雪山の中を進む。
どこか見覚えがある場を歩きながら、どれくらい前になるかわからない事を思い返していた。脱出させてくれたアーシアさんに行き先を聞くべきでしたか否かはまだしも、身体が徐々に重くなって来た・・・・ビナーに敗れた時に目覚めたら五体満足でいられないとした感覚があって、恐らくはソレを回復してもらってはいた。アーシアさんの『聖母の微笑』は体力迄は回復出来ないらしいので、今の状態はそのせいだと気付いた。
『君じゃ、その妹ちゃん・・・・『白龍皇』には勝てないよ?』
ルネア・・・・いえ、ルーネス様から言われた事が頭に響いた。
わかっています・・・・私は余りにも愚かだった。
ロマンチシズムとやらを重んじたがる家の思惑通りに、今で言えば・・・・あのライザー・フェニックスが性根を入れ替えなければこうだったと言える相手との縁談を進めて、当時の赤龍帝に略奪愛?を進めさせる・・・・ですが、ビナーが当時から恐らく私以上だった戦闘力とは関係者の大半が夢にも思わずにいたのを始めとした性急過ぎな要素だらけの三文芝居。
あの時点では恐らく、ビナーには赤龍帝に対してそこまでの感情は芽生えてなかった・・・・リゼヴィム辺りが愉快犯として薦めた疑惑もあるのですが、それは確認しようがない理由がある。
決闘の中、件のおっぱいドラゴンと呼ばれる少年がついに禁手に至って勝利したと思った直後に・・・・あの惨劇が起きた。
『覇龍・・・・ジャガーノート・ドライブ』
歴代二天龍の戦いを左右する域にまで突如至った理由もビナーがどう元に戻したのかも未だにわからない・・・・レスザン家周辺は消滅した数ヵ月後に元に戻っていたくらいしか知らない。
そこまで考えた時に、私の横から何かが伸びて首に当てられていた。こんな簡単に接近を許してしまう?やはり、今の状態では話になりませんね。
「動くな!・・・・っ!?ぐ、グレイフィアさんですか?何故ここに?」
先日に冥界に行ったハズのゼノヴィアさん?何故彼女が此処に・・・・っ?・・・・つまり、此処は冥界?道理で見覚えがあるハズでしたね、ここはアーシアさんや白龍皇絡みは除いて正直に事情を話すしかありません。
「ビナーに負けて、気付いたらこの辺りに迷い込んでいたのですよ」
「あ、貴女が?何故、ビナーさんと?いや、お二人の実力は互角だったらしいですが?」
「いえ、それは周りの推測です。戦ってみたら完全に実力が違いました」
手にしている剣・・・・デュランダルを引いて呆気に取られてますね、真顔で言った以上に何か感じる事がある?私にはせめてビナーが何をしようとしているのかの全てを聞き出す事すら叶わなかった・・・・ならば、せめて『奥の手』をリアスの為に誰かに渡すだけでもと考えた時でした。
「そうです。シオン君に会えましたか?」
「・・・・っ・・・・着いて、来てもらえますか?」
・・・・・・・・。
「・・・・これ、は・・・・っ!?」
案内された洞窟に張られた結界、イリナさんとロスヴァイセさんが近くにいて・・・・結界の奥で、岩を椅子代わりに腰掛けていたシオン君は・・・・死が間近に迫っている!そんなシオン君を背後から抱き締めるイングヴィルドさんは魂が身体から抜け出さないようにしているようでした。
「・・・・イリナさんは、どういう理由かシオン君が危険な事になる予感をしていて、それは当たりました。既に何故か先に合流していたイザベラさんが?『シオン君を救う為の物』を取りに行った後だと言うので、私達はこの場でシオン君を守るしかありません・・・・既に何体も来たはぐれらしき者達からしたら、今のシオン君はこの上もない栄養源なのでそうはさせない為に」
簡単に説明するロスヴァイセさんの結界はイングヴィルドさんの力で補強されてますね、これではサーゼクスですら破るのは至難でしょうと考えた時にイリナさんが涙を流し続けて私を睨んできた。そう、元を正せば・・・・私達がリアスをシオン君に会うように仕向けたから。
「イングヴィルドさんにあらかた事情は聞きました・・・・担当がイザベラさんに変わった以外はヴェネラナ・グレモリー様の算段通りに行けば良いのですけど、最悪の場合・・・・シオン君は『捕食者としての龍』に変貌してしまう、そうなった場合?栄養源となる高い魔力の持ち主を補食しなければ『餓死』してしまう、貴女達が煽ったせいでそうなった何代か前の・・・・おっぱいドラゴンと呼ばれた赤龍帝のように」
「・・・・その場合、今の時点ではイングヴィルドさんがシオン君に喰われるか、最悪の場合、無理矢理にでも喰わせてしまえば彼女の膨大な魔力を全て得られて、半分は元に戻れる・・・・だから、ああしているのですね」
