私達はどうにもならない現状に抗っていた。
『何をして良いかわからない』
皆が思っているのはそれに尽きるわ。
ビナー義姉様の件も和平の気配がある件も駆け出し程度では手に負えない・・・・支障をきたしている私が言えた事ではないけど。
アーシアに関しては、シオンから表現に困る形に聞いた事を信じるしかない・・・・。
私達が出来る事を検討した結果、学園に泊まり込むくらいしかないわ・・・・シオンのマンションが爆発事故で崩壊した件はロイガンさんの眷属の調査待ちだけど、他にも同じ事が起きない保証は無い。
今は耐えるしかない・・・・小猫が先週の土曜、シオンに言われたと聞いた事だけど・・・・私達は所詮は主神や魔王が全面対決をしないように動いている程度な立ち位置・・・・それが全てに優先している。反論のしようがないわ・・・・せめて、小猫に掛けられた呪いだけでも何とかしてあげたいと思ってた時だったわ。
「そんなワケで、元凶?の方から来たにゃん♪♪」
私は怒りを抑えられなかった。
小猫の姉、黒歌・・・・主殺しのSS級悪魔。
グリゼルダさんとの話で使った会議室に普通に客人気取りで現れた黒歌と私はテーブルを挟んで向き合い、他は周囲に控えていた。小猫は震えながらも私の後方で姉を見据えていた。
それにしても・・・・ヌケヌケと・・・・小猫に密かに会ってビナー義姉様が白龍皇だという事と有益らしいのを幾らか吹き込んだから妹が大変だったみたいだからと飄々としながら現れた。少なくとも状況からして貴女が呪いを掛けたせいで小猫がああなったのにと・・・・!
「ああ、それは私じゃにゃい」
皆が臨戦体勢になった!ビナー義姉様とロイガンさんが席を外しているなんて関係ないわ、元々SS級なはぐれ悪魔!この場で!
「やったのは『オーフィス』にゃ」
皆の体温が一気に下がった。
『オーフィス』『無限の龍神』
兄ですら手を出せない程の存在として耳にした事がある程度だけど・・・・何故、そんな存在が?・・・・いえ、その前に!
「信じろと言うの?オーフィスが何故そんな事をしたか」
そうよ、理由がわからないわ!わざわざそんな事をする理由は・?・・・皆が改めて黒歌を見据えたと同時に黒歌はマイペースを崩さずに口を開く。
「それは白音が先週に赤龍帝君と一緒にいたとこを会いに行ってたからにゃ、その時に話に割り込んだから口だけじゃなくて心臓動かせなくされたらしいわね?」
皆が小猫に視線を集めてしまった。黒歌に向き合うだけで不安だろうにと庇っていたのに、オーフィスと会っていた等とは流石に思いもしなかった・・・・けど?
「はい、サイラオーグさんの滞在場に向かう途中で・・・・けど、姿はドライグさんが認識出来ない何かに変えていたのでわかりませんでした」
全員が目を丸くした。即答されてしまったのは意外だったからだわ。
そして、小猫は俯きながら先日の事を回想した。
公園の中央に集まった面々は重苦しい雰囲気だった。
コカビエルのような一勢力の幹部が絡む事件への対応で難儀している自分達には次元が文字通りに無限に違う相手への対処等は不可能。
特に全身の汗を拭いて、先程に教会組のついでに買ってもらった私服に着替えた小猫はやはり心臓の機能を一瞬止められたショックは抜けなかった。その間にシオンが全員分の飲み物を自販機で買って来てくれたのでソレを飲み干して一息つけたのを確認した時。
「じゃあ、改めてサイラオーグさんの滞在場に向かうか」
皆が呆気に取られた。相手が相手のハズなのに全く意に介していない。
「ちょ、ちょっと待ってよ?」
「それしかないだろ、あれを追い掛けに行きたいのか?どうやって?」
イリナへの返答で全員が反論を封じられた。どこへ消えたか以前に、もしも戦いになったらとっくに全滅させられていた程度は理解している。だが、せめてやるべき事をと言わなければとしたが?
