【冥界】
グレモリー領に存在する屋敷にて魔王サーゼクス・ルシファーは集まった書類に目を通していた。私的なものが混じるものは徹底して区別をしながらが最近は上手くなったと自虐していた。
一通り、確認を終えたサーゼクスの耳に部屋のドアをノックする音が聞こえた。
『サーゼクス、お茶をお持ちしました』
「ああ、丁度良かったよ・・・・」
ドアが開き、入って来てくれたのは彼の妻であるグレイフィアだ。
「報告は私も聞きました。リアスお嬢様には気の毒でしたが」
「命があっただけホッとしたよ、私の誤算でもある」
『リアスがはぐれ悪魔の団体に敗れ負傷した』
それについてのサーゼクスの誤算、リアスの滞在する場には例の存在のせいか、近年レベルが高いはぐれ勢力が出没していると思ってはいたが、まさかリアスがあっさりと敗北する程とは思わなかったのだ。
(いや、これも私達の『歪み』の一例か)
「しかし・・・・『計画の第一段階』は一応でしょう?」
「うむ・・・・例の『赤龍帝』の目にはリアスがどう映ったかの問題も発生したが」
「それも計画の中での想定範囲内です。正直、戦闘力の違いは私達だからこそ、どうもしてやれません」
グレイフィアは事務的に応えるが、内心は悲しさで一杯であった。
リアスについてもだが、他勢力に対する抑止の象徴であるが為に迂闊に動けない夫はこの数年間に以前までが嘘のように立場上の仕事に勤しんでいる。それは不安を振り払う為のものなのは明らかだ。手が掛かるにしても、サーゼクスには以前のような底抜けにフリーダムだからこそ、自分が愛した夫でいて欲しかった。だからこそ、計画に乗った。
グレイフィアの言う『計画』とは?
『リアス・グレモリーを赤龍帝と接触させる』
リアス本人は知らぬ事だが、これこそがリアスが冥界から人間界に逃げ出せた理由である。
サーゼクス達を始めとした冥界首脳陣の一部は、実はリアスが人間界に逃げ出す前から赤龍帝を・・・・。
『知っていた』
あれは、リアスに管轄させる予定の地域のはぐれ悪魔や堕天使が何者かに殲滅させられてると言う情報を調べ、ついに当人の戦いを映像越しに目の当たりにした時の事だ。
赤い鎧を纏う戦士が、過去の記録から赤龍帝と言う事も驚かされたが、何よりサーゼクス達の目を奪ったのはその戦い振りである。
才能はある。身体能力も魔力の類いの使い方も飛び抜けている。但し、理由はわからないが才能がある者の戦い振りではないと見ていた。
基本的な能力の高さに奢らず決して相手を侮らずに冷徹かつ合理的に殲滅する戦い方に大戦を経験した者多数であるにも関わらず戦慄すら覚える空気が広がった。
顎の辺り以外の素顔は見えないが、不安になる程に細い体躯、悪魔にしても決して大人とは思えない、セラフォルーのような小柄さだったとしても。
少なくとも、あの戦士が傲り等とは無縁に真剣に研鑽を積んだ者として認知した。
そして、場に居合わせた者の一名がつい漏らしたのだ。
『近年の若手悪魔にも見せてあげたい、特・・・・に・・・・』
その者は思わず閉口したが、サーゼクスも思ってしまったのだ。近年、才気はあっても性格的に問題のある若手悪魔が多い、何よりも?
(・・・リアスが、あの者のようならば)
サーゼクスはグレモリーの跡取りとして『凡庸』であるリアスの事を気に掛けていた。
大事な妹、両親からしたら可愛い娘・・・・父同様に母から釘を刺される程に溺愛した妹だが、両親と自分は気付いてやれなかった。リアスと自分達の『差』をだ。
戦闘力はさておき、歴代屈指の為政者としての才覚を持つ父、バアルの力を色濃く継いでいるにしても本人があまりに強大な母、そんな両親の間に力を受け継いで生まれたにしても次元違いとされて。
【自分達は何者を産み出したのだ?】
そう戦慄されたサーゼクス・・・・贔屓無しにリアスは普通では優秀だと言えるが、自分達に比べられたらどうか?と。
気付いた時は遅かった。散々に身内と比較されたリアスの歪みは自分達では・・・・否、自分達だからこそ救ってはやれない域に達していたのだとサーゼクスは察した。
グレイフィアに訓練を頼んだ事もあるが、現魔王級の力を持つ彼女だからこそ、妹を救ってはやれなかった。超越者や手前の立ち位置から来る見落としこそがリアスの苦境の原因であろうとも気付いた。
更に、現魔王達も好ましく思うバアルの獅子王の生い立ちと軌跡・・・・将来の冥界に新風を吹かせてくれると期待したが、その男もリアスの劣等感を煽る事になるだろう、それはリアスが表向き早期に管轄予定地域に出向く事を申し出つつ、それを口実と切っ掛けに人間界に逃げ出そうとした段階で確信した。
そして、サーゼクスは賭けに出たのだ。
幸い、リアスの管轄予定地は例の赤龍帝が活動している場・・・・実はリアスの評価点として彼女の元には周りが目を見張る程に稀少な者達が集っている事、仮にあの赤龍帝に。リアスが自分に求めていた在り方に近いものがある存在に巡り会えたとしたらリアスの為になるかもしれない・・・・冥界の上層部からしても赤龍帝を味方に引き込んでくれるかもしれないとなると煩くされる事も少ないだろうと言う計画・・・・妹を気遣う兄として勿論失格だろうが。
グレイフィアの淹れてくれたお茶・・・・リアスの滞在する日本の緑茶を飲み干したサーゼクスは妹にとっての光になるか否かの存在に一縷の望みを掛けていた。
しかし、只一つ・・・・今の時点では、リアスの眷属からすら理解しきてない為に伝えられてない事・・・・それに思いを馳せる事を早期にしきれなかった事が後の禍根となったのだ。
間近で見たとは言え、自分達以上に本能的に赤龍帝の本質を見抜いたリアスは、今の段階で取り返しがつかない程に彼に『執着』し始めていた事。
何よりも、これからたった数日後に三大勢力を揺るがす事態を起こす切っ掛けを作る過ちをリアスが犯す事を予想する術は無かった。
『裏』に拘る私の私的なグレモリー家の『賭け』何故、リアスが赤龍帝に近付けたり自分なりに好き勝手させてもらえたかの『片鱗』。