ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第九話 組織(ギルド)

お風呂、サイコー!

心の中でそう叫ぶ。暖かいお湯は私の体を優しく包み私の心をほぐしてくれる。全体的に冷えてしまった体だからか、いつもお風呂に浸かるよりもはるかに気持ちいい。

それにしても、おっきいお風呂だ。スーパー銭湯とかそれに匹敵するんじゃないだろうか。浴槽は三つ、シャワー的なものはない。シャワーができるのは結構最近だもんなぁ。中世とかのお風呂って、こんな感じだったのかな。足を伸ばし、湯気に煙る天井を見つめる。肩までつかって、お湯の温かさとは対照的な冷えた岩に頭をあずけることで寝起きの頭がスッと覚めた。覚めた代償というかのようにこうして一人になるとどうしても色々な不安が募ってしまう。

思考を外へ吐き出すイメージであ~、と小さな声を漏らしていると、気が付いたころにはお湯の中の体が異常な熱を帯びていた。マジでのぼせる五秒前って感じだ。急いで浴槽を出ると白いはずの肌が真っ赤になっていた。やばいやばいと言いながら小走りで石畳を走り、引き戸を開いた。脱衣所へ出ると涼しい風が体を冷やしてくれる。サウナ上がりのようなそんな気分だ。若干息が切れかけな状態で、脱衣場の水道の蛇口を捻って、その水をガブガブという擬音が最適なくらい飲む。手洗い用だとかそんなことは知らない。朝の水はしっかりと冷えており、喉を通って私の胃を急速に冷却する。

外からの冷風と中からの冷水によるダブル冷却でのぼせ寸前の体温は落ち着いた。

ふう、と息をついて水滴がこぼれた口を拭って、全身のびちゃびちゃを何とかするべくかけられているタオルで全身を拭く。

そして先程脱衣カゴに入れた服を身に纏う。そういえば、服が今着ているこの冒険者用の薄着と昨日のフリフリしかないなぁ…。しかもフリフリの方は汚れてしまって洗わないといけないから今この一着のみ。流石に明日までこれだけっていうのはちょっと、乙女の威信に関わる。今日ギルドに行くって言ってたしその時にちょっとおねだりしてみようかな。

ところで。

私、コイネー書けるのかな。

 

「というわけで、やって参りました団長のお部屋!」

「いきなりどしたの?ノクシアちゃん。」

 

ギルドへ行く、つまり冒険者登録をするってこと。そうなれば私はコイネーを書かなくてはならなくなる。このソースはソードオラトリアを参照。私、現在会話や読みはできる、しかし書くとなっては話は別。ひとまず日本語で書いてみて、誰かに見てもらおうと思ったのだ。しかしこんな早朝に起きている人なんているのかと思った直後に中庭で槍をふるっていた団長がいたことを思い出した私は、団長に頼んでペンと紙を借りにきたのだった。

 

「団長、今から私が文字を書くのでなんて書いてあるか当ててもらっていいですか?」

「うん、いいよ。いいんだけど、なんで?」

「乙女の秘密ってやつです」

 

そう言いながら渡された羊皮紙に羽ペンで自分の名前をカタカナで書く。そしてそれを団長に見せる。

 

「これ、なんて書いてあるように見えますか」

「俺にはノクシア・フッド…としか読めないんだけど」

「何語で書かれてますか」

「どう見てもコイネーなんだけど…?」

「そうですか!ありがとうございます!」

 

勢いよく部屋を出る。なんだったんだと団長が言うのが聞こえた気がしたが気にしない。これで日本語で書いたものはコイネーになり、コイネーで書かれたものは日本語で読めるということが立証された。メカニズムが理解できないけど転生特有のなんかだろう!これならばギルドの登録も楽々行える。あとはギルドに向かうまで待機するだけ…ところでそれっていつだろう。昨日主神は早めに出るとか言ってたから7時とかだろうか。いや、この世界の人はみんな早起きだから6時くらいかな。

そう思いながら部屋に戻ろうと廊下を歩いていると正面の階段を角が登ってきた。いや、正確には角を生やした主神である。

向こうもこちらに気付いたのか、おっという口の形を見せた。ボサボサの前髪で目元が見れないけど、ちゃんと見えてるんだなぁ。

 

「おっと、起きてたのかノクシアちゃん」

「おはようございます、ケルヌンノス…様」

「おはよ。様は別につけなくてもいいかなぁ。子供たちとの距離感は近いほうが好きなんだ」

「なら、ケルヌンノスでいいですか?」

 

一応様をつけてみたがいらないらしい。そしてそれを聞いた主神はうんうんと頷いている。私は典型的な近代日本人なので神への畏敬が薄い。そもそも様付けで呼ぶ行為そのものに違和感があるので助かる。

 

「ところで、昨日言ったことは覚えてるかな」

「ギルドの話ですよね?」

「そーそー。冒険者登録に行くんだけど、準備大丈夫?」

「もっていくものがないのであれば、今でも大丈夫ですね」

「なら今行っちゃおうか」

 

