ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか 作:舌百
周囲には岩の壁。前世では入ることはなかったであろう洞窟に、前世ではすることはなかったであろう格好で私はいる。片手に大弓を握った矢筒を背負ったロリータ服のエルフ少女、いやはや情報量が多い。
今いるのはダンジョンの二階層。一階層だと出る的ならぬ敵の数が少ないし、自分がいるからちょっと進むくらいは大丈夫と目の前を行くダンジョンに連れてきた張本人が言ったからだ。実際、先ほどから少しずつ出ているゴブリンなんかは拳で魔石を貫いている。
先を行く団長に着いて行き、少し歩いた後、先程の通路とは比べ物にならないくらい広い部屋に着いた。先を行っていた団長が振り返る。
「さて、ここら辺でいいかな。これから湧いてくるモンスターをその弓で試し撃ちしてみな。」
「あの…私弓使ったことないんですけど…。」
「まあその辺はアビリティがなんとかしてくれるって!とりあえず構えてみな。」
言われた通りに記憶にある弓の構えを真似てみる。すると、体が最初から覚えていたかのように自然に構えられた。体験入部の時に弓道部で一回弓を握らせてもらったことがあるが、その時とは比べものにならないほど完成されていた。初心者特有の変な体の強張りもない。
「おー、様になってるねぇ。」
「私もびっくりです…。」
「ま、そのまま撃ってみようか。ほら、おあつらえ向きにちょうど湧いた。」
と指を向けた方向を見るとちょうど部屋の自分達の進行方向にゴブリンが3体、産み落とされた。距離があるからか、そのゴブリンたちはこちらを認識していないようで目的もなく歩き回っている。
申し訳ないような気もするが、これが私の冒険の第一歩、ということで魔石のある位置に狙いを定めて矢を射る。大弓故に撃った反動が凄まじく、少しよろけてしまう。危うく尻もちをつきそうになってしまうが、ギリギリで耐えられた。そんな無様な姿とは対照的に風を切る音を立てながら飛んでいった矢は目標通りに魔石のある位置を貫き、ゴブリンは衝撃に耐えきれず、壁へと吹き飛ばされた。結果だけ見ればすごくカッコいい。
「やった…。私の初めての…モンスター退治…!」
「余韻に浸かっている暇はないよ。ほら、相手さん気づいたみたい。」
最初の射撃が上手く当たった喜びを噛み締めていると、少し引いたところで腕を組んでいる団長から警告をされる。そしてゴブリンを見ると、仲間が倒された怒りからか、こちらを向いて威嚇している。一体倒したことで調子に乗っている私はすぐに弓を引き絞り、こちらに向かっているゴブリンの片割れを射抜いた。放たれた矢は眉間を撃ち抜き、ゴブリンを絶命させる。今度は反動にも備えて足を踏みしめていたので、よろけることもなく立ってられている。緊張していたのが馬鹿らしくなるほどに余裕だった。次の一射を放とうと、矢筒に手を伸ばす。
だが、その試みは眼前にいきなり現れたゴブリンに妨げられる。知らぬ間に接近していたようで、本当にいきなり現れた。反応の遅れる私は防御もできず、モロにその爪を食らってしまう。矢筒に伸ばしていた手と持っていた弓が切りつけられてしまう。その勢いに耐えきれず、私は弓を手放し尻もちをついてしまった。
「ひっ…。」
眼の前に迫る、人生初めての命の危機に情けない声を上げてしまう。何もわからず脳が混乱している。考えがまとまらない。なにか、なにか対処法はないかとあたりを見回すが何もできない。ただ、短い息を漏らしながら後ずさることしかできない。
壁に背中が付く。眼の前には同法の敵を討とうと、その鋭い爪を鳴らすゴブリンがいる。私は今、どんな顔をしているだろうか。もう何もわからない。二度目の人生、ここで終わってしまうのだろうか。
ゴブリンが、私の命を奪おうとその爪を振り上げたときゴブリンの背中から手が生えてきた。いや、生えてきたのではない。それは魔石を貫く手刀であった。ゴブリンが灰になって消えたところに立っていたのは、団長であった。
「あり…ありがとうございます。」
縮こまりながらそういう。残留している恐怖が私をガタガタと震わせる。
「ノクシアちゃん、一体を倒したところで油断したよね。」
「…はい。」
「ダンジョンでは油断は禁物なんだ。例え俺だって、後ろからいきなりゴブリンに切られてはただでは済まない。」
「…はい。」
「だから、今度は油断しないように。油断しなければ、勝てる相手なんだ。」
「わかりました…。」
「まあそんな気を落とさないで。初の実戦で2体倒せただけ上等だよ。」
そう、肩にポンと手を置いて励ましてくれる。その言葉はただ私を思ってくれての叱責だった。
そして私は安堵と、申し訳無さと、悔しさとが混ざり合い、処理しきれずに泣いてしまった。
そのあとは覚えていない。
ただ団長の後を何も言わずについていき、ホームの前へとたどり着いていた。先程の傷は団長がポーションをかけて回復させてくれた。居た堪れない雰囲気を察したのか団長は私を部屋に送った後なにも言わずに1人にさせてくれた。
今部屋にいるのは私1人だ。今まで着ていた服は汚れてしまったのでここに来た時にもらったシンプルな服に着替える。そして着替えた後、ベッドに座る。やってしまった。ズブの素人なのに自分の実力を過信して、危うく死ぬところであった。あそこで団長がいなければ、と思うとゾッとする。だが、この経験を今の段階で出来たというのは僥倖だったと思う。これがもし中層で、ミノタウロスに迫られていたら今頃三度目の人生に進んでいる所だった。これからは、油断せずにダンジョンと向き合える。
そういえば忘れていたが今のアイズのレベルに関して考察しよう。なんでもついこの間LV4になったという。つまり、今は本編開始からおよそ6、7年前ということになる。今は春のようなので6年前か。
6年…6年かぁ…ベルくんが来るまでにどれくらいのレベルになれるかちょっと怪しい。可能ならレベル4くらいにはなっておきたい。が、例の人形姫でももっとかかってた。なれてレベル3という所だろう。すぐ追いつかれる、それどころかすぐに追い越されかねない。とんでもない速度で成長する新入りに追われる先輩冒険者ってこんな気分だったのね。
そういえば、団長のスキルについて聞くのを忘れていた。経験値減少系のスキルだろうか?まあそれはまた後日、わかることだろう。
窓を覗くと夜でありながら遠方に明るい街が見える。イシュタルファミリアの管轄でもある歓楽街だ。あそこで起きる事件などを想起しながら眺めていると、ドアがノックされる。
「あ、はーい。」
「やっほーノクシアちゃん。ちょっと、お話したいんだけど時間いいかな。」
ドアノブに手をかけた時、向こうから我らが主神様の声が聞こえてくる。言葉遣いは優しいが、声にどこか怒りを感じるような…。でも返事をしたからには出ないわけにもいかなく、縮こまりながらゆっくりと扉を開ける。今の私の顔はどうなっているだろうか、名探偵ピカのシワシワ顔みたいになってそうだ。前を見ると、服に覆われた胸板。上に目を向けると、作った笑みを貼り付けた、ケルヌンノスがそこにいた。
「ちょっと、お話ししようか。ノクシアちゃん。」