ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
傾きかけている陽を正面に捉えながら小路を進む。拠点に近い場所にあったものは呉服屋とかだったが少し歩いて南西のメインストリートに近づいてくるほど商店なんかが増えてくる。通りですれ違う人もどことなく商人然としている。メインストリートに出ると無数の人の往来があった。夕方だというのに多すぎるその人通りは元の世界のスクランブル交差点を想起させた。
好奇心に誘われるままバベルに向かって歩いていると、左手に見たことある館が目に入った。そこそこのサイズに針のような細い柵で囲われた大洋館、ヘスティアファミリアが手に入れた本拠地、時間軸によってはまだ元の持ち主が居座っているはずの館。
そうアポロンの館である。改めて自分の目で見るとかなり大きい。
聖地巡礼の意も込めてマジマジと眺めていると背後から声をかけられる。
「おい、何をしている。」
「ひゃあ?!」
いきなり言われたことで変な声が出てしまう。恐る恐る声をかけられた方を向くと、原作で
「いえ、特に怪しいものではなく!」
「…。」
怪訝な表情でこちらを睨みつけている。怖い。すごい怖い。なんでこう、尽く初対面のイケメンとの出会いが最悪なんだろう。
「まあいい。俺はアポロン様の意向に沿うだけだ。」
そう言って、目の前のイケメンは踵を返して門の向こうへと歩いて行った。
死ぬほど心臓がバクバクしている。うっかりボコボコにされたりなんてしたら、私のオラリオデビューが死ぬ所だった。それにもしアポロンに見られたら私がどうなるか分かったもんじゃない。忘れていたが今の私の格好はクリスマスプレゼントのラッピングかと思うほどにフリフリの服を着ている。そんな状態でアポロンの前に立ってみろ、一瞬で引き抜かれて終わる。アポロンファミリアだけは絶対に嫌だ。
昼頃の私、ケルヌンノス以外でも受け入れてくれる中堅ファミリアはあったよ。最悪だけど。
アポロンに出会わないようになるべく早く離れようと踵を返して駆け出そうとした時、また後ろから声をかけられる。その声は先程のヒュアキントスとはまた違う、もっとこう、高揚した声だ。
「ああ君、そこの君!少し待ってくれないかい。」
「はい…どう、しましたか…。」
まだ違う可能性に賭けて後ろを振り向くが、想像通りの人物がいた。人物というか神物というか。オレンジの髪に月桂樹の冠、イケメンだけど素性を知っている身からすると気持ち悪い。
「ああ、私の予想通り美しい!それにそんな服装、さしずめ私の眷属になりたくて来てくれたんだね!大歓迎だよ、ささ。中にお入り!」
一方的に話を進められ、門も開く。そして門の向こう側ではアポロンが手を広げて待っている。神を目の前にしておきながら全速力で逃げることもできず、かと言って前に行くのもはばかられる。判断できずに立ち尽くす。
「ん?どうしたんだい?ああ、緊張しているんだね!私から迎えに行ってあげよう!」
眼の前から変態が駆け寄ってくる。その気迫と下手に抵抗できないことから目を瞑る。だが、何秒立ってもアポロンは抱きついてこない。
恐る恐る目を開けると、目の前には主神が立ちはだかっていた。
「悪いね、アポロン。彼女はもう僕の眷属なんだ。」
「な、なんだとぉ!他神のものを奪うのは卑怯だぞ!」
「君がそれを言うのかい?」
「ええいうるさい!彼女はもう私のものだ。貰っていくぞ!」
「あ、そう。なら戦争遊戯でもする?きみのLv.3になりたての
そうケルヌンノスが言うと、グッ…という顔をして、渋々といった顔で引き下がっていった。
「全くもう。他のファミリア、それもアポロンの拠点に近づくのはあんまり良いとは言えないなぁ。」
「ごめんなさい…。」
「まあ何もなかっただけ良しとしようか!さ、そろそろ夕食だ。拠点に帰ろうか。」
「あ、はい!」
そしてケルヌンノスと暗くなり始めたオラリオの道を歩き始めた。辺りはまだ店の明かりが点いている。
それにしても先程のケルヌンノスの発言、どうにも気になる。Lv3になりたての太陽の寵児…つまりヒュアキントスはつい最近Lv3になったばかりということ。ベルがアポロンに見初められてヒュアキントスと殴り合いになったとき、あのときでLv4に近いLv3だった。ベルくんがオラリオに来てアポロンの事件が起きるのは大体2ヶ月ほど。その程度の期間で一気にアビリティがレベルアップ寸前まで行けるか?たしかにベルくんはやってたけどあのヒュアキントスには無理だろう。
おそらくあの状態にするのに最低2年位はかかっているはず。つまり、今のこのオラリオはベルの到着前、ということになる。となれば今のアイズ・ヴァレンシュタインのレベルさえ知ることができれば大分時期を絞れるだろう。
そして時期がわかればベル到着のあとの動乱なんかにもうまいこと入り込めるかもしれない。心の中は安堵で満ちている。なぜならば、置いていかれる心配がないからだ。今の時間軸がLv4になったベルの頃とか言われたらうっかり私も
そんなことを考えているうちに館についてしまった。主神様はなにか準備があるようで走って中に入ってしまった。
そういえばラステノールさんに呼ばれているしその時に聞いてみようか。
これから先、私がどんな冒険ができるのか、それが楽しみで仕方ない。先程までの恐怖はどこへやらといった気分である。
私の頭の中には、推しとリアルで出会えるかもしれない、あわよくば先輩として話せたりできるかも!という喜びしかないのだった。