らかい具との相性が良くスルスルと入っていく。
その後も次々と料理が運ばれてきた。そのどれもがとても美味しく、作っている量を考えると団長の腕前がとてつもないことがわかる。
一通り出されたものを食べ、皆が席を立ち始めたときケルヌンノスが話しかけてきた。
「ああ君。今から私の部屋に来てもらえるかな?これから君に僕の眷属の証を刻むからさ。」
「あ…はい。」
そして招かれるままに一階の左奥にある主神の部屋へと入った。椅子に座るように言われ、部屋の中にある丸椅子に腰掛ける。
そして、主神は私の後ろに立ち、上着を肩まで捲った。
「はっ?えっ?は?」
「ん?どうしたの?」
「えっと…あの…何するつもりですか…?」
「…?あ、ああ誤解しないでね?!これが恩恵の刻み方なんだよ。」
言われてみれば、ファミリアには女性団員も多数いるしステイタス更新の度にアレなことをしていたらここまで団員は揃っていないだろう。
「…すいませんでした。」
「いやぁ、ごめんね。一言言っておけばよかったね。」
そして主神は私の背中に触れた。くすぐったさから変な声が出る。主神はその指をなれた手付きでスルスルと動かし、緊張したこともあってか気づいたときには終わっていた。
ケルヌンノスはポンポンと私の肩を叩いた。
「ほい、しゅーりょー。緊張してたねぇ。」
「あ…ありがとうございます。」
「あ、これ。ステイタスの紙。」
と、茶色い紙を渡してきた。相変わらず何故か読めてしまう。
ステイタス
ノクシア・フッド
Lv.1
《基本アビリティ》
力:IO
耐久:IO
器用:IO
敏捷:IO
魔力:IO
《発展アビリティ》
射手:I
《魔法》
なし
《スキル》
なし
「すごいよねぇ。なんでだか知らないけどいきなり発展アビリティも発現してるし…ってどしたのそんな深刻そうな顔しちゃって?」
おかしい。ノクシア・フッド?私の名前は違う。この名前は、私が妄想してたダンまち世界のキャラ…なのに…。
やっと気づいた。この見た目も、名前もすべてが妄想のキャラ通りなのだ。
だが脳内シナリオ通りに進んでいないということはここは私の妄想の世界というわけではないのだろう。おそらくだがちゃんと私は転生した。ただ、その転生の時の俗に言うキャラ設定が自動で行われたのだろう。私の深層心理にあるなりたい理想形がオートで反映された、ということだ。ただ私の妄想だとこのキャラは魔法使いだった。死ぬほど強い魔法をぶん回すロキ・ファミリア所属の新入りレベル4魔道士だった。だが、実際に発現しているのは弓を補佐するのであろう射手という発展アビリティ。つまり、私はこのダンまち世界のネームドキャラでおそらく初めての弓補助系スキルを持った冒険者になる、ということだ。このことに気づいたが、転生しているということを悟られるのはちょっとあれなので適当に誤魔化したい。
「あ、いえ、なんでもないです!」
「あ、そう?ま、これで君は今日から僕の眷属!よろしく、ノクシアちゃん。」
そして、ケルヌンノスは手を差し伸べ、私はそれに応えた。
「はい、よろしくおねがいします!」
そして、主神の部屋から一礼をして出て、胸に手を当てて改めて決意を固める。
「ふぅ…頑張る!私!ここまで来たんだ、ダンジョンの最下層目指して頑張るぞ!」
と、声に出して決心を示しているとちょうど食堂から二階に上がろうと階段に足を掛けている団長と目があった。
「お、あの人の眷属になったのか。」
「あ、はい!これからよろしくおねがいします、団長!」
「おう。よろしくな。そうだ、晩飯の後って時間あるか?」
「あります、けど…。」
「じゃあ、詳細は聞かずにちょっと付き合ってくれや。」
「わかりました。」
団長はサンキュ、と小さくお辞儀をして二階への階段を登り始めた。私はなにをしようか。晩飯の時間まで暇なので少し周辺を探ってみようかな。
でも一人で行ってしまっては心配するだろうから誰かに知らせてからにしようか。
そして私はリィヤちゃんに知らせるために二階に上がることにした。