ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
リィヤの部屋の扉と正対する。なんだかわからないがドキドキしながら扉をノックする。新しい友達の部屋に初めて入るときのような、そんなドキドキ感である。すぐに中から、開いてまーすと聞こえてくる。ドアノブに手をかけて扉をゆっくりと開く。
「お邪魔しまーす…」
「あ、いらっしゃーい!」
リィヤはベッドに腰掛けながらこちらを見ていた。ひらひらと手を振っている。
「どしたのー?」
「えっと…この後夜ご飯まで暇だからちょっと散策に行こうかと思いまして…。その…一緒に行けたらどうかなーなんて。」
なんとは言えないけど緊張して敬語とタメ語が混ざった変な感じになってしまう。言葉尻も萎んでしまって伝わったかどうか怪しい。
「あ、いいの?行くよ〜!」
伝わっていたようだ。そして緊張してしまって変な顔になっている私とは対照的にリィヤは笑顔で答えてくれた。だが彼女は立ち上がったところで、ハッとしたような顔をした。何か不都合でもあったのだろうか。
「そういえば、君の名前聞いてなかったね。改めまして、私はリィヤ・ブリギッテ、君の名前は?」
「あ、ノクシア・フッドです。よろしくお願いします。」
「敬語なんていいよー。多分ノクシアちゃんと私そんなに年離れてないだろうし。でもノクシアちゃんはハーフエルフだからもしかして私より年上?なら私が敬語使わなきゃかな?」
ちょっと揶揄うようにしてリィヤが笑う。私が例の
「私まだ16だから!」
「そうなの?ごめんね〜。んじゃ同い年だ!あ、そういえば私このファミリアの副団長だから困ったことがあればなんでも相談してね!ラステノールさんは良い人だけど女の子同士の方が話やすいこともあるでしょ?」
「え、フクダンチョウ…?」
「そーそー。ま、そんな大したことないから気にしなくていいよ。」
副団長ってことはこの子はレベル2以上だろうか。おそらく2年くらいは戦っているのだろう。すごいなぁ私と同い年なのになぁ。と嫉妬と羨望と惨めさがセットになった感情に苛まれた。
「ちょっと準備しちゃうから待っててね。あ、ノクシアちゃんさっき貸したやつ以外の服ある?ないならもう一着貸すけど。」
「そういえばないなぁ。」
「オッケー。」
そう言ってリィヤはクローゼットの中の服を見繕い始めた。これも似合うなぁ…いやこれもいいなぁ…と手にとってはブツブツと呟いている。部屋の椅子に座ってしばらく待っているといきなり、決めた!と言って服を持ってこちらに近づいてきた。
手に持っていた服は俗に言うロリータというやつだ。白ベースに所々淡いピンクが可愛らしい、フリルとリボンがふんだんに使われたワンピース。はっきり言ってこの年で着るのはとんでもなく恥ずかしい。前世でもツイッターとか眺めてるとたまに流れてきて可愛いーとか思いはしたが、自分で着る気にはならなかったやつである。確かにこの世界にはイタイという概念は存在しない。それどころか厨二チックなやつがカッコいいという風潮があるからそんな気のしなくていいんだろうけど、私の中の何かが猛烈に拒絶している。
だが…とリィヤの顔をチラッと見るとまるで子犬のように目をキラキラさせている。今の私は自分で言うのもなんだが美人だ。美人というか可愛い。それこそ元の世界にいたら誰もが振り向くレベルには可愛い。無論この世界だと平均から少し上くらいの風貌だが人形のような白さはロリータとの相性が抜群だ。そんな少女に可愛い服を着せたいのはお姉さんキャラなら当然だろう。
意を決する。
「あり…がとう。」
震える手で受け取り、着替える。
フリフリとした感覚がとても気になる。すごく動きづらい。
「すっごい似合ってるよ!」
とリィヤが目をキラキラさせながら言ってきた。
「なんだか慣れないなぁ。」
「こう言うの着ないの?もったいないよぉ。よし、さ!行こ。」
リィヤが先に部屋から出る。それを追うようにして私も部屋を出る。部屋から出るとすでに彼女は玄関まで行っていた。そのまま階段を降り、半開きの玄関を抜けて外に出る。時刻はおよそ14:00くらい。太陽がほぼ直上になるころだ。建物の陰から出ると眩しさで目を覆う。前を見るとすでに先に行っていたリィヤがこちらに手を振っている。と思ったら、こちらに走ってきた。
