ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
フラカちゃんの口から聞けたのは今回の遠征の目的地と目的だ。
目的地は大都市オメアトランの中にある七の洞窟、チコモストクという場所である。
チコモストクには古き神性がいまだに残っておりフラカちゃん、ひいてはサンタムエルテ様の目的はそれなのだという。
チコモストクはオメアトランの中心部である神殿のその真下に封印されているらしく、封印を解くには生命を多く吸って本来のあり様から歪んだ物、鍵となるアイテムが必要だそうだ。
そこで今回の黄龍の魔石ということだ。
「幾多もの人、魔物、生命を吸い込んで歪んだ魔石…たしかに鍵として最適ですわね」
パシウスさんが納得いったような声を出す。
でもそれだけじゃない。あの魔石には緑の宝玉の影響も少なからず含まれてる。あり様の歪みはそこに起因するんだろう。
「古き神性を手に入れて何をするか、まで聞くのは契約外ですわね。ではここからは私の質問なのですけれど…」
そう言うとパシウスさんは先ほどの神殿で書いていたメモを取り出した。
「まず聞きたいのはククルカン様の若い世代の産物という発言。アストランの神々には世代の概念があるのですか?」
「まあそうなるね。アストランには大きく分けて3つの世代がある」
はじめにアストランの地を治め始めた原初神。ククルカンはここに分類される。
次に今のアストランの都市神に多い派生神。第二世代とも言うべき神々だ。
そして最後の、サンタムエルテ神が属する人の時代の神というものの三つだそうだ。
「チコモストクは神に近しい頃の人の産物さ。原初神どもからしたら児戯のようなもんだろうねぇ」
「では、ククルカン様の言う何もない、というのは?」
「読んで字のごとくだよ。ククルカン…それどころかアタシ以外の神からしたらあそこには何もないんだよ」
「チコモストクは古き概念の貯蔵庫。物質ですらない、概念を腐らせずに置いておくためだけに作られた、不要の貯蔵庫さね」
そう答えるサンタムエルテ様の顔は何かの諦観をはらんでいた。
自分だけ取り残されたものに追いつきたくて仕方ない顔、他とは違う「落ちこぼれ」を強く意識したような、そんな顔だ。
「最後なのですがぽっと出ていたミクトランとは何を指すのでしょう? 良くないものというニュアンスは伝わるのですが…」
「ここアストランにおける冥界にあたる概念さね。ククルカンが毛嫌いしているだけで何の変哲もない死者の行き先でしかないよ」
「ククルカン様はそれに近しいと言っていましたが…魔石に含まれる死者の魂の臭い、などなのでしょうかね」
「アイツが特別鼻が利くだけさね。さて、そろそろ飯にしようか!近くに酒場があるんだよ!」
パンと手をたたいたサンタムエルテ様の言葉に反応して半分くらい寝ていたリィヤちゃんが飛び起きる。
「ごはん!」
がやがや、わいわいと言った音に今我々は囲まれている。
大通り沿い、大きな湖に最も近い場所にある酒場に我々は訪れている。
誰かが持ち込んだ文化であろうこの都市では珍しい西洋風の酒場、イメージは丸ごと豊穣の女主人のそれだ。
二つのテーブルをくっつけて大人数で席を囲む。それでもなお一角を占領した程度にしかならない巨大な酒場だ。
「長旅の疲れに、かんぱ〜い!」
音頭を取るのはリィヤちゃん。
右手に持ったジュースの入ったガラスのジョッキを掲げて乾杯する。
「かんぱーい!」
皆も一様にジョッキを掲げる。私の飲み物はリィヤちゃんと同じジュースだ。色は黄色、トロピカルな印象のそれだ。
大テーブルにはタコスの具材と皮、焼いたお肉などが並べられている。
「さあじゃんじゃん食べな!ケツァルが高値で売れて金ならたんまりあるんだ!小さい傷で仕留めたノクシアの手柄だねぇ!」
「えへへ、どうもありがとうございます」
周りの上級冒険者たちに囲まれているから活躍できるか不安だったのもあって照れてしまう。
美味しい食事!冷たくて美味しい飲み物!散々暑い中を空調もなしに耐えさせられて疲弊した肉体に染み渡る。
文字通りの最高の気分だ。
だが、気がかりが一つある。
