『わからん』
ドライグに泣き付いたイリナであるが、シオンの記憶を戻す手段は返された一言のみだ。
宿主との繋がりで判明した事、記憶を無くした原因は特別製ドラゴンアップルの副作用。しかもヴェネラナに誘導された形。
しかし、シオンが知らぬ間に栄養接種すら出来ない身体になっていた事態が起きて解決策はそれだけだった為に、こうしなければ餓死していたのでやむを得ないとされた・・・・そう、食べさせたからには内部から栄養として全身に回ってしまって、恐らく?他がどうしようと修復するのは不可能、シオン自身がどうにか記憶を戻すしか無い、そしてシオンは?
「では、書いてみましょう?」
「『姉ヶ崎 詩音』(あねがざき しおん)・・・・これが、僕の名前ですか・・・・?」
現実感が無いと顔に出しながらロスヴァイセに記憶喪失な事と自分の名前、赤龍帝と言う凄い力を宿した者だと言う事を教えてもらう事から始めていた。これは籠手となって表に出たドライグの指示である。
シオンには変化した腕が見えないし、自分の声は聞こえないようにしたドライグが提案した内容、記憶喪失の者は誰であれ下手に刺激してはいけない・・・・生まれ立ての赤子に近い扱いをするものだというのを見た事があるからにしても自分の状況等を説明する役として?
イングヴィルドにイザベラはシオンとの縁や繋がりが強いのが逆効果になりそうだから却下。
イリナとゼノヴィアは荒っぽくしてしまいそうで却下。
グレイフィアは、後になってビナーと会うかもしれない関連から却下。
この場ではロスヴァイセが一番刺激する要素が無いと言うよりゼロなので白羽の矢が立った。
他は別室で何とか落ち着きを取り戻そうとしているが、ヴェネラナに抗議しに行くにしても、結果的にシオンは命を救われているしどう言えば良いかわからない。
次にグレイフィアに対しては・・・・ある程度事情は聞いたので、他よりシオンとは縁は薄いゼノヴィアですら怒りが向きつつあった。身内の事をキチンと見てなかった事を悔いていた迄は良いが、それで冥界から人間界に逃げ出すのを考えていたリアスの行き先にして管轄予定地がシオンのいる場だった為、止めない事でシオンと接触するよう促した結果がこれだ・・・・しかし、責めてどうにかなる問題でもない、計画の当事者に当たるのはサーゼクスと一部の冥界上層部である故。
わからない・・・・宛が無いとなると、自分達だけで良い案を出すしかないのだが?元々、以前のシオンとビナーのような強力な頭脳担当がいなければ上手く立ち回れはしなかったとして出た結論は?
「セ・・・・っ、ううん?『契約者』・・・・様」
イングヴィルドが出した言葉に部屋にいる者達がハッとなった。
そうだ!シオンの『契約者』だ!と。
イングヴィルドとグレイフィア以外はまだ正体がセラフォルーだと知らないが、話に聞いた限りで一番付き合いが長いシオンの契約者・・・・だが、どう接触するのか?唯一連絡手段を知るシオンがああなっているし、ドライグに聞くにも彼は何処と無く気難しいしで下手に動いて騒ぎにしては危険であるくらいはわかる。
何か手は無いかと思案し始めるが、事態は動いていた。屋敷内の男性悪魔達が慌てて報告に来た。
「失礼します。『ソーナ・シトリー』様と、その眷属達が訪ねて来ています」
「ソーナ様が?用件は?」
「はい、それがグレイフィア様が此方に滞在しているのではと・・・・」
「誰に聞いたかは秘密扱いでしたが?何故、今訪ねて来たかは、人間界ではゴールデンウィークに入っていますから、移送系の不備を考慮すればギリギリの時期だったからと」
「成る程、確かに近くに来てもおかしくはないですね・・・・私が出迎えますので貴方達はシオン君の部屋に彼女達を近付けないように見張るように、ロスヴァイセさんが出てきたら引き続きシオン君の傍にいるようにとだけ伝えるように」
指示通りに男性悪魔が下がり、その後で緊張感を増したグレイフィアが告げた。事態解決への動きにしても、今のままでは自分がシオンをやむを得ず殺すにしても早計な結果に終わるよう持ち込まれかねないと判断したからだ。
「・・・・貴女達も協力しなさい」
・・・・・・・・一方で、人間界ではアーシアは姉ヶ崎家で朝食を取り始めていたのだが?