「各々の所属組織のトップにあれと会ったって報告するのか?ドライグが言ったように、面倒な事になるぞ。それに?どうせ動けないさ」
確かに、仮に自分達の組織のトップに報告してもどうにもならない相手なのは事実だ。それに例えばサーゼクスのように冥界から動かないからこそ他への抑止になっている者が動いてしまえば、その隙に何かを仕掛ける輩が出るだろうという程度は全員が認識していた。
そして気になるのは、シオンの状態をある程度見透して、イングヴィルドに何か興味を持ったオーフィスと言う点だが、シオン以外は先程の小猫同様に殺意を漏らしていたイングヴィルドに気圧されて触れられなかった。
そして、この時のシオンの変化を周りは察してやれなかった。この時点では居合わせた場合だがイザベラしか気付けなかった事なのだ。
「『ホウレンソウ』は止めとく。どうせ迷惑がられだけどこじゃない事態になるだけだから上層部とは利害は一致している」
正しい、お偉いさんはあたふたするだけで魔王や主神に大天使級でも警戒するのが精々、良い意味でアバウトなら別に良かったのになノリで済ますだろうから、寧ろやらない方が良いとするまとめだ。
「シオン・・・・駄目だよ、そこまで本当の事を言っちゃあ・・・・」
「ある意味潔いな君は」
「えぇ、凄い度胸が座ってます」
「そりゃ、仮にも赤龍帝ですからね。あれと関わる可能性くらい聞かされてます。案外どこの上層部も想定してるかもしれません、出来れば無い方が良いで」
尤もだ。無限の龍神ならばそれらしき存在は知っているだろう、現にビナーはいつ現れてもおかしくないと踏んでいた。
「けど、先輩?仮に誰かに見られていたらどうします?」
「ああ、ドライグのあれの名前を言ったとこを聞かれてたらそれまでだが、見た目でわからなかったとかでも言えば良い。さっきドライグは言ってたろ?『今回は』って、俺も最近に聞いたけど、あれは姿を変えるなんて造作も無いらしい。会ってたとこを見られてた場合はドライグが認識阻害の措置を掛けたとかにしとけ、見ただけで発狂しかける何かになってた事もあるのは事実らしいし、その類いを心配したらしいとかでな」
事実だ。セラフォルーにしてもオーフィスが来たらそうするのまで想定して敢えて触れてないのだ。
シオンの言い分を悪く言うのは簡単だが、度胸には全員が感心させられた。多分そうするべきだろうとしてサイラオーグの滞在場に向かったのだ。
そして、小猫は姿は見えないしドライグには百年早いから後にしろで名前を教えてもらえなかったとして説明した。オーフィスの強さを逆利用したはぐらかし方・・・・ビナーと似た発想で知っていれば反論は不能な言い分だが、それに黒歌は下手に勘繰るのは止めた。ある程度気付いてはいるが、自分が妹の立場でもそっちが安全として流れに乗ったのだ。
「成る程、こりゃ白音を笑えないにゃ?私も迂闊だったわ・・・・確かに、赤龍帝君やイングヴィルドって娘以外は見ただけで発狂しかねない姿のまま会いに行っちゃったのもあり得たにゃ」
「待ちなさい!なら、オーフィスは何故小猫に呪いを掛けたと言うの!?」
「嗚呼、それは余計な口出しするな程度のを変に力入ってやり過ぎた結果みたいニャ、虫をシッシッて振り払う程度に振るった手が?つい強く振りすぎて当たっちゃったって感じかにゃ?オーフィスの強さは知る限りで神滅具にされる前の二天龍よか二回り上ってレベルなんだし、命があっただけラッキーとすべきにゃん」
虫呼ばわりに頭に血がのぼりかけたけど、そこに冷や水をかけられた。オーフィスの強さについては反論出来ない。そしてオーフィスの二回り下の二天龍の喧嘩の飛ばっちりで三大勢力が手を組む程の惨劇となったのだから、一勢力の下積みが良いとこの私達では黒歌の言い分には太刀打ち出来ない。
「まあ、それはさておき?私の要求聞いて欲しいにゃ」
「要求?」
「私の主殺しだけど、主がとんでもないクズでね、私も散々な目に遭わされ続けて今の白音でもやれば死亡確定の仙術やらせての無茶までやらせようとした。どうやらそれ目当てで私達を引き取ったと判明したから主殺しやったのよ、その辺りを調べ直すよう上にお願いして欲しいにゃ」
「・・・・っ!?」
「ま、無計画にやったせいで白音を苦しめる事になったのは言い訳できないし、そもそも冥界上層部も薄々わかってはいるハズにゃ」
「・・・・証拠はあるの?」
「サーゼクス・ルシファーが白音を貴女に預けたのが証拠」
「それは・・・・小猫には罪は無いから・・・・」
「それだけかにゃ?本当は何かあるからとか思ってたんじゃにゃい?それから、グレイフィアだっけ?旧魔王派筆頭の女を嫁にしてるから寛容にしても甘過ぎにゃ、下手したら上層部に勘繰られちゃうにゃ?」
痛いところを次々と突かれた。黒歌の所業は猫又の中でも特に希少な猫ショウ、但し邪念に飲まれやすい故の力に呑まれての凶行とされ、小猫の方は黒歌の二の舞になりかねないとして自分の力を恐れていた。けど、小猫の事を思えば姉に何か事情がある方がと考えた事があるのは事実だったわ・・・・バラキエルさんと和解する前の朱乃に対して身内の事情を考えに入れていたからこそ思ってしまった事。突然の凶行ならば佑人の件もあるからにしてもバルパーとは違った在り方をしていたのが理由でもある。
そして、幾ら兄が現ルシファーでも未だにグレイフィア義姉様を尻軽と罵りつつ警戒する者は存在している状態で小猫を庇うからには?兄の性格上で黒歌の言い分寄りの可能性がある。
何とか流されるままにしない為にも問うべき事を。
「貴女、小猫に何か言うべき事があるんじゃないの?」
「別に?」
「小猫に許しを求めたりはしないの?貴女の言う通りだとしたら、今和解すれば姉妹としてやっていけるかもしれないのよ?」
「許すかどうかから和解して姉妹に戻るのを決めるかも白音次第、私は私なりのケジメで自分からは望まない、ただ白音が出した結論受け止める。それだけ」
それまでとは違って、真剣な表情と声色だった。これでは問うべき事を問うしかできない。
「それなら・・・・今になって現れた理由は?」
「簡単、オーフィスが私に赤龍帝の治療をするように言って来たからにゃ」
「何を・・・・言っているかわからないわ、シオンを治療?しかもオーフィスが?何故・・・・どうやって?」
「オーフィスは前々から赤龍帝に目を付けてたけど?『何故か最近、死人みたいになっちゃった』とかで、たまたま私が近くにいたから」
部屋に居合わせた者達は一気にペースを握られたと感じた。途中までは自分達がリアスと多少似た事を考えていた関連だから比較的冷静になれた。
だが、シオンの関連は最近のリアスには致命的な事ばかりなのが明らかだ・・・・まして、黒歌の言った事は・・・・リアスの返答に全員の注目が集まった。
端から見るとなんとやらだが、その端以外で見るべき視点が必要とは思わぬか?
そないな事を言うなら自分がそれをやってくれやしませんかねえ!?