(・・・・想像以上だ)
大層な秘密があるとは思っていたがこれ程とはと、無様に泣き出しながら許しを求めて仲間すら目を丸くしているリアス・グレモリーには笑うしかないと、レプリカである赤龍帝の鎧を着る男が勝利を確信した。
実を言うと、これは『ブラフ』・・・・流石に聞いた通りの技など使えはしないのである。
だが、相手次第では?嘗ての赤龍帝が使っていた技を多少知っているとして、自分がレプリカの鎧を纏う事で冷静さを欠かせれば、流れによっては同じ力が使えると思わせ、なすがままになると言う計算だが、想像以上だとした。
多少丈夫な服を剥がす程度は出来るし、姫島朱乃に関しては得れてる情報を元に単にそれっぽく振る舞っただけ、リアスの秘密が余程のものと思える程度は大半が推測出来ているのだ。
呆気ないとは思うが、まあ良いとして本題に入ろうと男は判断した。
「ふむ、これ以上は・・・・では、特別に・・・・?」
その時、男は凄まじい寒気を感じた。自分限定で周りには何の影響も無い・・・・周りを警戒して身構えた時にその声が響いた。
『「Divide(ディバイド)」』
男の身体の力が抜ける。
何もかもが『半減』したようだと感じた・・・・そして、身体中の秘孔と言われる箇所に髪の毛程のものが鎧を貫いて刺さり、力が抜かれて呼吸すらままならなくされた。そうして十秒程もがいた時。
『「Divide(ディバイド)」』
再び声が響く、レプリカとは言え本来は仕掛けた相手の気配は特に感知できるハズが感じられないのではやはり失敗であった。それが男にとって最悪の結末に繋がった。
ワケがわからずに拘束が解けて崩れ落ちたリアスと朱乃の目に映ったのは、倒れ付した男の近くにゆっくり降り立つ神々しい八枚の翼を展開させた『白』の鎧姿。全身鎧ではなく、所々パーツを外している。それ以上に色違いが関係無く纏うもの以上にシオンのそれに似ていると思った。
「見苦しい・・・・」
良く知った声だった。しかし、それは先日まで二人にとってシオン以上かもしれないくらい都合良い味方でいてくれた時と違って、荒ぶるものが抑えられない声色だった。
「な、貴女は・・・・っ!」
倒れ付した相手の額辺りをトゥーキックで蹴り飛ばす容赦の無さに震えた。地面を転がり、激痛に呻く者は蹴られた箇所が砕けて現れた相手の顔は知っている顔にどこか似ていたものだ。それを見て蹴りを入れた側は仮面だけを無造作に外す。
「っ!?」
「そ、そんなっ?」
驚いた私達に対して、相手は喜色を滲ませて爽やかなようで何処か歪んだ笑顔を向けて声を出した。
「き、来てくたのですね・・・・私の元に来てくれたのですね!『姉上』・・・・『グレイフィア姉さん』!」
あんまりな仕打ちで顔を出されたとは思えない対応だが、見下ろす側の視線は絶対零度と言える冷たさだ。それすらも喜悦に感じる異常さにも私達は言葉が無かったが、次の瞬間には男の喉笛辺りから鮮血が飛び散り、背中に剣を突き落とされて地面に縫い付けられていた。
「姉さん?今回ばかりは間違えてくれて感謝しますよ?グレイフィア姉様には悪いですけどそう思ってしまいますよ、初対面な我が『 』・・・・『 』」
語られた男の正体と名前は驚愕するべきものだ。実はグレイフィアの家庭について少々聞いてはいたので、白い鎧の女性の心中が図り知れなかった。
それは、つい先程の事であった。
吹雪が一旦止んで『目当ての場所』に辿り着いていた。
ただの小岩が幾つかしかなかったのだが、まるで墓標のような存在感を放つ箇所に歩を進めていた・・・・思えば、奇縁だ。シオンとは違った意味で弟にああなって欲しいものを持つ存在、馬鹿な子程可愛いと言える存在・・・・ビナーはまるで墓荒らしをするような後ろめたさを感じながら小岩をどけた・・・・その下にあったものを見て呟いた。
「やはり、ありましたか・・・・」
(もし、何かあったら・・・・)
間接的に聞かされた事だが『嘗ての赤龍帝』の最後の頼み事を漸く完遂した。だからと言って・・・・いや、今代の前に何名か出た時点で彼はいない・・・・それも虚しいだけと割り切り、帰路に付こうとした時である。
ーーさん?
突然聞こえた声に身体が震えた。
身体中に鈍い痛みが走り、呼ばれていると確信して周囲を見回した時である。
見たくもない声と映像が鮮明に流れて来た。
それは彼の最期。そして、せめて安らかに眠っていて欲しかった願いを否定する光景。
「ぅう・・・・や、やめ・・・・なさい・・・・め・・・・やめろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ーーービナーさん・・・・ごめん。
うずくまり、絶叫するビナーに聞こえるのは聞きたくもない事だ。彼の最後に周りにいた者達の台詞。
彼は満足して逝ったと信じた。
生きているのならば、せめて健やかに育っていればと気を掛けた程度しか出来なかった存在が頭の片隅にあった。
甘かったと言われたら其れまでだ。
だが・・・・『汚された』・・・・それだけは断じて許せなかった・・・・引き取られた家に対して抱いたやるせなさの割合が時折勝るものではない、自分の中にある全ての『殺意』が占めた激情を込め、この場で見た光景を司った存在の名・・・・顔を合わせた事もないが、いるとだけは知っていた身内の・・・・『弟』の名を叫んだ。
『ユーグリッドぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
ビナーの身体から立ち込めたオーラが爆発するように全てを包み込み、背中からは悪魔のものとは違った白の翼が展開されていた。どのような原理でかわからないが、爆発する力と怒りのままにビナーはユーグリッドのいる場に転移して鎧を纏っていた。
・・・・・・・・。
異常な光景。重症を負わされているのすら喜んでいる男・・・・そのような嗜好はあるとは知っていても、流石にあれ程のものはと、リアスと朱のは、吐き気すらしていた・・・・喜悦に震えているユーグリッドをやはり冷たく見下ろしたまま淡々としつつも聞くだけで血が凍らされるような恐ろしい声色でビナーが語られた事に二人は改めて戦慄させられた。
「貴方の嗜好はさておき?短い付き合いでも個人的に気に入っていた相手にした事、緣のあるものを『受け継いだ』身としても、けじめをつけさせてもらいますよ?この『当時の時代からの白龍皇、ビナー・レスザン』がっ!」
え~、あのディオドラを苦しまずにあっさりラクにしてあげるのは優し過ぎない?と指摘していただいた事がありますが、グレイフィアの双子の妹なビナーがいる設定をそれなりに使いつつ、原作知識のある読者の皆さまからしたらユーグリッドにも天国級な超救済展開をやってしまったので作者は猛省している次第であります。
つくづくつくづく、妙なとこだけ間違ってない言い方はよさんかいっ!!
※
例の読心術(汗)が私作のリアスには敵として来られたら最悪の噛み合わせだった事を超遠回りに触れた回。