そして、主神に導かれるままギルドの本部がある北西部へと向かった。

 

ギルドの中は早朝だというのに人で溢れかえっている。魔石の換金をしている人、クエストがないか探している人、ギルドの受付を口説く人などなどだ。

主神は慣れた足取りで混みあった人たちの中を通り抜けると、一つの窓口の前で足を止めた。

 

「やあ、エトラくん」

 

ケルヌンノスがそう声をかけると、カウンターに突っ伏していた人物はむくりと起き上がり、目を少しこすってから返事をする。

 

「ん?ああ、牡鹿サマ。お疲れさまでーす」

 

そこにいたのは青い長髪に青い目をけだるげに開いている、人間(ヒューマン)の少女だった。

その少女は主神を一瞥した後、私に気付いたようでこちらの目をじっと見てくる。

じっと、じっと見てくる。引き込まれるような深い青だ。困惑しているが、目が離せない。だんだんと平衡感覚が失われていく。

 

「ハイ、ストップ」

 

そして目を主神にふさがれる。

 

「もー、面白がってうちのこで遊ばないでよ」

「えっと、今のは...?」

「まあちょっとしたスキルみたいなものかな」

「そうなんですか?」

 

彼女のほうへ目線を向けると、ピースサインを出している。

 

「まあ茶番はこのへんにしておいて、だ」

 

主神が手をパンと鳴らして話し始める。

 

「新規冒険者の登録、よろしくね」

「へぇ、その子が。んじゃ誓約書適当に書いといて」

 

そういうとカウンターの下から何やらの紙を取り出して、机に放り投げてまた眠り始めた。

 

「いつものことだけど適当だなぁ」

 

そう苦笑すると、私に座るように促した。目の前にある青い髪を視界の端で見ながら、席に着く。

ペン立てに刺さった羽ペンを手に誓約書らしきものに対面する。

 

「さあ、落ち着いて。冒険の一歩を踏み出そうじゃないか」

 

落ち着かせるために肩に置かれた手の温かさと硬さを感じながら枠を埋める。

慣れないはずの羽ペンを無意識化でスラスラと上品に動かす。死んだら自己責任ということや魔石の換金についてなどへの同意を示すマークや氏名などを記していき、5分くらいが経ったころだろうか、空欄がなくなったことを私と主神のダブルチェックによって証明し、羽ペンを元の場所に戻した。

 

「書き終わりました」

「ん...はいはーい。適当に処理しておくから帰っていいよ~」

「そんなに適当にやってるとそのうちウラヌスに怒られるぞ」

「その時は牡鹿サマに擦り付けるのでダイジョブでーす」

 

そういいながらカウンターの上の紙を持った少女はのっそりと立ち上がりギルドの奥へと消えていった。

 

「...彼女、いっつもあの調子だから」

「いっつも...って付き合い長いんですか?」

「彼女僕たちの担当だからね」

「あれでですか?」

「そう、あれで」

 

彼女が消えていったほうを二人で見ながらそう談笑する。

 

「でも、彼女にもいろいろあってさ」

「へ?」

「少し昔話をしようか」

 

主神は近くのソファに座り私を隣に座らせた。

そして、滔々と語り始めた。

 

「あれは大抗争のときの話になるね。彼女はガネーシャファミリアの構成員でね、最上級のレアスキル、『魔眼』で有名な第二級冒険者だったんだ。二つ名が何のひねりもない『魔眼姫』になるくらいにはすごかった。でも大抗争の最中、重度のカースを受けちゃってね。冒険者を引退した。それ以降の彼女は悲惨でね、魔眼も使えない、カースの影響でサポーターすら務められない、魔眼姫の栄光はどこへやらってぐらいの凋落ぶりだった。そんなある日彼女はウラヌスに拾われた。ギルドの受付として雇われたんだ。最初のうちはいろんな冒険者が魔眼姫の受付を見に来てたけど、そのうちだれも見向きしなくなった。そんな中、ランクDになった僕たちに役割が回ってきた。最初のころはおびえてちゃってねぇ。ま、そこから長いことつるんできて今に至るって感じ」

 

「って、ノクシアちゃん泣いてるの?」

「だって、あんまりにも」

「うん、あんまりな人生だ。でもね、それが冒険者という生き方なんだ。自分や仲間がそうなりかねないリスクは常に意識しておきなよ。それと、そうやって同情するのはやめたほうがいい。冒険をかわいそうな物語に落とし込まれるのを嫌う冒険者は多いんだ」

 

そう、これがこの世界の現実なんだ。少しでも道を違えれば一瞬のうちに死ぬような世界。強調表示されないオラリオの本性。

冒頭のベル君だってあそこにアイズがいなければそのまま死んでいることだってあり得たのだ。

でもそれらの死もすべては自己責任。ああ、モブが生き残るのはどうしたらいいんだろう。

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