「はい、イザと言う時は・・・・けど、元々イングヴィルドさんが無理矢理にでも『ドラゴンアップル』を奪う事も考えに入れておく算段・・・・周りにバレないようなルートで・・・・『イザベラさんが向かった先』に行くのがヴェネラナ様の提案・・・・本当に幸いでした。イザベラさんが何故かシオン君達に合流したのが、結局はイングヴィルドさん任せにするしかないと踏んだ誤算になってくれましたから」
そう、イザベラさんが来てくれた事で当面の状況で最良か最悪かの選択肢が出来たからこうしている。
こんな時でも大したものだと思います・・・・お義母様の意図とドラゴンアップルがある場の『事情』すらしっかり把握しているし、自分にとって一番厳しい選択肢を迷い無く選んだ。言葉を出さずに私を睨むイリナさんに斬られ兼ねないけど、私はこの場でシオン君を見守るしかない・・・・アーシアさんには悪いですが、予想外に早い事態を防がねばなりません。
・・・・・・・・。
(イング、ヴィルド?離れ、て・・・・ろ・・・・)
私は、シオンの意識とコンタクトを取る事に成功してイザベラさんに任せる案を受け入れた。冥界の龍さん達には私を迂闊に接近させない方が良いから・・・・だけど、シオンを動かないようにするしかないのが辛いと考えてた時に、微かに声が聞こえたから、言うべき事を伝えた。
(駄目だよ、イザって時は私を『凝縮』させて無理矢理シオンのお口に突っ込んでお腹に入れるんだから)
(バカ・・・・な事を・・・・)
(バカなのはシオン!リアス・グレモリーのとこに思念体を送るから消耗が早まった!だからこれは『罰』なの!)
(餓死しそうな俺くらい、お前・・・・なら・・・・あしらえるだろ?)
私は、また泣いた。この辺りでも・・・・シオンはわからなくされている・・・・死にそうになったシオンがどうなってしまうのか?
答えは、何が起きてもリアス・グレモリーのとこに行くのを優先する行動を取る。そうなったシオンには私じゃ勝てない。元の状態でも理性のタガが外れたシオンは自分がどうなるか把握してなかった・・・・ドライグの封印のせいなんだけど、そうしてなければもっとひどい事になっていた。
(どうなったとしても私は嫌・・・・!シオンが死ぬのだけは嫌!シオンが死ぬくらいなら、私は自分を無理矢理でもシオンに食べさせるのを選ぶ!)
イングヴィルドの意図はさておいて、こうしてればシオンが頑張る時間が伸びるのがドライグの算段、後はイザベラが頼りであった。彼女は既に目的地に辿り着いていた。
主であるライザー・フェニックス様から聞いた話を思い出していた。
無数のドラゴンに代わる代わる襲われて、嘗ての赤龍帝を模したものと殴り合い、無理矢理にドラゴン恐怖症を吹き飛ばしたのだと。
私は聞いた範囲での主のように次々とドラゴンに襲われているので、火炎や魔力弾に羽ばたきの突風、果ては体当たりの攻撃を回避しながら目的地に向けて山中を走り続けていた。
「イザベラと言ったか、大したものだな?単純な身体能力だけで我々の攻撃を凌ぐとは?そうまで『目当ての品』が欲しいか」
私に上空から声を掛けるのは?
『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タイニーン様』
・・・・シオンに連れ出された主を立ち直らせた御方。
事情を話して交渉した結果、タイニーン様が厳重に封印保管した『熟成』『濃縮』その他にも様々な手段で特注品に仕上げたドラゴンアップルなら有効であり、それをシオンの為に譲って頂きたかったが、死活問題故に自分達の試練を切り抜けなければ封印が解けない措置を施していたのだという・・・・成る程、今のシオンとイングヴィルドがヴェネラナ様に会った直後に交渉に行ったら、冥界にいる龍達と全面戦争になり兼ねなかったか。
イングヴィルドの神滅具を見せたら警戒されてしまう。
シオンをリアス・グレモリーのところに帰れない可能性がある事で刺激出来ないから、他に助力は頼めない。
ヴェネラナ様は、彼処に自分で行けない理由がある。
遠回りさせたのは、他に気付かれない為以上にイングヴィルドに算段を整えさせつつ時間を稼いぎ『因子を高める』・・・・私が二人の前に何故か現れなかったら?・・・いや、それは後だ!
イングヴィルドが、最悪の場合は自分をシオンに食べさせる等と言い出したからとしても?殴ってしまった詫びをせねばならんし、シオンには命を救ってくれた日からの恩がある!待っていろよ、必ず目当ての品を持って帰るぞ!
少年漫画のお約束、時間との戦いをやる側と見守るしかない側の話になったか。
今回は今までの中でも一番シャレにならなそうやな。