ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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ダンまちの二次とは思えないほどに戦闘描写がないけど許せ


第八話 拠点(ホーム)

部屋の扉が閉まる。主神は既に彼のベッドに腰掛けている。手招きされ、彼の対面に置かれた椅子に腰掛ける。

 

「さて、お説教の前にまずは冒険おめでとうと言っておこうか。」

「あ、りがとうございます。」

 

冒険おめでとう、その一言が私の心に刺さり顔が引き攣ってしまう。神様的には皮肉でもなんでもなく初挑戦を讃えているのだろうが、冒険と言われるとあの慢心が生み出した危機を思い出してしまう。その時の私があまりにも惨めで、現代オタク的なほぼ無いに等しいプライドでも少し傷ついてしまった。

 

「まーそれはそれとしてお説教。ギルド登録の前にダンジョンに突入したのは団長のせいだから君には言及しない。でも問題は入った後だ。君、迷宮をバカにしたらしいね。」

「…はい。」

「君は今回が初挑戦だから自分、相手の実力を見誤るのもわかる。でもどんな相手にも油断は禁物だ。たとえモンスターでないただのネズミですら、やりようによっては君たちを殺し得るんだ。」

「…はい。」

「ま、その様子だったら体感して反省してるだろうし、何より僕の前に団長から言われたみたいだからこれ以上は特段言わないようにしておくよ。今日は疲れただろう?さ、もう遅いんだ。眠った方がいいんじゃないかな。」

 

と、主神は部屋の扉を開く。私は立ち上がり主神の横を通り過ぎて月明かり差し込む廊下に出る。

 

「あ、そうそう。明日の早朝にギルドに向かうから用意しておいてね。」

「わかりました。それと…。」

 

伝えたいことを伝え終わって部屋に戻ろうとする主神を引き止める。

 

「ごめんなさい。」

 

謝罪。深く頭を下げる。謝罪を聞いた主神がどんな顔をしたかはわからない。だが、彼の紡ぐ言葉の語気は優しかった。

 

「うん、いいよ。生きて帰ってきているんだからね。僕は許すよ。でもね、謝るべきは僕じゃない。」

 

下げた頭を曲げた腰そのままに主神の方へと向ける。彼の顔はとても優しい笑みを湛えていた。

 

「謝る相手は君自身だ。生きたいと願う君を殺しかけたんだからね。だから、自分で自分に謝り、そして自分に許してもらいなさい。僕から言えるのはそのくらいかなぁ。」

 

と、呆気に取られている私を置き去りにしてケルヌンノスは部屋へと入っていく。私には意図がいまいちよくわからなかった。扉は閉められ、部屋から漏れ出す灯りは廊下から消え去った。廊下には銀色の光と寂しく澄んだ空気だけが満ちている。窓ガラス越しの月光がゆらゆらと揺れ、さながら水の中にいるかのようだった。

翌日に備え、早めに寝ようと部屋に戻る。部屋の中は先程つけた蝋燭によって暖かく照らされている。ベットに腰掛けて机の上に置かれた蝋燭を眺める。その光、f分の一の揺らぎは前の世界と変わらない。異世界転生した緊張、槍を向けられた緊張、そして死にかけた緊張、それら全てが揺れる炎によって溶かされ、気が抜けてしまう。その時今までの疲れがどっと体に押し寄せ、私の意識を微睡の中へ誘いベットに仰向けに寝転ぶ。せめて着替えと歯磨きをしないと、と手をついて起きようとするが力が入らずベッドに身を沈める。ぼやける視界の端に映る朱色の優しさに包まれながら深い眠りの世界へと落ちていった。

 

 

目を覚ます。部屋は薄暗く、冷涼な空気が満ちている。時刻は体感にして早朝。ブランケット一枚では流石に冷えた体を震わせてベッドの上で身じろぎする。冷めた空気は脳を加速度的に覚醒させていく。そして、ようやく正常な思考が戻ってきた時、私は跳ね起きた。