「うん、久し振りな美味しさ♪♪相変わらず二人して、流石シオン君の両親な味♪♪」
私の横に座るのは昨夜に『届け物』をしに来てくれた『ルーネスさん』・・・・シオンさんにイリナさんと昔良く遊んでいた近所のお姉さんにしては、お若いです・・・・リアスお姉様を思わせる紅髪をサイドにアップにした?髪型で駒王学園の制服を着た人・・・・ついでだからと、私同様にお泊まりした翌日、一緒に朝食に食べていますけど、特に美味しそうに食べてる糠漬けはシオンさんが留守にするので暫く世話が出来ないのでと一旦預けに来た糠床に?受け取った紫乃さんが早速に入れたものらしいですけど。
「・・・・っ」
本当に美味しいです・・・・『糠漬けにした蕪』程よい柔らかさと歯応えで噛むと、こなれた塩味と甘酸っぱい汁気が郷愁を誘う?と言う類いの風味と一緒に溢れるようです。浅漬けだから私みたいな外国育ち=初心者向けと説明されましたけど?これだけで、ご飯が進みます。
ご飯も、炊き加減の良さがシオンさんのカレーの時に食べたお米のご飯以上に凄いかもしれない美味しさです。
艶やかな照りと微かな粘りを持つご飯を口の中で噛み締めると、柔らかな甘さとコクのある味で頬が内部からキュウッと刺激されるのを感じます。まだそれ程に慣れてないハズなのに美味しさを感じるお米のご飯が、本当に美味しいです。出汁が聞いたお味噌汁とだし巻き卵・・・・お野菜のお浸しに干物にしたお魚?・・・・全部美味しいですし、何よりもその人が言うようにシオンさんを思い出すお味です。
紫乃さんと智恵さんは?
「・・・・糠漬けの味・・・・っ、全然落ちてないよね、やっぱり凄いな詩音・・・・駒王学園近くに借りたマンションに行く時に紫乃さんが手入れしてた糠床の一部持たせたんだけど」
「うん、変わらず美味しい・・・・久々に息子の手料理食べた気分ね」
言うようにシオンさんの糠漬けに集中してます。これの奥深さは私も聞いたのは初めてでした。シオンさんは前々から実家でもお料理作ってたらしいから、言うような事で本当に嬉しいようですね・・・・食べ終えた後に私もシオンさんのお料理をもっと詳しく語れる日が来るのでしょうかと考えた後に?
『せっかく旦那が休日なんだから夫婦で二人にしたげようよ』
ルーネスさんがそう提案しつつ、昔に住んでたり遊んだりした場を回りつつ案内したげる♪♪と言ってくれたので同行しました。何故か不思議にそうしたい気分でした。
・・・・・・・・だが?
「し、紫乃さん・・・・っ!」
「わかっているわ・・・・『変わってなかった』」
紫乃は首を傾げる程度にした。ルーネスはともかくとして夫は無縁であるべきで、アーシアにはまだ早いからだ。
糠漬けは家毎に味が違うと言われるくらいで、材料に容器に手順に世話をする人間が全て同じだとしても場所が少々変わるだけで微妙な差が出るのだ。自分がシオンを産んだ影響が無いとしても、自分のを毎日食べ続けた夫同様に気付いただろう・・・・良い意味での改良も欠かさない息子の糠漬けがどんな味なのか興味もあったからこそ、即座に気付いた。いっその事、味が落ちてれば夫が不安にはならなかっただろう、糠床を分けた時期と変わってないのは不自然だ。
「う~ん?詩音も『一人暮らし』は初めてだからそれなりに苦戦してるんでしょうね、たまたま同じような味に仕上がる結果になったかな?やっぱり、まだまだ子供だったのは安心するべきだ」
「や、やっぱり・・・・ああ、私達からたまには顔を見せてあげるべきだったかな?」
「智恵君?男の子だって寂しかったとかで細かいとこに支障出す事はあるって、極端な例の君ならわかるでしょ?」
「あぅぅ・・・・」
「下手な気遣いは逆効果!こういう時にこそ頑張れるかどうかをしっかりと見守るの!木の上に立って見ると書いて『親』と言う文字!」
「う、うん・・・・」
そう言って、夫に納得はしてもらった紫乃は正確に見抜いていた。どうやら不自然に変わらない味になるのは誤算だったようだが、毎日一生懸命に手入れしてた娘についての遠回しな情報が届けられた。
そう、シオンの為になる事を考えた結果、糠床の世話を申し出たイングヴィルドは自分なりに心を込めて世話していたつもりが無意識に魔力が漏れたのが理由の弊害を生んでいて、それを見抜いたルーネスの狙いが的中した。シオンの状態はともかく紫乃にシオンの近くにいる娘の存在についての情報を無言且つ、バレてはいけない存在にバレずに伝えるのに成功した。
とは言え、オーバー・キルの域である。
現在のグレモリー家のように日本を始めとした人間世界の文化を好むような悪魔は勿論、糠漬けの味一発で異変を伝えられるような家族等は人間の中でも稀なので後にシオン絡みの事柄を探っていた大半が?
『そんなのわかるかああっ!!』
と、悲鳴紛いの絶叫をあげさせられたのだった。
グレモリーの始祖たる存在も事態解決への動きとしてトリックスター振りを出し始めたのだ。
東洋の神秘?
いや、日本独特のハズだよ糠漬けは。
※
念の為、ルーネス=ルネアス様の真意等はさておき、倒壊したマンションから持ち出した物の一つはイングヴィルドが世話をした糠床でした。