「よし、行こう!オススメの場所があるの!」
手を掴んで走り出した。
その速度はとんでもなく、レベル1で経験値もない私ではコケないようについていくのが精一杯で周りの景色を見る暇もなかった。
そして、いきなり止まった。そのトンデモな速度の緩急に対応できず、立ち止まったリィヤに激突するが彼女は意に介していない。
「ここだよ!」
そう、指を指したのは漫画、小説、ゲームで何十回と見たレストラン、いや酒場だった。今は昼時で準備中の看板がかけられているのにリィヤは勝手に扉を開ける。
「ミア母さーん。うちに新しい子が入ったから紹介しに来たー!」
と大声でリィヤが呼ぶと、店の奥から長身のドワーフの女性が出てくる。ミア・グランドだ。
そう、ここは豊穣の女主人。途中で表記が豊饒から豊穣になった豊穣の女主人である。
「全く、リィヤ。準備中はよしてくれって何度言ったらわかるんだい。」
「だって夜は忙しそうなんだもの。」
「今だって忙しいよ。さて、あんたがあの鹿男のところの新入りかい?」
ミア母さんはこちらに向き直り爪先から頭のてっぺんまでを見る。
「はい。ノクシア・フッドって言います。」
「あれのところの子とは思えないくらい礼儀正しいじゃないか。あたしはミア・グランド、ここの店主さ。あたしのことは母さんと呼んでいいからね。」
「ありがとうございます。ミアお母さん…。」
「恥ずかしがってんじゃないよ!」
そう背中をバシバシと叩いてくる。
「ま、忙しそうだしもう行くねー!ばいばーい!」
「お、お邪魔しました。」
「ああ、今度は夜に来な。もてなしてやるよ。」
リィヤは手をブンブンと振りながら店を出て、私は一礼してから出た。
そして店の扉が完全に閉って私はふぅと息をつく。
「ごめんね、いきなり連れてきちゃってさ。でも紹介はしておこうかなぁって思ってね。」
「大丈夫、です。」
なるべく平静を装うが私の心はかつてないほどに湧き上がっていた。なんせ今までは好きな漫画の登場人物という認識だった存在が私の目の前にいたのだから。正直緊張しすぎてどんな会話したか覚えていない。どもらずまともな解答できていただろうか。
「私、無礼なことしてなかったかな。」
「全然問題なかったよ!緊張してたの?」
「そりゃあするよぉ。」
「まあミア母さんおっきいもんねぇ。」
そう談笑しながらバベルへと通じる大通りを2人で歩いていると、道の端にある屋台が目に入った。これまたダンまちでよく見た屋台である。看板にはじゃが丸くん、と書かれている。それから目を離せずじっと見つめていてしまう。
「…食べたいの?」
「へっ?いや、大丈夫!」
「遠慮しなくていいよぉ。ちょっと買ってくるね。」
そうリィヤが屋台に近づいていくのを目で追っていると見覚えのある店員が視界に入った。じゃが丸くんの店員の服装をしてはいるがその顔や纏う雰囲気ではっきりとわかる。極東系のファミリアの主神、タケミカヅチである。眼前に現れたまさかの神物に口をパクパクさせているとリィヤが手に二つじゃが丸くんを持って私のそばにきた。
「どしたの?」
「あの店員さんって…。」
「あの人がどうしたの?もしかして極東の人を見るの初めて?」
「いや、そうじゃないんだけど…。」
リィヤはずっと頭の上にクエスチョンを浮かべている。おそらく彼女の目には私がただの店員を見て驚愕してるだけのように映っているのだろう。
「あ、人違いだった。ごめんごめん。」
「えー気になるなぁ。まあそれはそれとしてはいコレ。」
じゃが丸くんを手渡される。揚げたてのようで湯気が立っている。一口食べると口の中に濃厚な醤油の味が広がる。かなり美味しい。
「あ、ほっぺ緩んでるー。」
「ふぇ?」
うっかり気が緩んでしまったようだ。おかげで変な声も出てしまう。リィヤはそんな一連の私の動作を見てニヤニヤしている。
「もう!笑わないでよ!」
「アッハハ。ごめん、可愛くってさ。」
そして2人でじゃが丸くんを食べながらホームを目指して帰った。来る時は早すぎてわからなかったがホームは都市の南西部の外壁沿いにあり、近くには色々な店が並んでいた。
リィヤは先にホームの中へと入ったが私はもう少し周りを見ていくことにした。