ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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日常回と言うか、次への序幕と言うか……個人的に好きなんですがね。


目的

それは一般学生が登校して、朝の朝礼を待つ時間帯での事。

 

ピ~ヒャラ♪ピ~~♪

 

シオンの自室には、シオンの中学時代のリコーダーが響いていた。物持ちの良いシオンが残っているものは好きに使って良いとされて練習し始めたが、良く洗って保管した物でも恥ずかしそうにしていた顔を思い出して、譲って貰えた側は、笑ってしまうくらいだった。

 

そう……『シオンが悪魔になった日』……それまでは周りにバレない程度に歌えていれたのにシオンの耐久力と言うべきもの全てが衰えてしまった。自分の歌の不備が彼には耐えきれなくなったのである。それが悲しかった。シオンに自分の歌を聞いて欲しいから頑張れたのに……だから、歌以外に何かしてやれる事を探していた彼女の最初の手である。

 

『楽器の扱いはまだまだだな、良い加減に音楽の教科書くらい読めよ?』

 

眠気が取れない瞳をしながら、物置から教科書を探してくれている少年の背中を悲しげに見ていたのはつい先日だ。

 

そして彼女は……イングヴィルドは思う。

 

『許せない』

 

目覚めたら、孤独になった自分を救ってくれた少年の運命を歪めてしまった存在をだ。

 

彼女のような思いを抱く存在は多々あれど、彼女程に今のリアスにとって最強の断罪者となり得る存在はいなかった。

 

『私の光……私の大事な人……私のシオン……』

 

唇を噛み締め、僅かに動かせるようになった身体を振るわせる。近い内に自分が『怒り』を抱いた存在に向き合わなければならない、その為に一刻も早く力を取り戻さなければならないと強く思う……。

 

 

 

 

 

 

そうして、イングヴィルドは朝の運動に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

……以前に観た『でぃーぶぃ……でぃー……』とかで、青くて暖かい目をするまん丸な二頭身の耳無しのネコさんが出るアニメを見てからの習慣だ。リコーダーと今から扱うものみたいなのが出てたから。

 

比較的小さ目らしい『樽』と言う入れ物の蓋を取る。中身は私も食べるお米の……糠と呼ばれる部分を塩水を加えて掻き回して、それを味付けする為の物や発酵を促進させる為のものを入れ、長い時間掛けて仕上げたもので名前を『糠味噌』と言う……そう教えてもらった。

 

これにお野菜を入れて少し置くと『乳酸菌』とかが効いたお漬け物になるし水を切った豆腐を入れたらチーズに似た風味になる一品になったりする。

 

私は、これを日に二度は上下を入れ換えるように掻き回す。他の難しい事はまだ教えてもらってない。

 

美味しいし、同居人が以前より健康に気を使う必要があるんだ。私は身体がまだ上手く動かせない、だからリハビリ?に丁度良い。

 

一昔前、この糠味噌の管理は主婦の嗜みと言われたらしい……。

 

『主婦』

 

私……『主婦』……なれるのかな?

 

『なれるのかな?』

 

違う!

 

なる……なりたい!

 

……私、シオンの為に……。

 

 

 

 

 

イングヴィルド……魔王の正当なる血統を『半分』継いでいる少女は、自分で歩み出す日が僅かずつだが近付いていた………その頃、冥界では?

 

 

 

 

 

 

ここは冥界の名門の一つ、フェニックス家の屋敷の一つであった。

 

「間違いでは無いのですかっ!?」

 

広間に大声が響いて、皆は目を丸くしていた。声の主はライザー・フェニックスの眷属の戦車……顔半分を覆う仮面の武闘派戦士イザベラである。比較的冷静なハズの彼女が感情的になる理由に心当たりは……っ!?ある!……フェニックス眷属の間での予てよりの疑念が真実と立証された。

 

「イザベラ、落ち着きなさい!私も驚い、て…いる。のですわ!」

 

「も、申し訳ありません……」

 

イザベラの腕を掴んで落ち着かせたのはフェニックスの息女であるレイヴェル・フェニックスであるが、掴んだ手は僅かに震えていた。

 

此方はわかりやすかったが、敢えて言おう、やはりだった。

 

だが、ライザー・フェニックスとその眷属は基本的に二名程ではないが重々しい表情をしている。収集を掛けたフェニックス家夫人もだ。

 

赤龍帝……シオン・アネガザキが悪魔として転生してリアス・グレモリーの眷属となった。

 

今日集められ、始めに伝えられた事項はそれだ。

 

あれは忘れられはしない。

 

つい、二年前の事である。

 

悪夢とはあの事、フェニックス領の付近に存在する幾つもの小さな集落に村、住民達はただ殺され、襲撃の初手から生き残った者達は男は面白半分に惨殺され、女性は犯された果てに巨大な怪物の餌とされる。

 

余りの残虐さに、頭に血が昇ったのが仇となり……迎撃部隊の一つとして出陣したライザー・フェニックスの眷属は分断され、イザベラとレイヴェルは二名になっていたところを襲撃された。

 