昨日蝋燭の火を消すの忘れてた。昨日の大馬鹿な私よ、何が暖かい光じゃ。火事沙汰になりかけたんだぞ。幸いにも蝋燭が載っていた皿に溶けた蝋の塊があるだけで火事なんかにはならなかったようだ。焦る心を落ち着かせて冷静になって自分の体を見る。相も変わらず可愛いハーフエルフだ。もしかしたら夢かもとも思っていたがやはり転生したのは本当のようだ。

それはそれとして、昨日お風呂入っていないからか髪の毛が若干ボサボサになっている。ここってお風呂あるのかなぁ。

ベッドから立ち上がり伸びをする。と、その時体に激痛が走った。お腹、肩、太腿それら全てが異様なほどの筋肉痛に襲われる。どちらかと言えばインドア派な私には昨日の運動は酷なものだったのだろう。いくら冒険者の優れた身体と言えど流石にオーバーワークすぎたか。というか、昨日は緊張で全身強張っていたからそのせいな気もする。

軽く体を動かして痛みを和らげながら部屋をうろうろとしていると、窓の向こう側が視界に入り、痛みを忘れて窓の方へと駆け寄る。

 

「わぁ…!」

 

視界の先には霧がかかって幻想的なオラリオの街並みが広がっている。この建物は周囲の中でも頭ひとつ大きく、町の遠いところまで見渡すことができる。昼間の活気溢れる雰囲気ではなくしんみりとした、静寂の都市という印象である。こういった異郷の街並みというのはいくら眺めても飽きないけど、この後にギルドに行く予定があるらしいのでお風呂などは早めに済ませておかねばならない。というわけで部屋を出てお風呂を探す。ここのホームは中堅ファミリアということもあってなかなかに広い。二階建てなので竈火の館よりは少し小さいけど、横のサイズ感で言えばそこまで差はないのではなかろうか。

廊下の中には誰もいない。そりゃそうだ、向こうの世界で言えば四時とか五時とかそのくらいの時間なのだから。誰もいない廊下を人を起こさないように慎重に慎重に歩く。左には中庭を見れる窓、右には扉が並んでいる。細長い中庭を眺めながら歩いていると、中庭で訓練する1人が目に入る。槍を振るう細身の男性、団長だ。朝早くから頑張れるなんてすごいなぁ。とか思っていると中庭が視界から消え、2階の突き当たりに辿り着く。そこには入り口側と同じような階段があり、下には入り口と同じホールが広がっている。正面には恐らく裏庭につながるであろう扉がある。

 

階段を降りて扉とは反対の方を見るとそこには男女別のお風呂があった。なぜかはわからないけど赤く女、青く男と共通語で書かれた暖簾が垂らされている。ところでなんで私はコイネーが読めてるんだろうか。なんかそういう能力でも取ったのだろうか。そういった考察は兎にも角にも後にして、今はただお風呂に入れることに感謝しよう。女と書かれたお風呂場へと入る。

脱衣所はホーム全体のケルト様式とは異なって、畳が敷かれており日本の銭湯のようになっている。磨りガラスの引き戸の奥からは昔温泉に行った時のようなお湯が注がれる音が聞こえてくる。おそらく極東出身の人がこういうお風呂が欲しいと懇願したのだろうなと思いながら服を脱ぎ、棚の籠に畳んで入れる。早朝と脱衣所の冷気が相まって一糸纏わぬ私を震わせる。

 

「うーさぶさぶ。」

 

と言いながら引き戸を開けると目の前には、記憶にある銭湯がそのままあった。シャワーなんかはないが掛け湯と石で作られた大きな浴槽が目の前で湯気を立てている。

前世でも久しくこんなに大きなお風呂なんて入っていなかった私は、寒いのを忘れて駆け出し、掛け湯で雑に身を清め、そのまま冒険者の脚力で大跳躍しお湯の中へとダイブした。

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