それは酒場に入ってからずっとある視線。隠そうともしない、ある種の殺気にも似たそれをずっと感じている。
それも、私だけでなく私たち全員が感じているのか、殺気の主をかわりばんこでチラチラと見てしまう。
酒場の反対側、そちらに陣を取る私たち以外の大集団。
金髪の女性を筆頭にした冒険者らしき集団だ。
「私たち何かしちゃったかな!?」
「まさか、毅然としていろ副団長」
「アルバートくんは気にしなさすぎでしょ!」
と二人が耳打ちしながら話しているのを眺めていると金髪の女性がこちらにツカツカと近づいてくる。
「はぁ〜アンタたち、クッサいんだけど〜。出てってくんない?」
そう言った彼女はテーブルの真ん中に大きなナイフをドンと突き刺す。
「出ていかなければどうしてくれるんだ?」
「ウザ。喧嘩売ってんの?♡ ゴミ共の分際でウチらに歯向かうつもり?」
酒を呷りながら煽るアルバートさんに彼女はナイフを首筋に当てながら詰め寄る。
「いくらなんでもちょっと言葉が悪いんじゃないっスかね。シャワーもちゃんと浴びてますし綺麗好きな方っスよ俺等」
「シャワーごときで落とせると思ってるの?♡ 頭弱いんじゃな〜い?♡」
コリネウスさんが立ち上がって抗議をするもクスクスと笑う彼女に一蹴される。
首筋にナイフを当てられたアルバートさんはうんともすんとも言わない。ちょっと冷静すぎます。
「わりぃことは言わねぇ。今すぐ立ち去りな」
彼女の背後にいたはずの、彼女が率いる集団の人たちも気がついたら私たちを囲んでいた。
「なんで私たちがっ…!」
「んねぇ♡ もう交渉決裂だよね♡ やっていいよね、ね?♡」
彼女が首に当てているナイフに力が入る。首筋にうっすらと赤い線ができる。アルバートさん、そろそろ抵抗しないと…!
そう思い目を向けるが、「抜け出せない。無理。こいつ力強い」という目線を向けられる。嘘でしょ。
「くそが...!」
コリネウスさんが飛び掛かることで彼女はパッと手を放して後ろに飛びのく。
「いいのか、あんたらも外部の人間。騒ぎを起こせばタダじゃ済まないだろ」
「ウチらはぁ、この都市に雇われてる客兵ってやつなわけ♡ 怪しいやつらは叩き潰していいって契約なんだよねぇ♡」
ペロッと舌なめずりしてこちらを見る彼女の目には他の人たちから向けられる殺意でも、怒気でもない、ある種の淫靡といった様相を呈している。
怖い!超怖い!
今にも飛び掛かってきそうな目の前の女性に内心おびえているとリィヤちゃんが前に出る。
「我々はオラリオ所属のケルヌンノスファミリア、そして同都市所属のサンタムエルテファミリアである。貴君らの所属を聞かせてもらおう」
その顔は今までに見たことがないほどにキリッとしていて、超かっこいい。言葉も普段からは想像できない知性を感じる。というか、副団長だから対外的なこともやってきたことがうかがえる。
「ふぅん、族にしては律儀じゃん。ウチらは都市外所属の猟兵団ジークフリート。じゃ、始めよっか」
その一言で双方全員が武器を構えた。私の武器は今ローザしかないからちょっとまずいかも。
「ケルヌンノスファミリアまで加担するようになってるとは、信じたかねぇがな。大抗争時代に世話になった恩もあるってのに…」
「あんなに濃厚な臭い漂わせて無罪って無理あるし。いくらでも正当化はできるっしょ」
「さっきから言っていますけれどその臭いって何のことなのでしょう?全く心当たりがありませんわ」
「はぁ?まだシラ切るつもり?いい加減認めてくんないかなぁ」
調子が崩されてイライラした様子の彼女が頭を掻きむしっている。
たしかにそうだ。私たちは彼女の言う臭いがなんなのか理解しきれていない。
「決まってんでしょ、アンタ達からするのは竜の臭い。くっさ〜い、人を殺した竜の臭い」
「それなら心当たりがあります!」
彼女たちの言っている臭いの正体は、私たちがチコモストクの鍵として持ち運んでいる黄竜の魔石。
経緯とそのものを見せれば納得してくれる。そう思って酒場を出ようと席を飛び出したが、
「あはッ♡ 自白?♡ 素直だね、殺してあげる」
その声に振り向けば大剣を持った彼女が凄まじい勢いでこちらに迫ってきていた。