仮にもフェニックス家の血を引いているレイヴェルには中々致命打を与えにくいのすら楽しみにする連中は人間が自分達悪魔に抱く在り方より異常だった。自分達の死にすら喜悦を感じる在り方に恐怖すら覚えながらもひたすら敵を撲殺し続けたイザベラだが、やがて限界を迎えた。逃げる事すらままならないレイヴェル共々に、数を増やした連中に囲まれ、死を……否、死に勝る仕打ちすら覚悟していた。

 

が、連中はあっけなく消えた。

 

突如、飛来した魔力弾に次々と心臓や脳を始めとした急所を撃ち抜かれた後に炎焼し、凍結し、又は内部からの電圧で四散する……私達の前に立った『赤い鎧の戦士』が事も無げに残敵に向き合った次の瞬間、視認できない程の何かが残敵を粉微塵にしていた。

 

振り向いた戦士は主達の場所を事務的に教えて去っていったが二名は間も無く救い主と再会する事になる。

 

事が終わり、ライザーははぐれらしいとしか判明していない勢力の中にいたドラゴンに敗れて後にドラゴン恐怖症に陥り、改めて自分達の前に現れたシオンの荒療治で立ち直ってそれまでの傲りが薄まり、比較的真摯になった事はフェニックス眷属達にとって成長する機会ともなったのだ。

 

「母上、あいつが悪魔になったのは何故なのです?」

 

そう、ライザーの質問こそが肝だ。

 

彼を知る者達、特に目の当たりにした者達からしたら考える事。

 

『悪魔になる理由がわからない』

 

神器持ちだったのを除き、人間であれだけの力の持ち主では、自分達が知る限りの彼の性格を考えに入れて仮定する場合、力を求める方向とすると……かのヴァスコ・ストラーダ猊下のようにそのまま鍛えるだけで良い方向だ。第二に?

 

「それに『あの』リアスに奴を眷属に迎え入れられる理由もわかりません」

 

そう。グレモリーの跡取りとして身内が規格外ばかりとは言え『凡庸』の烙印を押されていたリアス・グレモリーにシオンを眷属として迎え入れる事が可能だろうか?

 

進んでそうやりたがり、やれてしまう実力がある女性悪魔がいるとしたら、レーティング・ゲーム二位の実力で本人が十代の人間男性のようなのが好みと知られるロイガン・ベルフェゴールから魔王級くらいだ。

 

それだけでも、シオンが悪魔になった経緯はどうもキナ臭い方向ばかり想像せざるを得ない。

 

「率直に言えば機密扱いです。元から背後に私達でさえ及ばない誰か大物がついていた。それで方々に出向いていた。その恩恵を預かれた私達には口を挟む事は出来ないでしょう」

 

グゥの音も出ない、疑念はまだしも命を救われた程の恩恵がある以上は軽薄な事はやれない。例え仮にどのような陰謀があろうともだ。

 

「さて、取り合えずの疑念は出しましたね?本題に入ります」

 

フェニックス夫人の言う本題、それは?

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ななな……何です……ってぇぇえええっ!」

 

今度はレイヴェルの絶叫が響く。

 

「ああ、それは一理あるかな…多分、絶好の機会……ひぃっ!?」

 

レイヴェルとイザベラの鋭い視線で悲鳴をあげるライザーである。

 

「お、お母様!?聞いた通りなら、この私にも権利はありますわねっ!いえ、寧ろ私がその話の相手になる方がシオン様に危害は及ばないですわ!そうですわね!?」

 

「えぇ…夫や関係者も乗り気です。ですが、厳しい戦いになります。そもそも?リアス・グレモリーも元を正せばグレモリー家ではないとしたら充分に優秀な悪魔ですよ?彼女が手元に置いているだけでも驚異、そして、相手が相手……簡単には行きません」

 

「望むところですわ!このレイヴェル・フェニックス!勝算が薄く、自分と地力が違うだけで弱腰になるようでは、あの御方に救って頂いただけで終わる女になるだけです!それは、他に何を言われてもわたくし自身が許しません!」

 

「……わかりました。イザベラ?」

 

「は、はひっ!?」

 

「貴女は、レイヴェルの護衛として行きなさい…元からあの場は安全とは言えません、リアス・グレモリーがあっさり敗れる程のはぐれ勢力が存在します。今回の件にうつつを抜かしては、以前の二の舞になるでしょう……くれぐれも気をつけなさい?」

 

「ひょ、ひょう……いえ、承知いたしました!」  

 

粋と言うべきか否か、イザベラも夫人にとっては身内同然なのだ。チャンスは与えるべきだとしたのだろう。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

レイヴェルとイザベラが準備を整えに向かい、広間にはライザーと母だけになっていた。

 

「母上…喜劇にするには確かに勝算が薄いですな、どちらの方面でも」

 

「構いません、レイヴェルは以前の貴方が足りなかったものを既に充分持っています。他の者達の陰謀が絡んでいる事に負けはしないでしょう、この際はやらずにいるより、やる方を選ぶべきです」

 

ライザーは苦い顔だった。母の言うもの即ち『ど根性』戦う者に一番必要な資質はレイヴェルの方が自分より上と言われているのだ……だが、その評価は甘んじて受けよう、後はレイヴェル次第だ。

 

新たな乱は既に動き出していた。




リコーダーと糠味噌の関連は、例の青いロボットアニメです。イングヴィルドはそれが元でリハビリの中で何となく習慣にしてしまいましたな内容。

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